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限界超えの天賦《スキル》は、転生者にしか扱えない ー オーバーリミット・スキルホルダー  作者: 三上康明
第2章 悪意の真意は懇意の中に。少女の黎明と父の冷血と。

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 手が伸びてきて、僕の頭に載せられた。


「大きくなったな。4年も経てば当然か」

「……ダンテスさん」


 動かなくなったウロボロスの骨の前で、ダンテスさんが僕の頭をくしゃくしゃとやる。


「レイジくん!」

「うおあ」


 横から、タックルするようにしがみついてきたのはミミノさんだ。いくら僕のほうが背が大きくなったとは言っても、ミミノさんとは少ししか違わない。


「もう、もうっ、捜したんだぞ! ずっとずっとずっと!」

「す、すみません……僕もいろいろあって」


 ミミノさんたちにはなにも告げられないままお別れとなっていた。もちろん僕だってそんな恩知らずな真似をするのはイヤだったけれど、あのときはそうせざるを得なかった……ラルクのことがあったから。

 クルヴァーン聖王国での星6つ天賦珠玉の扱いを考えるに、ラルクが手にした【影王魔剣術】はとてつもない価値を持っているものだろう。

 はー……今ごろラルクはなにしてるのかな。

 ともあれ、キースグラン連邦は今でも【影王魔剣術】の天賦珠玉を追っているだろうし、「銀の天秤」のみんなには変に情報を明かすわけにはいかなかったのだ。僕やラルクとグルだと思われたら迷惑を掛けてしまうから。


「今はなにをしてるべな? 服は上等っぽいし——あ、ケガは!? ケガはしてない!? 血がついてるじゃない! ノン、すぐに【回復魔法】——あだっ」


 後ろからやってきたノンさんがミミノさんの頭にチョップをくれていた。


「レイジくんは血こそ流してますけど、外傷はないようですよ。ね?」

「あ、はい——」

「うふふふ。【回復魔法】まで使えちゃうんですかねえ。すごいですねえ、レイジくんはこの4年でいったいどこまで成長したのか……うふふふ」


 ノンさんの笑い方が怖い!


「——あそこだ!」

「——もう戦闘終わってねえか?」

「——マジだ。なんだよあのデケエ骨は!」


 通りの向こうから多くの武装した冒険者たちが駈けつけてくる。すでに戦闘終了だとわかると、ガッカリしたような、骨の巨大さを見てホッとしたような顔だ。


「お前らが仕留めたのか?」


 腰に二振りの剣を佩いた冒険者に聞かれ、ダンテスさんは鷹揚にうなずいた。


「なんだよ、抜け駆けはずりぃぞ!」

「ったくヨソ者がよぉ」


 彼らはこの街の冒険者らしく、「銀の天秤」が倒してしまったことを妬んでいるみたいだった。


(いやいや、抜け駆けって言ったって、ダンテスさんクラスじゃないとまともに戦うことだってできないでしょうに……)


 僕が少々ムッとしていると、ダンテスさんが、


「俺たちはすぐに飛びだしてきてしまったが、ふつう、冒険者はギルドに1回集まって行動するからな。それに市民の避難を最優先にするし」


 と教えてくれた。


「でもどうしてダンテスさんたちはこんなに早く?」

「ノンが『今すぐ行きましょう』って強く言ったからな……こいつは、こういうときの勘が鋭いんだ」

「うふふふ」


 その笑い方怖いですノンさん。


「——隊長、バケモノは沈黙しているようです」

「——なんだと!?」


 今度は逆の通りから馬を走らせてきたのは50騎からなる聖王騎士団だった。

 今度は見知った顔があるな——あれはたぶん、第11隊だ。


「全体停まれ!!」


 馬上から僕らと、冒険者たちを見下ろして第11隊隊長が言う。


「これを倒したのはお前たちか」

「ああ、そう——」

「これは冒険者ギルドの手柄だ!」


 さっきダンテスさんに話しかけてきた男がそんなことを言い出す。


「騎士団があとから来て自分たちの手柄にするんじゃねえぞ!」


 すると「そうだそうだ」と他の冒険者たちも声をそろえる。


「ほんとうにお前たちが倒したのか? これほど巨大なモンスターを?」

「そうだっつってんだろ。騎士団は引っ込んでろ」

「引っ込むわけがないだろうが。この巨大蛇は第2聖区から破壊してここまで来ているのだぞ。我らが素材を引き取る」

「なんだと!? バカを言え、これは冒険者の取り分だ!」

「一度、騎士団が接収し、それから公平に分配すると言っているのだ」

「ピンハネするだろうが!」

「なにを。黙って言わせておけば!」


 やいのやいのと言い合いが始まっている。


「…………」


 僕はと言えば、それを冷めた目で見ていた。なんだか疲れがドッと噴き出してきたというのが本音だ。まあ、そりゃそうだよね。緊張の糸が張り詰め続けてたし、多くの人の命が掛かって——もちろん僕の命すら危ういところもあった戦いだったわけで。

