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限界超えの天賦《スキル》は、転生者にしか扱えない ー オーバーリミット・スキルホルダー  作者: 三上康明
第2章 悪意の真意は懇意の中に。少女の黎明と父の冷血と。

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「でも、許せないのだわ! レイジが疑われるなんて! 大体、クルヴシュラト様とお目に掛かったのも昨日が初めてだというのに……」

「エヴァ。貴族には様々なことがある」


 ふう、と伯爵はため息を吐いて、


「お前に与える天賦珠玉は、1月後になってしまった」

「1月後……? 伯爵がお嬢様にこの家で与えるようなものではないのですか?」


 僕の質問に、


「そうです。『新芽と新月の晩餐会』に出席していた12歳の子女が、再度一堂に会して聖王陛下の前でひとりずつ天賦珠玉が与えられます」

「えっ——」

「用意するのは親ですがね。そこで天賦も公表されるので、各貴族の現在の力がどれほどあるのかもわかるというわけです」

「天賦珠玉を手に入れるのも貴族の腕だと……」

「はい。……エヴァ、なんの天賦珠玉がもらえるのか知りたいかい?」


 伯爵の問いに、お嬢様は目を瞬かせた。


「いえ、1月後にわかるのでしたら焦りませんわ。それよりもクルヴシュラト様の暗殺未遂事件と、これからの聖王宮の動きが気になっています」


 真顔でうなずいた伯爵は、にっこりとした笑顔よりよほど感情があらわになっている——そんなふうに思うくらいには僕はこの伯爵との距離の取り方がわかってきた。


(お嬢様、今のは百点満点の回答ですよ)


 貴族は、得られるものがあるときに焦ってはならない。貴族は、私事より公事を優先すべき。

 家庭教師の教えだけれど、お嬢様にはその教えがきちんと身についているようだ。


「聖王陛下は、クルヴシュラト様の毒殺未遂の犯人が判明するまでは、天賦珠玉の授与式を延期すると仰せでした。しかしながらそのために領地から出てきている貴族も多く、1月の延期ということでまとまったのです。聖王陛下は、犯人が1度の失敗ではあきらめることなく、再度暗殺が行われるとお考えですね」


 伯爵は今日、聖王に連れられて聖都に集まっている要人たちと面会し、毒殺未遂について「審理の魔瞳」を使うよう強いられたようだ。

 第1聖王子、第1聖王女を始め、高位貴族の当主たちもだ。

 ちなみに、聖王子のソース皿に毒を盛ったとおぼしき召使いは行方をくらませているそうな。高位の貴族がその者を匿った場合、見つけるのはとても難しいらしく、それならば当主本人を「審理の魔瞳」で判別したほうが早い——ということらしい。


「それはとんでもない軋轢を生むのでは……」

「ええ。私が『審理の魔瞳』を持っていることをほとんど全員知っていますからね。にらみ殺されるかと思いましたよ。全員、ウソは吐いていませんでしたね」


 しれっと言っているけど、それってとんでもないストレスなんじゃないだろうか。

 聖王はそれほどまでにクルヴシュラト様のことを大事に思っている……ってことか? いや、それはともかくとして、こんなことやってるっていう内容はすぐに伝わるよな。そうなったら、


「伯爵——」

「レイジさん、護衛に関する話はあとでしましょう」


 伯爵が襲撃される可能性がまた高まるということ。

 伯爵は当然それを理解しているのだ——だけれど、お嬢様に聞かせたくなくて「あとで」と言った。


「お父様。レイジ。わたくしはもう一人前の貴族となりましたわ。わたくしにも関わることであれば教えてくださいませ」


 それをお嬢様はよしとしなかった。

 いや、今までは伯爵の言うとおりにしてきたのだと思う。「お前は聞かなくていい」と言われれば「はい」と答えていたし、「奴隷商潰し」だって伯爵が「止めなさい」と言えば止めていた可能性が高い。


「エヴァ、お前はまだ……いえ、そうでしたね(・・・・・・)


 伯爵の口調が、変わった。


「ではあなたも、一人前のレディーとして扱います」

「! はい」


 お嬢様も伯爵の切り替えに気がついたのだろう、背筋を伸ばして伯爵の顔を見つめる——先ほどと同じ感情を表さない顔のように見えるけれど、その実、丁寧な言葉とは裏腹に遠慮のない言葉が出てきているように僕には感じられた。


「まず私が殺される可能性が高くなりました」

「ッ……はい。それはお父様が聖王陛下とともに尋問を続けると、いずれ犯人にたどり着くからですね?」

「そのとおりです。聖王子様を害する動機は、王族や貴族以外にありませんからね。聖王陛下は確度の高い人物から当たっていったのでしょう」

「確度の高い……? 第1聖王子と第1聖王女は聖王位継承権は上位なのですから、関係ないのではありませんか?」

「これは未確認の情報ですが、『祭壇管理庁』の上層部がざわついています。私のように内部犯罪をとりしまる人間には触れられないところで、なにか特別なこと(・・・・・)があったのでしょう」


 特別なこと?

