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第136話 エルフは酒作りの名手

 はっはっは、苦しゅうないぞ? 皆の者、頭を上げよう。おれが慌ててしまうからこういうのはやめにしようね。


 はい。エルフさんに見つけられたおれは向けてくる武器と射出寸前の魔法で囲まれて、エルフさんたちがおれのことを誰何する前に、風鷹の精霊(ローイン)を呼び出したら見慣れた光景となりました。



 この森に住むエルフさんたちの村に案内された。ここにいる人数はアラリアの森にいるエルフさんより多く、おれが名前を出すとエルフたちは歓声を上げておれを歓迎した。どうもネシアの通信は多種族領にいるエルフさんに伝わっているらしく、おれことアキラはエルフさんたちにとっては人族であるけど、エルフの友ということでアキラの名が通っているらしい。


 うん、そのアキラというやつはえらい奴らしいね、ぜひともお友達になりたい。



 ここのエルフさんたちが作っているエルフの果実酒はうまかった。いや、別にアラリアの森産のエルフの果実酒が劣るというわけじゃなくて、違う風味の味になっているんだ。ブドウの香りと言うべきか、ここのエルフの果実酒はかぎりなくワインに近い味がする。これはいいものが手に入ったよ。



 あるだけのオーク肉でエルフの果実酒と森人の回復薬に森人の癒しの水と交換してもらった。本当にアイテムボックスがあって管理神様に大感謝、酒蔵に行った時に全部をもらってくれていいからということで、ここは遠慮なく三つほどの酒蔵の分を頂くことにした。


 だって、ここに来るのは時間がかかるし、エルフたちもお酒はたまにしか飲まないって言ってくれた。


 じゃあ、なんでこんなに作ると聞いてみれば、アラリアの森のエルフさんと同じですることがないから作っているとの回答でした。



 それではこっちも気をつかうからということで牛肉、チョコレートにあめちゃんを大量におかせてもらった。これがエルフさんたちに大人気でもう一つの酒の貯蔵庫を開こうとした長老を慌ててとめたよ。もうすでに酒蔵の三つ分の酒はもらったので、これ以上の交換できるものをおれは持っていない。


 気をつかってもらったから気をつかった。さらに気をつかってもらったら、もうわけがわからなくなる。



 ここでも焼き肉パーティを開き、エルフさんたちと親交を深めた。どうやらこの森はウェストサイドの森と言う名があるらしいが、外来語そのままじゃないかとおれは心の中で一人ツッコミした。



 森での宴会でエルフさんたちから新しく森の守り手であるネシアのことを聞かれたり、アラリアの森の様子を聞かれたりした。会話が弾んだら酒も進む。できればウェストサイドの森のエルフさんともっと仲良くなりたかったが、エティリアたちのことも気になるので、早くゼノスへ戻りたいと思ったおれはエルフたちに惜しまれつつ別れを告げる。



 エルフの村から離れる前に、ドワーフたちがエルフが作る酒を欲しがっていることを伝えると長老たちはちょっと嫌そうな顔をしたが、ドワーフたちが鍛冶で作る道具と交換することで承諾してくれた。



 エルフさんたちと再会の約束して、ドワーフの隠れ村へ魔素の塊を避けながらウェストサイドの森の中を駆け抜けていく。




「なんと、あのエルフどもから酒、回復薬と癒しの水をせしめたというのか。」


「いやいや、ちゃんと交換したから人聞きの悪いことを言わないでくれ」



 クンムのびっくりした顔がとても面白かった。髭がもじゃもじゃしてくりくりとした丸い目が見開いて、思わず赤い帽子を被せてあげたくなる。ここはトナカイがいないから三つ角のシカで代用してもいいのかな。



 スイニーの粉を手に入れるためにウェストサイドの森に住むエルフが作ったエルフの酒を酒場の中で積み出す。ブドウの香りが広がる中、ドワーフたちは歓声をあげていて、気をよくしたおれはどんどん酒の樽を置いて行く。



