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のちに聖人と呼ばれたおれが異世界を往く ~観光したいのに自分からお節介を焼く~  作者: 蛸山烏賊ノ介
最終章 聖人と呼ばれたおっさんが異世界を往く
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第194話 襲来するは異世界の脅威

 アラリアの森に所々の開けた場所があって、そこは水場だったり、小さな草原であったりする。陽の日の朝一番、ニールに同行をお願いして、二人で森の中の花畑が広がる場所へ来ている。



 クレスほどじゃないけど、花を見るのは嫌いじゃない。だけどニールを呼び出したのは季節外れの花見がしたいわけじゃなく、そもそもこの世界にサクラがあるかどうかも知らない。


 ニールに聞きたいことがあって、それは戦いのときになぜドラゴンの姿で現れたということだ。


 ニールだけなら、マッシャーリアの里の中でも聞くことができたが、もう一人に事情聴取を行うため、だれもいないここへ来る必要があった。



「おいでよ、風の精霊エデジー」


 風が撫でるように花びらを舞い上がらせながら、美しい女神様は目の前に顕現しました。



『なあに、ちょこれーと。お菓子をくれるのかしら』


「いいよ、でもそれは後にしてほしい。メリジーさんとエデジーさんに聞きたいことがあって、ここへ来てもらったんだ」


 人型サイズの風の精霊エデジーはニコニコして、いつもと変わらないメリジーはその大きな胸う強調するかのように腕を組んでいる。


 誘惑しても無駄だぞ、おれにはエティリアがいるからね!



 まあ、冗談はさておき、聞きたいことを口にしなければ、彼女たちもなんでおれび呼ばれたかを知らないでしょうし。



「守護の眷属は種族の紛争に手を出さないのが決まりじゃなかったっけ? なんであの時にメリジーさんとエデジーさんが同時に戦場へお姿を見せたの?」



 質問を聞いた二人は急に真面目な顔になって、おれのほうに真剣な眼差しを向けてくる。そういう神々しいお姿は大変ありがたいのですが、拝跪の礼を取りたくなるので、できれば事前にお知らせください。



「そうか、あきらっちは波動を感じなかったんだな」


『それは無理よ、メリジー。人にあらざる者が出す波動は大きすぎて、人型の種族では逆に感じられないわ』


「そうだな、それは失念したな」


『ええ。だからあの時にちょこれーともあたくしの問いに答えられなかったわ』


「それで見に行った時はどうだったんだよ」


『もうそこにいなかったわ。わずかな魔力は残ってたのだけど、あれは間違いなく人にあらざる者よ』


 お二人さんは、まるでおれがこの場にいないかのように会話を交わしているけど、おれも理由を知りたいんで、その話に入ってもいいかな。




「あのう、人にあらざる者ってなんのこと?」


『それはね――』


「オレのことだな」


 後ろから男の声がしたので思わず振り返った。


 そこに立っているのはやたらと凛々しい顔をした迷彩服を着ている青年で、珍しいことにおれと同じ黒い髪で身長も同じくらい。


 それにおれなんかよりずっと格好いい顔しているけど、どこかで会ったような気がしてならない。



 なんだろう、この既視感は。それに迷彩服というのはこの世界で初めて見るけど、交易都市ゼノスで見たことがないから、どこの店で販売しているかを聞いてみたいなあ。


 なにより疑問に感じたことは、先までここはおれとメリジーさんとエデジーさんしかいなかったけど、この男はどこから出て来たのだろうか。



「あきらっち離れろ! そいつが人にあらざる者だ!」


「え?」


 メリジーの警告に、気の抜けた返事をするおれは彼女のほうへ体を向けると、すでにメリジーは竜人(ドラゴニュート)の姿に変身している。風の精霊エデジーさんは槍斧と盾を持つ戦女神のお姿になっていた。



「眷属か、邪魔だからこいつらと遊んでいろ。召喚、竜王バハムート。召喚、妖精の王オベロン」


「は?」


 声がしたので、もう一度青年のほうに顔を向きなおすとその左右に、翼を持つ黒い竜人(ドラゴニュート)と愛らしい顔をした王子様のような服を着た子供がいつの間にかそこに立っている。



