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第145話 騎士団長の苦悩は続く

 強い! それしか言いようがない。たったの一撃(スターライト)だけで200人を超える盗賊団が壊滅してしまった。


 真ん中の走車の屋根にあぐらをかいているニールは盗賊団の襲撃に動くこともなく、飛んでくる矢や魔法すら光魔法で打ち消した。前回の盗賊団討伐であれだけ走り回ったおれはなんだったのだろう。



 残り十数人のトドメを刺しに行き、そのついでに気配察知をかけてみると森からこっちを監視している騎士団員たちもさぞや驚いていたことでしょう。しばらくの間は人の気配は止まったままで動かなかった。まあ、気持ちは理解できる。


 お前たちは知らないだろうが、あれが魔族からも恐れられている銀龍メリジーだ。この頃は一緒に行動しているからおれも忘れがちなんだけど。



「アキラ殿っ! なんだあれは? あれはなんだ!」


 うむ。とりあえず落ち着けや、女騎士さん。同じことを二回も聞いているぞ。それと肩を掴んだままでおれを揺らさないでくれ、吐くがな。



「あんな光魔法なんて見たこともない! ニール殿は何者だ!」


「遁世の魔法術師、その名を閃光のニールという」


「……閃光のニール……いくら魔法術師と言えどもあんな光魔法は撃てない、その前に魔力が持たない!」


「よかったな、イ・プルッティリア。きみも視野を広げることができた。よく覚えておきなさい、魔法はな、魔力の量があれば強力な魔法が撃てるのだ」



 納得できない表情をしているが女騎士は引き下がってくれた。悪いけど本当のことを言う気にはなれない、あれが神話に出てくる銀龍(シルバードラゴン)メリジーなんて神教の関係者に言えるか!




 いくつかの獣人の村に寄ってきた。ほとんどは廃村となって獣人さんたちがすでに移動して村の中にだれもいないが、たまに村に居残って出ようとしないお爺さんとお婆さんが居たりする。エティリアや子供たちの説得でようやく爺さんや婆さんも輸送団に同行すると同意してくれた。


 よかった、一緒に来てくれないとおれが気になって眠れないところだった。



 この頃になるとイ・プルッティリアや白豹ちゃんたちに剣術の教えを乞う若い獣人さんが増えてきている。でもだれもニールのところへ行こうとしないから、気になったおれは虎人の青年を捕まえて聞いてみる。



「え? だって、畏れ多くてニール様にそんなことはお願いできませんよ」


「ああそう」


 ニール様ですか、ああそうですか。そりゃ人族の盗賊団を何度も撃退している彼女に畏怖するのはわからないでもない。でもね、ニール様はきみたちに教えを乞われることを望んでいるはず。きみたちが行かないならおれが弟子入りにいくとしよう。もっと強くならないといけないから。



「お前が来んの待ってたぞ。さあ、やろうか!」


「いや待て。ボクシングじゃなくて剣術を教えてくれ」


 なににはしゃいでシャドーボクシングを始めやがる。いきなり戦闘不能になる気はないぞおれ。



「そっか……」


「なあ、接近戦じゃなくて魔法と剣術を同時に使うことを学びたいんだよ。それはニールからしか教えてもらえないんだ」


 こらこら、ボクシングできないからって肩を落として気落ちすんなや。おれがあんたからしか教えてもらえないと聞いてからいきなり満面の笑みになるなや。感情の表現がめっちゃわかりやすい。



「そこまで言うなら仕方ねえ、俺がお前に剣術のなんたるやを教えてやんよ」


「……お手柔らかにね」


 なんかこわいな、はたしておれは生きていられるだろうか。




 はい、完敗だよ。なすすべもなく左手を潰されて、右手に持つ武器を剛力で叩き落とされた。


 回復魔法を左手にかけているがこれは絶対に複雑骨折した。手加減しろよこのサドめが。



「いってええ……」


「気付けや。お前の魔法はどういう原理かは知らねえけどよ、左手で叩いて出してんだろ? 丸わかりなんだよ」


「……」


 やっぱりニールにはバレるか、そりゃバレるわな。銀龍メリジーはおれの押した回数と光魔法の数を数えていたから。



「人族あたりなら問題はねえだろうがよ、俺ら(ドラゴン)の相手にならねえぜ。ノロマのときはあいつがお前に手加減してんからな」


「うっさいやい、だれが好きでドラゴンなんかと戦うか」



 銀龍メリジーのいうことはごもっともだ。ゲームみたいにボタン押しの魔法は初見殺し、これが多くの敵と戦っているの場合は見破られたら手を潰されて一巻の終わり。


 本格的にこの世界の魔法を習う必要がある。獣人さんの護送が終わったら以前に考えたようにエルフの集落でネシアから教わろう。戦闘の時に片手しか使えないと両手が使えるのは長期戦になった時に差が出てくるはずだ。



