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※晩餐会会場に天賦無効がかかっていて【森羅万象】を使えるのはおかしいというツッコミ、すみませんようやく確認しました。これだと楽隊の人たちも演奏できなくなっちゃうし、おかしくなりますね。
こちら、以下のように文言を「11話」に追加しています。
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だけれど不思議な感覚だった。ある一定の天賦だけが無効になっていて、残りは大丈夫なような……たとえば僕の【森羅万象】は問題ないのだけれど、【腕力強化】のような天賦は無効にされている感じがある。
こういうふうに天賦を限定して使えなくすることができるんだね。
戦闘系の天賦を選んで使えなくし、一方で会場内の召使いたちが働くのに必要な天賦は使えるようにしてあるってことか。
(でも【森羅万象】なんて使える人はいないだろうからともかく、【影王魔剣術】とかの特殊なものは使えちゃうよね……まあ、知らない天賦はどうしようもないか)
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伯爵邸に戻ったのは3時に近くなっていた。伯爵が帰ってくるのは日没後……昨日、あんなことがあったのなら夜遅くでもおかしくはないと思う。執事長に、僕が会いたがっていることを伝えておいてもらおう。
と思っていたら、
「戻りましたか」
「え?」
玄関ホールには伯爵が立っていたのだ。
「レイジ!」
「お嬢様——わたっ」
突進してきたお嬢様に抱きつかれ、僕はたたらを踏んだけれど上体のバネには自信があるのでそれをぐっとこらえた。
「ど、どうしましたか……?」
「早く帰ってくると言っていたのだわ! それなのに、こんな時間に……」
「あ」
心配を掛けていたのか? いや、違う、お嬢様は不安がっていたじゃないか……だというのに僕はのんびりとお昼を食べたりして。
(ああ、なにやってるんだ僕は……)
伯爵のことで頭がいっぱいで、お嬢様のことを忘れていたなんて。
「……申し訳ありません、お嬢様。今日はおやすみになるまで残りの時間ずっといっしょにいますから」
「ほんとう……?」
「もちろんです」
だから、この抱きしめる手を緩めて欲しいんです……執事長が今まで見たこともないような鬼の形相でこちらを見ているしメイド長が馬用のムチを手に取って——ってどこから持ってきたのそれ!?
「レイジさん」
そして伯爵が永久凍土のような目をしている!
「落ち着いて、伯爵、落ち着いて……」
「ええ、わかっています。私は落ち着いていますよ? 昨日、あれほどのトラブルがあったというのに外をほっつき歩いている護衛にどのように物の道理を説くべきかを考えるほどにはね……」
お説教コース決定!
「そ、それよりもそちらの御方は……」
僕は伯爵の横に立っている、ひょろりとした男性に目が行った。貴族、というより文官風の男性で、それなりに上等そうな茶色の上着を着ている。
ただ肌の色は青黒く、髪の毛は逆立つ銀髪だ。目元にかけたメガネの向こうは猫のような金色の目。
ヒト種族じゃないっぽい。
「やあ、これは面白いものを見られました。スィリーズ伯爵閣下も、人の親であったということでしょうか」
「……スペキュラ2等書記官、そのように貴族を茶化すものではありませんよ」
「お気を害されたのでしたら、申し訳ございません」
伯爵に対して気安い感じで話しかけているあたり、書記官と言いつつも結構な重役なんだろうか?
僕がわからないでいると、
「エヴァ、レイジさん、私の部屋へ」
伯爵がそう言った。
10日に1度の報告会がある伯爵の執務室には、僕、お嬢様、伯爵、スペキュラさん、そして執事長の5人がいた。執事長は部屋の出入り口に立っているのであくまでも「話を見守る」というつもりなのだろうか。
(この人は、なんなんだろう)
僕がスペキュラさんを見ると、向こうもこちらを見ていた。
「初めまして、レイジさん。王都内政庁にて書記官を務めております、スペキュラと申します」
「初めまして。スィリーズ家でエヴァお嬢様の護衛を務めております。レイジです」
「ふむ……」
「?」
そのときスペキュラさんの目が眇められたように感じられた。なんだろう……こちらを探るような視線だ。
「……伯爵、レイジさんの護衛のスタイルはいつもと変わりないのですか?」
「はい」
「そうですか。ではこちらをどうぞ」
なんだなんだ?
