なつのとくべつ編 そのに 美女がいる水辺でキャッキャグフゥ
いいもんですなあ。若くて素敵な女性たちが楽しそうに水辺で走り、水飛沫で嬌声を上げている光景というのはおっさんにはまったくたまりません。来てよかったあ、本当に彼女たちを連れて来てよかった。
「アキラ監督うう、見てくださいーっ。もうこんなに泳げていますよあたしいい!」
一名だけは湖でジェットスキーがごとく、とんでもないスピードで水面を掻き分けていく。バタフライは体力を使うはずなのにそれを習得したメッティアは何の苦もなしに泳ぎ回っている。
「あまり遠くへ行くなよ、飯までにはちゃんと帰って来るんだぞ」
「はーい……ムッハー!」
メッティアよ、それはマネしなくていい。水の中からムッハー! と気持ち悪そうに現れてくるのはおっさんの特権だ。きみがやるとすごく格好良くなるのでおれの技を潰さないでくれ。
「……暑いよ、アキラさ...店長さん。僕もそのミズギを着たいよ……」
「隊長、これはどうにかなりませんか?暑くてもうボクは死にそうです……」
だらけた顔でお願いしてくるのはおれ以外の男の子であるエルフのエゾレイシアくんと兎人のサジくん。二人ともおれに侍女さんが縫ってくれたボーイさんの黒服を着せられて、炎天下の中、汗が滝のように絶え間なく吹き出させていた。
「バカ野郎っ! お前らは仕事をなんだと思っているんだ。きちんとした服装も身嗜みの内なんだぞ、ああ? まったくこれだから今時の若者はなっとらん」
「……そういう店長さんは随分と涼しそうだけど」
「……隊長、美味しそうなものを飲んでいますね」
「気のせいだ。それよりも接客しろ、おれがお手本を見せてやる」
おれが着ているアロハシャツと短パンはアラクネの女王様謹製です。手に取っているのは氷の入っている炭酸飲料水。やっぱね、こういうのは恰好から入っていかないと夏って気がしてこないじゃん?
「マダム、冷たいもののお代わりはいかがでございましょうか?」
「ウフフ。頂こうかしら? それとチョコレートも頂けると嬉しいわ」
「畏まりました……ほら、マダムからのご注文だぞ。さっさと氷を持って来ないか、ビーチボーイズ」
おれは素早く振り返って指令するとボーイさんたちはきょとんとした顔でおれを見つめ返してくるだけ。
「隊長、そのびーちぼーいずというのはなんでしょうか?」
「びっちぼーいずかあ、なんかカッコいいよなサジくん」
これこれ、エゾくんや。ビーチボーイズであってけしてビッチボーイズではないぞ。それだとヤオイ系に展開が広げていきそうで君の幼馴染が目の色を変えて食いつきそうだよ。おれはな、この素晴らしい世界で腐ったサブカルを広める気は絶対にないからな? ないったらないから。
「じゃあ行こうか、サジくん」
「そだね。氷を食べて熱を冷まそう」
重たい足を引きずってビーチボーイズに背中が哀愁を漂わせている。バカだねえ、本当の地獄はこの後にある浜辺のバーベキューだ、君たちに蜃気楼ってやつをご覧になってもらうからな。
氷を作ってくれたのはニールさん。彼女はイメージで魔法を発動させられるので簡単に張らせた大量の水を凍らせてもらった。彼女にできないのは恋の魔法だけ、プププ。おっさんのダジャレは気温を下げる効果付きでその場の空気を壊す特性まであるだよん。
「冷えたチョコレートはとても美味しいわ。あたいら獣人に魔法ができないのは残念だわ」
「ナハハハ」
これは絶対に間違った認識だ、獣人も人族も。実際、銀龍メリジーの一番弟子のメッティアは光魔法が使える、彼女が知らないだけ。休みが明けたらこのことを獣人に伝えていこうとおれは心に決めた。
チョコレートは熱に弱いなので氷の入った入れ物に入れておいた。木の枝で作った骨組みとオークの皮で繋ぎ合わせた組み立て式異世界パラソル、木の枝とやはりオークの皮で作ったビーチチェア。その上に横たわるラメイベス夫人は本当に様になる。
