なつのとくべつ編 そのさん 異世界の夜空に咲くは大輪の花
海と言えば焼きそばにラーメンだ。ここは異世界なのでそんな気の利いた海の家があるはずもなく、料理の魔女であるラメイベス夫人にお願いして、醤油を駆使することでそれらしきものが出来上がった。
さすがは魔女、以前にイメージを伝えるだけでオークの大腿骨を煮込んだ豚骨スープの出来におれは耐え切れずに涙していた。ああ、これで紅ショウガがあれば言うことはない。
眩しい日差しの中、おれはエティを追いかけて砂浜を二人で走っている。
「待て、こいつぅ」
「追いついてごらん」
エティのセリフは棒読みだったけど、是非記念に撮っておきたかった動画は、スマホをサジくんに渡して撮影してもらった。
水辺を走っている二人、まさに襲い掛かろうとしているいやらしい顔のおっさんに追いかけられて必死に逃げ惑うロリ美女。なんじゃこりゃあっ! 動画をチェックしてみたらこれは犯罪そのものじゃねえか。
やり直しだおらぁ、今度はエゾくんに頼んでやる。リテイクだこのやろう、はいワンスモアプリーズ!
眩しい日差しの中、おれはエティを追いかけて砂浜を二人で走っている。
「待て、こいつぅ」
「追いついてごらん」
エティリアと走り直すおれへ、湖の中から声が追いかけてきた。
「待あてい……」
「うきゃあああ!」
水面に濡れた髪が身体を這わせている何かが湖から出てきて、這いつくばるようにすごい速度でおれを追跡してきた。
「うわっうわあああ、サダコちゃんだああああっ!」
「なにを言ってるの? アキラ」
うん、うそです。
ピンク色の髪を見た瞬間にちゃんと麗しい人魚さんたちだってちゃんとわかってました。でも、やってみたかっただもん。最初にあの動画を深夜で見たときはマジで怖かった。
「やあ、マキリ。こんなところでなにをしてるんだい?」
「ブー。だってえ、楽しそうに遊んでるのにちっとも呼んでくれない。アキラの意地悪さん」
頬を膨らませているマキリはとても可愛らしい。そんでもって相変わらずのトップレスにおれも目を奪われがちだが、恋人が横でジト目で睨んできているので:用意してたものを小柄な人魚さんに差し上げる。
「シャースラン、きみにいいものをあげよう」
「なあにこれ? こんな小さな布でなにするの?」
おれからもらった水着を引っ張ってみたりして、小柄な人魚さんのする仕草はおっさんハートを狙い撃ち。
「おれと来た人たちも胸にそれを付けているだろう? 今流行りのおしゃれだよ」
「じゃあ、シャースランもそれを着ける」
「あたしらにもちょうだいよ」
横でおれとシャースランのやり取りを見ていたマキリたちも、急いで手を差し出しておれにねだってきた。勿論、彼女たちにもサイズに合った水着は人数分だけ持ってきたので、さっそく着けてもらうことにする。
「ね、ねえ。なんであたしらのは全員が同じ絵柄なの?」
え? マキリはそれを聞いちゃうの? ねえ、あんたたちは聞いちゃうわけ? 答えなんて簡単。人魚さんのブラと言えば古来より貝殻しかないだろうがっ! 異論は認めん、はい解散。
「オッホン。マーメイド族の特色というか、光る石を簡単に採って来るきみたちらしいじゃないか」
「そうなの? じゃ、わかった」
苦し紛れの言い訳があっさり人魚さんたちには通用しちゃった。チョロいなおい、これがきみたちを主題とするラノベなら、間違いなくきみたちはチョロインだぜ。
「ねえ、あなた。この人たちって、もしかしてあなたが言ってたマーメイドさんなんだもん?」
しまったあっ! メインヒロインをないがしろにしておれは人魚さんたちとなにを戯れているんだ。だからおれは三流の冴えないおっさんと蔑まれるんだよ。ここは汚名挽回……って挽回してどうする! 返上するんだよ。
「え、エティ――」
「かわいい! なにこの可愛い生き物。これがケモノビトなのね、とても可愛いよ!」
