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限界超えの天賦《スキル》は、転生者にしか扱えない ー オーバーリミット・スキルホルダー  作者: 三上康明
第2章 悪意の真意は懇意の中に。少女の黎明と父の冷血と。

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   *  エヴァ=スィリーズ  *




 倒れ伏した騎士団長の背中から、ポヮ、と虹色の光が浮かんでくる——それは天賦珠玉の光だ。【聖剣術】の光だ。

 闇が手を伸ばし、光を絡め取ると、小さく硬質な音を立てて光は散って消えた。


「あぁ——……」


 誰かがため息ともつかない声を漏らす。この国最高の天賦珠玉が今、消え去ったのだ。


(どうしてこんなことに)


 いったいなにを間違えてこうなったのか。

 自分がなにか致命的な失敗をしてしまったのか。

 ただすべての歯車が少しずつ間違えて、この結果を生んだのか。


 ——エヴァ嬢。


 ぐいぐいと距離を詰めてくる、犬のような少年だった。

 それが今はあんな姿に変わってしまっている——その残虐な事実にエヴァは目を背けたかった。


「ミラ、ここか」

「——お父様!?」


 すぐそこへ、巨大な気配がやってきていた。

 ミラの父である辺境伯だ。


「暗くて足元が見えねえな」

「こ、これはいったいなんなんですか!」

「俺が知るわけねえだろ。ただ、状況はよくねえな」

「どうするの……?」

「とりあえず武器が必要だ——おい、誰か剣を貸せ。ん、まあぼちぼちだな」


 近くにいた貴族の男子から剣を巻き上げたらしい辺境伯は、


「距離を取るぞ、とにかく離れろ。あのバケモノの相手は陛下とエルに任せるしかねえ」

「——しかし、辺境伯閣下。臣下の我々が逃げてもいいのでしょうか」


 エタンが聞いている。


「勇敢なのは結構だが、戦う力を身につけてから言うもんだ。それにお前たちの仕事はクルヴシュラト様をお守りすることだ」


 そう、ここにも聖王子がいる。エタンはハッとしたように、


「そのとおりです。失礼しました。——クルヴシュラト様、なるべく離れましょう」

「…………」

「我々になにかできることはありません」

「そう……でしょうか?」

「えっ?」


 そのとき優しげなクルヴシュラトの表情が引き締まった。


「……あの天賦珠玉は、我が授かるはずのものでした。であれば我ならばなにかできることがあるのではないでしょうか?」

「そ、それは……」


 誰にもわからないが、あり得るかもしれないと思わせるには十分な内容だ。


『ソノ通リダ』


 いつの間に——距離を詰められていたのか。石段を降りたことさえわからなかった。

 聖王子の5メートル先に闇がいた。


(また、このニオイ……!)


 暗闇だというのに、闇はなお暗く感じられる。そこから生ぬるい風が吹いてきて、焦げ臭いニオイが周囲に充満した。


『古ノ盟約ニ従ワナカッタノハ、其方ラダ』


「盟約」、などという言葉にエヴァは聞き覚えがない。

 だが向こうはその「盟約」とやらに重きを置いているらしい。


『代償ハ大キイ。先ホドノ天賦珠玉ハ盟約不履行ニヨリ消滅サセタ』


 先ほどの天賦珠玉——それは【聖剣術】のことだろう。

 星6つの天賦珠玉が、長年に渡って受け継がれてきた希少中の希少である天賦珠玉が、騎士団長の死とともにいともたやすく消し去られたのだ。

 物言わなくなった騎士団長のそばで、聖王が膝をついている。自信満々で尊厳の塊であったようなこの国のトップが、うちひしがれている。【聖剣術】が効かなかったこと、それに騎士団長の死が心にこたえたのだろう。

 だが、


『マダ足ラヌ。其方——盟約ヲ負イシ一族ダナ。嗚呼、嗚呼、嗚呼……同胞ガ叫ンデイル、聞コエルカ、其方ガ美味ソウ(・・・・)ダト、叫ンデイル……』


 闇が、クルヴシュラトへと歩き出そうとしたとき、聖王は弾かれたように立ち上がった。


「クルヴシュラトに手を出すなァァァァ!」


 ぶん投げた錫杖が闇の後頭部目がけて飛んでいく。振り返った闇はその錫杖を受け止めると、ビリッと鈍い金色の電撃が周囲に跳ねた。


「貴様らは、聖王家の血を未来永劫吸い続ける気か!!」


 がらん、がらがらがら、と錫杖が転がっていく。


『下ラヌ。ナラバ盟約ナド破棄スルガヨイ』

「望むところ——」

「陛下! お待ちください!」


 エルが後ろから聖王に抱きついてその場に留める。


「かの世界の者どもの罠です! 連中は、盟約の破棄こそ最も望むこと!!」

「盟約に縛られてるからこちらの攻撃が、聖剣が弾かれたんだろうが! 盟約を盾にして連中はああやって好き勝手やっているんだぞ! すべての枷がなくなれば、我が聖王騎士団が裏の世界(・・・・)の連中など滅ぼしてくれる!」

「陛下!! あなた様は我が子かわいさに、思考が曇っているのです!!」

「うるせえ!! かりそめの命(・・・・・・)しか持たぬ貴様になにがわかる!」


 エルは突き飛ばされ、背後にごろんと転がった。


『盟約ヲ、破棄スルノダト宣言セヨ』

「ああ、そんなもんいくらでもしてやる——俺は、クルヴァーン聖王国の王として」


 なにか、マズイ。

 今目の前でよくないことが行われようとしている。

 エヴァは震える喉に力を込める。

 止めなければ!


「だ、ダメ——ッ!?」


 闇がこちらを見ていた——いや、そこにあったのはルイの顔だった。生気のないルイの顔が闇に浮かび上がってエヴァを見ていた。「なぜお前はそこにいる」「なぜお前は俺の背中を押した」「なぜお前は生きている」——そんなふうに言われた気がして、エヴァの勇気が急速にしぼんだ。


(わたくしでは、ダメなのだわ。わたくしには、なにもできないのだわ。わたくしなんて、結局は貴族という身分がなければなにもできないただの子ども——)


 恐怖に胸を衝かれ、エヴァはその場にへなりと、座り込んでしまった。

 ついに、聖王はその言葉を発した。


「盟約など破棄してやるッ!!」


 けれど、エヴァは心に叫ぶ。


(助けて。助けて。助けて、レイジ!!)


 そして、闇が嗤った。


『ソノ言葉、聞キ入レ——』


 だが最後まで闇が言い切ることはなかった。

 ガラスが割れるような大きな音とともに、光が射し込んだのだ。


「うおおおおおおおおっしゃああああ!! 割れた割れた割れた! クッソ硬いんだよも〜〜〜!!」


 そこにいたのは、


「……ああ」


 今エヴァが、最も切望し、来て欲しいと願っていた——頼れる護衛だった。


「レイジ!」


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 人が死んでしまった。受け継がれてきたオーブが消えてしまった。ショック… きっと、この後の主人公つえーの演出を引き立てるためだと思うし、まだ謎だらけなので、原時点でなんとも言えないが、有…
[気になる点] レイジー! 早くなんとかしてくれー!
[気になる点] 深夜テンションで描いたのかなー、一章の時から気になってたけど重要なポイントなのに物語りに深みがないんだよな [一言] がんばれや
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