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第126話 髭面の危機さんとゼノスの大親分

「はんっ! 不景気な面を揃えやがってよ。この俺様に用事とはなんだ? 俺様は忙しいから早く済ませろよ」



 えーとね。前にクップッケのことでやり合ったヒャッハーさんがそのまま大人になりました髭面のヒャッハーさん。しかも頭にターバンを巻いていて、おれが子供の頃に樽を刺したら飛び出す人形のことを思い出させる。


 こ、こいつを刺してみたいよ。体を刺したら頭が飛び出すのかな? 試してみたい! お願いだ、一刺し金貨一枚でいいから試させてくれ!



 豊かな和みの女将はデュピラスたちを連れて髭面のヒャッハーさんの後ろに数人ヒャッハーさんたちのいた。デュピラス以外の美獣人さんたちはとても不安そうにしているけど、デュピラスだけはおれを信じて疑わない目で熱く見つめている。


 お別れしてから、彼女は元気にしてたかな? と言ってもそんなに時は過ぎていないのよね。



「ちゃんと人は連れてきているみたいだね、モンドゴス」


「当たり前だ。俺様が面倒を見ている娼館が困っているっていうからな、ここできっちりと話をつけてもらわんとケジメがつかんだろうが」



 ペンドルはモンドゴスという危機が一発さんと話し終えるとおれのほうに視線を向けてきた。そうだね、渡りをつけてもらったからこの先はおれのことになるもんね。そういうふうにお願いしたし。



「危機が一発さん、おれはアキラというもんだ。あんたというより豊かな和みの女将に話があるんだ」


「アキラ様。デュピラスちゃんはね――」


「てめえは黙ってろデブが! 俺様の許しもなしに話すな!」



 危機が一発さんが手をあげて豊かな和みの女将を殴ろうとした。豊かな和みの女将はびっくりして身が固まってしまい、そのままではグーのパンチを顔面で受けてしまう。まっ、その前におれは危機が一発さんの手首を掴んでいるけどね。危機が一発さんの子分たちも立ち上がったが、そいつらを気にすることもないだろう。



「なんだてめ――」


「おれはね、話し合いしにきたんだ。今度おれの目の前で女に手を上げてみろ、お前殺すぞ? これは脅しじゃないからな」


 口調こそ穏やかに話しているつもりだが、獣人たちを殺しまわった城塞都市ラクータの騎士団たちを思い出せばそれなりの殺意を放つことができるようになった。でもね、もしいつがまた手を出すのならこ本気で殺す。どうせここにいる者たちはそういうことなんて慣れているでしょうから。



「……」


「まあ、そういうわけで一つ穏やかで頼むよ。なんならお酒でも飲むか? いい酒があるから」


 面子というのはとても大事。らしい。こういう連中はナメられることを嫌うと思うので、たとえ危機が一発さんは少しだけ戸惑う表情を見せたとしても、ここはおれが下りるべきなんだね。さあ、はしごを用意してやったから後は自分で降りられるだろう。



「っち……今日はてめえらと仲良くおまんまを食いに来たじゃねえんだよ。とっとと話をつけて俺様は帰らせてもらうぜ」


「そいつは残念だ」



 周りから送って来る好奇心がいっぱいの視線に反応することもなくおれは椅子に座った。もうね、モフモフさんとエルフさんたちで視線というのは慣れている。慣れというのはときとして役に立つこともあるんだな。



「豊かな和みのデブから話は聞いた、てめえは獣人どもの身請けしたいだそうだな? いいだろう、ここに8人全員を連れて来てやったんだ、一人金貨500枚を支払ってもらおうか。そうそう、デュピラスというメス犬は俺様も愛用していたからな、そいつだけは金貨1000枚だ」