「ほらよ」


「え?」


 ニールが回復魔法をかけてきたので左腕が完治した。え? ニールって、回復魔法が使えたっけ。



「武器を持てや、二回戦だ」


「……マジでお手柔らかに宜しくお願い致します」


 両手持ちで威力が出る野太刀は諦めて、片手剣の妖精殺しを握りしめる。魔法が通用しないことはわかってても、魔法との併用で自分のバトルスタイルを確立させたいからニールとの特訓を通して、極意というものを掴みとりたい。


 ファージン集落のみんなを思い出した。ごめんなみんな、みんなはおれに優しかったことを今頃になって思い知らされた。なんせゲロしか吐かされてなかったもんな。


 みんなのことは絶対に忘れないからね、ちょっと死んでくるわ。


 光魔法を連射し、妖精殺しを振り下ろす。笑っている相手してくるやつは化け物の上を行くなにかかだ。






 部下たちからの通信にカッサンドラスは眉間を寄せて作った皺へ右手の拳で当てている。騎士団長の経験として信じられない話であった。



 すでに七つの盗賊団は全滅している。最初に届けられた報告書の報告内容に目を通したとき、これなら大丈夫とカッサンドラスは胸を撫で下ろした。


 光魔法を連射できる男は強いと思ったがそれは個人の場合。集団戦を得意とする騎士団が相手なら負けることはないと報告書はそうまとめられていた。ただし矢の攻撃はその男の体に通らなかったし、魔法も大して効いていないことだけをカッサンドラスは記憶にとどめた。



 だがそれ以後に送付してくる報告書は盗賊団が全て一撃で壊滅していると書いてある。しかもそれは盗賊団の人数に関わらずだ。そんな光魔法なんてカッサンドラスは聞いたこともないし、騎士団に所属している凄腕の魔法術師に聞いても魔力量が不足するので不可能と答えられただけ。


 カッサンドラスが声をかけ、獣人の輸送団を襲撃することに承諾している盗賊団はまだ12団ある。このまま個別で襲撃を仕掛けても各個撃破されるだけと彼は思考している。



「一気にやってみるか。二千人弱でやればスキを見せるかもしれん」



 大人数による襲撃でカッサンドラスは敵の実力を見定めるつもり。そのために彼は自分で見に行くと決め、都市の長であるプロンゴンへ報告するために執務室を出た。




「わかりました、いいですよ」


「はい、ありがとうございます」


 都市の長であるプロンゴンはあっさりと了承してくれたので、カッサンドラスは帰宅して、軽装に着替えてから盗賊団の親分たちを訪れる予定を立てた。



「騎士団長殿」


「はい」


 カッサンドラスは扉の前で体を翻し、彼を呼び止めたプロンゴンへ向きなおす。



「大事な聖戦の前ですからくれぐれも気を付けてくださいね。なにかわかれば無理することなくすぐに戻ってきてくれていいですよ」


「はっ」


「それと怪しげな魔法術師のことは気にしないで、その魔法だけ見てきてほしいです。対策はこちらに考えがありますので」


「……はい」



 この青年の考えは読めないがとりあえずは気を遣ってくれているようだ。とにかく今は敵の実力を自分で確認してくることが大事。騎士団のことはカンバルチストに任せて、騎士団から何人か凄腕の魔法術師を同行させ、気が荒い盗賊団の親分たちも説得しなければならない。



