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第174話 ポスターで人を集めよう

 城塞都市ラクータに密通している獣人がいるかもしれないことは言わないことにした。それを言ったところでなにも変わらないし、せっかくできあがった獣人たちの結束を乱すだけのものだから、このことはおれの心に秘めておこう。



 撤退の準備や下の里の建設につては獣人たちに任せることにした。獣人さんたちは口論しつつ、ときには殴り合いまで発展することもあるが、みんなは熱心に里のことを考えている。


 ただアベカ君が獅子人族相手に噛み付きと金蹴りで完勝を収めたときは開いた口が塞がらなかった。強かったのね、アベカ君。金蹴りがメッチャ効きそうだから彼女を怒らすことは控えようと心に誓った。



 戦うことはないとしても軍備だけはしっかりと整えないといけない。今の下の里に数百頭のモビスがいるので、輸送に使う分を省いてアジャステッグくんと話した末に300名の騎兵を編成することにした。


 歩兵についてはおれが知っている戦史を思い出して、大盾と長槍を持つ歩兵部隊を組んでみた。獣人は力持ちだから大盾と長槍を同時に持ってもへたばることもないと思うし、長い物には巻かれろっていうからな。発想はマケドニアが持つサリッサ、重装歩兵によるファランクスだ。



 エルフさんたちは鉄鉱石でおれが伝えた武器装備を大急ぎで作ってくれている。築城用の鉄筋、鍬や鋤などの日用品は後回しでいい、それは上の里にこもればいつでも作れる。



「じゃあ、あとは任せたよ」


「はい、アキラさんに頼ってばかりで申し訳ないですが、よろしくお願いします」


 村長さんたちに見送られて、おれとニールは里の外へ走り去った。下の里にたくさんの獣人さんが集まっているので、人のいないところでローインを呼ぶことにする。



「ニール。エティリアと合流したら彼女たちのことを任せてもいいか?」


「それはいいがお前はどうすんつもりだ」


「ラクータへちょっとね」


「無茶ばっかすんなよ」



 ニールから窘められたが、戦争というのは形から入ることもあるので、こっちの正義をしっかり主張しないといけない。村長さんたちから預かった書類を参考して、その内容を書き記した大きなポスターを用意した。それをラクータの目立つ場所に張り付ける予定。ただ渡すだけでは握りつぶされても困るし、市民の目で見て頂きましょう。




 昼間の飛行になったけど、高度を上げることで人目を避ける。交易路の道筋を沿って飛んでいき、シンセザイ山のゼノス側の麓で隊商らしき影が見えたので、一旦降下しつつそれがエティリアたちであるかどうか確かめる。



「見なくていい、エティリアたちだ」


「え、わかるの?」


「俺らドラゴンをなんだと思ってんだ。そんなのすぐにわかんよ」


「すげえ」


 いまさらながら銀龍メリジーのスペックに驚かされる。こいつらにできないことはなんだろうな……あった、交尾だ。



「すげえムカつくことを考えてんだろ、てめえ」


「いいえ、お気になさらずに」



 ローインに近くにある岩場の陰に降ろしてもらい、お代のチョコレートを渡して、名残惜しそうにしている精霊を追い返す。ニールにスマホを返してもらったけど、見るのはまた今度だ。



 しばらくぶりだが人恋しさに彼女(エティ)に会いたい。会って、どんな些細なことでもいいから話をしたいだけ。ただそれだけでいい。



「止まれ!」


 白豹ちゃんたち護衛陣は遠くから近付くおれへ呼び止める、頼り甲斐のある護衛さんたちだ。



「アキラだ、みんなお疲れ」


「あなたあー」


 うさぎちゃんがおれの声を聞くと早足でこっちへ走って来る。近くまで来ると蹴り上げて飛び付いてきた。懐かしい匂いが漂ってきてそのサラサラの髪は頬をさする。温かい体をこの腕の中で抱きしめて、手をその小さな頭に添えてからゆっくりと撫でる。


 世界を跨っての出逢い、この人とこうしていられるだけでもこっち(アルス)に来てよかったと心から思うよ。




「そう、そうなっちゃったもん……」


「そのためにも早く下の里に戻ってほしい」


 ラクータのことは走車を走らせながらみんなに伝えた。真ん中の走車にノディソンさんたち教師陣はせっかく来てもらったのに、真実を伝えないといけない。もしここでゼノスへ戻ると言ってもそれは仕方のないこと、種族の紛争に彼や彼女らを巻き込んではいけない。



「――というわけでして、ゼノスへ戻るなら責任を持って送らせてもらいます」


 ニールはエティリアたちを護衛してもらいたいから、ラクータへ書類を突き付けるのは多少遅れてしまうけど、ご老人たちが帰りたいというのなら、おれは責任を持ってゼノスへ送っていかなければならない。それが道理というものでしょう。



「ふむ、話はわかった。ところで聞くがアラリアの森にも拠点を作ると言ったな」


「はい。本当はそちらが本命で正式の学び舎はそこで建てる予定でした」


 ドワーフもどきのノディソンさんが学び舎のことを聞いてきたので、本来の計画を伝えた。



「ならば話はここまで。わしらをそっちへ連れて行け、学び舎なんぞなくても青空で教えるわい。わしらはそのために来た、ラクータのやつらのせいで終わらせるつもりはない。教えるべき子がいるならお師さんはどこへでもいくぞ。なあ、みんな」