「もういい」


「ええ? もういいの?」


 アイテムボックスに在庫はまだまだあるけど、スイニーの粉の価値がわからないおれはクンムの声に合わせてメニューを操作する手を止める。



「これで十分だ」


「ええー!」


 クンムの後ろでドワーフたちが不満な声をあげている。



「調子を乗るんじゃねえ、スイニーの粉はほとんど備蓄で使わねえんだ。この頃のおめえらも遊び過ぎだから備蓄の分は全部アキラにやる。おめえらはなくなった分を作れ!」


 クンムから叱りつけられて気落ちしているドワーフたちを見ているとなんだか気の毒で、おれはエルフたちと話し合った結果を伝えることにする。



「エルフさんたちはあんたたちが作った道具なら交換してくれるって言ってくれたよ」



 おれの言葉にクンムを含むこの場にいるドワーフたちが沈黙しておれを見つめている。あれ? 変なことを言ったつもりはないんだけど。



「……それは本当のことか?」


「あ、うん。あんたたちはお酒好きだから、なんとかならないかなって聞いてみたら、ドワーフが鍛冶で作ったものなら交換してもいいとエルフの長老は了承したよ」


「ルァリホーっ!」


「ファイホー!」



 いきなり咆哮をあげるクンム。ほかのドワーフたちは酒場のガラスが割れるかと思うくらいの大声でそれに応えた。急なことで耳がすごく痛かったけど、ドワーフのかけ声はファンタジー通りであることにガッツポーズだ。やっぱりこう来なくちゃね。




 ドワーフさんたちは鍛冶工房へ急行した。クンムから聞いた話だとエルフさんたちと酒を交換するためにこれから鍛冶仕事に励むらしい。



「アキラがエルフどもに会いに行ってる間に武具はできるだけ作ったからそれはあとで案内する」


「ありがとう」


 今はクンムとトンネルの中を歩いていて、スイニーの粉が置いてある倉庫はこの中にあるらしい。トンネルの壁面、天井や床は全てコンクリートで作られていて、壁に等間隔でへっこみがあり、その中は光苔が植えられていた。全体的に薄暗くはあるが歩く分には問題ない。



「ルァリホー」


「ファ、ファイホー?」


 倉庫の前に来ると係の人がカギを出していたのでドワーフの挨拶を交わしてみた。係の人は訝しそうな顔で一応は返してくれたが反応が悪い。なぜだろうか、発音が悪いかな。



「アキラはなんかいいことがあったか?」


「え? 特にないけど」


 クンムのおかしい名問いにおれは適当に答えるほかない。



「ルァリホーは人族の言葉で言うとやったぜということだ。アキラはそんなにスイニーの粉が嬉しいのか」


「ナハ、ナハハ。そだね」


 なるほどね、ルァリホーは挨拶じゃなくてちゃんとした言葉だったんだね。大恥をかくところだったよ。



 倉庫の中は袋が天井まで山積みされていて、全部がスイニーの粉なのかとクンムに確かめることにした。



「これ、スイニーの粉?」


「おう、持って行けるなら全部持って行ってくれ。わいらもたまにしか使わないから、そろそろ新しく作りたいと思ったところだ」


 スイニーの粉が入っている袋をクンムが叩いた。床に落ちている灰色の粉をつまんでみたがセメントであるように思えた。



「スイニーの粉は水と砂と混ぜたり、それか小石を入れて使うときもある。そういう使い方でいいのか?」


「……アキラは本当に人族か? なぜわいらドワーフの秘法を知っているんだ?」



 よし。セメントさえ手に入れば混合比などは持って帰ってから調整すればいい。元の世界のセメントと似ているとは言え、まったく同じものと確定できたわけではない。獣人さんたちが現場の工事を担当するわけだから、モルタルなど色々と使い方を試しながら獣人さんたちが使えるようにしないとね。



「全部をもらっていいの?」


「それはいいだが入るのか?」


 倉庫内にあるスイニーの粉を見回すようにクンムは首を回していた。彼が言わんとすることはわかる、普通の魔法の袋なら十数個はいるだろう。でも、異世界から来た力をとくとご覧あれ。


