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のちに聖人と呼ばれたおれが異世界を往く ~観光したいのに自分からお節介を焼く~  作者: 蛸山烏賊ノ介
最終章 聖人と呼ばれたおっさんが異世界を往く
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第203話 銀龍に決意を語る

 マッシャーリアの里に帰還したのはちょうど陽の日の朝。


 ネコミミの宿にある大浴場は特に女性陣からの人気が高く、エティリアは里に帰ったらピキシーさんに里の中で作らせると意気込んでるし、コロムサーヌさんはフトルッスとネコミミの宿ゼノス支店を開業させるつもりで話をつめているみたい。



 とにかくねこまんまもお風呂もみんなに大好評で、テーのじっちゃんと暗殺ギルドのギルド長であるクリンクさんはそこに居ついてしまい、二人ともここ下の里に来ていない。


 でも本当のことをおれは知っている。獣人族は人族を怖がる可能性があるので、気を遣った二人はペンドルだけをおれたちと同行させた。



 ただそれは人がいいとかそんな間が抜けた話ではなく、ゼノスの無法者たちは、獣人族といい関係を築きたいがための気遣いであり、ペンドルが先に里入りして、獣人族の現状を見極めた上で、今後の付き合いを討論するつもりだろう。




 マッシャーリアの教会は混構造建築。おれがアイテムボックスから出したシンセザイ山産の岩を砕いてから加工した石、スイニーの粉とブロック、あとはアラリアの森から伐採してきた木材。


 これらの建材を使っての二階建て教会を見て、神教騎士団ゼノス支団第一隊の面々はため息と称賛で、イ・プルッティリアとクップッケを褒め称えていた。


 窓ガラスはイ・プルッティリアがゼノスにいる間にワスプール商会へ発注して、今回の旅に同行したワスプールがガラスを魔法の袋に収納して持ってきた。


 今は足場を組んで、ガラスを木製の窓枠に嵌めこんでいく工事を進めている。



「あ、これは聖人さ――」


「いやあ、お元気ですかな、イ・プルッティリア巡回神官さま。ご機嫌麗しゅうございますな、それじゃさいなら」


「あ、アキラ様――」


 人前で女騎士さんとその子分たちが、おれを見るなりに跪こうとしたから慌てて止めた。なんで神教の関係者ってのは、こうも人の話を聞かないのだろうか。イ・プルッティリアは泣きそうな顔をしているけど、泣きたいのはこっちだ。


 クップッケにしても口こそ言わないだけで、あからさまに人を神様扱いしてやがる。おかげで教会に近寄るのが怖いんだよ。イ・プルプルはツンこそお似合いで、デレはいりません。




 下の里を歩いていると大まかの建築工事は終えている。


 エルフさんが働く鍛冶屋、デュピラスが女将さんを務める宿屋兼酒場、各種の雑貨を扱うエティリア商会、走車を作って販売する店、ラメイベス夫人の許で修行を積んだ女性が開いたパン屋、同じくウラボス認定のケーキ屋など、マッシャーリアの里で賑わう獣人族の溢れる活気に、ワスプール夫妻とペンドルは素直に感嘆の声を上げていた。



 そのペンドルだが、今は酒場でデュピラスとラメイベス夫人を交えて、酒場の運営についてお話している。人族の欲望が渦巻くゼノスで長い間住みついた妖精の小人なら、きっと有益な経験談を新米女将さんに貴重な意見を授けてくれることでしょう。



 ワスプール夫妻は獣人族の各課が勤務している都市院で、これから納める商品税や交易する品物のことについて、エティリアとピキシー総務課長と同行して、関係する各課で調整を行っているところ。


 できるだけ早期的に獣人族と交易都市ゼノスの同盟関係を結ぶように、ワスプールはマダム・マイクリフテルから特命を受けているらしい。



 することのないおれは、会話しておきたい人物を訪ねるために武道館へ足を運んだ。




 武道館の外にある壁に囲まれた訓練場ではレイが先生役を務め、魔法の才能を持つ獣人さんたちに魔法陣や魔法の行使を伝授し、巡回神官のイ・プルッティリアは回復魔法について、地べたに座って聞き入る生徒に講義している。


 しばらくその光景を眺めていたけど、女騎士さんがやたらとこっちのほうにチラチラと気にするような視線を飛ばすので、邪魔をしては悪いとこの場から立ち去る。



 スイニーの粉をふんだんに使い、頑丈に仕上げた武道館の中は熱気に包まれている。よく見たら来たばかりの神教騎士団ゼノス支団第一隊の騎士さんたちは木製の練習武器を持ち、獣人さんたちと一緒になって、ニールとアジャステッグくんから剣技を学んでいる。