 僕とお嬢様が黙ってその先をうながすと、伯爵は言った。


「……星5つ以上の天賦珠玉が『一天祭壇』から出現したということです。そしてそれは、聖王子クルヴシュラト様に与えられることになります」

「!」

「!!」


 星5つ以上の天賦珠玉! それは確かに、とんでもない価値になりそうだ。

 星4つまでなら成功した商人や一攫千金した冒険者が手に入れたりすることもある。だけれど5つとなるとガクンと数が減る。


「クルヴァーン聖王国が管理している星5つ以上の天賦珠玉は、7つしかありません。1つは【聖剣術(ホーリーソード)★★★★★★】で聖王騎士団の第1隊長——つまり騎士団長が代々受け継ぎます。もっとも使い手が死んでしまっては天賦珠玉は消えてしまうので、騎士団長が前線に出ることはないのですがね。名誉職とも言えます」


 そうなのか! だから3年くらい聖王騎士団に出入りした僕も、騎士団長を見ることもなかったんだな。


「【剣術★★★★★】はロズィエ公爵家が管理しています。あそこの騎士隊は剣術に凝っていますからね。ただこの天賦珠玉は騎士には与えず、当主だけが使えるとしています」


 ルイ少年の家か。剣術に凝っている割りに、アルテュール様を護衛にしてるのはどうなのかな。いや、聖王騎士団の中では強いほうだからいいのか。


「【英雄指揮術★★★★★】はリス公爵家、【神秘調合★★★★★】はエベーニュ公爵家」


 リスは知らないけど、エベーニュはエタン様のところだ。ハーフリングで調合系の天賦珠玉とか強い。


「【竜剣術★★★★★】はルシエル公爵家。ここは『剣聖オーギュスタン』を擁する公爵家で、6大公爵家の中でもいちばんの武闘派ですね……そして第1聖王子の後ろ盾でもあります」


「6大公爵家」、あるいは「6大公家」とは、聖水色を失った公爵家ながらその他の部分で頭角を現し、今もなお公爵家を名乗っている家、らしい。

 たとえばクルヴシュラト様が聖王にならずに公爵と叙せられた場合、クルヴシュラト様の子に聖水色が現れなければ、娶った奥さんの家へと入ることになる。公爵家は1代で消えてしまうのだ。

 だけれど聖水色を持つ子を産んでいる間は公爵家でいられるし、その間に、押しも押されもせぬ殊勲を上げれば——戦争で大勝利するとか、大発明をするとか、いろいろ——聖水色を失っても公爵家として残ることができる。

 その結果、聖水色を失っても残った公爵家が6つ。6大公爵家となる。


「そして、【魔力強化★★★★★】はラメール公爵家に、【祈祷術★★★★★】はモンターニュ伯爵家にあります」

「最後は伯爵家なんですね」

「はい。6大公爵家のうちリビエレ公爵家は、海運に非常に強いのですが星5つ以上の天賦珠玉を持っていません。その点で他の公爵家に負けていると考えている節があり、喉から手が出るほど星5つ以上の天賦珠玉を欲しがっているでしょうね」

「……もしクルヴシュラト様が亡くなっていたら、新たに出現したかもしれない星5つ以上の天賦珠玉はどうなるのですか?」

「聖王陛下ご自身が使うか、第1聖王子、第1聖王女が使うか……」

「そのお三方はどんな天賦珠玉を?」


 伯爵は人差し指を立てて左右に振った。


「当然、秘密ですよ。聖王家の極秘事項です」

「なるほど……」


 いざというときの守りだってある。自身の手札を公開する必要はないしね。


「スペキュラ2等書記官だって聖王家の天賦珠玉を勝手に見たことがバレたら、即座に処刑です」

「……なるほど」


 ほんとうのほんとうにシークレットらしい。

 そうなると【オーブ視】の天賦がちょっと欲しくなってしまう。さっき【森羅万象】をつけたままで、あえてスペキュラさんのスキルを受けてみてもよかったかな?

 ……いや、やっぱり僕の【森羅万象】も大概極秘だわな。


「あるいはそのまま、第3聖王子に引き継がれるか、ですね。第3聖王子は現在10歳ですがすでに結婚相手が決まっており、それはリビエレ公爵家の方です」


嗚呼坂レテ様、かきくけ虎龍様からレビューをいただいていました。ありがとうございます。

本作品のページ上部「レビュー」から遷移できますので、こちらも是非お読みくださいませ。

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→コミカライズ掲載【コミックウォーカー】

→コミカライズ掲載【ニコニコ静画】

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― 新着の感想 ―
[良い点] こういう、超すごすごスキルだけど、ちゃんと警戒すべきスキルもあるってとこが面白いよね
[一言] 転生者にしか見えないから外しててもほとんど問題ないんじゃない?
[良い点] なろう系にありがちな、最初から理由もなくチートなどではなく、 設定をしっかりと練った上で話が進んでいるので、違和感なく読めた。 [気になる点] 特になし。 [一言] 話の流れに違和感を感じ…
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