なつのとくべつ編 そのいち 水着も見たいから夏休み
ちょっとだけ脱線して時間軸を少し先に進めます。
夏休み、それは特別な季節。
部活、バイト、恋愛、旅行と人それぞれの思い出が作られていく。
同人、マンガ、アニメ、ゲームとおれだけの夏を今でも思い出す。
うーん、よく考えみればそれらは別に夏でなくてもいいんじゃね?
社会人になってからは帰宅後、エアコンに冷かされた部屋で飲むビールがうまかったが、それも今は遠い昔の話。異世界には太陽が二つある上に夏に当たる灼熱の日照の季節である今はとんでもなく暑く、クーラーという文明の利器がない今、おれにどこも逃げれるところはありゃしない。
この際だ、夏の思い出をアウトドアでうさぎちゃんと作ってみよう。
記憶は大切。だれかがいなくなってもそれは心の片隅にほんのりと切なくて甘い、色褪せりのない景色となってくれる。たとえ、傍にいるのは同じ人じゃなくても。
「というわけでアラリアの湖へやって来ましたっ!」
「ほんっとうに焼き肉パーチーやってくれんだろうな」
おれのはしゃいだ声にニールも期待に満ちた嬌声で追従してくる。
そうなんだ。この広大にして壮大なアルス・マーゼ大陸は気が遠くなるほど大きく、内陸部に当たるアラリアの森から最寄りの海へ行くともなれば、それこそ地球で言うと馬車でユーラシア大陸の両端を横断するより遠い。思い付きだけで行けるものではありません。
モフモフ天国の前段階であるマッシャーリアの里の造成工事は、獣人たちの手によって急ピッチで進められている。おれが提案したこととは言え、来る日も去る日も働かれていることには閉口しそうになり、異世界はブラックさえびっくりする勢いでおれから労働力を奪い続けている。
これ以上働いてたまるか! そんなわけでおれは自主的に夏休みを取ることにした。
ムキムキ三人衆であるエイさんとムナズックにクップッケも一緒に行きたがっていたが、ムサ苦しい男どもをにべもなく一蹴した。
お前らはアホですか? ムキムキの筋肉が三人も集まって水辺で現れるとどういう絵図になると思っている? 暑さが倍増しておれが精神的に殺害されるわ!
ピキシー村長さんから同行するのは女性ばかりであると、舌打ちしそうなご指摘を貰ったが、そんなわけはない。ちゃんと男も連れて行くことは初めから計画されている。
エルフのエゾレイシアくん、兎人のサジペグスことサジくんがいないと女たちの給仕がどうなる? 全部おれがやらねばならないことは火を見るよりも明らか。そうなると動画を撮る暇がなくなるじゃないか、そんなバカなことをするわけがない。
「さて、これで全員が揃ったかな?」
麗しいニールは勿論のこと、兎人からはエティリアとその従姉妹のゾシスリアに元気少女のシャルミー。それに虎人で我がチームが誇る超剛速球投手のメッティアも加わっている。エルフからは絶世美人のネシアに建設の手伝いをしてくれているパステグァルちゃん。
あとはモフモフ天国でも教会を建てる予定なので、ネコミミ巫女元婆さんに視察を命じられて、ここに来ている神教騎士団のイ・プルッティリアもぜひ同行したいとしつこく申し出てきたから特別に許可してあげた。
なぜかかエイさんの奥さんであるラメイベス夫人も荷物を持ってちゃっかりその中に立っていて、そうなるとあいつらも必ずついて来ていると観念せざる得ない。
ゼノス最強の冒険者さん、双白豹ことセイとレイの美女コンビ。やっぱりついてきたのか。
「あら、あたいらを仲間外れにするなんて、アキラさんはそんな冷たい人だったかしら」
「...レイ、悲しい。アキラ無視する...」
「本当よね。アキラっちゃんに無下にされるなんて、涙に暮れちゃうわ」
「いやいやいや。しっかりと途中から付いて来ちゃってるんじゃないですか、なにを言ってるんだあんたたちは」
三人ともおれのお返しにクスクスと笑っているだけ、気にしているところはどこにも見当たることができない。まあいい、そんなこともあろうとちゃんと用意はしておいた。
「暑い灼熱の日照を楽しく過ごすには涼しくなる遊びが必要。そこでだ……」
おれはおもむろにアイテムボックスから、この日のためにアラクネの里で特別に仕立ててもらった品を取り出して、彼女たちに披露することにした。それはこの世界にないもので、おれが欠かさず週刊誌を買っていた頃に楽しみにしていたもの。
それは、水着だ!