あとでビーチボーイズを呼んでマダムの横で直立不動に立たせてやろう。これはお年の召されたさるお嬢様がひと夏を過ごす物語。プププ……
「アキラっちゃん? ひどいことを考えてないかしら」
顔は笑っているけど目が笑わないラメイベス夫人。チクショー、この世界に読心スキルが存在していたのか! まずい、夫人から敵認定を受けたぞい。ここは退却が定石、撤退だ撤退。
全軍、一撃を加えた後に全速離脱せよ。
「これはこれは、マダムは御冗談がお好きでかないませんな。では、御用があればビーチボーイズに」
「わかったわ、チョコレートに免じて許してあげるね」
追撃はしないとの御恩情が敵の総大将から出ました。この機を逃してはならぬ、逃げろー。
砂の上で肌を露わに湖のほとりで戯れる美女たち、寄り集まってじゃれ合っている素肌が瑞々しい少女たち、すごい勢いで奇声を上げながら遊泳する筋肉少女。あ、最後のは除外していいからね。
素晴らしい、素晴らし過ぎるぞ。なにがおれを感激させているのかと言えば、おっさんがそれをジーっとガン見してもだれからもおとがめなしということだ!これを感動と言わずになんと表現すればいいかをおっさんに教えてもらいたい。
元の世界じゃヘンタイキモいこっち見んなの絶対零度三段視線攻撃に何度精神的の即死を迎えたことか。JKかJFKかなんか知らんが、てめえら色気もない小娘なんか見てないやい! 首を動かしたらお前らがそこにいたんだけじゃい、おっさんだって選択権は持っているんじゃい、アホども!あー、言い訳が虚しくなるから回想終了。
「出でよ、われとともに異世界に訪れし異界の神器っ!」
手にするはこの世界でおれだけが持つ記憶装置。その時間を止めさせ、そこに映るものを中に取り込む。映り込まれたが最後、そこから逃れられる術は管理神と言えど持っていないはず。
人はそれを異界の神器と呼んでいる。
さて、動画を撮るぞえ。
うひゃっひゃっひゃ。美女たちよ、もっと走れい、もっと飛びはねろ。それに比例して揺れるべきものは揺れ動いている。おれの踊る心もな、うひゃっひゃっひゃ。
女騎士さんの動画ゲットだぜ! まっ平らな胸板にはなにも揺れるものがないというのにプルプルって、プププ。
白魔豹の過激カットをゲットだぜ!レイさまのお胸様を揉みしだいているのはエティ。いいぞ、さすがはわが恋人、おれのためにやってくれているんだな? いい仕事をするねえ。もっと遠慮せずに激しく揉んでやれ、ポッチのポロリを期待しているよ。うひゃっひゃっひゃ。
ところでニールさん、お前は水着を着てまで水辺でなにをしているんだ? こんなところで白瞬豹と武芸の講義をしてるんじゃないよ。おかげでサービスカットがちっとも撮れな……んん? 待てよ?
ケリで現れる白い太腿の裏側、ヘッドバットで汗ばむ細いうなじ、貫手で露わになる脇の下。毛が生えていないのね? ニールさん。
うむ。素晴らしい、実に素晴らしい。うひゃっひゃっひゃ。
おっと、ここでシャドウボクシングに移行するのかい? 右ストレートでたわわに揺れる乳、左アッパーカットでたゆゆんで揺れる乳、高速ジャブで高速に上下左右に小刻みでプルプルと絶えずに揺れている二つのお乳様。揺れる、とにかく揺れに揺れている。おれの心はマグネチュードでは計測できない大地震になっている。
もうね、この世界は揺れ属性だけでいい、ほかはなにもいらない。本当に異世界って……異世界って、最高じゃい!
んん? いきなりニールの繰り出すパンチは横方向へ切り替えた、これはフック系だね。右フックに左フックの連打だ、見応えが物凄くあるよ。だって、乳神のお胸様が左右に千切れんばかりと跳ねているですもの。心配したおれは思わずそばに行って両手で支えてあげたくなるほどそれは跳ねる、とにかく跳ねまくる。
ごめんねみんな、おれは間違った考えを持ってしまったよ、すまんっ。なんで揺れ属性だけでいいだなんて言ってしまったんだろうね。
跳ね属性があるんじゃないかっ!
