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のちに聖人と呼ばれたおれが異世界を往く ~観光したいのに自分からお節介を焼く~  作者: 蛸山烏賊ノ介
最終章 聖人と呼ばれたおっさんが異世界を往く
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第197話 行商人の護衛は久々

 銀星の(シルバースター)都市(シティ)へ先行したのは、スイニーの粉を使いこなせる建築班と鉄筋を加工するエルフさんたち。上の里の近くにも鉄鉱石の鉱脈があったので、高齢長老者の指示で採掘が進められ、工事現場では鉄筋を加工する仮設の鍛冶場が置かれているらしい。



 旅で使う走車は屋根付きで、内外ともエルフさんたちが魔力鍛冶で作った薄い鉄板を張った装甲戦車のプロトタイプ試作三号車。これはおれとアジャステッグくんが意見を交換して、将来的に、銀星自衛軍の機動射撃部隊へ配備する予定の魔法術師や弓兵を乗せる装甲戦車に仕立て上げる計画だ。



 エルフたちも開発会議に交えて、魔法防壁を魔道具で起動させ、消費する魔力は魔石を使用する計画だが、魔道具に必要な書き込み式魔法陣で苦戦しているみたい。



 いずれにせよ、城塞都市ラクータが敵ではなくなった今、取り急ぎで導入することもないのだけど、防衛力を高めることは悪いことではないので、装甲戦車の実用化計画は継続させると、銀星自衛軍の将軍様はおれの肩を叩いてから教えてくれた。




 装甲戦車の性能を試したいとのことで、アジャステッグくんは試作三号車をエティリア商会にまわし、今回の長旅が終えれば回収して、消耗具合や破損箇所をチェックしたいとのお達しだ。


 3頭のモビスで引かれる12人乗りの装甲戦車は中が広く、これを引くモビスもオーガの皮革で作った装甲を着装して、中々の重装備となっている。



「お願いしまチュッ。お任せするので好きしてくださいでチュッ、聖人さ――」


「だあーーっ! 協議した通りおれは不利なる条件以外は聞くだけでなにも決めて来ないからな。それと、ここ大事だけどその聖人なにやらは禁句だ!」



 両手を合わせるように今にも拝んできそうなネズミ婆さんへ、何度目となるかは覚えられないほど口止めをお願いした。そりゃ里じゃおれが人族から聖人と呼ばれたことはバレバレだし、女神様と銀龍様を従えた戦場の状況はみんなに伝わっている。


 だがしかし、本人の目の前でそれを言わないでもらおう、精神的にめっちゃキツいから。



「お気を付けて行ってらっしゃい。ゼノスに行った折は、おらの代わりにイ・プルッティリア神官様に教会の建設は進んでいるとお伝えください。旅路にアルス様のご祝福あらんことを」


「わかった、ゼノスでイ・プルッティリアに会ったときはちゃんと言っておくよ。アルス様にご感謝を」


 虎人族のクップッケ青年は慎ましい神官見習いに変わり、言葉遣いも丁寧な口調となった。



 女騎士さんはおれの前だとボンコツ化するのだが、みんなからの話を総合すると、理性的にアルス神教の教典を獣人さんたち信者に教戒して、穏やかな話し方に大らかなで接する普段の態度に、彼女を傾倒する信者は里に多く存在しているという。


 なんでおれの前だとギャーギャー騒ぐボンコツ女騎士になるのでしょうね、マジで摩訶不思議。



 おれとエティリアは二人でみんなに送られて、マッシャーリアの里から異人族の里へ向かって出発した。これは彼女とのハネムーンを兼ねて、彼女へ送る思い出のために、行きの道のりは二人だけの旅だ。




 走車を操縦するおれの横に座って恋人(エティリア)は旅の間はよく笑っている。急ぐ旅ではないので、アラリアの森に生えている香辛料の原材料である植物を摘み、薬草と野生する野菜や果実を採取し、オークなどのモンスターを狩っては素材を剥ぎ取った。