おっさんが人魚どもの遠慮がない体当たりで吹っ飛ばされて、砂の上でorzの恰好。うさぎちゃんに集まって来る人魚さんを見て、いつの間にか、ほかの獣人さんたちやエルフ様に女戦士もその輪の中に加わった。
美女たちが互いの身なりについて楽しげに語り合っている、おっさん抜きで。
若い兎人くんとエルフくんが美女たちに囲まれて持て囃されている、おっさん抜きで。
……憎いわ! サジくんにエゾくん、この後のバーベキューの時に黒服の灼熱地獄へ招待してやるから覚えてろよ。
人魚さんが参戦して水辺での遊びはますます騒々しくなっていき、女性の方々は笑ってはしゃいで、どの顔にも楽しさに満ちている。おれから扱き使われているサジくんとエゾくん以外は、みんなが夏休みというイベントを満喫していた。
「……」
「……」
いかんぞ、若者が蒼白の顔色になってきた。そろそろあいつらにも夏の思い出を作らせてやろうじゃないか。
「サジくんにエゾくん」
「……」
「……」
無言で死んだ魚のような目で見つめてくる二人、ちょっとイタズラが過ぎたかな。おっさん反省だよ。
「はい、これ」
二人に渡したのはトランクスタイプの水着。
最初は競技用のびっちりしたビキニ水着をアラクネの侍女さん作らせようとした。だがもっこりと盛り上がった下半身のある部分を女たちにジロジロと見られたりしたら、若者のトラウマになりかねないので、そこは心が優しいおれが勘弁してあげすることにした。
「店長さん……」
「隊長っ!」
「これに着替えて来い、泳ぎを愉しめ」
生き返った二人はおれから水着を奪い取ると小さな林の中に消えていた。よほど暑かったらしい。まったく純粋な少年を虐待したのはどこのどいつだ、心の傷にでもなったらどう責任を取るつもりだよ!
……ああ、おれだったね。テヘペロ
人魚さんと少年を交えた夏休みは続く。食事の時間となればおれの所へ来て、それぞれのお好みに合わせておれが作ってやっている。人魚さんのお気に入りは勿論肉入り野菜炒めだ。ニールはしきりと焼き肉をせがんでくるが、メインディッシュはお後ということで我慢してもらっている。
というか、ラメイベス夫人特製のラーメンで我慢するとはどういうことだ。スープがめっちゃうまいじゃん? しかもニールも文句を言ってる割りにはしっかりお代わりしてるじゃないか。
あんなに明るかった空が薄暗くなってきて、そろそろ長い夕暮れ時だ。今回の休みは陽の日と陰の日を跨いでいて、これが終われば旧マッシャーリア村こと、マッシャーリアの里は砦の建物工事が始まり、土木班はそのままアラリアの湖畔にある、モフモフ天国本拠地の工事に入る手立てになっている。
「サジくん、エゾくん、用意は良いかね?」
「はい、任せてください。店長さん」
「下ごしらえは終わりました、隊長」
土魔法で作ったブロックを積んでその上にエルフの集落で特注した鉄の網と鉄板を敷く。薪をその後方に山積みしてからサジくんとエゾくんが切った肉類に野菜をニールの魔法で出した氷で冷やしておく。
すでにマダムにお願いして醤油と砂糖に塩。それにアラリアの森で採取してきた香草を使って下味を整えてもらい、これはとても期待できそうだ。
さあ、バーベキュータイムはもうすぐだ。
今回は人魚さんたちに魚介類を獲って来るように頼んである。一応、オスムルは貝類なんで、それから貝柱がとれると美味しい珍味が増える。
「獲ってきたわよ、ここに出せばいいのね」
「ああ、お願いするよ」
マキリが湖の中にまで続いている紐を引いていたので、食材となる魚介類を水辺の即席調理場に出すように言付けておく。
「いいのね? 殺さなくても」
「ああ、魚介類は鮮度が命だ。おれが捌いてみるから出してくれ」
おれはサバイバルナイフしかないから、貝柱を切り取るのに大変だと思うが、見たところマダムも調理用道具を持ってきているので、無理な時は彼女にバドンタッチだな。
「はーい、それじゃどうぞ」
マキリたちが湖の中から引き出したるは人の背があるほどの貝。あるえ? なんか大きくね?