 それを、誰の手柄がどうとか、心底どうでもよかった。


「ミミノさん、ダンテスさん、ノンさん。まだこの街に滞在しているんですよね? 僕、今スィリーズ伯爵家にお世話になっているので、一度戻らないといけません」

「そうなの? 伯爵家? はぁ〜、レイジくんてばすごいところにいるんだねえ」

「レイジ。俺たちは『銀橘亭』という宿にいる。必ず連絡してくれよ——お前から受けた恩を返すまでは死なないと決めたんだからな」


 ダンテスさんが右手で左肩をパシンと叩く。戦っているのを見てわかったけれど、石化は完全に治っているようだ。


「じゃあ、また後日」

「必ず連絡してよね、レイジくん!」

「そうですよ。お父さんなんてレイジくんに再会できたらアレをしてやろうコレをしてやろうってずっと言い続けてたんですから」

「……それを本人の前で言うのか、娘よ」


 なんだかそこまで言われてしまうとこっちもこそばゆい。

 僕は騎士団と冒険者たちが言い争っているのを横目に、骨だけになったウロボロスの頭に飛び乗るとショートソードを引き抜いた。


「うん……? お前は、掃除係ではないのか?」


 隊長が僕に気がついた。


「はい」

「まさかとは思うが、お前がこの巨大蛇にトドメを?」

「は——」

「——そんなワケねえだろ! ガキだぞ、こいつは。俺は遠目に見たが、とんでもなくデカイ蛇だった」


 横から冒険者が口を挟んでくる。

 やれやれ——この剣も酷使しちゃったし、新調しないとかな……とか思いつつ、剣を鞘に戻して僕は飛び降りた。


「それじゃ、また」

「ああ」

「まただべな」

「必ず連絡してくださいね〜。前科があるので疑ってますよ〜」

「あははは……」


 ノンさんにはかなわないな、と思いながら僕は「銀の天秤」に背を向けた。




 それから、第2聖区の伯爵邸に戻るのにだいぶ時間が掛かってしまった。ノンさんの【補助魔法】が切れたのも手伝って、身体に疲労と気怠さが押し寄せたのだ。戦いのせいで僕の見た目はだいぶぼろぼろになっていたし、伯爵家の人間だとわかる証明であるポーラータイの留め具を落としてしまっていた。

 なんと助けてくれたのはゼリィさんである。ゼリィさんは僕が落としたのをめざとく見つけ、拾っておいてくれたらしい。「これで貸し借りなしっすね!」とか言っていたのだけど、さすがに借金の額と比べたらたいしたことはないんですがね? それでも1割くらいは減らしてあげてもいいかなと思えるほどには僕も疲れ切っていた。あとウロボロス戦で全然手伝ってくれなかったよねと聞いたら「あんな超人と怪物の戦いに割って入るほど命知らずじゃないっす!」といい笑顔で言われた。

 伯爵邸に戻ると、すでにお嬢様は在宅だった。僕の姿を見て小さく叫んだお嬢様はあわてて駈け寄ってきた。僕は正直に、死力を尽くしたけれど、全員を守れずごめんなさい、と伝えた。それを聞いたお嬢様は、目から涙をぽろぽろとこぼして——調停者との戦いのときにも懸命にこらえていたのに、そのときばかりは涙をこぼして——僕の頬を両手でつかんだ。


「わたくしはバカな主なのだわ」


 お嬢様の手は柔らかくて、すべすべしてて、温かい。


「愚かな指示を出してあなたを死なせるところだったのね」


 僕は否定したかった。お嬢様は12歳にしては信じられないくらい賢いし、気丈で、カッコイイ。それに僕だってイヤだったら断るし、お嬢様のために働くのは、今は、結構楽しい。だけれど僕はだいぶ疲れていたし、つかまれたほっぺたが温かくて気持ちよくて——そのまま眠りに落ちてしまったんだ。ああ、お嬢様、魔瞳は大丈夫なんだろうか、とか、そんなことを考えながら。


 ……僕が眠っている間に第1聖区と聖王宮で、もう1つ大きな騒動が起きていることも知らずに。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 能力的には真逆に近いですが、レイジ君はなんだかノロット君を思い起こさせてくれます。 とても素敵な主人公です。
[一言] 伯爵出番です!今こそ魔眼で誰が倒したかはっきりさせちゃってください!
[良い点] 「うふふふ」  その笑い方怖いですノンさん。 [一言] 黒きG退治の宣伝をしてる薬@丸ひろ子さんの顔が浮かびましたわ^^;
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