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第131話 都市の長はクォーターさん

 アラクネの里とアラリアの湖畔、それにエルフの集落で商品を仕入れしてくることができた。いく前にローインタクシーを使って、ゼノスで色々と交換用の商品を買ったため、持ち金の金貨もだいぶ減ってしまった。


 商品はあるので会談が終わったら、ワスプール商会で金貨を仕入れしてくるつもり。なんだかね、物々交換ばかりしているので、貨幣に対する概念がおれの中で変わってきたよな。



 ペンドルに連れられてきたここは、都市ゼノスの大通りから入り組んだ場所に入り口は目立たないものの、中に入ると雰囲気がとても素敵で、ゴージャスという言葉がよく似合う高級レストラン。


 一般の方々はご遠慮くださいと言わんばかり。


 出迎えてくれた女性のウェートレスさんは、武芸の達人であろうのその足さばきに、おれはスカートの中身を覗きたくなり、頭をさげてみたがペンドル氏から優しく頭を叩かれたよ。


 えー、だって、こういう場合は太腿にナイフが仕込まれているのが定石ってもんだよ。


 万が一ここで都市の長に暗殺とか起きるとやばいじゃん。おれはね、万全を期すためにやっているんだよ? わからないかなあ。まあ、わからんだろうね。



 ペンドル氏の視線が険しくなったので、悪ふざけはやめにしようとキリっと身を引き締めた。



 案内された大きくない別室ですでにワスプールが待っていて、そこへおれとペンドルが仲に入っていく。


 ところでペンドル氏、案内役も終わったので帰っていいんだよ?



「なに? ぼくの顔に変なものがついてるの? それにしてもアキラのおっちゃんは一張羅を着込んでないね。どっちかいうと着せられているって感じだよ」


「……褒めてくれてありがとうよ。ペンドルはなんで当たり前のように座っているかな」


「ええ? 美味しい料理とお酒にありつけるんだよ? 追い返すのはひどいじゃないかな。ねえ、ワスプールさん」


「はは。新しく就任されたゼノスの大親分であるペンドルさんにぜひご同席して頂きたいものですな」


「って、ワスプールさんは言ってくれているけど、それでもここにいちゃダメかなあ、アキラのおっちゃん」



 可愛く装っているけどだまされるなワスプール! あいつはおれたちより年が上のじいさんだぞ。


 それにペンドルがここにいてくれたほうがいい気もする。


 会談の結果はどうなるかは知らないけど、うまく行ったらこれから都市ゼノスに新たな物流ルートが築かれ、今までにない物資がここに来るわけだから、ペンドルにとってもきっと他人事じゃないはずだ。



「アキラも人が悪い、商会にきたなら声をかけてほしかったよ」


「いやいや、交易都市ゼノスの物流を担う商人ギルドの副ギルド長を大した用事もなく呼び出せないよ」


「うまくまない冗談を言わないでほしい」


「ははは」




 別室の扉が開き、黒いローブを羽織った怪しい人が侍女さん三人を従えて、部屋の中に入ってきた。


 侍女さんたちは口を閉ざしているが、この人たちは(ツイン)白豹(ホワイトパンサー)に勝り、ニモテアウズのじっちゃんに劣らない達人であることはすぐにわかった。それなら、黒いローブを羽織った人はさしずめ都市の長ということだな。



 一人の侍女さんが黒いローブを脱がされたローブを受け取った。その人物はおれよりちょっと年上で、たぶんラメイベス夫人と同年代だろうね。


 今まで見てきた女性でこの人は美人じゃないほうと思う。だが、美人であるかどうかなんてどうでもよくなるくらい、この女性には気品と知性が備えているように見えた。



 働いていた頃、たまに会議で大手の社長にプレゼンを行うことがあったけど、どういえばいいかな。鋭いというべきか、言葉数は多くないが説明する内容の矛盾とか盲点とか、一言だけで看破してくるんだ。


 仕事の本質を熟知しているから、技術的なことではごまかしきれない。


 目の前にいる銀髪とわずかな銀色を湛えている瞳を持つこの女性は、そういう人たちと同類であることはすぐにわかった。


 ん? 銀髪と銀色の瞳はつい最近に見かけた気がするが、この女性って……



「あら、わたくしは獣人の血が混じっていることをご存知のようね。そうよ、わたくしのおばあ様は狐人族だったわ」


「失礼しました。先日ワスプールさんの奥方とお会いしたばかりなので、それで思わず見とれてしまいました」


「それは光栄だわ、ワスプールの奥方はこのゼノスでもその美しさで知られているのよ」


「同感です。それにしても交易都市ゼノスに美女が多くてついつい寄りたくなりますね。やはり都市の長がとても素敵だから女性たちがそういう意識を持つのでしょうね」


「あら、お上手ですわね。でも、今回はわたくしを褒めたいためにお話があったわけじゃないでしょう」


「思った感想を述べたまでですよ。お酒をたしなむならいいものがありますが、いかがでしょうか」



 都市の長は席に座り、三人の侍女さんがその後ろに典雅なたたずまいで立っている。できれば侍女さんたちのも着席を勧めて、みんなでワイワイしながら食事を取りたいと思うが、彼女にも自分の仕事があるからここは口を出すことはない。




