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限界超えの天賦《スキル》は、転生者にしか扱えない ー オーバーリミット・スキルホルダー  作者: 三上康明
第2章 悪意の真意は懇意の中に。少女の黎明と父の冷血と。

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   *  エヴァ=スィリーズ  *




 屋根のない巨大な神殿だった——森の小径を抜けた先は。

 ウサギに連れられた少年少女のひとかたまりの中に、エヴァもいた。目の前には5段ほどの階段があり、20メートルほどの広さで石柱が奥へと並んで立っている。石柱が支えるべき屋根はなく、そこには広く青い空が広がっていた。

 足元は、土から石の感触へと変わる。巨大な岩を切って造った、ひとつひとつが大きな石畳が続いている。石柱と石柱の間には初代聖王から始まる代々の聖王の石像があった。

 ぱらぱらぱらと小さな拍手が聞こえる。石柱の向こう、イスが用意されてあり、貴族たちが並んで座っているのだ。少年少女たちの親もそこにはいるが、彼らはふだんどおりの貴族らしい格好だった。

 貴族が多すぎてスィリーズ伯爵の姿は見えなかったが、そのどこかにいるのは間違いないと思われた。


(なんだか現実感がないのだわ——)


 つるりとした足元が映すのは青色の空だ。まるで自分が空中を歩いているかのようにさえ感じられる。

 進む先はまた階段があり、階段の踊り場には聖王が座るイスがあった。

 そして見上げたいちばん上にあったのは——灰色にくすんだ、祭壇。


(あれが「一天祭壇」……!)


 なんの変哲もないただの石の台にしか見えなかった。だがその周囲は魔術を込めたらしい宝石をはめ込んだロッドが等間隔に床に突き立っていて、煙のような青色の魔力が祭壇を囲んでいる。チカッ、と小さな光が祭壇に点るのが時折見える。それこそがまさに天賦珠玉が生まれる光なのだけれど、下から見上げる形ではよくわからなかった。


「え、皆様、ここで止まってください」


 エルに言われ、エヴァたちは立ち止まった。

 聖王に見下ろされ、多くの貴族に注視され、全員が居心地悪そうにしている。

 エルや神官たちは一礼するとそこから立ち去っていく。


「——古来より、成人となった臣民に、神から天賦珠玉を贈られる日は『晴れる』とそう決まっている」


 イスから立ち上がった聖王は、エルと同じ聖水色のマントを羽織り、身長ほどもある金色の錫杖を手に持っていた。


「古式に従い、そなたらに神の祝福を与える」


 シャラン、と錫杖が振られる。


「まずはそなたらが、天賦珠玉を受け入れる余地のある『無垢の者』であるかどうかを確認する」


 エヴァは足元がほんのり光を放ったのに気がついた——すると、


「えっ、えっ、なにこれ!?」


 獣人の少女の足元が、血塗られたように赤くなっている。小さな叫び声とともに、彼女の周囲にぽっかりと空間ができた。神官たちがすぐさま駈け寄ってくると、少女を連れて去っていく。


「や、やだ! なにこれ!?」

「——せ、聖王陛下! 娘は、生まれて間もないころに重い病気に罹り、その際、【免疫強化】の天賦を一時的に与えただけです! 治ったらすぐに取り外しました!」


 声を上げたのは娘の父だろう。母とともに顔を青ざめさせている。


「黙れ」


 だが聖王の眼光で黙らされると、そこにも神官がやってきてふたりを神殿から連れ出していく。

 それほどまでに厳しいチェックがあることをエヴァも知らなかった。ただ父が「天賦珠玉を与えるのは授与式の後です。それは絶対です」と言われていただけだった。

 獣人の少女が歩いた足跡は、血に濡れたように残っていて、みんな薄気味悪そうにそれを見ていた。


「……天賦は本来、人に1度しか与えられない。これをゆめゆめ忘れるな」


 聖王の声は、心から絞り出すようにさえ聞こえてきた。青ざめた少年少女たちは何人もがコクコクとうなずいている。


(そんなの、おかしいのだわ)


 しかしエヴァが感じていたのは「疑問」だった。

 人に1度しか与えられない?