「これを着て水遊びをしょうぜ!」
おれの手にある品々はみんなのスリーサイズピッタリであるはずの様々な女性用水着。無論、言うまでもなくおれの趣味全開でスマホにあるお宝画像コレクションを参考に、ダイリーさまが直々作ってくださったものばかりだ。
え? スリーサイズはどうやって測ったって? おっさんの眼力をナメないでほしい、スキルにはないがその程度を見破るのは造作もないこと。
言っておくけど当然のことであるが、それは敵の強さを測ることなんてできもしない。おっさんだけの役にしか立たない無駄な隠れ能力だ。
「おい、これ。生地が少ねえじゃねえか」
ニールさんはきちんと着替えてから文句を言ってきた。
うんうん、選択は間違っていない。そもそも抜群のプロポーションを誇るニール様には小技など無用、そこは三角ビキニの一択だ。それも黒じゃなくて白一色で、彼女のお胸様が遺憾なくはち切れんばかりと、今にもビキニを突き破ろうとしている。この世界一のものは超絶豊乳と書いて、たわわんと解くべき。くそー、その二つの山から目が釘付けだぜ。
「アキラさん、これは少しいかがわしくないのかしら」
「...アキラ、スケベ...」
ペアで現れて来たのは双白豹の二人。
元々おれを魅了していたスタイルを持つ美人シスターズはニール様に及ばなくても弾力に満ちたお胸様を所持している。そんな彼女たちにおれがチョイスしたのはホルタービキニだ。
成熟した女性の色香を漂わせている二人、薄めの白い体毛に赤いビキニが醸し出す大胆さのセイ、ちょっぴり恥ずかしげに身を屈めているが黒いビキニが白い肌をさらに見栄えさせる。いいねえ。ニール様ほどではないが、やはり二人のは紛れもなく揺れに揺れる巨乳だ。
「アキラさん、これは可愛いですね」
「そうよね、ゾシスっち。あたいもこれ気に入っちゃったよ」
「こんなのちょっと恥ずかしいよ」
兎人とエルフの少女たちにはセパレートタイプのタンキニを丹念に作らせた。胸元あたりはちょっと意匠を凝らせてフリルをつけて、若さと可愛さを前面に押した露出の少ない水着をアラクネの侍女さんに仕立ててもらった。
よし、予想した以上に三人とも中々可愛いぞ。
でへへ、きみたち、おじさんがお小遣いをあげようか?
「どうですか、アキラ監督」
わが超剛速球投手はなんといっても競泳用の水着、どう考えたってこれしかない。背中の生地は少な目のものだが、ぴっちりと身体をフィットするこのタイプは水の抵抗を最小限に抑え込んで、彼女の底なしの体力と桁違いの剛力をもってすれば、きっとアラリアの湖の対岸まで泳ぎ切ることができると思う。
まさにスポーツ少女にピッタリの一着。
え? 彼女のプロポーションを表現しろって? くっきりと割れている六つの腹筋をどう描写しろって言うの? もうね、筋肉にしか見えない胸部にある二つのポッチが辛うじて自分の性別を主張しているようなもんだ。ハイ次行こうか次。
「...アキラ、この胸に書いている文字はなんでしょうか...」
「アキラ殿。なぜかそこはかとなく悪意を感じているのは気のせいだろうか」
プププっ。おいでなさってくれたのは紺色のスク水を着用する、少ないお胸様のネシアにまったく胸が見当たらないイ・プルッティリア。
ネシアの胸にはゼッケンで丸文字の<ね・し・あ>。おれは中学生以来に三つ角のシカの毛で作った毛筆を振るって、ダイリーさまがそれを寸法違わずに縫い上げた渾身の作だ。
美人さんに可愛さを付け加えたその逸品は、中学校の頃に女子と合同で水泳したときのトキメキを思い出させてくれる。クラスで一番可愛い子がおずおずと女子の同級生と出てきた時に、男子どもから湧き上がる小さな溜息はいまでも耳にこだましている。
ああ、青春って、素晴らしいよね。
「アキラ殿、これはなんの呪文だろうか」