跳ねろ、跳ね回れ。跳ね続けるためにその切れがいいフックを打ち続けろ。それが継続不断する限り、乳神の乳は永遠不滅だ!
そうだ、おれがちゃんとスマホで撮っているからやめるな! 例えその超高速左フックがおれの右の脇腹を高い精度で狙って、いくつものあばらの骨が粉砕されてなおかつ突き刺すように打ち込まれたとしてもだ!
「グフゥ――」
「下の一物をおっ立てさせやがって……てめえはなにを考えてやがるんだ!」
超絶猛烈強烈の一撃でナックアウトしたおれは最初のうめき声以外に言葉も嗚咽も呻吟も発することすらできない。おれの頭部以下がが宇宙の果てまでとばされたじゃないかと錯覚するほど、想像することもバカバカしいと思えるくらい、それが銀龍メリジーの会心の一閃。
「何とか言ってみろやおらー!」
「違うんです、ニールさんよ」
「おお、びっくりさせんな。回復が早えじゃねえかてめえ」
スクっと何ごともなかったように立ち上がったおれにニールは驚いていたがそうとも、今のおれは一味が違う。あなたたちの水着姿はおれにとっての最高の回復薬だ。
「みんなも知ってる通り、おれはもう故郷に帰れない異邦人だ……」
何事かと集めてきたみんなの前でおれは秘めていた思いを呟いてからプイっと顔を横に背ける。悲しさが込み上げてきて、おれは思わずにはいられない。
畜生、おれのバカ野郎が。なんであれだけ大のお気に入りの巨乳女優たちが集うAVのジ・絶対に抜けるシリーズを動画に変換してスマホで保存しなかったのだろうと。
「あなた――」
「言うな、エティ。お前まで悲しくさせたくない、それじゃあ、恋人失格だぜ」
おっと、マイ・ハニーよ、そんな悲観の込めた目でおれを見ないでくれ。お前に儚げというのは似合わないぜ。
「あきらっち、てめえ――」
「だからだ、ニール。もしもいつか、お前たちと会えなくなったらせめてその面影を残しておきたいんだおれは! わかるか? このおれの傷つきやすいガラスハートを……」
「あきらっち、そのがらすはーとというもんはどんなもんかは知らんけどよ……」
ニールこと銀龍メリジーさんはその美麗な顔を垂れさせて、誰もが魅了させられてしまう両瞳は地面のほうに向けている。やた、誤魔化せたか!
すごい勢いで頭を上げてくる銀龍メリジーの両目に燃え盛る炎が宿っているように見えて、知り合って以来かつてないほどの凶悪な殺気がガンガンとおれだけに押し寄せてくる。
「その前にいまでもいきり立つもんをどうにかしろってんだよ!」
ちっ、やっぱ無理だったか――
左側頭部のこめかみに綺麗に入って来る右のステルスショートフック、視野の外からしかも最短距離の軌道を描くそれをおれでは避けられるはずもなく、食らった瞬間に意識をアラリアの森の奥まで飛ばされてしまいました。
兄弟、おれは強敵の攻撃を一撃は耐えられるくらいに成長したんだ。だからお前も精進しろよ――
おっさん復活!
恋人を連れて、今から泳ぎを教えに二人でイチャイチャしてやる。ニールはスマホを壊そうとしたがごめんね、それは管理神様から直々不壊属性をつけてもらってんの。いかに世界の一角であるお前とは言え、無理なもんは無理だからね。
「あなた、あたいと行くもん」
可愛い恋人から腕を組まれ、絡め合う指からのお誘いにどうして断ることができるでしょう。否、できるはずもない。
「ああ、平泳ぎを教えてあげるから見つめ合おうね」
「うんっ!」
おれからのお返し誘いにエティリアから最上の笑みがこぼれる。
だがその前にだ……
お前らあ! おっさんのバタフライを見たいか!
行くぞおらあっ!
ありがとうございました。