「モンドゴスさん、それはないじゃないかしら? 娼婦を身請けするのに一人金貨500枚なんて聞いたこともないわ」


「うるせえぞ、枯れた婆さんが口を出すんじゃねえよ。てめえはさっさと逝っちまい……」


 危機が一発さんはメーロミンスの言葉に面倒くさそうに返事したが、メーロミンスの顔を見てから疑うような表情を浮かべている。はっはん、こいつだな? どういう手を使ったは知らないがメーロミンスに毒を盛ったやつはこいつだ。



 でもそれはもうどうでもいい。だって、こいつはここで死ぬだもんな。デュピラスのことをメス犬だとか、愛用しただとか、どうやらここで危機が一発さんは身体を刺されまくってから髭面の首を飛び出させたいらしい。


 その願い、かなえてあげるよ。



 ククリナイフの柄に手をかけたとき、柄を握った手の上からペンドル氏が手を押さえつけてくる。顔をペンドル氏のほうに向けたりはしないけど、その少しだけ冷たく感じる小さな手でおれは落ち着くことができた。


 そうだよな、ここで暴走してしまったら意味がない。なんのためにおれはペンドルに渡りをつけることを頼んだ? 小さな吐息を吐く。落ち着けよ、おれ。



「その金額では払えないな」


「払えないなら話は終わりだ」


 危機が一発さんとその子分たちが席から立ちあがったので、このままでは話が決裂するだけ、それではペンドルに渡りをつけてもらった意味がない。こいつが強気になるのは無法者だから、好き勝手に決まりをつけて押し付けてくる。



 前にペンドルはおれに言ったことがある、無法者には無法者の決まりがあるからと。それならここはこの場にいる無法者たちを巻き込んでみて、それで通用しないならおれのやり方でいく。


 いや、こいつらのやり方というべきかな? 殺しという方法は。



「いやあ、おれもね、真っ当に生きているもんだからお前らのやり方はよく知らないけど、こういう一方的に値段を決めつけられてしまうというのが無法者のやり方ですかね。ねえ、みなさまはどう思いますか? 奴隷商人のほうで獣人さんの値段を聞いてきても良かったですけどね、金貨500枚ってのはさすがにないでしょう?」



 くるりと視線をここにいる人たちに送ってみたが、全員はまだ黙ったままだ。ペンドルもおれのほうを見ているが口を開くことはまだない。



「んなの知るか! 俺様が金貨500枚と言えば金貨500枚だ! わかったかこのクソたれが!」


 うん。みなさまはご返事がないということで、もうおれは無法者のしきたりを尊重することはしなくていいよね。それでは手っ取り早く済ませてしまおうか。



「あははははっ!」


「な、なにを笑ってやがるんだコノヤロ!」


 危機が一発さんはちょっとだけ身を引いてから、腰にぶら下げられている剣の柄に手をかけた。そうそう、ケンカなら対等でやらないとね。得物を抜いてもらったほうがおれも正当防御になるから。



「一応ね、こっちとしても無法者のしきたりとやらに敬意を払ってやったんだ。それでも話にならないのなら簡単に決着をつけようじゃないか。お前が死ねばおれはお前が言う金貨500枚を払わずに済むからな」


「て、てめえ! 俺様に100人の手下がいるんだぞ――」


「知るか! 100人であろうと1000人であろうと皆殺ししてしまえば一人もいねえよ!」


「て、てめええ……このモンドゴス様に刃向かうつもりか!」


「先からそう言ってるじゃないか。さあ、抜けよ」


 本気でこいつを殺そうと思っている。しかしこの場にいる人たちはまるで喜劇を見ているかのように、ただ面白がって見ているだけ。



 それがムカつくんだよ。


 こっちはな、8人もいる女の幸せのためにやってるんだ、お前らを愉しませるためにここにいるわけじゃない。これから城塞都市ラクータとことを構えるつもりだから、こんなところで無法者相手に引いたりすることはできないぞ。