『なっ!』


『気を付けなさい、ちょこれーと!』


「い?」


 エデジーさんがそう言ってくれるけど、この状況はなんだ? いきなりすぎてわけがわからん。なにを気を付けるのおれ。



『われは竜王バハムートなり。そこにおる竜人は名のある者とみた、お相手願おう』


「キャハハ、なにかな、なにかな? ここはどこかな? 精霊ちゃんがいるけど遊んでくれるかな」


「無駄口を叩くな。オレがこの男に用事がある、その間にあいつらをおさえ込め」


『了承』


「はーい」


 翼を持つ黒い竜人と王子様の恰好した子供が飛び出して、メリジーさんとエデジーさんに向かって近寄って行く。



『こいつら手強いぞ、エデジー』


『はい。ちょこれーとのお守りにローイ――』


「魔素に包まれし異空間」


 エデジーさんは風鷹の精霊(ローイン)を呼ぼうとしたが青年の声で風景が一変し、ローインは呼ばれることなく、おれたちは異なる時空の層へ連行させられたみたいだ。



 どこまでも広がる灰色の空に草や花がない大地。先まで見えていたアラリアの森やお花が一杯の花畑はどこにもない。



 なんだこれ? それにバハムートとオベロンって、元の世界の神話に出てくるもんだぞ。なんでこいつがそれを知っているんだ?




 後ろで大きな爆発音がしたので振り向いてみると、白銀色の流線型ドラゴンと真っ黒なドラゴンが灰色の空で激戦を繰り返している。



 驚かされるのは真っ黒なドラゴンが繰り出す技、連続的な爆発が銀龍メリジーに襲いかかってるけど、あれはどう見たってゲームで召喚獣が使っている強力な技だよな!



『くっ』


「キャハハ、いくら斬っても次は現れるよ? きみは森に迷い込む、ぼくが創り出す(ジ・)遠の森(エターナルフォレスト)へ」



 地面から苗が生えたと思ったときにそれは急成長して、大きくて葉っぱが生い茂る樹木となって、風の精霊エデジーを捕らえようと枝や木の根が伸びていく。


 エデジーは槍斧でそれらを切り倒すが樹木の数は減るどころか、はしゃぐ子供の拍手に合わせてさらに増えていく。




 待て、待て待て待て。ちょっとこれどういうことなの? だれか説明してくれ……あの青年だ、やらかしたのはあいつだ。



「てめえ、どういうつもり……」


 振り向くと、見えてくるのはあの青年がなにげない動作でいきなり機関銃を掴み出す光景。息を吸い込んでしまい、話す機能を失ったように言葉が出てこない。



 あれは戦車のプラモが好きなおれでも知っている、ブローニングM2重機関銃だ。地面に重機関銃を据えると、弾薬も箱型弾倉も付いてないまま、青年は腹這いになって銃口をおれのほうに向けてきた。



「気を付けろよ、魔力で構成している弾とは言え、当たれば手足は簡単に吹っ飛ぶからな」


「なに言ってやがうわあ――」



 ダダダダダ――



 身体強化をかけ、機敏値に任せてとにかく横方向へ逃げるように射線を避ける。その間にも火を噴くように撃ち込んでくる機関銃の掃射。


 途切れない射撃だけど弾薬の装填は? 薬莢の排莢はないの? 銃身の温度は上がらんのか? そういうわけのわからないことを考えて逃げていると、ここにあっていいはずがない機関銃の射撃は知らない間に止んでいる。



「この程度なら避けられるということだな。じゃ、次は接近戦だ、お前は魔法を使ってもいいんだぞ。イージスにエクスカリバー!」


 地面に重機関銃を置いたまま、青年は丸い盾と長い剣を虚無から掴み出し、黄金色と青色の紋を持つ鞘を投げ捨て、輝かんばかりの白銀の刀身が現れた。



 ってちょっと待て、あの剣って勝利が約束されていなかったっけ。卑怯だぞこら! そして疑念が確信に変わったよ、こいつはおれがいた世界を()()()()()()()()ぞ!



「てめえはなに――」


「エクス……」


 魔力が凄まじい風の形となってあいつが持つエクスカリバーに集っていく、刀身に魔力がどんどんと上がり、とんでもない威力となって膨れあがる。



「うわあーー! 多重魔法陣!」



 あの技を使わせたらおれの負け、なんだその英雄の霊が誇る技は。あんなの食らったら跡形なく消し去ってしまうよ。


 魔力は最大限、魔力切れのリスクなど後のことなんて考えたら、ここで異世界での日々は一巻の終わりだ。


 光球に貫通性をもたせて、一気に全投射!



