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限界超えの天賦《スキル》は、転生者にしか扱えない ー オーバーリミット・スキルホルダー  作者: 三上康明
第2章 悪意の真意は懇意の中に。少女の黎明と父の冷血と。

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 いや、今、え? 急にいろんな情報が入ってきて頭がパンクしそうなんだが?


「意味不明だ。そんで、俺たちはどうすりゃいいんだ」


 辺境伯も僕と同じで理解できていないようだけど、さらっと流してしまった。

 その割り切り、まさに武人。確かに今ここであれこれ考えている余裕はないんだけど。


「破棄は、いまだ成立しておりません。え、かの調停者をこの場で葬ることが最優先です」

「——辺境伯! 立ち上がりますよ!」


 僕は向こうの暗がりで、調停者がゆらりと立ち上がるのを見た。


「じゃあ、徹底的にぶっつぶしゃいいんだな」

「え、さようでございます」

「よし——そんじゃ小僧、もうちっと共闘と行くぞ」


 僕はうなずいた。

 もとよりそのつもりだからね。


「……後は」


 ちらり、と辺境伯は後ろを見やる。

 そこにいたのは呆然としている聖王だ。


「目ェ覚まさねェかグレンジードッッッ!!!!!!」


 その大声は、音の波となって聖王を揺らした。


「一度や二度の間違いで膝ァつくな!! お前は、お前こそが、この国のテッペンだろうがァッ!!!!」


 あまりにうるさくて僕は耳を塞いでいたけれど、聖王の目には——光が戻りつつあった。


「……俺が、この国の」


 ほろりと、一筋の涙が頬を伝った。

 聖王は拳で目元を拭う。


「懐かしい名前で呼ぶんじゃねえよ……」

「……お前が、昔を忘れちまったようだからだろうが」


 グレンジードは、聖王が昔持っていた名前なのか。聖王に即位すると同時に名前はなくなるから。

 辺境伯はそのころから聖王とは友人だったんだ。


「俺が、聖王だ」

「そうだ。お前が聖王だ」

「俺が、この国を率いるのだ」

「そうだ。お前がこの国の指導者だ」


 僕は、それまで聖王という人間を見誤っていたのかもしれない。

 人間味があって、おおらかで、クルヴシュラト様を可愛がる。そんな「よき父」としての側面しか見ていなかった。

 だけれど今の聖王はどうだろう。


「——エル、あのバケモノを殺すにはどうしたらいい」


 調停者が純粋なる闇だとしたら、聖王が身に纏っている空気は——殺気(・・)は、人が持つ原罪の闇。あらゆる破倫さえも厭わない、君主としての傲岸不遜。立ちふさがるものをすべて蹴散らす血塗られた覇道。

 負の感情を煮詰めたような気配に、僕は思わず気圧されたのだった。


「これを」


 エルさんが差し出したのは古ぼけた小さなナイフだった。


「調停者の身体に突き立ててください」

「わかった。——行くぞ、辺境伯、それに小僧」


 すっかり僕も、頭数に入っているようだ。


「この国にケンカを売ったことを、バケモノに後悔させてやる」




 復活した聖王は圧倒的だった。調停者へとためらいなく踏み込んで行くと、ナイフを振るうどころかパンチの連打をお見舞いしていく。調停者は明らかにナイフを警戒しているのでパンチが面白いように決まっていく。

 そして転がっていた金色の錫杖をつかみ上げると片手でぶん回して調停者の身体にめり込ませると、調停者は「く」の字になって飛んでいった。


『ヌアアア!』


 転がった調停者の身体から何本もの腕が生えて襲いかかってくるが、その巨体に見合わぬ軽いステップですべてをかわしていく。いくつかの攻撃が地面をえぐり、床を割った。

 その間に辺境伯が叫ぶ。


「聖王騎士団! お前らじゃあ話にならん! 貴族の避難を支援しろ!」

「し、しかし——」

「バカ野郎、言うことを聞け!」


 聖王騎士団の動きは精彩を欠いていた。一応第1隊は精鋭ぞろいのはずではあるのだけれど——あそこに倒れている、すでに亡くなっているであろう騎士団長の死がこたえたのかもしれない。いずれにせよ「これが国のトップ? 武闘派トップではなくて?」と思ってしまうほどにキレッキレの聖王にはついていけなさそうだ。


「辺境伯! 今日は見学か!?」

「——フッ、戯れ言を」


 聖王に挑発され、辺境伯が聖王と調停者との戦いに割って入る。


「どらああああ!!」

「ふぉああああ!!」


 う、うわぁお……巨体に挟まれてボコボコにされる調停者がかわいそうに見えるほどだ。このふたりなら竜相手にもイイ線いけるんじゃないだろうか。


「ッ!」


 そのとき【森羅万象】が闇の中で魔力が膨張するのを捉えた。


「反撃が来ます!!」


 すかさず聖王と辺境伯は調停者から距離を取る——その直後、ボンッ、という音とともに無数の黒い針が、ウニのように展開した。


『下劣デ脆弱ナ世界ノ民ガ……調子ニ乗ルナァァァ!』


 針が全方向に射出される。聖王は錫杖を回転させて吹き飛ばし、辺境伯は宝剣で斬って捨てる。僕は、いまだ避難中の貴族たちの前へと飛んで【風魔法】で射線を変えて当たらないようにする。

 パッと見るに、スィリーズ伯爵がお嬢様を連れて行ってくれたようだ。


『盟約ハスデニ破棄サレタノダ、後戻リハデキヌ!!』

「いいや、破棄はしてねえな……お前が破棄を宣言する直前に、あの小僧がここに穴を開けた。もうここは、こっちの世界(・・・・・・)だ。裏の世界(・・・・)との『中間地点』ではなくなっている」