 ラメイベス夫人とデュピラスたち里の女性が作った料理、ケーキや焼き菓子を食卓に供して、美味しい食事を楽しみながらの二人旅は最高に楽しい。



 スマホに入ってたネット小説のPDFファイルに、醤油の作り方が大雑把に書いてたのでラメイベス夫人に提示した。小麦と塩はあるから、大豆だけはこの世界のもので試作するということで、ラメイベス夫人が率いる下の里の強力な料理軍は、頑張って開発しているところみたいだ。



 なぜそれを説明しているというと、恋人(エティリア)は醤油を使った料理は食べてくれるけど、ブラックの缶コーヒーや前は食べていたチョコレートなど、おれしか出せないものを口にしようとしない。



「……病みつきになったら食べられなくと困るだもん」


「……」


 おれがこの旅の終わりに獣人族から離れる準備をしているように、彼女もまたその心積もりでいると知り、おっさんはなにも言えなくなった。



「ねえ、お願いがあるもん」


「……」


「出て行くときはあたいになにも言わないでほしいもん。そうしたらあたいはあなたが帰る日を待っていられるもん」


「エティ、おれのことを待ったなく――」


「ねっ? そうしてほしいもん」


 強く抱き締めてくるうさぎちゃんは、どうやらおれにこれ以上は話してほしくないらしく、わずかに震えているその体をそっと両手を回した。



 エティリアと別れた後に、彼女は新しいツガイを作るかどうかは彼女の自由。おれはなにも強要する権利はないし、それを口にしてはいけない気がした。


 彼女の思うままに生きてくれればいいと思うし、選択するのは彼女であり、おれは彼女が選んだ道を尊重すればいい。それは去っていくおれが彼女にしてあげられる最後のことかもしれない。



「ああ、わかった。エティが願うのならそうする」


「……うん、ありがとう」



 もうすぐアラクネの里に着く。


 女王様のダイリーに長旅用の衣類を作ってもらいたいし、帰りたがらない巫女様のイ・メルザイスに気持ちを聞いてみたい。風鷹の精霊(ローイン)に頼めばいつでも帰って来れるのだけれど、観光する目的を持つ今のおれは、どうもそういう気になれずにいる。



 いつか気が変わる日が来ることもあるでしょうけど、とりあえず旅に出たら、しばらくの間は根無し草みたいに故郷へ帰ることなく、アルスの世界で思いのままに流されてみよう。




 アラクネの里で侍女さんにTシャツやチュニック、ズボンや寝間着など衣類の作成を依頼している間に、エティリアはダイリーから作成した特産品の目録に目を通し、アラクネの里が欲しがっている物資をノートに書きこんでいる。



「それでどうなんだ? やはりラクータ教会へ帰るつもりはないか?」


「ええ、ダイリーさまの言付けで侍女とほかの異人族の里を回ったのですが、みなさんはアルス様に厚い信仰心を持ち、日々欠かさず感謝するお祈りを捧げるの。あたしはアルス様のご恩愛を答えるため、ここで異人族とともに生涯を過ごしたいと決心したの」


 教会でよく見かける紋様を目隠しに縫って、それを眼部に巻いているイ・メルザイス巫女様は淡々とした話し方で返事してくる。


 その雰囲気から察すると、彼女を説得するのは無理だと理解して、神教騎士団ラクータ支団の依頼を果たしたおれは、別のことを頼んでみることにした。



「イ・メルザイスさん。実は獣人族の里で教会を建てたのだが、神官も巫女もまだ決まっていないから、良ければあんたがアラリアの巫女を務めてくれないかな」


「まあ、それはとても素敵なことよ。ええ、あたしで良ければぜひ務めたいと思うわ。エティリアさんもそうですけど、この前にここと訪れた森の民たちにもアルス様の教えを伝えていきたいと思うの」


