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第157話 妖精の小人は昔話を語る

 酒場に着くなりワインもどきをテーのじいちゃんに強奪された。お爺さんはお酒だけが楽しみなんだし、まだ在庫はあるのでここはケチケチすることもない。そのお爺さんのお相手をつとめてくれているのがニール、あいつも酒好きだからいいか。


 でもな、傍から見たらスナックで呑兵衛のお爺さんを相手しているガラの悪いホステスさんに見えるのはおれの偏見だろうか。



「それで今日はなんの用かな、アキラのおっちゃん。まさか酒を献上しに来ただけではないでしょう?」


「うん。まずは言っておくことがある。この前におれともめた髭面の危機が一発さんは獣人を襲ってきたので殺した」


 妖精の小人は酒杯をあげる手を止めてからおれのほうに笑いかけてくる。



「それはどうも。それでアキラのおっちゃんはボクたちになにか請求するというのかな?」


「いや、それはない。ただちゃんと言ったほうがいいかなだけ」


「そう、それじゃお礼を言うね。一応ね、ゼノスを追い出してから追手をさし向けたがエッシーピ会長と手を組んで良からぬことを企んでいるという知らせが入ったんだ。この近くにある盗賊団とつるんでどこかへ行ったって聞いたけど、獣人を襲いに行ったのだね。それでエッシーピ会長のほうはどうしたのかな?」


「死んだ」


「そう」


 それからペンドルはなにも言わず、ワインもどきが入っている酒杯を口に当ててから一気に飲み干した。



「まさかそれを知らせるためにわざわざ来てくれたの?」


「それこそまさかだよ。ペンドルに聞きたいことがあってな、知っていたら協力してほしい」


「へえ、内容次第では報酬を請求しちゃうよ?」


「お手柔らかに頼むよ」


「なにが知りたいかな?」


「スイニーの粉についてだ」



 おや、妖精の小人さんは顔付がものすごい真剣なもので、おれだけに殺気を飛ばしているように思うが気のせいじゃないよね。お爺さんと飲んでいるニールがペンドルのことを睨み出したから彼女もその殺気を感じ取ったというわけか。



「アキラ、話は聞くからついて来て」


「あ、ああ」


 おっちゃんの呼び名が抜けているから妖精の小人さんも本気なんだろう。殺し合いに発展することはないと思うが今日はなんという日、ワスプールもペンドルも普段と違う態度を見せるからおれは変なことを言ったのかな。


 そういうつもりはまったくないけど。




「単刀直入に聞く、アキラはどこでスイニーの粉のことを知った」


「アルス連山の西の果てに住んでいる森のドワーフさんたちが教えてくれた」


 顔が近いよペンドル氏、もう少し離れてくれるとありがたい。ただでさえこの別室は小さいからね。



「……アキラはボクたち妖精族の秘密も知っているということか」


「いや、そこに住んでいるドワーフさんたちから聞くまでは知らなかったぞ」


「そっか……わかった。スイニーの粉はドワーフに伝わる門外不出の秘法だが、ボクは作り方を知ってるし作れる。ただ、今まであえて聞かなかったけどアキラのことを教えてもらおうか」


「うーん……」



 どうしようかな。ペンドルを信用しないわけじゃないが異世界から来たことをなるべく知られたくない。ネコミミ巫女元婆さんは風の精霊(メガミ)で信じてくれたし、エティリアは無条件で疑うことをしなかった。でもなあ、ペンドルにいうとなれば話は違ってくるのよな。色々と言わなくちゃいけなくなるからそれは避けたい。


 でもな、言わないとスイニーの粉を作ってくれそうにない。どうしたものか……



 妖精……ひょっとしてペンドルはあの妖精のダンジョンに住んでいたかもしれない。それなら手っ取り早く証拠となる物を見せちゃいましょうか、違うのならまだ別の手を考えてみよう。


 メニューを操作して黄銅色の魔剣を取り出す。そう、妖精の女王様からかっぱらってきた片手剣、妖精殺しだ。



「アキラあ、その剣はどこから持ってきたあっ!」



 うわあー、妖精の小人がメッチャ怒っているよ。魔法陣も起動させて、返事次第ではここでペンドルとバトルになっちゃうみたいだ。



「落ち着けペンドル。確かにこれは妖精のダンジョンから持ってきたが女王様とは戦っていないよ。あんな化け物におれが勝てるはずもないよ」


「……女王様? 長様のことか……お前、我らの迷宮に行ったということだな?」


「ああ、行ったよ。地下一層が迎撃の層で、地下二層は畑。その下は住居区画で最下層がお城だったっけ。おれはそこで女王様を見たんだ」


「……」


 ペンドルは今でもおれを睨んでいるが魔法陣はすでに解いているし、殺気を引っ込めさせたがその目はまるで品定めをしているようにジッと見てくるだけ。


 見たければ見るがいい、べつに減るものはないんだし。それがむさい男ならおれも睨み返すけど、ペンドルの見た目は少年だからいいか。



「どうやら嘘ではないようだね」


「こういう場合に嘘をついてどうする。つくならもっとマシな嘘をいうよ」


「それもそうだね……長様は元気だったかな?」


「悪いがそれは知らない。元気そうには見えたが確認できる状態じゃなかったんだ、おれがな」


「そう」


「ああ、そうだよ」



 それからペンドルはおれに妖精族の先代長様のことを教えてくれた。元々妖精の迷宮は妖精たちが日々を謳歌するようにシンプルな構造していた。先代長様は強くはなかったが人柄が穏やかでみんなから慕われていて、長様の娘である当代の長様は妖精族最強の実力を持って先代長様の代わりにみんなを守っていたらしい。



