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第88話 無法者のヒャッハーさん

「アキラ様、買付けの件はわたしに一任させてください。必ず成果のほうを出させて頂きましょう」


「よろしくです、ワスプールさんにお任せができればこれほど心強いことはない。お金が足りないときは言ってくれ、なんとかモンスター狩りで素材を集めてくる」



 商人ギルドでワスプールとお茶しながら楽しい一時を過ごす。お茶の香りが部屋中に漂い、こんな素敵なティタイムもまかなかないことでしょう。ここにエティがいれば言うことはないけお、あいつがいればそれこそお菓子ばっかり食ってしまうのだろうな。



「それには及びません。規模は小さいなれど、わがワスプール商会にも多少の貯えがあります。アキラ様のお言葉をお借りするのですが、投資させて頂くということでお任せください」


「はっは。これはワスプールさんに一本を取られたな、投資ですか。はい、投資してください、儲けさせてあげますよ」


「いっぽんをとられたとはなにを取られるかは存じませんが、是非ともアキラ様の関連する人や仕事にわがワスプール商会を関わりを持たせてください」


「わかった、ワスプールさんとはいい関係で行こう」


 ワスプールはいちいちおれに語源を聞いて来ないところが嬉しい。そう言えば一本を取られるとは元々柔道や剣道などに対して使うことば、それを説明しろと言われたらおれも困ってしまう。



「ところでワスプールさんに人の行方を聞いてみたいですけど、わかるなら教えてほしいです」


「わかりました。存じ上げている範囲でお答えしましょう」


「クップッケという虎人の獣人を探しているのだが、以前にテンクスで働くとか言ってたからひょっとしてワスプールさんは知らないかなあと思って。あ、知らないのなら別にいいからな」


「クップッケという虎人の獣人ですか……虎人の獣人はここで珍しいですからね、ギルドで聞き込みして……あっ!」


 何かに気が付いたワスプールは急に沈んだ顔になって、バツが悪そうにおれの顔を伺うような表情を見せている。これはクップッケになにかあると言うことだな。



「ワスプールさん、どんなに悪い消息でもいい、なにかわかるなら教えてくれ。クップッケはおれの知り合いなんだ、力になってあげたい」


「そうですか……わかりました。以前に商人ギルドが仕事を仲介して、倉庫街のほうで虎人が働くことになりましたが、しばらくすると顔を見せなくなりました。担当した者が心配して倉庫街へ聞き込みに行きましたけれど、なんでもゼノスから来た無法者に騙されたらしく、ゼノスまで連れて行かれたということを耳にした覚えがあります」


 マジかよ。人族はどこまで獣人族を食い物にしやがる、クソが!



 険しくなったおれの顔を見て、ワスプールは心なしか、少しだけ後ろへ座り直している。



「わたしも獣人といことで心配はしていたのですが、聞き及んだところで虎人を連れて行ったのはゼノスでもかなり質の悪い無法者でして……」


 もう、我慢ならない。


 虎人の村が襲われたばかりなのに、家族思いの好青年のクップッケまでもが人族の毒牙にかかったというのか。いまからすぐにローインに頼んでゼノスへひと飛びだ。やったのがペンドル、お前らがやったのなら、あの時に当てなかった中級の水魔法を盛大にお見舞いをしてやるぜ。



「ワスプールさん、情報をありがとう。この借りはいつかちゃんと返すから食糧と開拓の道具はよろしくな」


 それだけ言い残すと、おれはワスプールの返事を聞かないまま外へ出ることに急いだ。もうテンクスの郊外まで行くのも惜しい、陰の日の今ならどこかの人気がない路地裏でローインを呼んでゼノスへ急行する。




「ペンドル! 貴様に聞きたいことがある!」


 都市ゼノスにつくと路地裏に着地すると、おれはペンドルたちがたむろっている酒場へ全速力で駆けぬいた。酒場の中にはペンドルのほか、例のプーシルという大男が彼の横で控えている。