モンスターのオスムル貝から魔力の波動を感じたときに、すでに土魔法の槍がおれのほうに向かって地走りしてくる。いきなりのバトルとなりました。
「う、うおーっ!」
「気を付けてね? オスムルは土魔法を使うの。水中ならあたしたちに当たらないから大したことないけど」
マキリの場違いの助言を背におれは数十個、いや、数十匹のオスムル貝に襲われている。全力疾走で逃げ回っているが、戦うことを想定していなかったので、魔法のアイコンは出していない。
その硬そうな貝殻を見てもサバイバルナイフでどうにかできそうなものではないから、ここは危機になったということで。
「た、助けてええ、ニール様あ!」
「ったくよ、毎度毎度なんかやらかしてくれん野郎だなてめえはよ」
はい、お助け衛門に来ていただきました。オスムル貝どもめ、今度はお前らが地獄を見る番じゃい、うっひゃっひゃっひゃ。
巨大な貝柱どころか、一匹のオスムル貝から多くて10個の真珠をゲットすることもできた、大漁じゃい! ヒャッホー。アラリアの湖に棲む魚もエビも蟹もどれも大きさが桁外れで、どれも魔石付きのモンスターという生き物だった。しかもどいつもこいつも魔法を駆使することができ、これはおいそれとここで漁りをすることができない。
もうね、アラリアの湖はマーメイド族の領域と認定したほうがいい。
「お魚さんもおえびさんも美味しいもん!」
「本当よね、エティ姉。ほら、蟹さんもあるよ」
辺りはもうすっかり暗くなり、満天の星空に調理場の炎がここにいるみんなを照らしている。セイに餌付けされているわが愛しき人はいそいそと、並べられている食物をせっせと口の中に運んでいる。
「アキラさん、なにかお手伝いしましょうか?」
「監督、あたしもやれることはないか?」
「いいからきみたちは仲良く夏休みを過ごしたまえ」
うんうん。気の良い少女であるパステグァルとメッティアの嬉しい申し入れに、おれは気持ちだけ受け取ることにした。せっかくなんだから、みんなで楽しくよく食べてよく遊んでてほしい。
「パ、パステ……飲み物を運ぶの一緒にやって?」
飲み物の注文が沢山あるため、エゾレイシアは悲鳴を幼馴染のほうにあげていた。
「知らないわよ。行こ? メッティアちゃん」
「あ、うん……」
幼馴染に袖にされたエゾくんはガクンと首を垂らしたが、はっきり言って同情はしない。こういうのは日頃の行いに反映されるもので、エゾくんは自業自得でしかないことをおれは知っているから。
「ほらほら、エゾくん。止まってないでちゃっちゃと働け」
「シクシク……」
死人に鞭を打ってやる。うひゃっひゃっひゃ、楽しいなおい。
森の奥からとんでもない大物が出てきた。まあ、予想してたというか、予想通りというか、やつが焼き肉の匂いに誘われてここにやってくることは想定内のことだ。
『おい! やきにくがあろうにわれを呼ばぬとは何事か』
「いやあ、焼いていれば勝手に来ると思いましたから」
森のヌシ様地竜ペシティグムス、そのお責めになるお言葉におれはポリポリと頭を掻いただけ。森の神様(予定)はどこに住んでいるかを知らないし、わざわざ休みを潰して探しに行くのって面倒じゃん?