 ニールの技が目にもとまらぬ連撃なら、獣人族最強の将軍様は必殺の一撃を誇り、おれだけじゃなく、騎士さんたちも羨望を込めた歓声を上げている。


 有能な先生たちは個別の説明をしつつ、その横で獣人族の剣士と神教騎士団の騎士が練習試合で打ち合い、休憩の時間になるまで、おれは隅のほうで待つことにした。



「おう、なんか用か」


「ああ、話があるけど森へ行く時間はあるかな」


「わかった」


 生徒たちがやっと得た休みの時間でへばっている中、涼しそうな顔でニールが近付いてきて、おれの誘いに頷いた彼女はアジャステッグくんにあとの練習を託し、二人で人がいない森へ出かけた。




「ニール、今は楽しいか?」


「おう、魔族と違って多種族はなんでも一生懸命だ。それにあいつらははっきりとわかるように強くなんから見ていて面白れえ」


「そうか、面白いならよかったよ……ところで教えてほしいだけど、なんで人族の連合軍の時に、おれが手をあげた時にあんたとエデジーは攻撃をやめたんだ?」


 ずっと疑問に思ったんだ。連合軍を滅ぼさんばかりの勢いで激怒していた彼女たちがおれの後ろに控えたばかりに、聖人という身丈に似合いそうにない者にされてしまったんだから。



「おう。お前が何やら言いたそうにしてんからよ、俺もエデジーも邪魔しちゃいけねえって思ったんよ。ほら、お前が機嫌を悪くすんとよ、うめえもんを出さねえじゃねえか」


「あるえ? そんだけ?」


「ギュウニクやちょこれーととか、お前しか出せねえもんだからよ、俺もエデジーも気を使ってやってんだぜ? お前はいじけんとしつこいからな」


「……」


 なんてこったい、おれは神様たちから器のちっちゃい男と思われてるらしい。そんなことでみんなから聖人にされたのか、馬鹿馬鹿しくてものが言えないぜ。



「それによ、人族どものことはお前に任せたほうがいいんだし、お前が納得すれば、俺も見守る役割も果たせんだよ」


「はあ……それはどうもありがとうよ」


 ドヤ顔の銀龍さんは拳を腰に当てつつ、巨乳をつき出してはいいことしたみたいにおれを見て来るけど、こういうときはまともな返事を省いてもいいよね。



 珍しい食べ物で救われたラクータの人たちよ、これからも幸あらんの人生を送ってくれ。




 思えばこの麗人と出会ってから、本当に色んなことで助けてもらった。



 彼女がいなければ、獣人さんたちの手助けはここまでできなかったし、おれも今のように強くなれなかった。その彼女、銀龍メデジーは生き生きと獣人族の里日々を送っているのなら、おれの旅に彼女を同行させることはない。



「ニール……いや、メリジー、おれはもう少し時間が立ったらここを離れて旅に出る」


「そうか、いつにすんだ? アジャステッグやレイのやつらに生徒たちのこと――」


「悪いけどメリジーは連れて行かない、おれ一人だけの旅だ」


 口を閉じ、銀龍メデジーは彼女が使う光魔法のような貫通するくらいの視線で鋭く見つめてくる。


 森でさえずる鳥と時折り吹き通っていく風の音がして、おれと銀龍メデジーの間に沈黙が続いていた。



「……俺は親父からお前を見守れって言われてんだ。それを知っての一人旅って言ってんだな」


「ああ、そうだ。メリジーには感謝している、あんたがいなければ獣人さんのことでおれはなにもできなかった」


 感謝する気持ちは心の中に秘めてもいいけれど、時としてしっかりと言葉にする必要は大事なことだ。



「この世界に転移してきて、なにもわからないまま人と接し、ふれあいを通して世界(アルス)のことを少しずつ知っていく。神龍様と精霊王様、風の精霊エデジーとローイン、それにメリジーがいなければ、おれはアホなことばかりして、とっくの昔に死んでいたかもしれない」


「……」


「今回の紛争だってそうだ。メリジーとエデジー、それに人にあらざる者のアルフィが来なければおれは殺されていたんだろう。あんたらに助けてもらったのに、人々から聖人とか呼ばれちゃって、羞恥で精神的に死にかけているよ」


「……」


「だからじゃないけど、しばらくの間は一人の力でできることとできないことを自覚するために、一人でこの世界を見て行こうと思ってる。神の力を借りて生きるというのもどうかなって考えてるだけ……あ、ローインに頼んで移動はするかも」


「……お前がそこまで言うのなら、見守る者として気持ちは尊重してやんよ。だけどよ、二度と死に目の時に勝手に死んなよ? この前はてめえの浅はかさで、こっちは頭がぶちきれそうになってんだよ」



 拳で軽い腹パンしてくる銀龍メデジー、少しだけ込められた力は彼女の怒りを現したものでしょう。まだ食事をとっていないことが幸いだ、そうでなかったら吐き気を抑えられず、食べた物を地面にまき散らしたことだろう。