「おや? 人族のおっちゃんのアキラじゃないか。そんなに慌ててどうしたのかな?」


「澄ましてんじゃねえよ、人を探してんだ。わかってんなら今のうちに吐け! お仕置きは軽めで済ましてやるぜ」


「んだとてめえ、いきなり言い掛かりをつけてんじゃねえよ!」


 ペンドルが反応するより先にプーシルが彼の前に立ち阻んで、自分たちのボスを守ろうとしているのだろう。いつもの冷静なおれなら彼の勇気を褒め称えているのだろうが、いまは血が頭に上り、思わず手がククリナイフの柄を握りしめた。



「プーシル、下がりなさい。このままだと君たちを失いかねないからボクがアキラと話をつけるよ」


 ペンドルに言われたプーシルは嫌そうな顔をしたが、ちょっとだけ間を置いてからペンドルの後ろへ控えるように引き下がって行った。



「で、アキラのおっちゃん。ボクに何の話かな? ああ、人を探しているとか言ったね。だれなんだろうね」


 ペンドルは穏やかに笑っていて、その顔には侮蔑や嘲笑などの色合いはまったく見られない。その笑顔を見てから、おれも気持ちを落ち着かせようと深呼吸を一回だけした。


 怒るのは真実を知った時でいい、交渉は冷静が大事。



「悪い、怒鳴ってすまなかった」


「いいよ。アキラのおっちゃんがそこまで起こっているから大事な人なんだろうね。力になれるかもしれないから名や特徴を教えてくれないかな? 力になれればいいけど」


 この妖精(ノーム)はきっと色々と修羅場を見て来ているのだろうね、おれが激怒しているのも淡々として受け止めている。切羽詰まったときこそこういう冷静さが欠かせない。



 思い出せ、時空間が停止していたあの時のことを。この頃は人との交流にどうも感情的になりがち、それは悪いこととは思わないが落ち着きも必要だ。もしもクップッケが死んでいたら、ここで激高しても解決することはできない。


 思い出した。なにも動かないあの長く、人とは混じり得なかった孤独の時を。



「クップッケという虎人の獣人を探している。テンクスの町からここへ無法者に連れて来られたらしいが、なにか心当たりはないか?」


「テーのじいちゃん、なにかしらないのかな?」


 おれに聞かれたペンドルは隣で酒を飲んでいるお爺さんに声をかけた。



「ああ? 虎人の獣人だあ? 知ってるも何も、グァザリーのやつが前に良い労働力が手に入ったとかほざいたじゃねえか。今ごろ生きてるならいいがなあ」


 グァザリーとかいうやつのところにいることがわかったので、おれは身をひるがえして探しに行こうと思った。



「待ってよ、アキラのおっちゃん。グァザリーがどこにいうのかを知っているの?」


「ああ、そうだったな。教えてくれると助かる」


 ペンドルはおれの質問に首を横に振った。それを見た瞬間はキレそうになったがここは冷静、心を落ち着かせて、ペンドルが拒否したのには必ず理由がある。



「おや? 怒らないんだね。アキラのおっちゃんは大したタマだ、普通はそこで切れてしまうところなんだけどなあ」


「いいからわけを言ってくれ。切れるかどうかはそれ聞いてからにするよ」


「うん、わかった」


 ペンドルに手の合図でテーブルに着くように招かれ、おれは椅子に腰かけて、注がれた酒を飲むことにした。口に含むとそれは口当たりのいい、アルコール度の低い酒であることがわかる。



「グァザリーはこの頃スラムで勢力を伸ばしてきている若い無法者の集まりでね、殺し、犯し、騙し、脅かしと規則なしでなんでもやる奴らなんだ。ボクも頭を痛めているところだよ」