 アイテムボックスを呼び出し、メニューの収納アイコンを押す。見る見るうちに倉庫からスイニーの粉が入っている袋が無くなっていく。



「なにもんだおめえさんは?」


「観光好きの旅人だよ」


 目を丸くしたドワーフさんは愛嬌があってかわいいものだ。そんなことを思いつつ、空になった倉庫の中でおれとクンムの声が響いていた。




 村の中に戻るとクンムは鍛冶工房の隣にある大きな倉庫へ連れて行ってくれた。そこには槍や剣などの武器、鎧や盾の防具がきれいに並べられている。



「持ってけ、ケモノビトに使ってもらえ」


「ああ、ありがたい。これらの報酬は――」


「いらんわい、武器防具の材料なぞ山を掘ればいくらでもある。ラクータに住むケモノビトにアルス様のご恩愛あれ、わいらにできることはこのくらいだ」


「あ、ありがとう。」



 面倒そうに手を振るドワーフにおれは心を打たれた。知り合って間もないだがここのドワーフたちは人情に厚く、遠く離れているラクータの界隈に住む獣人さんたちの手助けしてくれる。味方が少ない中でこういうのは本当に嬉しい。



「クンム!」


「なんだ?」


 右手の手のひらを髭面の妖精に向ける。クンムはびっくりした顔をしているがかまうものか、いいやつとは友達になりたいんだ。元の世界ではボッチと言っていいほどのおれは、この世界で数えきれないくらいの友達を作ってやる。



「友の証だ、握手しよう」


「ははは、変な人族だな。いいぞ、友になろう」


 熱く握り合う手は友誼を固く結ぶ。握ったクンムの右手を引き、左手のその体を抱き寄せる。知らないうちにおれも外人さんみたいなコミュニケーションの取り方をするようになった。でもいいんだ、ここじゃおれはガイジンだから。




 回復薬と癒しの水を渡してから酒場でドワーフたちと盛大に飲み交わし合った。あびるほど酒を飲まされて、酔いつぶれてしまったおれを客が来たことのない宿屋で泊まらせてくれた。目覚めてから宿屋の女将さんは豪快な肉スープを用意してくれたが、スーププレートの中に骨付きの三つ角のシカの太もも肉がどーんと乗っているんだぜ? これをどうしろというんだ。



 宿代はタダだった。なんでもおれが第一号のお客であるらしく、まっさらな宿帳に名前を記入したら女将さんは感激して、宿帳に記されているおれの名前をずっと見つめていた。クンムから聞いた話で彼女は先祖から宿屋を受け継いでいるらしいが、だれかが宿に泊まることは先祖代々からの悲願であったみたい。こんな悲願なんて初めて聞くよ。


 ガッチリ体系ではあるがドワーフの女性に髭はない。美人とは言えない女将さんからの熱い抱擁は、あっちこっちの骨が軋んでてとても痛かった。




 いつかの再会を約束し、ドワーフの隠れ村にある広場でドワーフさんたちは見送ってくれた。ローインタクシーはエルフさんたちの守り神だから大丈夫だろうと思った自分の甘さに、ドワーフさんたちの土下座を見ることとなる。



「はっはー、ローイン様!」


 ドワーフさんたちは全員が風鷹の精霊(ローイン)を拝んでいるね。ローインを見上げるとやつはおれを見下ろしていた。



『遅いでござる! あにめなる物語の続きが気になるでござる!』


 そんなことで怒られてもな、それよりドワーフさんたちをどうにかしてくれないかな。



「はっはー、ローイン様!」


『ツチ人でござるな、元気でござるか? 頑張れでござるよ』


 おざなりだなおい。こんなに慕ってくれているから、もっとほかになにかあるんだろう。



『行くでござる、あにめなる物語を見るでござる!』


「お、おい――」



 急ぐ風鷹の精霊(アホ)は風と化して、おれを包み込んでから空へ高く舞い上がった。


ありがとうございました。

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