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第154話 アラクネは和服を着る

 イメージを伝えて何度も挑戦したのち、ネシアも多重魔法陣を習得した。彼女から多重魔法陣を使用しての魔法の感想を聞くとやはり魔力が一気に減るということを確認することができた。現におれも多重魔法陣で上級光魔法を撃とうとしたらそのまま魔力切れを起こして倒れ込んだ。


 ニールは聞くまでもない。魔力無制限のやつの感想なんて自慢でしかなく、言いたそうにしていたけど聞いてやる義務を負ってないから聞かない権利を使わせてもらった。



 エルフの集落に戻ると全ての人はこっちを見ているけどだれも声をかけて来ようとしない。なにが起きたのだろうか。



「アキラッちゃん、森で光がたくさん空に飛んでいたけどあれはなにかしら?」


「ちょっとね、ネシアに魔法を教えてもらってた」


「そう。みんながびっくりしてたわ」


「あはははは」


 ラメイベス夫人と会話している横で長老たちは盗み聞きしていた、気になったのでしょうね。ここまでくれば堂々としないけど気にすることはない。それこそ今更だ。



 交易の話は進んでいるようで、エルフたちからは果実酒を増産する方針が決まったらしい。森人の回復薬(エルフポーション)森人(エルフ)の癒し水(ヒールポーション)は獣人向けに販売することになったそうだ。まあ、販売すると言っても今は物々交換ということだが、ピキシー総務課長は長老たちと貨幣で取引することを協議していくみたい。


 それはこの森に住む種族が決めることなのでおっさんは関与しません。



 果実酒を補充したおれはみんなに出発の声をかけようと思ったがネシアと以前に彼女を護衛した五人衆、エルフの若者10人と長老さんが旅支度を済ませておれたちの前にいる。


 どういうことかな?



「...異形たちと会うそうなのでご一緒します。...」


「……」


 エルフ様たちの顔について行くぞってわかりやすく書いているので断ることを諦めた。今回は荷物を積んでいるので5台の走車で来たのだが中にある荷物はおれのアイテムボックスに収納して、エルフさんたちも乗れるように片付けた。


 じゃあ、行きますか。




 最強のニールと限定最強のおれの出番がまったくありません。見張りは可愛い森風の精霊であるペッピスがしてくれて、お食事はラメイベス夫人とデュピラスが美味しいものを作ってくれる。設営やそのほかの用事は若者たちがテキパキとやってくれているのでおっさんは愛しい恋人と森の見物に心を躍らせている。



 エンカウントした敵も白豹ちゃんたちとエルフ五人衆が率先に倒しているし、剥ぎ取りは若者たちが担当しているんだ。泣きそうになるね、こんな楽な旅って果たして今まであったのだろうか。



 暇ができたのでピキシー総務課長とエティリアにデュピラスを鍛えている。エティリアは商会の会長として自分の身を守ってほしいし、デュピラスは女将さんとして悪質な客を退治して頂かなくては困ります。


 たまにね、デュピラスがよろめくフリしておれにもたれかかるけど、慌てるおれをエティリアはただ微笑ましく見ているだけ。エティリアとデュピラスは仲がとてもいいんだよ、なんだか恰好をつけてた自分がバカみたいだ。チェッ




「ニール様とネシアは久しぶり、アキラはこの間ぶり。そのほかは初めての顔だね」


「やあ、ダイリーさま。これどうしたんだ? みんなきれいじゃないか」



 和服、それはとても美しい民族衣装。おれの心に望郷の念を想起させ、感動させてくれる。夏休みの時にみんなにゆかたを着てもらったが、ダイリーや侍女さんたちはちゃんとした振袖を着用しているんだ。動画を見せておいてよかった。


