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限界超えの天賦《スキル》は、転生者にしか扱えない ー オーバーリミット・スキルホルダー  作者: 三上康明
第2章 悪意の真意は懇意の中に。少女の黎明と父の冷血と。

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   *  護衛:レレノア  *




 ハーフリングにはいくつか特徴があったが、その色彩感覚についてはわかりやすい特徴と言えるだろう。

 ミミノは、袖口が鮮やかなオレンジのローブを羽織っており、肩から提げているバッグもまた銀糸と緋色の糸を使った刺繍がなされていた。描かれているのは大輪の華で、死者をよみがえらせるという伝説がある「呼冥花」だった。

 飴色の長い髪を複雑に結っており、厚めに垂らした前髪は右の目元に掛かるように流れている。大きな青い目は、久しぶりに会ったレレノアから見ても、


「ミミノは全然変わらないなぁ〜」


 冒険者ギルドからほど近い、オープンテラスのカフェへ移動したレレノアとミミノは、クルヴァーン聖王国名産のオレンジを使った果実水を頼むと、改めて向き合った。


「レレノアも変わらないべな〜。むしろ何年か前に会ったときと同じ服なのでは……」

「そ、それは言わない約束でしょうが! 普段からかしこまったものばかり着せられてなぁ」

「ああ、護衛の仕事」

「そそ」

「今日はいいの?」

「今日はね、ウチのお坊ちゃまがお客を招いてお茶会してるから、大丈夫さ。遊びに行くときはいっしょについていかなきゃいけないけどねえ……最近、仲のいいお友だち(・・・・)ができたもんで、毎日出ずっぱりだったのよ」

「大変だねぇ」

「タイミングよかったよ。明日から3日間は身動き取れなかったから。お坊ちゃまへの天賦珠玉の授与式があるんだけど、そのリハーサルとか護衛の確認とかうるさくてうるさくて」

「天賦珠玉の授与? そんなのやるの?」

「まあ、ね……いろいろあったべなぁ」


 レレノアは遠い目をする。

 聖王都滞在が長引いてしまったが、それもあと3日——天賦珠玉の授与式までだ。

 注文したジュースが届く。レレノアが一口飲んでみると、オレンジだけでなくいくつかの果実をまぜているようだ。

 ガラスのコップなんてものは存在しないので、出てくるのは銅製のゴブレットだ。魔道具かなにかを使ってあらかじめ冷やしておいたのだろう、ジュースが喉を滑り落ちると爽やかな香りが鼻に抜ける。今後も使おう、とレレノアが思うくらいには気に入った。

 ちなみに言えば、この店は一般店としてはグレードが高い。お値段も高い。グレードが下がると、コップは木のコップになるし、屋台で飲むなら水筒持参だ。


「急にミミノから連絡が来たから驚いたべな。ごめんな、返事が遅れて。お坊ちゃまの御用事で聖王都に来てたから、領地の手紙が転送されるまで時間掛かっちまってな」

「ううん、いいべな。こっちも国境がうるさかったから聖王都に来るまでだいぶ日数掛かったし」

「光天騎士王国との国境か? なにかあったか?」

「あ、そっちからじゃないんだよね。冒険者ギルドの依頼でレフ魔導帝国まで行ってたんだ」

「ええ? あんなところに行っていたの?」


 レレノアが驚くのも無理はない。

 魔導帝国と呼ばれるその国は、魔術の研究に関して相当に進んでおり、各国に提供されている魔導飛行船の技術などでも世界最先端ではあるのだが——とにかく排他的なのだ。国民全員が同じレフ種族という種で構成されていて、爬虫類がベースとなっている獣人だった。緑や茶色の肌に、金色の目——光が当たるとこの目は反射する。