 小さな星の光(プッチ・スターライト)



 撃ち出した光魔法の全弾が到達する前にそいつは剣を掲げたまま、おれと同じように光球を浮かばせて、瞬時に同じような技を使いこなす。



 小さな星の光(プッチ・スターライト)



 全く同じ技で、同じ数の光魔法がおれの必殺技を打ち消しやがった。


 魔力切れを起こしたおれは地べたに座り込み、もうなにも抵抗の手が思い付かないまま、そいつに約束されている勝利が叫ばれることを待つのみ。


 なにが起きたは知らないけど、この短い間に死を二度も覚悟したことは苦笑せざる得ない。しかも今回は何の前兆もなくそれが訪れ、この死の意味を考える暇も与えられない。



 これが管理神と二柱の守護から恐れていた人にあらざる者の力か、問答無用で圧倒的じゃないか。メリジーが言う伝説にうそ偽りはないということだな。



 守護の眷属すら抑え込まれた今、おれに残されるのは死亡するだけ。振り下ろされるであろうの、魔力が纏う白銀の刀身に目を閉じた。


 この世界とのお別れは前回で済ましているから、もう辞世の句を考えたりはしないし、そんな余裕もないのでしょう……






 ……いつまでも振り下ろされない架空だったはずの技に、目を薄らと開けてみると、そいつはおれの前でニタニタと笑いながらしゃがんでいる。



「お前の負けだ、異界の者。これでアルスの力がわかったかな?」


「……ああ、骨身に沁みるほどよくわかったよ。この化け物め」


 青年は立ち上がると、竜と精霊が激闘を繰り返している遠い場所へ向かって叫ぶ。



「戻れ、バハムートとオベロン」


『了承』


「待ってよ、まだぼくはあそ――」


 声はけして大きくなかったが、それは召喚されたドラゴン(バハムート)妖精王(オベロン)に届いたらしく、二人の返事も聞こえたので、この異空間は声と距離が関係していないということかな。


 妖精王(オベロン)のほうは声が不満げのように思えたけど、送還されて姿を消したみたい。よく周りを見ると元の風景に戻されていた。




『て、てめえ、あいつを出せ! まだ決着がついてねえんだよ』


『やめなさい、メリジー。負けないにしても簡単に勝てる相手じゃないわ』


 首を斜め上に上げてみると、竜人の姿で銀龍メリジーは血まみれの体ですごい形相していた。彼女を宥めている風の精霊エデジーの服は至る所で破れていて、それでも槍斧と盾を青年のほうに向けて、攻撃の構えを解いていない。



「はんっ。眷属のお前らとやりあってもよかったが、この一帯が滅ぶからこっちは自重してるんだよ。もっとも眷属(おまえら)と争う理由なんてどこにもないし、オレの目的は対を成す者を見極めるだけだ」


『対を成す者だと?』


『それはどういうことなの?』


 銀龍メリジーと風の精霊エデジーの問いに、青年はおれに顔を向けてきて、先と違い、落ち着いた声でおれのほうに話しかけてくる。



「対を成す者は異界より訪れる者。カミムラアキラ、お前のことだ。お前が母なるアルスを害する者かどうかを見極めさせてもらった」


「え? おれのこと?」


「ああ、そうだ。母なるアルスはお前のことが気になったからオレがここにいる。せっかくチートがあるのにハーレムとか、おれ強え無双とかをやるかと思ったが、ちまちまと生きてて楽しいか?」


「うっさいやい、ほっとけ」


 そういうことで粋がる年じゃない。辺境でスローライフだって立派なテンプレのうちだぞ。



 敵意がないことを確認したのか、銀龍メリジーと風の精霊エデジーは武装を解いて、いつもの人型に戻っている。血まみれの竜人は無傷の傾国美人に戻り、回復魔法いらずの体がちょっと羨ましい。



「どうだ、缶コーヒーはいるか? タバコもあるぞ?」


「え? そんなの出せるの?」


「ああ、オレの知識にあるものはなんだって魔素で複製できる。あの重機関銃のようにな、しかも弾薬は魔素変化で内蔵型、無限射撃が可能だ」


「あんたが一番のチートだよそれ」


「欲しいものはないのか?」


「味噌汁をお願いします。あとはブルーマウンテンコーヒーを缶コーヒーでいいからブラックでください」


「おうよ、オレに任せろ」



 醤油を持っているから一通りのものを作れるけど、味噌だけはどうしようもない。インスタントコーヒーも、スティックタイプだからミルクと砂糖が入っているので、ずっとブラックコーヒーを飲みたいと思っていた。



 味噌汁があるなら、ここはライスを温めて、ラメイベス夫人が作った異世界味の漬物を添え、久しぶりに懐かしい故郷の味を楽しませてもらおうじゃないか。


ありがとうございました。

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