 あとでエティリアの分をお願いしよう。お代官様のあーれークルクルというお遊戯のあれをやりたいわけじゃないぜ。



「ふふふ、そう言ってもらえると嬉しいわ。今回はなに? 遊びに来てくれたの?」


「前に言ったようにつがいのエティリアという商人を連れてきたんだ。それとアラリアの湖畔で獣人たちの街をつくるから、そのことでダイリーさまと話がしたい」


 ちょっとだけ緊張気味のエティリアをアラクネの女王様の前へ顔合わせにピキシーと一緒に立ってもらった。



「そう。お話はうかがっているわ、仲良くしてもらえるならアラクネの長として嬉しいわ」


「え、エティリアといいます。アキラッちのつがいで商人です、よろしくお願いします」


「ピキシーと申します。アラリアの森でできる銀星の都市の総務課長という役職についてます。アラクネの長様にお会いできて光栄です」



 和やかな雰囲気の中で侍女さんたちは持て成しのお茶や食べ物を次々と運んできて、ラメイベス夫人とデュピラスは出された料理に目を凝らし、そのお味に二人で話している。



「よう、この前はありがとう。水着は大好評だったよ」


「あら、アキラ様。本日は大人数で来られましたね」


 おれとお喋りしているのは筆頭侍女さん。彼女に水着やおしゃれな服を作ってもらっているからいつの間にか仲良く話せるようになった。



「そこに兎人と犬人の女性がいるでしょう、あの人たちは料理がとても上手なので調理について意見交換することを勧めるよ」


「そうですの、それはありがたいですわ。ダイリー様とジョジッス様にお出しする料理でずっと頭を痛めておりましたわ」


 筆頭侍女さんはほかの侍女の配膳を妨げないようにそれこそ立体移動で屋根に飛び付いてからラメイベス夫人とデュピラスの前に落下した。


 突然に現れたアラクネにラメイベス夫人とデュピラスはすごく驚いて目を見開き、口を大きく開けている。わかるわかる、おれも最初にそれをやられたときは身構えたもんだ。



 びっくりしていた二人はすぐに筆頭侍女さんと料理について話に花を咲かせていたのでおれは残りのみんなを見てみた。確かに初めのうちはモンスターのアラクネを警戒しているご様子だったが、言葉が通じるということで打ちとけている。


 それならおれもこの場を抜けて、そこでおれを待っているジョジッスと遊んで来よう。




 蜘蛛の糸がおれを捕らえようとして飛ばされてくる。転がるようにして糸を避けたがそのまま後ろへ大きく飛び退いた。鋭い蜘蛛の足がおれの居た場所に突き刺さっていた。覚えたての魔法陣による光魔法で黒い蜘蛛を狙ったが不規則な軌道で飛び跳ねるやつに当たることはない。


 くそ、何度やってもジョジッスは厄介な相手だ。



 アラクネの里に来るとジョジッスとはよくこういう風に勝負してもらってるんだ。加速のスキルで急接近してから払ってくる足の攻撃に何度も吹き飛ばされている。こういう実戦的な訓練は本当に役に立つ。



