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第153話 エルフ様は魔法の先生

 エルフの集落でウェストサイドの森に住むエルフたちが作ったワインみたいな果実酒はエルフさんたちから大受けした。ここまで来る途中、セイとレイが先頭に立ってゾシスリアたち5人とともにモンスター化するモンスターと戦いながら素材を得てきた。


 オークの肉が欲しいおれはニールと一緒にエンカウントでオーク肉の貯蓄のためにせっせと懸命に働く。



「ネシア、お願いがあるけど魔法を教えてくれないかな?」



 絶世の美女はワインもどきで仄かに頬を赤らめて、おれのお願いに頭を傾けてくる。うん、どんな仕草でもお似合いだし、その首に巻いてるように寝ているペッピスが彼女を飾るアクセサリーみたい。



 ピキシー総務課長はエティリアをお供にして長老たちと獣人族と森の民のことについて話し合いをしている。ゾシスリアたち5人はペシティ君訪問のときのメンバーと再会を祝っているし、セイとレイはエルフたちに冒険者の勧誘をしていた。ラメイベス夫人とデュピラスはエルフの女性たちと森から採れる自然の野菜や香辛料で新しい料理の開発に勤しんでいて、試食者はおれの横でで果実酒を片手に幸せそうに食べているニールだ。


 こういう交流は悪くないね。



「...アキラさんは魔法が使えてたじゃないの?...」


「おれの魔法は原理が違うというか、魔法陣を起動させての魔法じゃないんだ。それはネシアも知っているでしょう?」


「...ええ、不思議に思っていたわ。...」


「だからね、できれば魔法陣による魔法を習いたいなと思って、ネシアに相談させてもらったよ」


「...わかったわ、あたしでよければ。...」


「お願いします、ネシア先生」


「...せんせい?...」



 聞き慣れない言葉にネシアは右手の手のひらを自分の頬に添えた。その際に彼女の腕が寝ているペッピスに当たったが森風の精霊は起きることなく首の向きを変えてから眠りを貪り続けた。




 みんなの話は終わりそうにないからワインもどきを10樽ほど置いてからネシアと彼女の住居のほうへ魔法を習いに行くことにした。



「俺も行く」


「え?」


 体を起こしてからついて来ようとするニールにおれは顔を向ける。だって、ニールは万能の魔法使いだよ? 何しに行くつもりかな。



「多種族の魔法に興味があんだよ」


「なるほど」


 そう言えば時空間の停止の時代に爺さんから人族は人魔の争いの時に魔族が使う魔法を習得したということを聞いたことがあるし、魔族の魔法は魔法陣によらない魔法ということも管理神から聞かされていた。魔法陣を使うことのないニールがそれに興味を持つのは当然かもしれない。



 ネシアの後ろについて行き、おれはニールと雑談をしている。



「前に勇者は魔法を使えるって言ったけど、神龍の爺さんは人族は人魔の争いのあとで魔法を使えるように魔法陣を開発したと教えてくれた。これって、矛盾じゃないかな?」


「あの時は多種族であいつしか魔法を使えなかったんだよ。なぜあいつだけが魔法できるかは俺らも疑問に思ったが、ひょっとしてお前が教えてくれたようにあいつも思念に触れたかもしれねえ」


「ふーん、大昔のことだしな。それで人族はどうやって魔法を学んだかな? 知らない概念を技術にするのは大変と思うけどな」


「人族に興味を持った魔族もいんだよ。人魔の争いの後、神山が立ち入り禁止になん前に多種族側へ移り住んだ物好きな魔族たちがいたと魔族から聞いてんよ。多種族側も魔族側へ行ったやつらもいんよ、ダークエルフとかがそうだ」



 ああ、なるほどね。それなら話はわかる、多種族側に来た魔族が協力して開発されたのが魔法陣と言うわけか。



「...ニール様のおっしゃる通りです。あたしたち森の民に伝える話ではこちらに来た魔族たちが魔力量の多い妖精族に魔法陣を伝授して、まずはあたしたち妖精族が魔法を使い始めた。そのうちに人族が魔法陣の習得に乗り出したけど、人族側に伝わっている魔法陣は不完全なもので彼らが使用する魔法は完全な魔力を乗せることができず、ときには数人でないと発動できない魔法もあるのです。...」


「へえ、そんな話があったんだ」


 ある意味でネシアにお願いしてよかった。巫女様に頼んでみようかなと思う時期もあったが不完全な魔法陣を習うとこだった。




「...魔法陣は難しいものではありません。基本的術式ができたら、頭で思い描く印象に合わせて魔法陣が自在に変化していきます。例えば風魔法を使用しようと思えば基本的術式が風魔法に合わせて術式を変えますし、回復魔法を使おうと思えば術式も変化します」


「じゃあ、基本的術式があれば全ての魔法が使えるじゃないか」


 ネシアはニールも横で聞いているから丁寧な言葉使いで教えてくれている。



「...ええ、そうなります。ただ、詳しいことはあたしも知らないけどできる魔法は人それぞれです。あたしが使う火魔法は同胞の中でも珍しく、土魔法は森の民であるあたしたちは使うことができません。ですから全ての魔法を使うことのできる魔法術師は聞いたことありません」


