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限界超えの天賦《スキル》は、転生者にしか扱えない ー オーバーリミット・スキルホルダー  作者: 三上康明
第2章 悪意の真意は懇意の中に。少女の黎明と父の冷血と。

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 第1聖区にある護衛の詰め所は多くの護衛でごった返していた。「こんなところが控え室でいいのかなぁ」と思うくらいには立派な——華やかな外向けの宴会場みたいな大広間に、数百人という護衛がいる。

 テーブルには水差しや果実水(ジュース)の入ったピッチャーが置かれてあって自由に飲んでもいいことになっている。壁際にずらりと並ぶイスを適当に持ってきて、車座になっている護衛チームなんてのもいた。

 ここに来てから1時間はもう経っているだろう。マクシムさんたちは集まって休憩しているけれど、僕はふらふらと護衛たちを観察しながら時間をつぶしていた。

 聖王騎士団のようにきっちりしている制服なんてものはなく、マクシム隊長のように各家の騎士ならばそこそこまとまって見ることはできるけど、中には「え、この人、本気で護衛?」と二度見してしまうような人もいる。

 いや、だって、赤髪でモヒカンなんだよ?


「ここの飲み物は美味いねヒャッハ」


 とか言ってるのが聞こえてきて鼻水出るかと思った。「ヒャッハ」って語尾なの? 方言? 汚物の消毒係?


「スィリーズ家の護衛さん」

「ヒャッハ!?」


 いきなり肩に手を置かれて思わず「ヒャッハ」が出てしまった。鼻水も少し出たのであわててポケットからハンカチを出して拭う。


「ヒャッハ……?」

「あ、な、ななんですか!?」


 振り返るとそこにいたのはエタン様の護衛さん——ハーフリングの護衛さんだった。

 晩餐会のときと同じ鎧を身につけており、背にはエベーニュ家の紋章を刺繍したマントを羽織っている。

 6大公爵家は他の貴族家とは一線を画すような、お金の掛かった装備をしているのですぐにわかる。正直めっちゃカッコイイです。


(ハーフリングの女性を見るとミミノさんを思い出すなぁ……)


 と僕はそんなことを思っていた。


「私、エベーニュ家の護衛のレレノアだべな。名前を聞いても?」

「あ——はい、僕はレイジです。ご存じのとおりスィリーズ家で護衛をしています」

「ほーん、うんうん、君はやっぱりレイジくん(・・・・・)なんだべな〜」


 ん? そう言えばこの人、打ち合わせのときも僕に手を振ってくれたっけ。

 どこかで会った……わけはないよな。ハーフリングの人だったらミミノさんのこともあるから絶対覚えてるし。そもそも【森羅万象】をつけてるときだったら忘れることもできないし。


「もしかして僕のことを知っているんですか?」

「うん。実はな——」


 と言いかけたときだ。

 フッ、と停電みたいに室内が暗くなった。全員が全員天井を見上げたけれど、まだ朝の時間帯なので魔導ランプは使っていない。外からの自然光頼りなのだ。

 すぐにまた明るくなったけれど——つまり今、この瞬間に空が暗くなった(・・・・・・・)ということ。


「今のなんだったべな……ん、レイジくん、どうした?」

「……イヤな予感がします」


 あまりに不自然な暗さだった。今日は昨日までの雨がウソのように晴れているはず。だから、巨大な雨雲が太陽を覆った——ということは考えられない。

 胸がざわりとする。

 そう言えば、バーサーカーの辺境伯閣下も言っていたっけ……。


 ——今日はなんだか血が騒ぐ。


 野生の勘というのは当たるのだ。それが、命に関わることならなおさらだ。

 僕が窓際に駈けていくと、同じように窓から外を確認している護衛が数人いた。そのうちのひとりがアルテュール様だ。


「アルテュール様、今のは?」

「…………」


 僕が声を掛けると、外をにらみつけながら黙っているアルテュール様。視線の先は聖王宮だ。


「なにかお心当たりが?」

「……いや、まさかそんな……」

「アルテュール様!」


 僕の声にハッとなるアルテュール様は、ようやく声を掛けているのが僕だということを認識した。


「お、お前は掃除係の——」

「もしかして聖王宮でなにかあったんですか?」

「どうしたんだべな」


 レレノアさんが後からやってくるが、アルテュール様は口元に手を当てるだけで情報を出してくれない。

 今日は天賦珠玉の授与式があるだけだ。神事だというけど、毎年やっているものだし、なにか特別なことが起きるようなものならウチの伯爵だって事前に教えてくれるだろう。


(——特別なこと?)