 肩にリスの精霊マウを乗せて、眼帯を巻いてる巫女イ・メルザイスはおれの提案を喜んで受け入れてくれた。獣人族と異人族に偏見のない巫女が就任してくれたことは嬉しいのだけど、おれは気がかりになったことを彼女に質問した。



「でもラクータ教会の巫女が勝手にほかの教会に所属してもいいのかな」


「問題ないわ。あたしは巡回神官でもあるから、自分の意志で布教の旅に出かけることができるの。そこでちょこれーと様にお願いしたいのだけど、あたしは旅路に出たの事情届けを書くのでそれをイ・オルガウド様に渡してもらえないかしら」


「それは構わないが、アラリアの巫女に就任することは神教のお偉いさんに言わなくてもいいのか? まあ、おれが心配することじゃないかもしれないけど」


「ちょこれーと様はお優しいのね」


 マウが尻尾を立てて、小さな手で櫛みたいに巫女の髪を梳かしている。イ・メルザイスはマウの目を通しておれを見ながら微笑んでくる。



「あたしは今回のことで学んだのよ、アルス様を心から信じていないと、例え大神官様でも教典の教えで生きるわけじゃないわ。アラクネさんを含め、異人さんたちは見た目こそモンスターだけど、アルス様へ純粋な信心を捧げているの。アルス神教の中には獣人族を差別している人たちがいる中、異人族を認めない人も出てくることでしょう。」


「……」


「だからね、あたしはアラリアの森で生きることを総本山に言うつもりはありませんの。アルス様から二度もご祝福を頂けましたので、この身はアルス様のしもべとして、アラリアの森でみんなと生涯を共にしたいと思ってるわ」


「……巫女様の御覚悟は理解できました。この森でイ・メルザイスさんが獣人族と異人族と、共に生きて行くことをアルス様も喜ぶでしょう」


 自分自身で伝教の覚悟と意思を示した巫女様に、彼女の未来を祝福する以外は余計なことと思えてきた。



「アルス様にご感謝を」


「はい。ちょこれーと様にアルス様のご恩愛を」


 巫女のイ・メルザイスはとても誇らしげに笑顔を向けてくれた。この人なら獣人族や異人族にとって、正しくアルス神教の教えでみんなを導き、きっと素晴らしい巫女様であられることに疑いない。




 この後の予定はゴブリンやマーメイドなど異人族の里を回ってから上の里へ行き、そこでスイニーの粉などの建材を降ろして、おれとエティリアの到着を待っていた城壁の工事に着工する。



 上の里の外周にある堀を完成させ、運河の掘削をしていたは土木班は城壁と同様、ブロックとスイニーの粉で作る護岸工事を待ち、運河の護岸が出来次第、引水する川につなげる工事計画を立てている。


 建設課が渡した最新の計画書で早期完工を目指すため、土木班はスイニーの粉を使いこなせる建築班と合流して城壁と護岸の工事に取りかかる。



 獣人族は自分たちの都市建設に全力を尽くし、エティリアが交易都市ゼノスで購入した紙を使って、計画や工事の進行状態や失敗などの記録を残して、今後の都市運営に役立ちたいと総務課の課長ピキシーさんが教えてくれた。



 ここまで来たらおっさんが口を出すことはなにもなく、獣人さんたちがみんなで力を合わせて、よりよい暮らしを作ってくれるとおれも嬉しい。



「ダイリーさまと商売の話はおわったの?」


「うん。代金となるアラクネの服や糸を先払いで、食糧や日用品の発注をたくさん受けたもん」


「商売繁盛でよかったね。じゃあ、ご飯の用意ができたみたいから食べに行こうか」


「はい」



 侍女さんからの知らせで、おれとエティリアを歓待するための宴会は準備が整えたらしい。



 国王様のジョジッスが廊下から足招きしているから、エティリア談でラメイベスのご指導のもと、かなり美味になったアラクネの侍女さんたちが作った料理を頂こうと、エティリアと一緒に宴会場へ向かう。


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