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第129話 女騎士はくっコロしない

「いらっしゃいませ! あら、お久しぶりです」


「あれ? おれのことを覚えてるの?」


「はい。アラクネの糸で作りました服を買ってくれましたお客様はそうそういませんからね。今日はどのような御用で?」


「そうだね。この前に買った服は喜んでもらえたからそれを10着と大人の女性の10着。それとおれのも見つくろってほしいんだ」


「はい、ありがとうございます。こちらへどうぞ」


「うん」



 これから都市の長に会うわけだから、それなりの恰好をしていかないと失礼に当たるよな。長い間に会社で勤めてきたおれにもその程度の常識はあるよ。今でも思い出すけど、真夏でスーツははっきり言ってただの拷問だ。よく頑張ったな、おれ。



 ラウネーの店で大枚をはたいた。精霊王(ようじょ)が10着で金貨6枚、風の精霊(メガミ)も10着で金貨10枚。おれ自身もそれなりの恰好にしないといけないので3着で金貨3枚に小物が金貨1枚。しめて金貨20枚が消えていきました。大金出しての買いものって、気持ちいいねえ。



「それにしてもこの店はアラクネの糸の素材なんてよくあったね」


 アラリアの森にアラクネが住んでいるからおれも手にすることができたが、ラウネーはどこから入手したものだろうね。



「はい、わたくしはゼノスの生まれではないのです。両親が冒険者だったもので子供の頃はよく色んなところへ連れて行ってくれました。この地方にはいないですけど、一時期別の都市の近くにある森にアラクネが大発生したことは今でも覚えています。」


「へえ」


「そのときに両親とその冒険者仲間がたくさんのアラクネの糸を得ることができましたのですが、わたくしの夢がお服屋さんって知ってくれましたので全部わたくしにくれました。いい服を作りなさいって」


「いい話じゃないか。でも、アラクネの糸で作った服ならもっと高値で売れるでしょう?」



 ラウネーはおれの質問を聞いてから、ほれぼれするような微笑みを見せてくれた。



「ええ、確かにそうです。ただ、わたくしの夢は色んな人に素敵な服を着てもらいたいのです。アラクネの糸はただで頂いたみたいなものですし、それならお手頃の価格で提供しようかなと。でも、もうだいぶなくなりましたので、そろそろ売り切れになってしまいそうですわ」


「ラウネーさんっ!」


 大音声を上げたおれにびっくりして、ちょっと引いてしまったラウネーに気にしない。こんな素晴らしい商売をする店主におれはぜひともご協力をさせてもらいたいと思い、アイテムボックスを操作してアラクネの糸をこの場に出す。それに目を張っているラウネーへおれは話を持ちかけた。



「今日のお代はこれと交換とういうわけにはいかないか?」


「……い、いいえ。それではお客様が損をしてしまいます。これだけの量なら、わたくしはたくさんのお服を作れますから」


「そうか、それならぜひ交換しよう。人はな、どこかで損をして違うところで得をするものだ。だからこれは受け取ってくれ。それにワスプール商会は知っているか?」


「は、はい。ゼノスなら誰もが知っている大きな商会ですから」



 ワスプールめ、水臭いじゃないか。なにがささやかな商会だ、親友をだますとはいただけないぜ。今度会うときに年代物のエルフの果実酒で吐くまで酔わせてやる。



「それなら話は早い。アラクネの糸がない時はワスプール商会に仕入れを頼んで。アキラからの紹介ということでお手頃な値段で販売してくれるはずだ。それを使ってラウネーさんは夢をかなえてほしい。このゼノスの女性がみな、アラクネの糸で作った服を着れるようにね」


「それはとても素敵な夢ですわ、ありがとうございます」


「気にしないでくれ」


「さし支えなければお名前を教えて頂けませんか?」


「あ、言ってなかったっけ。おれはアキラだ」


「アキラ様ですか、今後ともごひいきのほどよろしくお願いしますね」


 ははは、これで交易都市ゼノスは美しい女性でいっぱいだ。アラクネの里で作った服は高級品としてワスプールが販売するがお手頃な服はラウネーの店で購入できる。それらを仕入れてくるエティリアは大儲けでウハウハ。


 おれって、たまには頭が冴えるじゃないか! 顔は冴えないけどな。



 ラウネーに店の外まで見送られて、彼女にお別れの挨拶をした。都市ゼノスの長と会見するのはまだ早いのでちょっと時間を潰して来ないといけないね。




 ぶらぶら歩いているとゼノスの教会の近くまで来た。女神祭が終わっても各地から奇跡を見たい人たちは、今でもここゼノスの教会に押し寄せてくると未来のトンカツ屋さんから聞いていた。


 教会の中に入ると女神像に遭遇するから中に入ることは絶対にしない。なんでかって? あの精霊王(ようじょ)のことだ、絶対にまた奇跡を発動させやがるからな。ゼノスで用事を済ませていないおれはそんなことで退去したくありません。だからね、行かないったら行かない。



 あれ? 教会の曲がり角で女騎士が三人の部下を連れてなんか見回りしている。そうだね、ネコミミ巫女元婆さんにご挨拶する前に彼女から伝言してもらっちゃおうかな。



「よっ、久しぶり」


「お、お前は……」


 うん、美人の驚いた顔は美しいがこのお方は平ぺったい(ペッタンコ)のお胸様ですからね、興味がありません。



「隊長、どうされましたか?」


「……いや、なんでもない。お前たちは引き続き巡邏せよ。私はこの者に話がある」


「はっ!」


 三人の団員は興味深い視線をおれに向けてくるが心配するでないぞ。あんたたちの隊長に劣情を感じるどころか、色欲が萎えていく一方だからね。どちらかというと真ん中にいる立派なお胸様を持つ団員に興味が噴火する火山から流れ出す溶岩のように湧き上がって止まらないんだ。