 こと、ではないが、特別なもの(・・)ならある。


 ——クルヴシュラト様に授けられる天賦珠玉ですが、どうやら星7つ以上の可能性が濃厚です。


 特別な天賦珠玉。

 僕は星6つの天賦珠玉がどれほど強力なものなのかを知っている——「六天鉱山」でラルクが振るっていたあの力。瀕死だったとはいえ竜の首を一刀のもとに斬り落とす力。

 それが星7つ以上だったら?


「アルテュール様……もしや、クルヴシュラト様に授けられる天賦珠玉ですか」

「!?」


 傍目にもわかるほどにアルテュール様が驚愕の表情をする。


「お、お前、なぜそれを……」

「なんだべな? クルヴシュラト様はどんな天賦珠玉を与えられるんだ?」

「……いや、クルヴシュラト様が受け取れば問題なく済むはずだ。あれ(・・)そうして(・・・・)解決するものであると……」

「ちょ、ちょっと待ってください。クルヴシュラト様が特別な天賦珠玉を受け取ればなにが起きるんですか? 今のような暗さが?」

「それはわからない……」


 ずずん、と地響きがした。


「…………」

「…………」

「…………」


 さすがに護衛たちも異常を察知してざわつき始める。僕は、アルテュール様、レレノアさんと視線を交わす。


「——アルテュール様、なにが起きるかわからないのですね」

「あ、ああ……」

「ならば、今、不測の事態でトラブルが起きている可能性もありますね?」

「それは……」


 視線を泳がせたアルテュールだったが、


「……あり得る」


 そうして彼は、きっ、と顔を護衛たちへと向けた。


「みんな、聞いてくれ! 俺は聖王騎士団第2隊隊長のアルテュールだ!」


 ざわついていた会場内はぴたりと音が止んだ。


「詳しくはまだ言えないが、今日の天賦珠玉授与式でなんらかの問題が起きた可能性がある。それは聖王陛下とクルヴシュラト様が押さえ込む(・・・・・)予定のものだが、予断を許さない。すぐに行動に移れるようにしてくれ!」


 え。

 いや、ちょっと待って。


「——アルテュール様、なんですかその『押さえ込む』って」

「いや……今のは失言だ、忘れてくれ」

「なにか、ヤバイもの(・・・・・)が出てくるかもしれないとわかっていたってことですか?」


 僕の言葉に護衛たちがざわざわする。


「そんなことはない。そんなことにはならないはずだ」

「今の暗くなった外、それに地響き、明らかになにかヤバイことが起きてるじゃないですか!」


 と言ったときだ。


 ドォン……。


 遠くで、なにかが破壊される音が聞こえた。


(方角は聖王宮)


 そのときには僕は走り出していた。


「あ、待て、掃除係!」


 待つわけがない。僕は空いている窓から外へと飛び出すと、聖王宮への最短ルートを考える。


「こっちだべな」

「レレノアさん!?」


 すると僕の直後に出てきたレレノアさんが手招きする。

 ふたりで走り出す。

 建物の陰から出ると——すぐそこに聖王宮と第1聖区を区切る壁があった。


「あれを!」


 聖王宮の敷地内に、半球状の闇が出現していた。

 遠近感がわかりづらいが大きさは巨大なショッピングモールくらいはあるだろう。高さも50メートルはある。

 それが「異常事態」ではないと断じる理由はなにひとつなかった。


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― 新着の感想 ―
黒髪黒目が忌み子扱いされてるのって勇者が生まれるから魔王も生まれてくるんだ理論だよな 政治中枢がより嫌うのだって知識チートで引っ搔き回したと考えれば嫌われるのは必然
[一言] みんなちょっとずつ甘くてダメで人間クサい所が魅力的だね。
[良い点] ルイごめんな お前は悪くないよ 愚王だよわるいのは……
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