『ヌ、ヌヌ、ヌヌヌ……!!』

「そして現にお前は『盟約の束縛』を失い、俺たちの攻撃に苦しめられている」

『ヌヌウ!!』

「さっさと裏の世界へと帰れ!!」


 聖王が踏み込んで錫杖を振り下ろす——瞬間、


『盟約ヲ軽ンジルナ』


 調停者の両手が錫杖をつかむ。金色が、どんどん黒に侵食されていく。


「聖王——!! 気をつけてくだされ! まだなにか隠し持っていそうですぞ!」

「大丈夫だ。どうせこれで終わりだ!!」


 膠着しているのかと思ったら、聖王は半身を滑らしてナイフを調停者の胸に突き立てる。


『グヌウ』

「死にくされ!!」


 ナイフが白の閃光を発し、調停者の闇を切り裂いていく。

 大気が震え、地面が揺れる。

 倒したのか——と思ったのだけれど、僕の【森羅万象】は見た目とは違う、ネガティブな観測をしていた。


「陛下、離れてください!」

「あん? コイツはもう死ぬ——」

「いいから!!」


 僕は【疾走術】で突っ込むと聖王の身体にタックルするように突き飛ばす。

 ふたりでもんどり打って転がっていくと、


「て、てめぇっ、いい度胸じゃねえか。この俺様を倒すたぁ」

「伏せて!!」


 いまだに元気な聖王の頭をつかんで、僕は地面に伏せさせる。


『闇ヨ、門ヲ開ケ。光ヨ、道ヲ開ケ』


 光に耐えかねたように、調停者の身体が小さな破片になって燃え上がる紙片のように中空に消えていく。だけれど、それと同時に火の玉のような黒い塊が身体に渦巻いている。

 その塊はギュルルルルと高速回転しており、発射準備を整えているかのようだった。


「あ——」


 それは避難しようとしている貴族の最後尾だった。聖王騎士団に追い立てられるように逃げていく彼らへとその塊は向いていると【森羅万象】が分析する。

 ドームからの出口には聖王騎士団だけでなく、遅れてやってきた護衛たちの姿もあった。


(ミミノさん——)


 一瞬、見間違えた。

 レレノアさんも避難誘導に協力している。もしこの塊が直撃したらどうなる?【森羅万象】によればその塊は、超がつくほどの高エネルギー塊であるという。

 人の身体など、木っ端微塵になる。


「っく!!」


 無理な体勢から僕は走り出す。

 黒い塊が飛び出す——。


 ——わたくしたち全員を、守るのだわ。


 お嬢様のオーダーは、「全員を守る」だ。

 ここで、それを思い出すかよ、僕!!


「うおおおおおおおお!!」


 スピードが足りない。無意識に【補助魔法】を使用してスピードを上乗せする。僕は手に持った石を、黒い塊の側面に叩きつける。

 それは刹那の出来事だ。

 ギギギと音がして石が火花を散らすのさえスローモーションに見えた。

 ヒビが入って砕け散った石。

 黒い塊を止めることはできなかった。

 それでも——向かう先は変わった。

 貴族たちが集中する場所の10メートルほど横に飛翔したそれはドームを易々と突き破ると衝撃波が円形に広がってドームを破壊していき、さらには近くの騎士を吹っ飛ばす。

 塊は聖王宮へと飛び出すと木をえぐり、砂埃を舞い上げ、第1聖区とを区切る「1の壁」に到達。

 それすらも易々と貫通するや、第1聖区最大の建物である聖王議会の中央階段をえぐり、突っ切り、「2の壁」に衝突——したところでエネルギーが爆発的に増大し、外側へ向かって派手に吹っ飛んだ。


「なん、なんだ、あれは……」


 ドン、という音と、震動が僕らのところまでやってくる。

 聖王が、塊の通り過ぎていった一直線の道をにらんでいる。

 すでに調停者の痕跡は残っておらず——そこには冷たくなったルイ少年が横たわっているだけだった。

 ドームの頂点から闇が引いていき、ものの数秒で周囲は明るくなっていく。


「終わったのか……?」

「——いいえ」


 僕の【視覚強化】が捕捉しているのは立ち上る闇の気配。


「まだ、続きがあるようです」


昨日ラジオ聞いてたら「外出しないゴールデンウィークになりそうですが、こんなのは一生に一度だけにしたいですね」って言ってて、ああ、なんだかそのとおりだなぁとか思いました。

みんな家にこもってて偉い。みんなでお互いを褒め称えるべきだと思う。みんな偉い。こもってて偉い。強制力ないのにこんなにみんなこもってるんだもんな、ほんとにすごいことですよ。

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― 新着の感想 ―
王様が発端の事件なのにやたら偉そうだなww いざというときに戦えない精鋭騎士団さん 滅ぶべくして滅ぶのでは?力技で事件解決しても隣国にやられそうなくらいへっぽこじゃん
[一言] 「俺が、聖王だ」 「そうだ。お前が聖王だ」 「俺が、この国を率いるのだ」 「そうだ。お前がこの国の指導者だ」 「俺が、俺たちが、ガンダムだ!!」 「そうだ。お前達がガン・・・????」
[良い点] 表現が令和に合ってるんでしょう。キレッキレ。 〉聖王騎士団の動きは精彩を欠いていた。一応第1隊は精鋭ぞろいのはずではあるのだけれど——あそこに倒れている、すでに亡くなっているであろう騎士団…
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