「そうなんだ」


 チラッとネシアはニールを見たが気にすることはないとおれは彼女に言いたかった。銀龍メリジーは神様みたいなもの、魔法術師ではありません。



「...それではあたしが魔法陣を起動させますので、それをなぞるようによく見てください。特に難しいことはないができる人は時間かければ必ずできるし、できない人は一生をかけてもできません。あたしたち森の民は魔法陣を習得することはできますけど、人族はできる人のほうが少ないのですから、もしアキラができなければ気落ちすることはありません」


「そうか、ありがとう」


「...魔法陣の起動は思うところにあります。魔力を乗せるような感じで頭の中に思い描けば起動します。最初の一回目ができたらそれで成功です、次からは思うだけで魔法陣が出て来ます」


「わかった、試してみる」



 気を遣ってくれたネシアにおれは礼を言った。彼女は腰のあたりに魔法陣を起動させるとそのままにしてくれた。言われた通りにおれはその魔法陣を頭の中に入れるようにして細かい模様をなぞっていく。全ての模様はつながっていて、中に文字のようなものも描かれていた。



 おれの横でニールも同じようにネシアの魔法陣を見ていたが、しばらくすると彼女はなにか納得したように頷いてからネシアへ話しかける。



「これは古代魔族語だ。ここに書かれた文字は魔法を使うために最低限の魔力を引き出し、あとは思う魔法の印象を乗せれば魔法を撃てんよ。なるほど、これを考えたやつは大したもんだよ。この魔法陣というのは補助術みたいなもんだ」


「...そうなんですか。ニール様、教えて頂きありがとうございます。森の民を含む妖精族はずっと研究していたのですが、解明されることはありません。これでようやく謎が解けました。...」



 森の守り手が銀龍メリジーという神様に頭をさげてから感謝している間に、神様はいとも簡単に魔法陣を起動させやがった。チクショー、こうなりゃおれだって……


 魔法陣起動!



 うん、うっすらとなにかがおれの腰の周りに浮かんだがすぐに消えました。



「...アキラ、ゆっくりでいいですよ。あたしたち妖精族でも時間をかけないと魔法陣は中々習得できません」


「はんっ、しまんねえやつ。こんな簡単なこともできねえかよ」


 ネシアの慰め言葉は嬉しいけど、ゲームみたいに魔法陣の魔法って格好いいじゃんか。絶対にものにするぞ。


 それとニール、お前うるさいぞ。



「もう一回みせてよネシア」


「...ええ、いいわ。...」



 よく考えたら最初の一回さえできればいいから、ネシアの魔法陣をなぞりながら思い浮かべばそれでいいじゃないかな。それでやってみよう。



 魔法陣をなぞるようにしておれは自分の魔法陣を起動させ、最初は一部だけだがそれが見ていくうちに完成されていく。


 よし、魔法陣の基本術式は習得した。



「...アキラって、おかしいことをするわね。そんな習い方を見たのは初めてよ。...」


「そうなの? こっちのほうが早いかなって」



 せっかく魔法陣ができたのでアイコン魔法じゃなくてこの世界の魔法を使ってみよう。ほら、ゲームで新しい魔法が手に入ったときって、試し撃ちしたくなるじゃん。



 魔法陣起動、イメージは得意の光魔法。今は陽の日なので空へ向かって魔法を放っても目立たないはず。


 いっけー!




 はい、おれも魔法陣による魔法をつかうことができた。今まで使ってきた魔法は勿論そのまま使えたが、雷魔法がね、どうやら使えそうだ。


 まだ小さな稲妻しか出ないけど、これを鍛えていけばきっとものにできる。



「...アキラって、すごいなのかすごくないのかよくわからないわ。...」


「思い付きでやるやつなんだよ、気にすんな」


 お二人がなにかおれのことで話をしているようだけど気にしません。アイコン魔法は速射と隠蔽に優れているけどはっきり言って目立つ。魔法陣による魔法はこの世界の魔法術師らしく振舞えるので必要に応じて使い分けよう。




 さき、ニールが魔法陣は補助術と言ってたね。もし、この補助術を重ねれば威力が増大するかどうか試してみようかな。えい、魔法陣五重の術。


 立体的に五個の魔法陣が立ち上がって、目の前が眩しいから魔法陣の間隔を縮めて視野を確保だ。


 よし、空へ初級光魔法。



 ごっそりと魔力が持って行かれたが上級光魔法に匹敵する太いメガビーム砲を撃つことができました! 応用でこういう使い方ができるんだね。魔法陣の数に合わせて魔法の威力を調整できる。ただ、魔法量のこともあるのでこれはちゃんと考えて使わないと魔力切れを起こしそう。



 振り向くとネシアが唖然としておれのことを見ていた。



「...アキラ……その魔法陣はなに? そんなのあり得ないわ。魔法陣は一つしか起動しないのになんで...」



 突然ニールの体が光り出すようにものすごい数の魔法陣を彼女は出して見せた。



「ふふふ……はははは! これはすごいぞ」



 ただでさえ最強と言える魔法使いである彼女の前におれはパンドラの箱を開けてしまったのだろうか。


ありがとうございました。

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