なぜでしょうか。
イ・プルッティリアが恥ずかしがることもなく、スク水越しとは言え、おれのほうにそのない胸部を張ってゼッケンを見せてくるのだが、喜びも嬉しさもなんの感想が思いつかない。女好きのおれにも不思議なことは起こるもの、やはり疲れていたのでしょうね。きっとそうだよ。
「なんでもない。お前の名前を書いたものだ」
「……本当かな」
なおも疑わしげに見てくるイ・プルッティリアに、おれはとにかく笑いをこらえるのに必死だった。彼女は揺れるものを所持していないんだからおれが気を使って、<イ・プルプル>ってゼッケンに付けてやってるから感謝してほしい。
胸が揺れないからせめて文字だけでもプルっとけ。
「やはり悪意しか感じないのだがな……」
ククククク、あー楽し。
「あらいいわねえこれ、なかなか気に入ってよ。ありがとうね、アキラっちゃん」
「いいえ、夫人におかれましては喜んで頂けたのなら何よりでございます」
ラメイベス夫人をマダムと呼ぶにはまだ早いと思うが、呼びたくなる気分なんだよな。
夏休みを企画しているときに、出来上がった水着を隠れてチェックしているところを勘のいい彼女に発見された。水着を見る目が燦々と輝いていたので、絶対にこれは付いてくる気だろうとローインタクシーでアラクネの里まで飛んで、ダイリー女王様に追加注文した甲斐があった。
薄い青色のオフショルビキニを上品に着込んだラメイベス夫人は、腰に巻いている長めでオレンジ色のパレオがその落ち着いた成人女性の色気をより映えさせている。
特注で作成したツバが広めの日除け帽子は、彼女をどこかの貴婦人のように引き立たせていて、年を取るとともにより美しくなるいい女の例がここにいました。
まあ、旦那はただの一騎打ちだけが芸の脳筋武士だけどな。
さあ、ラストを飾るはわが愛しき人。
考え抜いたうえでエティリアにはスカート付きでピンク色のワンピース水着を選んだ。子供の身長に大人の体付き、可憐さの中に女になった優艶な色気が混じり込んで、胸元を大きくVカットしたワンピース水着はまさに彼女の持つ魅力を引き出すための絶品。
「ど、どうかな?あなた」
水着のスカートに右手でつまむ恋人。無言になったおれはおもむろに彼女の左手を掴み取りと、ちょっと人気が少なさそうな岩場へ早足でいそいそと無言で歩き出した。
「ど、どしたもん?」
どしたもん? そうだもん、おれはモンモンしてきただもん。さあ、愛しいひとよ、ともに大人のパラダイスへいざ往かんモンモン。
二人で仲良く燃え燃え悶々!
ペシッ
「いってえええ……」
「発情してんじゃねえよてめえは!」
ニールに頭を手のひらで叩かれたおれは、その痛さで我に返ることができた。
ありがとう、ニール。
あやうく本来の目的を忘れるとこだった。おれはエティリアと思い出を作りたくてここに来た。二人きりで身体で愛を確かめ合うことは欠かせないが、それは今じゃない。もっと歓喜と情熱を高めてからじゃないと、思い出は深い記憶に刻み込められない。
先のままだと劣情の激流に飲まれていくだけ。本当に危なかったよ。
止めてくれてありがとう、ニール様。
滑らかにたゆんたゆんと揺らされている豊穣の象徴をどうもありがとう。あなたはこそが女神そのものです。たぶん戦神のあなたにできるとは思えないけど、どうか大地に恵みをもたらせて下さい。おれに眼福という最高級の恩恵を、これからもずっとお与え続けてくださいませ。
乳神メリジーさまあああっ!
「俺をそんな卑猥な名で呼ぶんじゃねえ!」
「ゲフッ!」
またもや声が出てしまったので、ニールに力加減のないケリで蹴られてしまった。めちゃくちゃ痛かったけど、わが青くない春に悔いは無ーし!
暑いですね。ということで夏休みです!
ありがとうございました。




