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第134話 竜はアニメに魅せられて

 アルス神教における第九順位のゼノスの巫女であるイ・オルガウド様は、マッシャーリア村で作る砦の中と獣人さんの楽土に作られる予定の教会にこころよく協力してくれることになった。


 その下見へ女騎士であるイ・プルッティリアにおれと同行することを申し付けやがりましたんだ。



「ええ……」


「不満そうだなお前。巫女様のお気持ちをないがしろにする気か!」



 いやまあ、なんか女騎士は怒っているけどさ。おれはネコミミ巫女元婆さんの協力を喜んでいるよ? 気落ちしたのはお前がついて来るってことだよ。わからんのかね、このヒンヌーはよ。



「ヒンヌー? ヒンヌーとはなんのことだ?」


「あ、いや。それはなんでもないんだ。それよりほら、イ・プルッティリアも教会の巡邏、部下の教育に巫女様の護衛とご多忙だろう? ここはぜひ別人――」


「心配はご無用、お前の話を聞けば大望があると見た。その話を巫女様のかわりに私がつとめあげようじゃないか」


「……」



 なんかこのやり取りって記憶があるというか、やたらと既視感(デジャブ)があるのよなあ……


 あ、銀龍メリジーだ。


 爺さんにあいつを押し付けられたときもこんな状態だったよな。



「イ・プルッティリア、よく聞くのじゃ。そなたは入教して以来ずっとわらわが色々と教えてきたのじゃが、そろそろ自分の目と耳で世界を見てくるべきなのじゃ。今回のことで獣人族の苦境に手を貸し与えて、アルス様の教えに基づいてしかと全ての愛し子を救うのじゃ。良いな?」


「はっ。このイ・プルッティリアは必ず巫女様の御期待に沿えるようにお応えしたいと思います。全てはアルス様にご感謝を!」


「良い子になったのじゃ。全てはアルス様にご感謝を」



 ……一緒だよおい。なんだか再演したというかな、なんで筋書きまで同じなんだよ。おれはあれか? 教育係ってやつかおい。でも、おれもニールでしっかりと学ぶことはできた。こういう時はな、変に断るとあさっての方向に事態が発展してしまうものだ。ここはことの流れを見守ろう。



「イ・プルッティリア、お前の任を今日もって解くのじゃ。ちょこれーとについて行き、教会の予定地の視察並びにアルス様の愛し子である城塞都市ラクータの獣人族の手助けをしてくるがいいのじゃ」


「はっ! イ・オルガウド様のお言葉通り、四六時中ちょこれーと殿についてまいります」


「待て、その解釈はおかしい。四六時中について来るな、はっきり言って邪魔でしようがない」


「……」



 わお、女騎士がすごい目で睨んできたぞ。でも引かないよ? もうね、ニールだけで大変なんだよおれは。これ以上トラブルメーカーはごめん被る! 引かないったら引かない!




 最終決着として、交易都市ゼノスから獣人さんたちをマッシャーリア村へ連れて行くときからイ・プルッティリアがおれに同行することになった。なにやらブツブツと文句を言ってるのだが知るか、おれはおれでやるべきことがあるんだよ。面倒を見てやるのは獣人さんたちの護送でゼノスを出発してからだ。




 空一面の朝焼けの中、交易都市ゼノスの街で人たちが朝の挨拶を交わし合って、忙しくなる陽の日を迎えようとしている。


 街の外れに人がいない路地裏へ入ったおれは周りの様子を気にしながらローインタクシーを呼ぶことにした。



「さあ、来い! ローインタクシーっ!」


『へい、毎度ありでござる』


 もはや慣例となっているこのやり取りに風鷹の精霊(ローイン)は片方の翼を上げる仕草さえ見せてくれる。



「今回は長旅となる。目的地はアルス連山の西側にある森だ」


『それはいいでござるが、そうなると霊力の消費が――』


「はいはい、燃費悪いもんね。距離に応じて献上品を出すから」


『へい、毎度ありでござる』


 風鷹の精霊(アホとり)は交渉するようになってきたんだよ。そりゃタクシーというのは距離で賃金が変わるとおれも思うけど、霊力の消費ってなんだよ。あんたら精霊はどこでも魔力を取り込めるじゃなかったのかよ。



「人目があるから最初は低空飛行で、後は高空飛行に切り替えてから最高速度で頼む」


『それはいいでござるが、飛空の高さが変わると霊力の消費が――』


「ちゃんとチョコレートを出すから、ごちゃごちゃ言うなや」


『へい、毎度ありでござる』


 この精霊たちをどうしてくれようか。もうね、こいつらのおかげで異世界に来てからファンタジーに持っていた幻想が崩れていく一方だよ。本当にもう。




 ドワーフが住む村までは距離がかなりあるのでスマホで見飽きているアニメを見ながらタクシーに運ばれることにした。



『アキラ殿、いま見ておるのはなにでござるか?』


「ん? これ? おれの故郷でアニメというものだよ。目で見る物語と言えばいいのかな?」


『そうでござるか、中々面白いものでござるな』


「そだね、おれは見飽きたけどね」



 風鷹の精霊(ローイン)は風となっても視覚はあるみたいだ。とは言え、アニメの言語はわからないと思うので聞かれたことだけ答えた。



 ……この回は確かに戦闘だけだったな、最初は好きだったけど何度も見てるからもう飽きた。ほかアニメにしようかな。



『ちょ、ちょっとアキラ殿、なぜあにめなる物語がいきなり変わったのでござるか! 気になるでござるよ!』


「……」


 見てたのか、風鷹の精霊(ローイン)は。運転中は余所見をしないほうがいいと思うけどな。でもおれは全てのアニメを暗記できるくらいは見たから、ここはサービスしてやるか。



「はいよ、ここからが続きね」


『かたじけないでござる。言葉はわからぬがこれは面白いでござるよ』


 この世界に動画なんてあるはずもなく、風鷹の精霊(ローイン)と言えど、こういうのは目にかかることはあり得ない。次は戦闘パートがメインなので、見応えはあると思うんだ。




『違うでござるよ! こういう時は――』



 あるえ? おれなんか大空で落下中なんですけどなぜに? 怖ええええっ! 助けて、だれかタスケテええ! 目から涙が、ナミダがあああ!