「わかった、お前の好きにしろや。俺はしばらくケモノビトに付き合うが、お前がいないなら親父のところへ帰んからよ。危ない目に会いそうならローインかエデジーを呼べ、俺はあいつらと違って、笛で呼ばれても、現身(うつしみ)で飛んで行っても時間が掛かんからな」


「そうする」


 冗談じゃない。それはこの前で経験済み、白銀色のドラゴンが来たら大パニックになることは間違いなし。でも流線型の銀龍(シルバードラゴン)メデジーはとても美しいから、それを見れないのは残念かな。



 木漏れ日がさし込む古代林のようなアラリアの森を瞼に焼き付けたい。あらかたの別れは伝えてあるので、あとは離別の直前にエイさんとラメイベス夫人の二人に話しておこう。



 ファージン集落のようにみんなから送られるのも悪くはないけれど、愛しい恋人(エティリア)の悲しい顔をこの目で見たくない。それを間近で見てしまったら旅立つ決意が鈍らされそうで、おっさんは背中を向けて、黙ったまま去っていくつもりだ。






 銀星の(シルバースター)都市(シティ)へお客様を案内するため、おれとエティリア、ペンドルとピキシー総務課長に巡回神官イ・プルッティリア、ワスプール夫妻の三台の走車がアラリアの森の中を走行していく。



 穏やかな旅は続き、アラクネの里でワスプール夫妻は女王様と王様の歓待に喜び、侍女さんが仕立てた着物にコロムサーヌさんは狂喜していた。


 巡回神官イ・プルッティリアはアラリアの巫女イ・メルザイスに諭されて、アラクネやアサシンスパイダーさんたちを見たときに、思わず示した敵意をかき消した。



「こういう異なる種族が和気あいあいに、共に生きるというのはいいもんだね。これを実現させたアキラのおっちゃんは大したもんだよ」


「こういうふうになったのは、おれだけの功績じゃないが確かにそう思う。争うよりも共生して、楽しい日々を謳歌したほうが絶対に面白いね」


 料理を口にしながらペンドルはしみじみと呟いた。妖精族のノームさんは妖精族の迷宮から出て、人族の環境で生きてきた彼にとって、違う種族が平等に付き合えることは、格別の思いがあるかもしれない。



 侍女さんたちが作る食べ物の品々は、宮廷料理と言っても過言ではない。ラメイベス夫人から調理を教わってから、アラクネさんたちは森に生える植物を多用するようになり、肉料理一辺倒から多彩で美味な食卓に変わっている。



 このあとの日程は前に来たときと変わらないだが、目的はワスプール夫妻とペンドルに、アラリアの森が持つ素晴らしさと資源の多さ、それに伴う獣人族の輝かしい未来図を見せることで、彼らの宣伝で獣人族がこの地域での影響力を増し、ほかの都市と対等な立場であることを盤石のものにしたい。



 そのことが獣人さんたちへ残せる置き土産。異世界から転移してきたアキラという男は、それ以上に助力できることがない。




 案内の旅が進むにつれ、エティリアがそばから離れたがらないようになってきた。


 最愛の人と別れになる寂しさはおれも同じ。でも出会いと別れが交差する人生で、別れ方についてはとても大切なことだと思える。



 エティリアは経営すべきエティリア商会があり、彼女に養われる従業員がいて、彼女の商品を待つ異人族の里やワスプール商会がある。獣人族の里における対外交易は彼女が一手で担っている。



 最初に獣人族の村々を回ったとき、エティリアは食糧を当時の族の長たちに援助したことで、元族長で構成する長老院と彼女の関係はとてもよく、スニーカーを人族に販売することを渋った羊人族だって、彼女のお願いでエティリア商会へ商品を卸すことが決まったわけだ。



 自分への言い訳であることを承知で、彼女には生きるべきの道が続いていて、そこにおれがいてもいなくても関係ないんだ。エティリア商会の会長は、みんなから必要とされる獣人族の重要人物の一人さ。



 彼女への未練は、ここにアルスの世界で最初に住んだこの地に対する惜別。異世界転移で、空想にしかいなかったモフモフとエルフ様とも出会えたし、新しい世界で人々と巡り会って、生きるということを新たに学んだ。



 あとはアルス・マーゼ大陸で、アキラという男が駆け巡っていくだけ、それがおれの望んだ夢。



 微笑みを愛する人に向ける。


 彼女も笑い返してくれて、小さな頭を肩にもたれかかってきて、二人とも前へ続く道を見ていた。未来への道は、今でも途切れることない。



 次の目的地はゴブリンの里、ゴブミとゴブマサと缶蹴りでもして、森でかくれんぼするか!


明日で最終話です!


ありがとうございました。

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