「ご挨拶だな、おい! 食事にあり付こうとするやつが偉そうにほざくんじゃねえよ」
『お、お前は――』
おれの前に出てきたニールをビビりまくってる森のヌシ様。そのお姿を見たおれとニール以外の全員は物言わぬ彫刻と化していた。しょうがないよね、なんだってみんなが敬い恐れる森のヌシ様ですから。
「あ、あなた……」
「はい、エティ。食事の再開といこうか? 今はなにも聞いてくれるなよ」
辛うじて声を出してきたのは我が愛する恋人のエティリア。中々の度胸で褒めてやりたいが、ここで事情を説明していると、貴重な夏休みの時間が費やされてしまう。
「アキラ殿! これはいったい……」
「イ・プルプルちゃんも黙ってて、ゼノスに戻れば教えてやるよ」
「い、イ・プルプル……ちゃん?」
「い、いや。ナハ、ナハハハ」
しまった、油断したら女騎士の隠し名を出してしまったよ。彼女がドラゴン族に驚愕しているのは一目でわかったけど、今はその疑念を解き明かす暇はない。
「おら、野郎ども!しっかりせんかい!」
「――はっ。て、店長……」
「隊長……そこにおられるのは森のヌシ様じゃ――」
おれの怒鳴り声に、ようやく我に返ったサジくんとエゾくんは視線が定まらないまま目を泳がせている。これからは大食いのドラゴンに山盛りの肉を焼いてやらねばならないので、こいつらにもしっかりと助手を勤めさせてもらう。
「焼くぞおら、手を止めるなよ!」
「はいっ!」
わけもわからないままに二人は調理場へ走っていく。おれのアイテムボックスには、森のヌシ様用にマッシャーリアの里にいる時からコツコツと準備した肉が山ほどある。それにゼノスで店ごと買い占めた焼き菓子も用意したので歓待させてもらうぞ、ペシティ君。
「適当に座りたまえ、ペシティ君。料理が出るまでしばし待たれよ」
『ペ、ペシティ君? ま、まあいい。料理を楽しみにしておるぞ』
これでお客様が全て揃った、真夏のディナーはここからが本番だ。エルフの集落でもらった果実酒はここで出して、きっとみんなにも喜んでもらえるはず、宴会はまさにこれからが最高潮だ。
チリーン……
さざなみの音が遠くから聞こえる中、風鈴が夜風と共に涼しさを届けてくれている。
バカ騒ぎの後、みんなにアラクネ特製のゆかたを渡して着替えた貰った。元ネタとなるのはお宝動画のエロなし部分。ダイリーさまってすごいよ? 動画を見るだけでゆかたを縫い上げて、しかもちゃんと自前の染料で花や草木模様を染め上げるからおっさんは感動した。
すでにアラクネの里はエティリア商会(仮)が独占的販売契約を女王様と口約束してもらっているので、あとのことはエティに託すだけ。
風鈴はエルフの集落で高齢長老者さんが直々お作りなってくれて、イメージと図を書いて見せただけなのにあっさりと作ってみせた恐るべき魔法鍛冶の達人。
エルフ様たちは風鈴の音色が気に入ったのか、瞬く間にエルフの集落は風鈴が大ブーム。一家に最低三つはある風鈴が森の風で集落中に金属の音を響き渡らせている。
だが言っちゃ悪いけど風鈴の音がメチャクチャうるせえよ、風情ってもんがこの世界のやつにはわからんですかね。
みんなが着かえ終えてから、ゆかた美女たちの艶姿を心行くまで堪能させていただきました。うんうん、やっぱり夏はこういう光景がなくては季節感を感じることができない。
眼福眼福。
「ありがとう、あなた。夏休みはとても楽しいもん、父様と母様が亡くなって以来こんなに幸せに思えるときがなかったもん」
「そうか。エティがそう思ってくれるならおれも嬉しいよ」
エティリアと二人きりで湖から少し離れた岩場のほうにいる。空には柔らかく大地を照らす三つのお月様に満天の星、肩にもたれかかっている愛らしいうさぎちゃんは、おれと同じのように月が映る湖のほうへ目を向けていた。
彼女の表情を見ることはできないが、時折落ちてくる雫におれはただ黙っていることしかできなかった。
彼女がなにを思い、なにに泣くかは聞くことをしたくはない。いまはとにかく傍にいることだけでいい、それが彼女にとっての思い出になるのなら、おっさんは夏休みというイベントを起こした甲斐があったというもの。
「星が降ったもん……」
「本当だ。願いをかけてみろ、流れ星に願いをするのはおれの故郷の言い伝えだぞ」
幾筋も夜空を流れていく流星に、もう帰れない世界の言い伝えを彼女にそっと教えてみる。
