表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
156/230

第133話 教会と言っても方針はある

 この世界の夜明けはまさしくファンタジー。うっすらと明るくなっている空に星々が輝きを失わずにまたたいていて、三つの月はその光を大地に降り注いでいる。ところで検証は出来ないが青い月は衛星じゃなくて水の惑星? それとも氷の惑星かな。こっちの世界は宇宙へ飛び出す手段がないからあくまで想像しかできないがひょっとしてそこにも人が住んでいて、そこからこのアルスの星を見ているかもしれない。



 そう思うとなぜか自分のことが微笑ましく思えてくる。この世界は宇宙についての概念はどうなっているかは知らないが、青い星に人が住んでいることを科学的に考えているのはおれだけかもしれない。



 かぐや姫みたいな存在がいてもいいじゃないかな。こうなったら獣人さんたちが落ち着いたらおれは童話詩人にでもなろうか、旅を続けながら掲げる星々や三つの月の伝説を元の世界の知識や伝承を使ってでっちあげよう。そうなるとノートを使って設定集とか書かなくちゃいけないね。



 旅先で出会う子供たちが信じそうで面白い、それを考えると楽しくなってきた。そうだ、確かに世界を回った時に学校みたいのがあって、本屋が沢山ある学問都市みたいのがあった。獣人さんのことが落ち着いたらそこへ行くのもありかもしれないね。


 なんせ、この世は広くて果てしない。おれが行きたいと思う場所はいっぱいある。



 マダム・マイクリフテルとの会談は無事に済んで、ワスプールは商会に寄ってほしいと言ったし、ペンドルはおれから年代物の果実酒をふんだくった。マダム・マイクリフテルの手土産に年代物の酒とラスボスの手料理を渡したら侍女さんたちからも嬌声があがった。


 まあ、喜んでもらえるならそれでいいけどね。



 朝日が昇るまでもう少し時間はあるので、これからネコミミ巫女元婆さんと会うのはありかもしれない。今なら教会に来ている人も少なさそうだし、巫女様が起きていたらお話をしてみようか。




「遅い! お前はすぐに来ると言ったではないか!」


「え? そんなことは一言も言った覚えがないんだけど」


 教会の近くで女騎士が一人で突っ立てて、おれに人差し指を向けてから怒声を浴びせてきた。



「お前は巫女様にお会いしたいと言ったではないか、巫女様は寝ずにずっと待っておられるのだぞ!」


「うん、会いたいと思ったからきみに伝言をしたのよね。そうしたらきみは会いたいときは訪ねて来てくれって、そう言ったじゃないか」


「……」


「……」


 顔が真っ赤な女騎士さんは人差し指を指したまま動けなくなっている。おっちょこちょいなのかこの子は、それはくっコロにいらない属性と思うがどうだろう。



「と、とにかくだ、巫女様がお待ちであられる。今すぐに来い」


「もしかして、ずっと待っていたわけ? バカみたいに?」


「……」


「わかった、わかったから今すぐに行こう。危ないから一々剣を抜くな」


 指摘された女騎士はプルプルと身体を震わせて、右手は背中に背負っているロングソードの柄に握っているからおれも慌てて止めた。いるのよな、こういう危ない子は。できればお付き合いがなくそれぞれの幸せを求めてほしいものだ。おれはヒンヌー(ペッタンコ)に興味ないし。




「久しゅうなのじゃ、ちょこれーと」



 こういう場合はチョコレートを出したほうがいいかな? 見た目はロリのじゃだし、うん、そうしよう。



「はい、どうぞ」


「これはなんなのじゃ?」


「これが女神様もご愛用のチョコレートなる神への供え物だ。食べてみて」


「それはありがたいのじゃ。どれ……」


 ネコミミ巫女元婆さんがチョコレートを口に入れてからもごもごと口を動かす以外にすべての動きを失ってしまっているよ。



「お、お前はなにを巫女様に渡された! こういう時は私が先に毒見する必要があるというのに!」


「そう? じゃあ、どうぞ」


「これが毒ならお前のことをたたっ斬るからな。どれ……」


 この子はアホかな、毒見役を兼ねているなら先に食べろよ。今から食べてもただ被害が拡大するだけでなんも役に立たないじゃないか。でも、この女騎士ももごもごと口を動かす以外にすべての動きを失ってしまっているね。



「お久しぶり、カガルティア。元気だった?」


「久しいですな。お前さんも元気そうで何よりです」


 暇なのでフクロウの精霊さんとご挨拶してお話でもしようか。そう思っているときに両肩に手が乗ってきた。後ろへ振り向くと巫女様も配下の女騎士も同じ表情をしているので、おれはチョコレートを袋ごと渡した。だって、二人ともものすごく物欲しそうにしているだもん。




「そっかあ。じゃあ、ゼノテンスの大森林を通る時に気を付けないといけないのはオークだけだね」


「そうですね。コボルトは集団で襲うことがありますが、あいつらは警戒心が強いから自分たちより強い者には避ける傾向が多いですね」


「いい情報をありがとう、これなら行商団を組んだ方がいいな」


 おれが水の精霊カガルティアとお話をしている間に、巫女様とその配下の女騎士は5袋のチョコレートを完食していた。



「ちょこれーと。このチョコレートなるものは女神様ご愛用であると確認したじゃ。そこでじゃ、毎日欠かさず奉納するためにじゃな、とりあえずは100袋ほど置いていくことを勧めたいのじゃ」


