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番外編 第14話 幸せを求めて・三話目

 森人の守り神のお守りは半端なものではなく、森の中を歩くあたしらに襲いかかろうとするモンスターを一体も残さず切り刻んでくれた。学び舎のお師さんはモンスターの心の臓の近くに魔石があると教えていたのであたしは短剣を懸命に使い、モンスターの屍骸を切り捌いてみた。



「あったわ、魔石よ」



 妹たちはモンスターの屍骸に触れることを嫌がっていたので、あたしと年の近い数人でこの作業をこなしていく。これから生きるのにお金は必要、アキラのおっさんからもらった支度金はできるだけ残しておきたい。それを使って、あたしも妹たちに学び舎へ通わせたい。知識は力なりとお師さんは言っていたし、お金はあればあるほどあたしらが生き抜いていけるんだから。



 無法者たちはあたしらを運ぶためにか、モビスと荷台だけの走車を持っていた。あたしらはモビスを乗ることなんてできないし、走車を操縦することもできないので引いて行くことにした。




 たまに森の中で襲い掛かって来る盗賊もあったが、あいつらも神様の風に切り刻まれては命を落としていく。


 森の神様は言った。他者の仕向ける仕業をその人も等しくそれを受けねばならないと。だからあいつらを憐れむことはないし、憎いとも思わない。それが神様の言う(ことわり)のであれば、あたしは受け入れて見せる。




 ゼノスとテンクスの間にある森林を抜けると平原が続いていて、走車の轍があるところが道らしく、あたしらは森の神様が授かってくれたそよ風が消えたので慎重に進むことにした。



「おや、こんなところで女の子の集団なんて珍しいわね」


 声をかけてきたのは露出の高い鎧を着た女性で、精悍そうな顔と体付きをしていて、腰には二振の剣がぶら下げられている。あたしも気を張って神様がくれた羽を手で握りしめる。せっかくここまできたのにここで人攫いや盗賊に捕まることだけは避けたい。



「あらあら、警戒されちゃったみたいわね。見た所で若い子ばかりだから、同じ年頃の子がいいわね。モージンちゃん、ちょっとこっちに来て」


 あたしは女性が率いている数人の武装集団に距離を測りつつ目を配りながら、その最後方からあたしらとほぼ同じ年頃の子がこっちへ走って来るのは見えていた。



「なあに? ウェスティア姉さま」


 髪は短めで顔にソバカスが目立つモージンと呼ばれた子はあたしに声をかけた女性の横に立っていてる。どちらかといえば一人一人が特徴のある集団の中にいて、この子だけは垢ぬけていない雰囲気を持っている。あたしからみれば町娘が片手剣を持っているという感じであった。



「あの子たちと話してみてくれない? ウチのことを警戒して多分正直な話を聞かせてくれないと思うの。だからあなたが話を聞いて、あの子たちはなにものなのか、どこへ行くつもりなのかを聞き出してちょうだい。そうそう、あの子たちウチがそういうことを聞きたがっていることは内緒にしてよ」


「は、はああ」


 ちょっとマヌケなお姉さんってことかな。話している内容があたしに丸聞こえなんですけど。そのモージンという子もそういう風に思ったらしく、気の抜けた返事しかできていなかった。




「というわけであんたたちは何者かをおしえてくんない?」


 モージンという子がこっちに来てあたしらのことを調べに来たが、その前にその武装集団のことを知らないとあたしとしては話す気にはなれない。



「あなたたちこそ何者なの? こんな女の子しかいないあたしらに話しかけてきて、人攫いなの?」


「失礼だね。あたしたちはこれでも立派な冒険団よ。人攫いとは聞き捨てにならないね!」


 憤慨として口調を強めたモージンという子は、自分たちが冒険者であることを明かしてくれた。それを聞いたあたしはようやく胸をなでおろすことができた。でも、冒険者だからお言っていい人たちばかりとは限らない。あたしはテンクスの町に着くまで気を緩めるつもりなどない。



「なんだなんだ、こいつらはおれ様らともめる気なのか。ああ?」


「ちょ、ちょっとお、アイカルさんやめてよ」


 モージンという子の後ろから大きな獣人がその身体を現してきた。特徴的なたてがみがあるところからするとこれは獣人族の獅子人だと思うけど、威圧的な態度と鋭く睨みつけてくるその目に妹たちは怯えてあたしの後に隠れてしまっている。あたしも恐れて思わず短剣の柄に手をかけた。モージンという子は獅子人の男の腕を掴んでいるが、獅子人の男がこっちへ突進してくることが止まりそうにない。



「おおっと、こいつはやり合う気だな? ここは一つおれ様らの恐ろしさを思い知らせてやらんとな、わが冒険団大鬼殺し(オーガバスター)の名が泣――」


「やめんかいっ、このバカ獅子が! その前にお前が泣けっ!」


 獅子人の男の後頭部をゲンコツで殴り飛ばしたウェスティアという女性は、後頭部を両手で抱え込んで唸っている獅子人の男を無視してあたしに謝ってきた。



「ごめんね。アイカルヴァーカーはいいやつだけどちょっと脳が足りない所があるわ。あたしはウェスティア、冒険団の大鬼殺し(オーガバスター)で頭を張っているの。こんな人気のないところにあんたたちみたいな若い子がいるなんて不審に思ったからお声をかけたの。どう? ウチらに事情は説明してくんない?」