 またしばらく家を空けることになるけど、その前に妻と子たちの機嫌を取っておこうと騎士団長は考える。



「外食するか。カンバルチストが言うにはいい店ができたみたいだしな」


 騎士団の副団長執務室へ足を速めて、カッサンドラスは副団長の青年から城塞都市ラクータの大通りにできたばかりの美味しいご飯が食べられる店を聞くつもり。




 城塞都市ラクータはその名の通り、石造の高い城壁で囲まれた都市。交易都市ゼノスほどではないがラクータは近隣する都市と交易しながらここ一帯の経済の発展を担ってきた。


 今でこそ主要産業ではないのだが、その昔にラクータはシンセザイ山脈から鉄鉱石を採掘して、道具や武器などの鍛冶産業が盛んであった。採掘する際にシンセザイ山で現れるモンスターから労働者を守るために、増強された衛兵団が現在の騎士団の前身である。



 交易都市ゼノスがほかの鉱業都市から鉄鉱石などの各種鉱石を仕入れてくるようになり、そのあおりを食ったラクータの鍛冶産業は次第に廃れるようになっていき、これに憂いだ当時の都市の長がゼノスへ抗議を申し出た。だが豊かな農耕地を所有するゼノス側からすれば、できるだけ手頃の値段で農具を支配下の村々へ提供して農産物を増産させたい思惑があった。


 ラクータの鉄製品は騎士団を維持するために高い税金がかけられていたので、できるだけラクータでの買い付けを減らし、自分たちの都市で農具の生産を準備していたゼノスはラクータの抗議を内政干渉に当たるということで取り合うことはなかった。



 有力な農耕地を持っていなかったラクータは肥大化した騎士団を維持するために、近隣都市のメドリアにケレスドグと盟約を結び、ゼノスに鉱石の輸入をやめるようにを訴え出たがゼノス側はそれを無視し、逆に軍事力で押すなら食糧の交易は中断することをラクータ同盟に通告した。


 食糧の多くをゼノスに輸入しているラクータ同盟の都市院は、噂を聞きつけた市民の非難の声に焦りを感じ、多くの市民が反対するにもかかわらず、ついにゼノスへ進軍することを決定した。


 ラクータ同盟の軍事行動の知らせを聞いたゼノスは、潤沢な資金でラクータを含むこの地域にいる冒険者を雇い入れ、抗戦の用意を整えてからラクータ同盟軍に対して宣戦布告を通達する。



 ラクータ同盟軍は兵士の数こそ揃えているものの、兵糧の貯えが少なく、短期決戦を方針としていることをゼノス側も戦前から収集した情報で分析していた。



 冒険者は軍として扱うには難があることを知っているゼノスは、冒険者たちをいくつかの小さな集団に分け、彼らを使ってラクータ同盟軍の補給部隊に奇襲をかけた。補給を脅かされたラクータ同盟軍は補給部隊を守るために護衛部隊を編制せざるを得ず、また、神出鬼没の冒険者部隊を追い払うため、本隊から割いた別動隊を出撃させた。それによってラクータ同盟軍の本隊の兵力はかなり減ることになった。



 元々徴兵されたラクータ同盟軍の戦意は低く、途絶えがちの兵糧による空腹も士気を悪化させた。そこへモビスによる騎兵のみで編成されたゼノス騎士団がラクータの本隊へ夜襲をかけた。劣勢になったラクータ同盟軍は瞬く間に陣形が崩れ、冒険者集団による横からの攻撃に耐えられず、破れたラクータ同盟軍はそのまま潰走してしまった。



 ゼノスの都市院は追撃することを禁じた。戦争そのものはラクータなどの都市院による決定したもので、市民から支持を得ていないことを彼らは知っていた。遺恨を残さないためにもゼノスの都市院はは捕虜となったラクータ同盟軍の兵士を殺すことなく、むしろ食糧や一時金を与えた上、冒険者による護送で全員を無事に住んでいる都市へ帰還させた。



 当時のラクータの都市院は市民の抗議により全員が辞任して、ラクータの勢力圏外へ追放された。市民の支持を得た新たな都市院はゼノスに和平交渉を申し入れ、ゼノスの鉱石輸入を承認する和平交渉に応じた。それによりラクータの鍛冶産業は一気に衰退し、騎士団の規模も縮小させられた。



 それ以後、城塞都市ラクータは食糧の輸入を交易都市ゼノスに頼っているため、毎年に行われる都市間協議会はほぼゼノス側が提示する意見で合意するようになる。城塞都市ラクータの苦難はプロンゴンが都市の長として登場するまで継続した。


ありがとうございました。

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