「そうじゃそうじゃ」

「命を終わらせるつもりできましたの、もうゼノスへ戻るつもりはありませんわ」

「おお、教え子のために死ねるぞい」



 くぅ、感動的なことを言ってくれる爺さんと婆さんたちだな。泣けてくるじゃないか。



「ありがとうございます、みなさん」


「わしらはこのまま付いて行くから、お前さんはすべきことがあるなら迷わずにやってくるがいい。人生は長く見えて短いもんじゃからな」


 ノディソンさんとそのほかの爺さんと婆さんたちは頷いてくれた。人生を長く生きた分、こういった心遣いは言葉では言い表せないくらい嬉しいものだ。


 期待を裏切らないためにも前へ突き進もう。



「エティ、色々と話したいけどもう少し待ってくれ。下の里で会おう」


「はい、あなた。あたいは待ってるもん」


 エティリアたちのことはニールに任せて、ラクータとゼノスで一仕事をして来よう。これらが終わればきっと獣人族と人族による紛争のエンディングを迎えられる。あとは時間が解決してくれる。最高の結果を求められないのならより良い成果を手にするしかないから。




 上空から城塞都市ラクータへの侵入ルートを探してみた。スラムは人が多すぎて目立つから諦めた。うーん、どこかないかな……


 うん? 鐘楼みたいのがあったけど、その周りは林になっていて人は少ない、そこでいいかな。脱出ルートはこの前にニールたちが隠れていた路地裏、そこにローインを呼んで一気に上空へ急上昇だ。それでいこう。



 鐘楼に降りたつ、人はだれもいないみたいから横の階段から下へ降りていく。フード付きのロープを着て、擬装用の魔法の袋はすでに用意しているし、ここから広場まで走り抜ける。



「あら、あなたは――」


「やあ、こんにちは。騎士団長のカッサンドラスさまに言われて鐘が鳴るかどうか見に来ました」


 鐘楼の扉に出るとおばさんが一人いたので、彼女がこっちのことを聞く前に適当なことを言って誤魔化した。さあ、走るぞ。



 広場に人がたくさんいる。警備する騎士団員もいたが数はそんなに多くないし、広場の外周で立っているだけ。広場の中央で緑地みたいのがあったので、そこの木の下にしよう。


 木で作った脚付き看板を魔法の袋から出し、それを草地に突き刺した。数人が何事が起ったかとこっちを見ている。それからポスターを看板に貼り出し、束になっている相互関係の破棄書類を釘と木槌を使って打ち付ける。



「なんだこれ」


「なになに、えーと。わたしたち獣人族は城塞都市ラクータによって迫害され、安全を保障する相互関係であるにもかかわらず――」


「――不公平かつ多額な税を強制的に納付させられた上で不当な売買によって特産品も取り上げられて――」


「――よって、わたしたち獣人族はここで城塞都市ラクータと相互関係を解消し、対等な関係を築ける日まで城塞都市ラクータと何らかの関わりも持たないことを宣言するって、これは……」


「あーあ、獣人族は怒ったぞ。だからやめとけって言ったのに」


「ケモノが生意気な、人族の言うことを聞けばいいものを」



 うん、ちょっとした騒ぎになってきたよ。市民が続々とここに集まってきたので最後の仕上げといこう。



「皆様あ、よく聞いてくださーい。今、ラクータは獣人族を攻めようと都市院の独断で騎士団を動かそうとしていまーす。これは明らかに市民の信頼を裏切り、言語道断の行いでありま――」


「こらあ、そこで大声を上げるやつ!」


 あ、やべっ。騎士団員がこっちに向かって走ってきたので、最大戦速で離脱せよっと。おれの機敏値でついて来れる人族はいねえよ。



「こら、待たんか――」


 待て言われて待つアホはいません、なのでここは人の間を避けながら一気に大通りを駆け抜け、裏道へ入っていこう。マップ機能はとても助かります。路地裏に捨てられている木箱などのゴミを飛び越えながら離脱地点へ向かう。



「ローイン!」


『任せろでござる』


 超高速垂直上昇、STOVL機も真っ青だぜ。




「マダム・マイクリフテルにお会いできませんか」


「……長様は都市院の会議に出かけております」


 ゼノスへやってきたおれはアポなしでマダム・マイクリフテル宅へ訪ねました。残念なことにマダムはいないようで、侍女さんから冷たい目で見られてます。この前に見送りしてくれた侍女さんじゃなかったようだ。



「おや、アキラ様じゃないですか? どうなさいました」


「やあ、久しぶりだな。マダム・マイクリフテルに急用があったけど、会議ってことでちょっとどうしょうかなと」


「はい、行きましょうか」


 この前に見送ってくれた侍女さんがひょっこりと顔を出してきたから、彼女と話しかけてみたが対応してくれた侍女さんを押しのけて、おれのところまで来た。



「アトロポス、あなた――」


「ラケシス姉ちゃんもさ、時と場合を弁えな。マイクリフテル様が言ってたでしょう、この人はゼノスに利益をもたらせてくれるって」


「……」


「アタシがマイクリフテル様の所へ連れてくから、ラケシス姉ちゃんはクロート姉ちゃんとお留守番だよ」


 運命の女神に出会えました! なんてね。このアトロポスという侍女は機転が利くからマダム・マイクリフテルから見送りを頼まれたかもしれない。



 街の中で周りからジロジロと見られている。灰色のロープを着たおっさんの隣で歩く美人の侍女、怪しい関係と思われているのかな。ここまで来たら焦る歩調よりも侍女さんの落ち着いた歩きについて行こう。



 辿り着いたのは大きな石造建物、正門の所にゼノス都市院と看板が掲げられている。さすがは交易都市ゼノス、都市院だけでもこんなに立派なものだ。侍女のアトロポスの後ろに付いて行き、都市院の正門をくぐる。


ありがとうございました。

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