『すまぬでござる! つい気を取られたでござるよ。ははは』


「はははじゃねえよ気を付けろやこらあっ! 飛空術なんかないわおれ。あったらお前みたいなアホに頼むか!」


『アホとはひどいでござるよ。それはいいとしてはよう先の続きを見せてくれでござる』


「見せるかドアホが! 運転に集中しろやあ!」


『はああ、霊力が落ちたでござるよ』


「わかった、わかったからスピードを落とすな!」



 ふわりと拾いあげられた感じで落下は止まったが、どうやら風鷹の精霊(このアホ)はアニメに気を取られて元の姿に戻ったらしい。アニメの観賞を中止してやろうと思ったら速度を落としやがる。マジでムカつくですけど、移動に関してはなんもできない自分が腹立たしい。



『しかし先のはないでござるよ』


「なにが!」


『風の魔法を飛ばすならこうすべきでござ――』



 解説をしようとした精霊(アホ)がまた鷹の姿になったんだ。おれはって? もちろん涙目で落ちている最中だよ。落下傘(パラシュート)ってのはアルスのどこかで売ってないのかな、チクショー。




 はい、ドラゴンさんに囲まれていますね。その数は百を超えているし、どいつもこいつもドラゴンブレスを放とうとしているね。



『人! なぜこんなところにいるんだ! ここが神山と知ってのことか!』



 オス型の竜人(ドラゴニュート)がドラゴンに騎乗してかなり怒っていますね。


 こうなったのも風鷹の精霊(このアホ)がアニメの観賞に集中し過ぎて、そのままアルス連山を飛び越えようとしたからだ。



『むむ。この声は白龍(ホワイトドラゴン)メガテルスでござるか?』


『おお、気配は感じていたがやはり風の精霊(ローイン)殿だな』



 風鷹の精霊(ローイン)はゆったりとした速さでおれを山頂に降ろしてから姿を現した。


 白龍(ホワイトドラゴン)メガテルスと呼ばれる偉丈夫の竜人(ドラゴニュート)もドラゴンから降りて、こっちに近付いてきた。



風の精霊(ローイン)殿とは言え、神山越えは親父殿に言ってからにして頂かないと困るではないか』


『すまぬでござる。アキラ殿を運んでいたがあにめなる物語を見ていたゆえ気が付かなかったでござるよ。ははは』


『アキラ殿? おお、お前が親父殿の言った異界からきた祝福を受けた者か。どうだ、メリジーのじゃじゃ馬は元気か?』


「はい、アキラですよ。ニール……いや、メリジーは元気過ぎるで困っているよ」



 メガテルスはおれの肩を叩いて挨拶してきた。そんなに痛くなかったのでちゃんと手加減はしてくれたと思う。



『それでそのあにめなる物語はなんだ? 一応あとで親父殿に報告をしないといけないのでな』


『ほれ、はようメガテルスに見せてやってくれでござるよ。拙者も見たいでござるぞ』


 アホがおれに指図するんじゃねえよ、こうなったのも全部お前のせいじゃねえか。



 溜息をついたおれは白龍(ホワイトドラゴン)にアニメを見せることにした。これで説明がつくといいのだがな。




 なにこれ? 百を超えるドラゴンがおれの後ろでメガテルスと一緒にアニメを見てますね。ドラゴンの首がわらわらと集まっているからはっきり言って気持ち悪い。しかもちょうど勇者にドラゴンが討伐されてしまう回だから、なんか後ろでドラゴンブレスが口からもれて熱いんだけど。



『そんなわけないぞ! 人ごときの剣が我らの鱗を切り裂くはずがない! 人ごときの魔法が我らの魔法防御を通せるわけがないんだ!』


 あのねえ、アニメなんだから。メガテルスも見入って本気になるんじゃありません。



 これ以上見せてしまうと本気のファイアーブレスやらサンダーブレスが襲いかかりそうなので観賞会の上演はここまで。



『ええー? なぜ物語がとまったんだ。続きはどうした!』


「ない。忙しいのでそろそろ行かせてもらうんで」


『そ、そうか……残念だがぜひまた来てくれ。親父殿の祝福があるアキラ殿は我らの友だ。ぜひ来てあにめなる物語を見せてくれ』


「そだね、暇があるときに考えておくよ」



 ローインに手招きをすると風がおれを包み込み、青空へ飛び上がった。


 それはいいだがなぜメガテルスたちが後について来るんだ?



『そこまで送ろうではないか。だからあにめなる物語を見せてくれ』


「……」



 猿団子ならずドラゴン団子がおれの後ろにいる。これ、ファンタジーというべきかな? 違うよな。




『早く拙者を呼ぶといいでござる。あにめなる物語の続きが気になって仕方ないでござるから』


「へいへい。用事を済ませたら呼ぶから待ってろ」



 途中でアニメに未練たっぷりのメガテルスとドラゴン団子を追い返して、風鷹の精霊(ローイン)にアニメを見せながらドワーフが住むアルス連山の麓にある森へついた。



 精神的に疲れ切ったおれはテントを張って一眠りして、精神力を全回復させてからドワーフの村へ向かうつもり。


ありがとうございました。

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