「そうか。それならクップッケの扱いによって、あいつらが悪行をやるのはこの陰の日までだ。次の陽の日の朝陽を見ることもないだろう」


 無法者がなんだ、ちょっと人より力強いからってなんだ、人では絶対に逆らえない存在を見たこともないやつらに地獄というものを拝ませてやってもいい。



「アキラのおっちゃん。この街にもしきたりというのがあってね、その虎人のクップッケさんが見つかったら連れて帰るのはおっちゃんの好きにしていいから、グァザリーのことはボクに任せてくれないかな? 無法者には無法者の決まりもあるからね、面倒くさいけどね」


「クップッケが生きているならそうするよ。死んだというなら……」


 おれの凄味にペンドルは酒杯を掲げてから一気に飲み干した。



「うまいなあ、これ……うん、そのときはアキラのおっちゃんが暴れてもいいよ。それなら仇討ちと言うことで片が付くよ」


 おれとペンドルが同時に立ち上がる。これからペンドルとその手下がグァザリーの所まで同行して、クップッケの生死を確認してくれるのだろう。




 そこは今にも崩れ去りそうな倉庫の中、よくもこんなところに本拠を構えたものだ。ヒャッハーしている少年や青年たちは命が惜しくはないのかな。ああ、惜しくないからこんな綱渡りの人生を送っているのか。



「ああ? なんだおめえら。ペンドルとかいうガキじゃねえか、俺らにやられにきたってわけか? ぎゃははははっ!」


 ものすごく下品そうなヒャッハーさんが横に浅い谷間を見せている同じく下品そうな少女を抱きしめ、少女から酒のご奉仕を受けているところだ。



 手下たちは腰に剣をぶら下げて、顔中に入れ墨を入れ、おれとペンドルにプーシルを取り囲むように威嚇してくる。その中心人物であるグァザリーは、少女の胸部をしきりと揉みながら酒を飲み続けている。



「人を探している、クップッケという虎人の獣人だ。お前の所にいると聞いた」


「ああ? 知らねえよ、言い掛かりをつけんじゃねえぞ! てめえ、殺すぞ!」


 どうしょう、ヒャッハーさんが顔をゆがませてなにやら無法者っぽい顔を作っているのだけど、全然こわくないんだ。ここは笑いどころじゃないよな。



「お前にクップッケは借金があると聞いた、それを払ってやってもいい。その前に……」


「ああ、なんだ? やるってのか!」


 おれはこの場にいる女たちに指をさしてから凄んでくるヒャッハーさんに言葉をかけた。



「女どもを追っ払え。野郎の話し合いに女が邪魔してるじゃない」


「俺がてめえの言うことを聞くわけがねえだろうがよ、ほざいでろや!」


 そこからおれとヒャッハーさんとのにらみ合いが続いた。こういう場合は目を逸らした奴が負けのだけど、どうしよう、ヒャッハーさんが目や口を怖いだろうと歪ませているのだが、面白すぎてこみ上げてくる笑いの衝動を我慢するのが大変だ。




「……チッ。おいお前ら、今は出て行け。これが済んだらまた呼んでやるからよ」


 おれの予想ではここにいる女たちが、ここにいるヒャッハーさんたちと会うことはもうないだろう。ペンドルが少年だからと言って、笑って許してくれる時期はもうとっくの昔のこと。引き際を間違うと、命と引き換えになることだってある。それが少年であるからと言って、この世界では免罪符にはならないでしょう。



「おい、おっさん。てめえの言う通りにしてやったぞ、借金返済といこうじゃねえか、ああ?」


 少女たちは立ち去るのを嫌がっていたが、ヒャッハーさんにケリを入れられるとそそくさとこの場から全員が消えていた。



「お優しいだね、アキラのおっちゃんは……君たちも助けてもらった命を大切にね」


 少女たちが去るときにペンドルが小声でつぶやいているのが聞こえた。このやろう、やはり皆殺しにするつもりだったんだ。ペンドルはおれのほうを見ると、無法者には見えないあどけない顔に可愛く微笑みを見せている。



 みんなはそのなりにだまされているだろうが、この妖精(ノーム)は絶対におれなんかよりもはるかに年上であることは気付いているからな。


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