 ウェスティアという女性は言い方こそおどけているのだけど、言下に断れない圧力をありありとかけてきたのであたしもここで腹をくくる。どうせ冒険者ならあたしらも逃げられないし、いざとなったら神様に助けてもらうから、あたしらの生い立ちをかいつまんで話すことにした。




「そおかあ、そうなのかあ。そりゃ苦労したなあ。辛かったろ? 苦しかったろう? 飯を食え飯を。飯一杯食ったら幸せになるんだからな! おいモージン、こいつらにもっと美味しいものを食わせてやれ。おれ様の持ちでいいからな!」


「そんなこと言ったって、アイカルさんはもうお金なんて持ってないでしょう? 本当にバカなんだから」


「そうか、金はもうないのかおれ様。こりゃ団長さんに借金してでもこいつらを幸せにしてやりたいんだ。おーい、ウェス姉さん、金を貸してくれや」


 あたしらの話を聞いて、涙まで流してくれたのが獅子人の男であるアイカルヴァーカーさん。彼からすれば親無しの境遇に同感ができないらしく、なんでも獣人たちは孤児になった獣人の子供を村で育て上げるらしい。



 いいなあ、それは本当に羨ましいわ。



「もう。アイカルに貸すお金なんてないのっ! それにテンクスに着くまでの食費はウチ持ちで行くからあんたは変な気を使わないで良いの」


 この人たちはちゃんと話を聞いてくれて、モージンさんが作ってくれた食事もとても美味しい。おかげでゼノスを出て以来、張っていた妹たちの気持ちがようやく緩めることができたのはあたしにも伝わってきている。



「テンクスへ行くのならウチらと同行してくんない? 守ってあげるじゃないけど道中にお話相手ができてウチも嬉しいわ」


「ありがたい話ですけど、あたしらには冒険者様を雇えるだけのお金なんてないんです。そう言っていただけるお気持ちだけでも嬉しいんです」


「バカね、あんたたちからお金なんて取るもんですか。いいこと? 行きたいところがあればその途中で助けてくれる人を頼ることね。あんたたちが立派になって、いつかウチらを雇える人になればいいんだわ。あ、でもそのときはウチらも竜殺し(ドラゴンバスター)になってお高いかもよ」


「え? どういうことですか?」


 横から料理のお代わりを出してくるモージンさんがあたしの質問をウェスティアさんに代わって答えてくれた。



「あたしらの冒険団はね、倒した最強のモンスターを団名にしているのよね。この前にはぐれオーガを倒したからそれで大鬼殺し(オーガバスター)にしているのだけど、ウェスティア姉さまの目標は世界で最強と謳われている(ドラゴン)を打倒するにあるから、いつかは竜殺し(ドラゴンバスター)と呼ばれたいのよ」


 そう言ってからモージンさんがうっとりした目でウェスティアさんを情熱を込めてから見つめている。



「はあ、ウェスティア姉さま素敵です。ニールさまみたいに強い人はあたしは大好きです」


「おーい、モージン、おれ様も強いぜ。どうだ、惚れそうか?」


「無理ですごめんなさい! アイカルさんは強いですけどバカなんです。あたしは強くてもバカと冴えないのはダメです。アキラさんとアイカルさんはいい男と思うんですけど、あたしのいないところで幸せを見つけてきてくださいお願いします!」


「かーっ、モージンに振られちまったよおれ様。悲しいぜ、ははははは! ところでそのアキラさんってやつは誰だよ。知らないやつだぞ。ははははは!」



 モージンさんとアイカルヴァーカーさんの楽しいお話の中で、聞き捨てになれない名にあたしの心はときめいてしまった。冴えないアキラさんって、アキラのおっさんのことなのかな。



「ね、ねえ。モージンさん、あなた、アキラというおっさんを知ってるの?」


「え? う、うん。アキラという人族は知ってるけど」


「見た目が冴えなくてうだつも上がらないし、とても強そうに見えない。だけど心がとても優しいおっさんだけど?」


「うーん。言われてみれば確かにそうなのよね、あたしも一緒にいるときはそんなに思わなかったんだけど、あたしとゾシスリアを助けたときはすごかった。それこそ見慣れない技ととんでもない速さで無法者たちをバタバタと倒していたのよね。でも優しいかそうかはあたしは知らないよ」



 モージンさんはあたしと同じようにアキラのおっさんのことはあまり知らないみたい。それならあのおっさんがしたことでもっとも印象的なことを聞いてみよう。



「ちょっといやらしい目で見てくることがある」


「あ、それ。アキラさんだわ」


 アキラのおっさんのことを聞けるだけでもあたしはこんなに嬉しい。おかしいよね、本当にちょっとだけのときしか過ごしていなかったのに。でも間違いなくあたしに新しい世界をくれようとしたのはアキラのおっさん。だから感謝の気持ちで嬉しくなっているとあたしは思うの。



「あらあら、若い子を二人も思わせる人にウチも興味があるわ。そこんとこを聞かせてくんない?」



 ウェスティアさんが身体を乗り出して、あたしとモージンさんの間に入ってきている。このたわわな胸の露出はきっとアキラのおっさんのお好みで、あたしのときも目を泳がせながら谷間を覗き込んだよね。



 本当、男の人って、そういうスケベなところはどうしようもないね。なんだか腹が立っちゃう。


ありがとうございました。

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