「やめんかっ!」


 触発された危機が一発さんは子分たちと一緒にまさに剣のを抜こうとしたとき、凄味のある太い声が奥に座っている老人から発せられた。



 その声に合わせておれも危機が一発さんも剣の柄を握っていた手を放し、自分の席に座ってから睨み合っている。酒場の奥のテーブルに座っているお爺さんが眉間にしわを作って、体に気迫を漲らせてこちらを鋭い両目でジッと凝視している。



「テーのじいちゃん、これはどうしたらほうがいいかな」


「まったくお騒がせの野郎どもだ、おかげでゆっくりと酒が飲めないじゃねえか」


 うん? そのテーのじいちゃんというのは聞いたことがあるな……そうだ、クップッケの行方を教えてくれた飲兵衛だ。でもおかしいな、あの時は確かにただの酒飲みにしか見えなかったはずだけど。



「おう、アキラとかいう野郎。おめえはなんだ、どうしても娼館から女を買いたいのか? このゼノスの無法者にしきたりがあることは知らねえのか、ああ?」


「そうだよ。おれはどうしてもデュピラスたちを引き取りたい。それで女将と絡んでいる無法者がいるからって知ったから、一応はあんたらの言う無法者のしきたりを尊重してやりたいからペンドルに頼んで渡りをつけてもらった。だが悪いけどここまで話にならないなら力ずくで押し通してもらうしかないだろう? おれは無法者じゃないからな」


「けっ。万が一わしらがしきたりを守るためにおめえに敵対するって言ったらどうすんだよ」


「そんなの、片っ端からやっていくしかないだろう」


「おい小僧、口の利き方に気を付けろよ。場合によってはおめえ、この場にいる全員の敵になるんだぞ」


「それで? そういうやり方であんたらが好き放題やってきたんだろう? それならたまには上回る暴力にあってみるといいよ」


 爺さんのものすごい鋭い眼光に射すくめられているが、ここは引いてはダメだ。たとえこのテールドンという爺さんは鑑定スキルでゼノスの大親玉って称号がついてると見抜いても、ここは絶対に引くべきじゃない。



 フッと爺さんからのきつい視線が和らいでいく。



「わしも年を取るわけだ、無法者じゃないやつにナメられるとはな。おい、モンドゴス。おめえもこの件から手を引け」



 爺さんは危機が一発さんに命令するように声を出した。だが危機が一発さんは軽薄そうな笑いを見せて、拒絶するように右手の手のひらをひらひらと振ってみせた。



「バカかてめえ、テーの爺さんはとっとと引退しろや。老害はな、はっきり言って俺様たちのような未来のある者にとっては邪魔でしかねえんだよ」


「それもそうだな……よしっ、モンドゴスはいいことを言った、わしはこの場で引退する。わしの後を継ぐのはペンドルだ。みんな、異議ないな!」



 てっきり爺さんは危機が一発さんにお叱りをするかと思ったが、あっさりと引いた上に引退とか言ってのけた。危機が一発さんもそう思ったらしく、毒気を抜かれたような顔をして爺さんのことを見ている。


 この場にいる全員が爺さんの引退と次期大親玉指名の発言に首を頷いているだけ。これ、なんかおかしいぞ。



「うむ、ではこの後はペンドルに任す。老いぼれのわしはもう酒におぼれるだけだ。けっ」


「どうぞごゆっくり。テーのじいちゃん、今までお疲れさまでした……みなさんこんにちは、ボクが新しくゼノスの大親分に就任したペンドルでーす。よろしくね」


 爺さんが座ってから何ごともなかったように酒場でよく見かける飲兵衛のように酒をあおり出した。指名をうけたペンドルは人畜無害の笑顔を作って、落ち着いた声であいさつの言葉を台本のように述べた。



 それを聞いたおれと危機が一発さん一党に豊かな和みの女性たち以外の全員はペンドルのほうへ盛大な拍手を送っている。



 これってさ、わざとらしくないか?


ありがとうございました。

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