「さすがは巫女様です。その意見にアルス様もお喜びになられましょう」


「置いて行かないからあきらめろ」


「ガーーーン!」



 さすがは精霊王(ようじょ)に仕えるアルス教の関係者だ、擬音を口で出すな。それと口の周りを拭け、チョコレートがいっぱいついている。知らん人が見たら変な勘違いをする。


 それと、ここ大事なんだけど。チョコレートをここに置いてみろ、ゼノスの教会は毎日が女神降臨だ。そんなのおれは絶対に嫌だからな、女神降臨バーゲンなんてのはお手伝いしません。




「ちょこれーとはどう言った用件でわらわに会いたのじゃ?」


「城塞都市ラクータの人族が獣人族に圧政を敷いているのは知っているかな?」


 イ・オルガウド巫女は顔を曇らせて、両手を合わせてからお祈りをするような姿で顔を教会の礼拝室であるここの天井を見上げている。



「わらわはラクータの教会に何度もラクータの人族に諭すように文を出しているのじゃ。ラクータの巫女であるイ・メルザイスからはそうするとの返信をもらっておるのじゃが、最近は文を出しても返さないのじゃ」


「わがアルス神教はそれぞれの教会がその地方に合わせた方針で伝教している。ラクータの教会の大神官であられるイ・ムスティガル様は教会では珍しく地方からの昇任や選出ではなく、総本山から派遣された地位の高いお方だ。ほかの教会から口を出されることに嫌がる節があってな、今回の女神祭もラクータの教会のほうからだれも来ることはなかった」


「なるほどね……」


 ネコミミ巫女元婆さんの情報に女騎士からの追加でちょっと考え直す必要を感じたおれは、まずは城塞都市ラクータの不正義をアルス神教で唱えてもらう可能性について確かめることにする。



「なあ、巫女様。もし、巫女様のほうで城塞都市ラクータの政策は教義に反する可能性ということを言ってもらうことはできそうか? ほら、アルス様にとって、全ての種族は愛し子って言うじゃん」


「難しいのじゃ。そういうことをわらわが言うとラクータの教会のイ・ムスティガル大神官は異議を唱えるのじゃろうな。そうすると総本山のほうで教義に対する神前論議が開かれると思うのじゃ。イ・ムスティガル大神官はな、現在の総大神官であられるイ・クズクバカエム様の懐刀と言われておるのじゃ。わらわだけではのう……」


「え? アルス神教の一番偉いさんって、クズでバカなの?」


「お前、そういうことを思ってもアルス神教のしもべである我らの前に口を出すな」


 悲痛な表情を浮かべるネコミミ巫女の横で女騎士は口こそ叱っているように聞こえるけど、その態度はおれの質問を肯定しているしか思えない。だって、彼女はいつものように剣を抜こうとしていないもんね。



 しかしそれはちょっと困ったな。アルス神教で押してやろうと思ったのに、使えない手となりそうだ。でも、あきらめる前に城塞都市ラクータでアルス神教がどういう状況にあるかということを聞いてみてもいいかな。




「なあ、ラクータの教会って、人族至上主義である現状を知っているの?」



 おれの問いにネコミミ巫女と女騎士が互いの顔を見てから、女騎士が答えてくれるように口を開いた。



「先も言ったように教会は地方に合わせた方針で伝教するというのがわがアルス神教の布教規則に則ったやり方だ。それぞれの地方にはそれぞれの特性があるゆえにな」


「ふむ、それはいいじゃないかな」


「イ・ムスティガル様はな、人族こそがアルス様の教えをもっとも理解し、アルス様のご恩愛を受けて、全ての種族を導けると思っておられるようなお方だ。巫女様も何度も面会を申し込んでおられたが、獣人の巫女ではアルス神教の教えを人を誤った道へしか導かないと面会をお断りしておられた」


「うん。さすがはクズでバカの手下だな、ロクなやつじゃないってことはよくわかったよ」


「ちょこれーと殿、いくら貴殿が巫女様と親しくしていると言っても、わがアルス神教の大神官様の悪口は許しませんよ」


「いや、そうは言ってもアホはアホだからしょうがないじゃん」



 それに女騎士よ、あんたなんかニコニコして楽しそうですね。



 おかげで城塞都市ラクータで調べることが増えたね。その大神官とやらも人族至上主義というならアルス神教を使うことはできない。でもよく考えたらおかしいのよな。おれは本当の女神様である精霊王(ティターニア)様と名目上の女神である風の精霊(エデジー)様ともお友達で、本来なら風の精霊(エデジー)様に来てもらったら問題は解決するはず。



 でもねえ、そういう手は使えないんだよ。そうするとお前はだれだってことになったら、おれはいったい何者になるだろうね。悪いがアルス神教という人々が作り上げた虚像に付き合う気はないし、アルス神教の関係者になる気なんてさらさらない。そんなことしたら一生観光なんてできなくなるよ。



 まあ、ネコミミ巫女元婆さんに宣言してもらうのはあきらめよう、無理してアルス神教を巻き込むことはない。万が一、城塞都市ラクータの人族に正義ありなんてことになれば、この世界の獣人族たちにも影響を与えかねないから。



 それならネコミミ巫女元婆さんに別のことを頼もうか。獣人さんたちの楽土にも教会が必要、ラクータの教会が人族側よりならこっちに口を挟む前にサッサと手を打ってしまおう。



「なあ、巫女様。それなら別のことをお願いしてもいいかな」


「なんなのじゃ。わらわにできることならなんなりと言ってくれていいのじゃ」



 朝が来るまでもう少しかかりそうだし、獣人さんたちの未来を語り合いましょうか。


ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