 それならばなぜ、聖王騎士団の騎士団長は【聖剣術(ホーリーソード)】なんていうレアな天賦を代々受け継いでいく? なぜ、6大公爵家のうち5家は家宝のように大事にとっておく?


(建前に過ぎないのだわ。でも……聖王陛下は、なぜか本音を話しているようにも感じられる……)


 先ほど聖王が言ったとおり「無垢の者」——今までに一度も天賦珠玉を使ったことがないと、確認する術はあるのだろう。


(なにか、意味があるの?「無垢の者」でなければならない(・・・・・・・・)ことに意味が? でも今日の神事についてそんな話は一度も聞かなかった)


 ちらりと横を見ると、ミラも眉をひそめている。こんなことになるとは、当然知らなかったのだろう。やはりミラも聞かされていないと見える。


(お父様……)


 目で父を探すがやはり見つからなかった。もしかしたらここにはいないのでは——と思いつつ、


(……レイジ)


 心によぎった不安をなくしたくて、頼れる、ちょっと変わり者の護衛の名前を心で呼んだ。

 無意識に左手のブレスレットに手を伸ばし、


(——え)


 そこに、あるはずの宝石が欠けていることに気がついた。


(どう、して……!?)


 見れば、5つある宝石はすべて青色に染まっていた——つまりもうこれ以上、魔力は吸収できないという表示だった。

 どくん、どくん、と動悸が速まる。先ほど、四阿で少し眠って体調が戻ったと思ったのは間違いで——ブレスレットが限界を超えたせいで破損し、体内の魔力量が戻りだしただけだったのだ。


「……どうした、エヴァ嬢」

「!」


 心配そうに顔をのぞき込んだルイは、エヴァの瞳を真正面から見てしまった。

 未制御の、特別な瞳を。

 と、そのとき、ワァッという拍手が沸き起こった。聖王がこれから天賦珠玉の授与を始めると言ったせいだろう。


「ル、ルイ様……」

「——エヴァ嬢、なにも心配は要らない」


 頭を振り向けた先、彼の視線の先には聖王の姿があった。




「まずは聖王子クルヴシュラト、そなたに天賦珠玉を授ける」

「はい」


 澄んだ声で返事をした彼は、まだ声変わりもしていなかった。可愛らしく、女の子のようにも見える可愛らしい姿に頬を染めたのは、少女だけでなく少年も多かった。

 だが、聖王だけは苦虫をかみつぶしたような顔をしていた。その後の言葉が出てこないので貴族たちがざわつきだしたが、


「……こたび、聖王子クルヴシュラトに授けられたものは……今年出現した星8つ(・・・)の天賦珠玉となる」


 その衝撃的な一言に、ざわつきはどよめきとなり、はっきりと言葉を伴って「なんだって」と思わず言ってしまう貴族もあった。

 星8つの天賦珠玉は前代未聞で、この世の者には使えない星9つ以上の天賦珠玉は貴族たちも知っていたが、最大でも星7つまでしか誰も聞いたことがなかった。しかもその星7つは戦乱で失われ、現存する天賦珠玉は星6つが最高のはずだ。


「…………」


 聖王はただじっと、厳しい表情でクルヴシュラトを見つめている。どよめきを注意することもなく。クルヴシュラト本人も、そんな天賦珠玉を授けられるとは思っていなかったのだろう——戸惑いながらも父である聖王を見返している。


「お待ちください、聖王」


 だがそこへ、手を挙げた人物があった。


「星8つという希少極まりない天賦珠玉を、ただ血筋だけで授けられるというのはいかがなものか。天賦珠玉の内容を考え、才能が合致するのならその他の者が手に入れるチャンスがあってもいいのではありませんか」


 燃えるような瞳で——闘争意欲(・・・・)をかき立てられたような目で、ルイが「待った」を掛けたのだ。


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― 新着の感想 ―
[一言] 聖王って嫌なやつなのか良いやつなのか分からん 他の貴族にしても言えるし
[良い点] おおおお面白い!ルイ、高感度が上がったり下がったりで大変だね [一言] 「サングラス付けて防げなかったのかな?」というコメントには笑った。
[気になる点] 星7が死ぬ戦争ってどんなだよ! ドラゴンワンパンしちゃうようなのが死ぬって 激しすぎじゃん
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