「ううん、いいもん。願いならもう叶っているもん、今もよ」
「エティ――」
彼女がそっとおれを抱きしめてくる。
「ねえ。今はあたいのそばにいて? いつかあなたが遠くへ行っても、あたいのことをずっと忘れないで」
「……」
心を誤魔化せない、この愛しいうさぎちゃんにおれの思いが見透かされていた。騙し切れないとはわかっていたが、それが知られていることにおれの心は締め付けられていく。
「エティ――」
「なにも言わなくていいもん、アキラッちはアキラッちのままでいてほしいもん。ただ、エティリアという兎人があなたを愛したことだけは覚えていてほしいもん」
そっと彼女の唇にキスを重ね、頬いっぱいの涙におっさんは心がとても痛い。だけどごめん、謝りたくはないがおっさんは風、吹かれたあとにわずかな残り香だけしか残してあげられない。臭そうだけど、それを加齢臭って言わないでほしい。
「始まるよ」
「え?なに?」
おれが夜空を見上げていると、それに釣られた彼女も頭をあげる。
ドンッ
「綺麗だもん……」
「ああ、花火ってやつだ」
「はなび、きれいね……」
「ああ」
ドンッ
夜空をに掲げる炎の花、咲いては消える切なさの一輪に彼女の顔が一瞬だけ照らし出された。おれの愛した人エティリア、きみを忘れることなんてありえない。
願わくばきみに幸せあれ、そのためにおれは人生で初めて努力することに命をかけた。きみたちの里がここで築き上げればおれは行く、世界を見回ることが異世界に来て切に願ったおれの希望。そんな旅にきみを仲間や親族から引き離すことはできない、おれのせいで優しくしてくれた獣人さんたちからきみを奪い去ることなんてできやしない。
だから、この先にきみの傍にいる人がおれでなくても、きみが誰よりも幸せになることを、遠くアルスの森にいる精霊王様にお祈りする。愛しているよ、わが愛しき人。
ドンッドンッドンッ――ドーーーンッ
夜空の輝く花はいつまでも咲き続けていて、ついに最大の一輪が星で飾られている空に咲き乱れていた。楽しい時間のクライマックス、これでみんなと過ごす夏休みはお終い。
自分勝手な願いで残酷だけど、きみの心におれという存在を深く刻み込むことができたらいいな。
ドーーンッドーーンッドーーンッドーーンッ
ドーーンッドーーンッドーーンッドーーンッ
ドーーンッドーーンッドーーンッドーーンッ
ドーーンッドーーンッドーーンッドーーンッ
「……き、綺麗ね。いつまで続くかな?」
「……あ、ああ、そうだね」
あるぇ? おっかしいなあ?
魔法全能の銀龍メリジーに花火のイメージを伝えたら簡単にできると言ってくれた。横で話を聞いていたペシティくんが自分もやりたいと言い出したので、ついでにお願いすることにした。それで最後の花火はとびっきりのやつにしてくれとは言ったけど、とびっきりのやつが連続で打ちあげられているじゃねえか。
「エティ姉えええ、ご無事ですかあああ!」
こっちに走って来るのはセイで、母親であるラメイベス夫人とエルフ様のレイに引きずられていった彼女は、どうにかしておれとエティの所まで嗅ぎつけてきたらしい。
うむ、ちょうどいいや。
「アキラさん、あたいが来たからにはエティ姉を――」
「セイ、エティを頼むね」
「……あ。ああ」
予想外のおれが出す対応に、セイはきょとんとしてエティを抱えてる。
「ちょっくら行ってくるわ」
「はい、あなた」
セイの腕の中で小さく手を振ってくるエティリアの美麗な顔にかげりはもうない。本当に全てが美しいきみを愛せてよかった、きみはおれが異世界に来て初めて手にした宝物だよ。だから、心の片隅でいい、誰かと幸せに暮らしてもいい、おれがきみを愛したことを忘れないでほしい。
『どうですかな、メリジー! このわれの30連発爆裂という新し魔法にど肝は抜かれましたかな?』
『アホ言えっ、このノロマが! これから打ちあげるハナビ・ジ・スターライトを見てビビんなやっ!』
おバカさんの地竜とどアホの竜人が調子に乗って、次々と強烈に炸裂する魔法を夜空に打ちあげている。しかもやつらに止める気はさらさらないみたいだ。
「こらーっ! てめえらいい加減にしろや! 花火は風情でって言ってやったろうが!」
終わらない夏休みの夜空に炸裂する花火が、いつまでも燦々と輝いていた。
暑い夏が続いて、おっさんにも夏休みをあげたかったので書きました。
ありがとうございました。