 手に持つ武器こそ木刀だが、魔法はそのまま撃たせてもらっている。お互いに傷ついてしまうときはあるがそこは回復魔法で治療してるのさ。


 さて、お食事までまだ少し時間があるから付き合ってもらうぜ王様。




「良いお取り引きができるようにエティリアから配慮してもらえた。アラクネの長として感謝する」


「ははは、そこはダイリーさまがご納得できればおれからなにも言うことはありませんよ」


「エティリアから頼まれたこの森に住むほかの種族との仲介は引き受けましょう。アキラたちの予定はどうするつもり?」


「お手数かけます。この後は都市の建設予定地へ行って、その下見しながらマーメイド族と交易の交渉を行う計画です」


「そう、今後はケモノビトとモリビトと良き隣人でお願いね」


「こちらこそ。そうだ、もしもの場合は人族の軍勢がこの森に来るかもしれないのでその場合はお気を付けて」



 森のヌシ様がいるから問題はないと思うけどラクータの軍勢がアラリアの森に入って来る可能性だけは伝えておいたが、アラクネの女王様はただ冷ややかに言葉を返すのみ。



「森の恵みを得るのではなく森の物を奪うのであれば遠慮なく来るがいい。その時はうちらアラクネ一族だけではなく全ての森に住まう種族がお相手しましょう」


 ニールがいなければアラクネの里にいる蜘蛛たちは間違いなく強敵。異人族といい関係を築いたほうがいいと改めて思いました。



 用意された食事はラメイベス夫人の指導によるものと、食卓に並べられていく料理の数々を見てすぐにわかった。


 王様に女王様、そのお味に驚かれるといい。こういうことも交流のうちだと思うから、これからも獣人さんたちと末永く仲良くしてくださいね。






 森の中でその獣人は注意深く周りを見ながら偽装してくれている4人の仲間から離れて、森の奥へ入っていく。



「こっちだ」


 小さな声が彼を呼び止めたので足を止めた。



 黒いマントを被った得体のしれない者が彼に手招きして、獣人の男は大きな木の窪みのある所まで行って、怪しい者の傍まで行った。



「調べたことを話せ」


「……同胞のところに来ているのは人族だ、名はまだ知らない。今は村を離れて森の奥へ行っている。そこで都市を建設するつもりらしい」


「お前らは森のヌシとかいうやつに森に入ることを禁止されてたじゃないのか?」


「……人族の男が解決したらしい、俺達は森のヌシ様から許されているんだ」


「マッシャーリア村に今はどのくらいの獣人はいる?」


「詳しい数は知らん。でもほとんどの同胞がここに集まっているみたいだ」


「わかった、引き続き情報を集めろ。次の陰の日にまた来る」


「待ってくれ、妻と娘は無事か!」



 獣人の男がマントを掴むと怪しい者は懐から五つの包みを出して、地べたのほうに放った。


 獣人の男は慌ててそれを取りに行くと包みの匂いを嗅ぎながら、そのうちの一つを大事そうに開けて、その中にあるものを取り出した。



「お前の妻と娘の毛だ」


「こ、これでどうやって元気であるとわかるんだ」


 悲痛の声をあげている獣人の男に黒いマントを羽織った男は小さく笑う。



「そこまで言うのなら次は指を切ってきてもいいんだぜ?」


「やめてくれ!」


 縋って来る獣人の男を黒いマントの男はその腹に蹴りを入れた。呻き声をあげて倒れ込む獣人の男に黒いマントの男はしゃがんでからそれ上から指令を出す。



「できる限りのケモノの人数を調べろ、それとその人族の名とそいつがマッシャーリア村での動向だ。妻と娘に会いたかったらちゃんと命令を聞いておくんだな」



 獣人の男は泣いていた、それは黒いマントの男が去っても泣きやむことはできなかった。彼ら五人は城塞都市ラクータで家族と暮らし、一歴前に家族を黒の翼と言う騎士団に一家全員が捕まえられ、彼ら五人だけゼノスへ送り出され、仕事をしながらゼノスの情報収集を命じられていた。



 奴隷獣人が集められていることを知ったゼノスにいるラクータの工作員は彼ら五人を()()()()()()()。そして彼らがマッシャーリア村に着いてから、しばらくすると森のほうから三筋の薄い煙が見えた。



 ほかの獣人は森で火事が起こったかと騒いていたが、彼らにはラクータのやつらが呼んでいるということは事前に知らされていた。




 仲間の所まで戻ると獣人の男は残りの包みを渡していき、どの獣人の顔にも涙が流されている。同胞を裏切っていることは彼らの心を痛くする。だがそれ以上に長い間会っていない妻と子のことを思うと気が狂いそうになる。



 彼らはもうアルス様にお祈りなんて捧げない、だれもなにも救いにならないことはよく知っているから。いっそのことすべてを同胞に打ち明けて、このまま殺されるほうがましだと思っているが、渡されている家族の体毛だけが辛うじて彼らをこの現世を繋げている。



 同胞たちは故郷へ帰れると日々の喜びを感じている中で、城塞都市ラクータの脅迫によって先祖のことまで白状させられた彼らに絶望しか残されていなかった。


ありがとうございました。

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