 また「天賦珠玉を使えない」という特殊な事情もあり、入国を著しく制限している。他種族が入れる場所も相当に限られている秘密国家でもあった。


「いやー、初めて行ったけど面白いところだったべな。あらゆることに魔道具が使われててな——あ、これお土産」

「お」


 テーブルに置かれたのは金属の立方体だった。なんだろう、と手にしてみると、レレノアの手のひらにすっぽりと収まるくらいのサイズで、ずっしり重い。

 と思っていると、ヴヴヴと震えた。


「ひっ」


 あわてて放すとテーブルにコトンと音を立てて転がり、止まる。


「な、なにこれ!? 生きてる!?」

「あははは、違うべな。よく見てて」


 震えながらその四角い物体はコロンコロンと転がり、やがて一点を軸に立ち上がるとくるくるくると回転を始めた。


「……なにこれ?」

「うん。回るだけのオモチャだ」


 しばらくすると、コロンとまたテーブルに転がって沈黙した。


「……なにに使うの?」

「回るだけのオモチャだよ。なんでも、魔道具の研究で作っていたらできあがった副産物……あるいはただの失敗作? だから安かったよ」

「そ、そう……」


 薄気味悪そうにレレノアは手を伸ばしたが、


「あつっ」

「あ、ゴメン。しばらくは触れないくらい熱くなってるから」

「…………」


 これはミミノからの嫌がらせなのだろうか? と一瞬悩んでしまうレレノアである。


「えーっと……それで、こんなのを渡しに来たんじゃないんだべな? なにか相談したいことがあるって手紙にはあったけど」

「あ、うん——」


 ミミノはそれまでにこにことしていた表情を、すっと引き締めた。


「実は、人を捜して欲しいんだ」

「人捜し?」

「そう。忙しいのはわかっているんだけど、時間があるときでいいから」

「そりゃ、まあ、従姉妹のお願いとあれば聞くけど……」


 レレノアはミミノの従姉妹だ。

 同じ里の出身で、ミミノは旅の薬師として里を出て、レレノアは護衛として召し抱えられた。


「でもミミノさ、そんなの、私みたいな護衛には——」

「実はね」


 ミミノはレレノアの言葉を一度手を広げて遮って、こう続ける。

 探している人物はヒト種族で、黒髪に黒目。さらには特殊な教育を受けている可能性があるということ。つまり貴族階級に食い込んでいることもあり得る——逆に冒険者としての可能性はミミノが探れるが、貴族のほうはミミノは完全に門外漢なので誰かに頼りたかった。

 天賦珠玉がなくとも魔法を使える才能があり、身のこなしも少年にしては相当に熟練している。


(……天賦珠玉がなくとも魔法を使える、少年?)


 そのときレレノアの脳裏に閃いたのは、「新芽と新月の晩餐会」での出来事だ。あれからおよそ1月ほどが経っている。

 あのときにいた護衛……エヴァ=スィリーズの護衛だった人物は、その後も何度かお茶会で顔を合わせているが、護衛同士で話をしたりはしないので結局名前もわからない。なんでも、エベーニュ家の当主が「あの子欲しい」と言っていたようだが、エタンの護衛である自分にまで情報が下りてくることもほとんどない。


(確かに、彼なら条件に合う。彼は青髪で色は違うけど……土地によっては黒髪黒目は迫害対象だって言うし、髪を染めていてもおかしくない。私だって気づかなかった毒物を見抜いたし……観察とか洞察とか、そういったタイプの、高位の天賦を持っているのかなって思ってたけど……)


 すると、ミミノがじっとレレノアを見ているのに気づいた。


「レレノア、もしかして心当たりある?」


 ずずいと身を乗り出すミミノに。


「……へぇ〜、ほぉ〜?」

「な、なんだべな、レレノア。その気持ち悪い目」

「気持ち悪い言うな!? いやさ、ミミノはその少年が気になってるんだな? 片想い?」

「んなっ!? そ、そういうんじゃないべな! からかわないで!」

「と言いながら顔真っ赤だべな」

「ち、ちち違っ、レイジくんはわたしより小っこいんだぞ!? こう、なでなでしてむしろ守ってあげる対象っていうか……でも守られちゃったっていうか……」

「あれ、そうなの?」


 レレノアは、ふむ、と思う。エヴァの護衛はそこそこ身長があったはずで、自分とほぼ同じ身長のミミノよりも確実に大きいはずだ。


「と、とにかく、もしそういう人の情報を耳に挟んだら教えて欲しいんだ!」

「わかったわかった。落ち着いて」


 まだ頬が赤いミミノを見ながら、レレノアは小さくため息を吐いた。

 この従姉妹にようやく遅い春が来たのかと思ったが、そうではないらしい。探しているのはもっと小さい男の子——その情報が4年前のそれだということを伝えなかったのはミミノの最大のミスなのだが——だというのだから、先が思いやられる。


(恋だの愛だのする前に、お母さんになるつもりかね?)


 とまあ、レレノアも他人の心配をするより前に、なんの出会いもない自分の心配をするべきではあるのだが——。


(……あれ、でもスィリーズ家のお嬢様は確か、あの護衛のことを「レイジ」と呼んだっけ……? どうだったっけ?)


 今、不確かな情報で期待させても仕方がないので、あとで他の護衛仲間にも聞いてみようと思うレレノアだった。


私の別著作「学園騎士のレベルアップ!」をご覧の皆様は朗報です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ここまでだね、コミック3巻に収録されてる話は。 ミミノより小さいのは4年前。人族なんだから成長してるはずで、その事にミミノが気付いてないのが原因。 レレノアがミミノに、あいつもレイジだった…
[気になる点] 髪染めたのは自分なのに探す時の特徴は黒髪なんだ… 普通染めた後の髪色か元の色と染めた可能性があるとか詳しく言うものじゃない? 探す気あるのか?
[良い点] またしばらく会えないのに、、ええんか!? まあ、良いか。
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