 どうかな? 仕事の後に一杯なんてのは。いい酒を持ってるのよねおれ。



「次に団員へそのいやらしい目を向けてみろ、その首を切り落とすぞ」


「って、もう首に剣をかけているじゃないか」


 周りが少し騒然となっている今、女騎士(ペッタンコ)は剣を抜いて、おれの首筋に鋭い刀身を当てている。



「いいかなあ、いいのかなあ。巫女様がお怒りになられるじゃないかなあ」


「くっ、話せ! お前は――」


「ちがーう! 惜しい、実に惜しいけどセリフが違うんだよ。そこは、くっ、殺せ! だろ?」


「はああ?」


 もうイケズだよこの女騎士。ちゃんとお決まり(テンプレ)でしてくれないとダメじゃないか。って、それでいいか。ここでくっころなんてやってくれちゃったら、おれがオークになっちゃうじゃないか。



「いや、さすがてんぷらナイスの隊長さんというべきかな。いい判断だね」


「……我らは神に仕える神教騎士団(テンプルナイツ)だ。そのてんぷらないすはなにだかよく存じぬが、そこはかとなくバカにされた気がするのだが」


「いいんだよそれで。それよりあんたに話があるんだ、その前に剣は納めてくれないか」


「……よかろう。だが言っておくが、変な気を起こしたらたたっ斬るぞ」



 なんだこの危ない性格は。もうその剣は鞘がいらないじゃないのか? 気に食わなかったら斬ってばっかだな。でも女騎士よ、そなたは心配しなくてもいいぞ。あんたに変な気を起こすくらいなら、自分でお宝動画をスマホが壊れるまで自力で頑張るぞ。


 まあ、不壊属性がついているからスマホは壊れませんけどね。



「やはりすっごくバカにされた気がするのだがお前、変なことを考えていないだろうな」


「心配ないぞ女騎士よ。朕はそなたに起こせる変な気を持ち合わせておらぬのじゃ」


 あ、また剣の柄に手をかけたぞこいつ。ここは手で押さえてやろう。この女騎士をからかうのはとても面白くなってきたが、お遊びはすべきことをしてからにしようか。




 教会裏にある墓守の小屋でイ・プルッティリアと二人きり。だが心配ご無用ぞ。例えこいつが素っ裸で目の前にいてもおれはガウンを取り出し、優しく体にかけてから風邪を引くよって言葉をかけてあげる余裕があるんだよ。


 巨乳(オッパイ)大好きだからねオーレ。



「お前を見ているとその首を斬りたくてうずうずしてくるのはいったいなぜだ! 私は厳しい修行を積んできた者、むやみに剣を抜くことは禁じられているはずなのに……」


 あー、ごめんね。それは絶対におれの妄想アイビームのせいだよ。そろそお真面目にやらないといけないね、修行僧みたいな女騎士をからかうのはほどほどにしよう。ここはまた次の機会にということで。



「巫女様にお会いしたい、そう伝えてくれ」


「……その前に教えてくれ、お前はいったい何者だ」


 真剣な眼差しを向けてくる女騎士のイ・プルッティリアさん。こういう純粋な子をおちょくるのは確かに楽しいけど、真面目過ぎるゆえにおれが女神様と繋がっているなんて知れば大変なことになるんだよな。要するに融通が利かないんだ。



 ネコミミ巫女元婆さんは豊富な人生経験があるからオンオフというか、そういった面できちんと弁えることができる。だからおれも巫女様には風の精霊(メガミ)をお見せした上でおれのことを伝えた。



 だがこのイ・プルッティリアさんという子にはそれができないとおれは睨んでいる。下手したらおれと会う度に拝んでくるかもしれない。それは困る、非常に困るんだ。考えても見ろ、神教騎士団(テンプルナイツ)の隊長さんに毎回毎回礼儀正しく接されるおっさんは何者だと周囲から目を向けられて、その中に城塞都市ラクータの間者がいるのかもしれない。



 今の段階では心苦しいけど、この子には黙るほかに手はありません。



「悪い。前も言ったと思うが、時期がくればきっと巫女様はきみに教えてくれると思う。それまで我慢してくれ」


「……納得はできないがわかった。巫女様への伝言は預かった。巫女様に会いたいときは私を訪ねてくれ、教会の巡邏を毎日しているから」



 落胆しているイ・プルッティリアから目を背けたい。いつかはちゃんと教えるからね、でも教えたらすぐに逃げるからね。だって、こういう子に粘着されたら大変ですもの。自分の信念に真っ直ぐ生きるタイプは頭が固いのさ。


 おれはキョヌー(オッパイ)大好きだけどヒンヌー(ペッタンコ)に向く目と手は持っておりませんからね。




「やはりお前を斬りたくてしょうがないのはいったいなぜだ! それだけ教えてくれ!」


「ナハ、ナハハハ……気ノせいデございますヨ。ナハハハ……」



 こらこら、妄想がだだ漏れでそのうちに大変なことになっちゃいますよ。ちゃんと自重しましょうねオーレ。


ありがとうございました。

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