 あるときに付近に住むオーガ族から森へ侵入してきたので長様の娘は戦える妖精たちを率いて迎撃に当たったという。その時に人族の冒険団が妖精の迷宮に入ってきたらしい。先代長様と居残った妖精たちは懸命に抵抗したが戦える妖精たちは数が少なかったためついには先代長様が人族の冒険者に討伐されてしまった。


 運が悪いしか言いようがない。



 秘宝を得た人族の冒険団が引き上げようとするときにオーガ族を撃退した長様の娘が率いる戦える妖精たちと鉢合わせしてしまった。意気揚々の人族の冒険団は激怒した長様の娘に復讐戦を挑まれて、まったく相手にならない人族の冒険団はほぼ全滅という形で、わずかな冒険者たちだけが妖精の迷宮から逃げのびたらしい。



 父親の死を嘆き悲しんだ長様の娘は妖精の長になり、妖精の迷宮がほかの種族から侵入を許さないように迷宮を改造したとペンドルから教えられた。その時に最後の砦として作られたのはおれが地下四層でみたあの白亜の城、妖精城ヴァサリディアというわけだ。



 ペンドルによるとそれはペンドルが生まれる前の出来事で、ペンドルが産まれたときにはすでに今の迷宮になっているということ。それでも二度と人族から侵略を受けないために世界の各地へ、ペンドルのように人族側の動向を探るための工作員が派遣されている。



「ここまでアキラに話したのはアキラはどういう経緯であれ、我らの秘宝を持っているからだよ」


「そ、そうか。心配するな、おれはだれにも言わないから。それにあの迷宮を見た感想だけどな、あれは落ちないよ。おれの憶測だけど、神教騎士団でも無理と思うね」


「あはは、褒めてくれてありがとう」


「いやいや、褒めてないから。まともな思考を持ったやつならああいう死地へ行こうとも思わないからね」



 ペンドルは気を良くしておれからせしめた酒を薦めてくるが本当のことを言っただけだ。いつか美しい妖精さんのヴィルデ・フラウに会いに行きたいけどそれは平和的な訪問でありたいし、あの化け物女王様とは相対したくもない。



「わかった、スイニーの粉は作ってあげる」


「ありがとう」


「ただし、条件は付けさせてもらうよ」


「なにかな?」


 妖精の小人さんは両腕を組むと真面目な表情で話しかけてくる。



「スイニーの粉を使うのは獣人さんの楽土だけ、人族には流さないこと」


「問題ない、約束するぜ」


 別に妖精の小人さんじゃなくてもおれもそれに賛成する。スイニーの粉は建築や土木において、分野関係なく使える万能型の優秀な建材。ただこの世界の人族ならどこで最初に使用するということを考えれば、高い確率でおれと同じように軍事的の発想で城塞を作ると思う。


 すくなくてもペンドルは自分の手でスイニーの粉を広めるつもりはないらしく、それについてはおれも同様な立場にあるはず。



 技術というのはいつかは共有されてしまうもの。今のところ妖精たちだけが使えるスイニーの粉はどの時代にどのように人族の手に渡るのは時の流れに任せよう。断言するのは今のおれがすべきことじゃないということだ。


 楽土でスイニーの粉は使われるがその製法を獣人さんたちは知らない。おれがペンドルにお願いしたいのはあくまで建設の不足分と将来の補修用に使われるもの、楽土の建築物や土木工事以外の用途に使用するつもりはない。




 ペンドルと合意に達することができて良かった。補修用のスイニーの粉は確保できたし、ワスプールも知らない魔剣マンイーターの物語に書かれていない一部の真実を知ることができた。


 魔剣マンイーターの持ち主だった団長さんは悲劇の主人公だが妖精からすれば自分たちの長を殺したただの侵入者。聞き手の立場から相反する二つの面から一つの出来事を見れるというのは面白みを感じるね。



「ペンドル、スイニーの粉は急いでないから今度楽土に来た時でいいからね、その時に担当する鼠人族を紹介しておくよ」


「そう? 楽土にいく楽しみが増えたね」


「それと近い内に城塞都市ラクータへ行くつもりだけど、そこに案内してくれるペンドルの知り合いを紹介してもらえる?」


「なるほど……いるよ、もちろんそいつは無法者だけど、仁義に厚いやつだから頼りになると思うんだ」



 妖精の小人の顔に浮かべる微笑みはなにか良からない企みがあるように思わせるが、たとえそれがおれの偏見であったとしても、そのくらいこの爺さんが食えないやつだから。


ありがとうございました。

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