「わたくしは交易都市ゼノスで長を務めるマイクリフテルです。わたくしは独身ですが、よく周りの人からマイクリフテル夫人という名で呼ばれるの。ですから、そう呼んでもらってもかまいませんわ」


「そうですか、おれの名はアキラです。ところでさしつかえなければマダム・マイクリフテルとお呼びしてもよろしいでしょうか?」


「マダム?」



 どうやらこのマダムという言葉の概念はないようだね。でも、なんだか洒落ているから使いたいのよね。そう言えばおれがメーロミンスのことをマダムで呼んだときも、彼女はちょっと眉間を寄せる顔を見せたね。きっと意味がわからなかったのでしょう。



「おれの故郷で地位の高い女性を敬称するときに使う言葉ですよ」


「マダム・マイクリフテルねえ……そうね、実は夫人をつけられた時は少々抵抗を感じていたの。これからはマダム・マイクリフテルで呼ばせようかしら。ええ、いいわ、マダム・マイクリフテルと呼んでちょうだい」


「ありがとうございます、マダム・マイクリフテル」


 マダムというのは既婚女性の敬称で、年長の女性を呼ぶときにも使ったりするのだけど、それは省略していいでしょう。こういう定義なしの言葉について、使ったおれが意味を決めてもいいもんね。



 運ばれてくる料理はどれも手の込んだものばかりで、食事というよりは酒のアテというほうがいいでしょう。


 おれが出した年代物のエルフの果実酒をワスプールは味わうようにして飲んでいて、ペンドルは遠慮なくお代わりしてやがるし、マイクリフテルは舌の上で転がすように嗜んでいる。


 後ろの侍女さんたちは唾を飲み込む音を出しているけど心配はするな。あとで手土産としてマダム・マイクリフテルに渡すからね、家に帰ってから美味しいお酒を楽しんで下さい。




「ペンドルちゃん、大親分の就任おめでとう。ペンドルちゃんが大親分ならわたくしも安心できるのよ」


「なにを言っちゃってるの、都市の長が無法者のことで喜ぶなよ」


「いいえ。この頃は気が荒い無法者たちが多くなって、市民からも不満の声が上がってきているの。その点、ペンドルちゃんならきっちりしてくれるからわたくしも対応に困らなくて済むわ」


「はいはい、ぼくたちはおこぼれを頂く野良犬さ。吠え過ぎないようにするから心配しないでね」



 仲良さそうにお話をするマダム・マイクリフテルとペンドルちゃん。このまま放っておいたら止まりそうにないので、ちょっとおれの話を聞いてもらうためにもワスプールを使ってみましょう。



「ワスプール」


「な、なにかな、アキラ」


 酒杯を置いたワスプールにおれはわざと困った顔をしてから、お願いするように猫なで声で話しかけた。


 うん、気持ち悪そうな顔をしているねワスプール。芝居に乗ってくれやアホ。そこの妖精の小人を見習え!



「きみの商会へ行ったけどさ、奥様から商品の入荷を頼まれたからおれも仕入れに言ったのよね。買ってきたのはいいけどお金が無くなったから金策を頼まれてくれないかな?」


「ああ、いいけど。なにを売ってくれるのか?」


 マダム・マイクリフテルの視線がさりげなくこっちに向いていることは承知で、大袈裟な動作で5個の真珠とアラクネの服3着を取り出してから食卓の上に置く。



()()()()()()()を200個ほど売って。あとはアラクネの服を全部」


「……」


 ひゃははは、全員が黙り込みましたよ。もうね、マキリたちにお願いして500個の真珠を採ってきてもらったんだ。おかげで牛肉入り野菜炒めも作らされたが、それこそお安いご用。



「アキラさん。ワスプールとペンドルちゃんからお話はうかがったけど、魔力付きの真珠という貴重なものを持っているのは貴方ね」


「はい、そうですよ。今のところはおれしか手にすることができないけど、近い内に獣人の商会でも仕入れが可能となるので貴重ではあるが今までのように手に入らないということはないですね」


「それをこのゼノスで独占的に販売することはできないかしら?」


「どうでしょうねえ。場合によっては城塞都市ラクータだけに売らなくちゃいけないかもしれませんよ」


「……」


「まあ、おれとしましてもぜひ交易都市であるこのゼノスにお売りしたいとは思いますが、城塞都市ラクータにとって、魔力を補給できる魔力付きの真珠は、騎士団用の物資としても扱ってもらえるかもしれませんから、高値が付きそうですよね」



 見る見るうちにお顔が険しくなるマダム・マイクリフテル。


 交渉は妥協点を見つけるのが難しいんだ。双方とも利益となる落としとを見つけるためにお願いするのじゃなくて、ちゃんと具体的な数値ないし方法を示してやらなくてはいけない。



 こういうのはね、胃が痛くなるから本当はやりたくないのだけど、獣人さんの楽土のために、おっさんは無い知恵でこの世界の政治家とやり合わないといけないんだ。


 政治家ってのはね、いい意味でも悪い意味でもリアリスト。


 実利を伴わないことには興味を向けないんだ。でも、ちゃんとカードを用意することができれば間違いなく話には乗ってくれると思ってる。



 これから始まる交渉のやり手を相手に、おれは獣人さんたちにとっての有利な条件を引き出さないといけない。しがないリーマンにできそうにない無茶な任務ではあるが、おれは頑張るからパワーをくれ。愛しき人(エティリア)よ。


ありがとうございました。

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