スペキュラさんは何事かを手元の紙に書きつけて伯爵に渡した。伯爵はそれを受け取ると、秀麗な眉をひっそりと寄せて、小さくうなずいた。
「ではこれで」
「え、もう行かれるんですか?」
「私の仕事は終わりましたので」
スペキュラさんは立ち上がると、執事長に一礼して部屋を出て行く——と同時に執事長もまた彼とともに出て行った。
「なんだったんですの、お父様」
「…………」
伯爵は、スペキュラさんの残した紙を見つめていたが、僕らにそれを見せながらこう言った。
「スペキュラ2等書記官は、王都内政庁でも極めて希有な天賦を与えられているんです」
紙にはこう書かれてあった。
——天賦ナシ。
「天賦【オーブ視★★】は、見た相手の天賦を知ることができます。彼のレベルでは星の数まではわかりませんがね……つい今し方、レイジさんの天賦を確認してもらいました」
「お父様!? なぜそのようなことを——」
驚き、責めるような口調ながらもお嬢様はハッとする。
「レイジ、あなたは……」
「はい。僕は天賦をひとつもつけておりません」
正直に話した。
(あっぶね〜〜〜〜〜〜! そういう天賦がもしかしたらあるんじゃないかなって気はしてたんだ!)
伯爵は護衛の契約をしてから、一度も僕に天賦の確認をしていない。伯爵への襲撃者を退けたあれだけ動ければ十分とでも思っていたのか、別の思惑があるのかはわからないし、あるいはマクシムさんとの手合わせで【闇魔法】を使ったことから「魔法系だろう」と見当をつけていたのかもしれない。
でも、昨日の一件で、僕が毒入り皿を見抜いたことを知った伯爵は、僕がなんらかの特殊な天賦を持っていると考えたに違いない。その天賦はひょっとしたら伯爵やお嬢様に害をなすためのものではないのか……と疑ってもおかしくはない。伯爵はお嬢様のことに関してはめちゃくちゃ慎重だから。
(念のため、ほんとのほんとに念のためだったけど【森羅万象】を外しておいてよかった……)
伯爵には「審理の魔瞳」がある。だから僕は「天賦を持っていない」ではなく「天賦をつけていない」と答えた。
油断しなかった僕の勝利だ。
「申し訳ありません、レイジさん。あなたのことをなにか疑っていたわけではありません」
「いえ、お気持ちはわかります。念のため、ということでしょう?」
「はい。それに一方でわかったこともありました——きっとレイジさんが知らないことでしょう」
「僕の知らないこと……?」
「天賦珠玉を使わないで魔法を使えるようになった者は、魔法の発動が早かったり、通常とは違う魔法の使い勝手ができたりと、様々な利点があるようです。もちろん、そのぶん習得難度の高さというデメリットはあるのですが」
「——魔法の発動」
「はい。マクシムとの手合わせで【闇魔法】の『夢魔の祈り』を使ったでしょう? あの発動があまりに早かったことは、これで説明がつきます」
「……もしかして、伯爵はあのときから僕が魔法系の天賦を持っていないのではないかとにらんでいたのですか?」
伯爵は、似合いもしないにっこりとした笑みを浮かべた。
「まさか、なにも天賦を持っていないとは思いませんでしたがね……なにか理由があるのですか?」
「いいえ。つけなくとも今のところは問題なく生きていけているので、どうしようもなくなったらつけます」
これは正直な部分でもあった。【森羅万象】でなんとかなっている今、16枠あるホルダーのうち、残りの6枠は空いたままだ。どうしようもなくなったとき、6枠を使いたいとは思っている。
「お父様、昨日の暗殺未遂事件のことでなにかわかったことはあるのですか?」
「そうだね。聖王子クルヴシュラト様の皿から毒物が発見された件は、あの毒はレイジさんが入れたものではないかと言う貴族もいたよ」
あ〜。
そりゃ、そうだわな。
あの瞬間で僕以外の誰も気づいていなかったものね……。
「そんな!? レイジが毒を入れるわけありませんわ!」
「お嬢様、落ち着いてください。伯爵、魔瞳を使ってください。僕は毒なんて盛ってませんよ」
「……はい、確認しました」
発動の瞬間はきらりと一瞬目が光るんだな。
伯爵はどこかのタイミングで僕が「真犯人かどうか」を確認するつもりだったのだろう、魔瞳の発動までがあまりにスムーズだった。
逆に言えば、今日はここまで一度も魔瞳を使っていなかったってことか。意外と信用されているのかな、僕? ……いや、そう思わせる作戦だったりして。
体調崩していて昨日から更新できておりませんでした(ストックがほんとにないことを露呈していくスタイル)。
活動報告で温かいコメントをくださった、乞食様、マハ様、st01n様、カズや様、フェイ様、ワタル様、輝臨様、だんな様、極楽とんぼ様、あーー様、火之様、蒼緋のニケ様、Beckes様、ココアミ様、プクプク様、こうしゅん様、こはにぃ様、Koha様、ほんとうにありがとうございました。
正直「活動報告なんて誰も見てないやろ!」とか思っててマジですみません。めっちゃ励まされました。今後もがんばります。だけどさすがに1日2回更新はそろそろ無理かもって正直思ってます!!! 明日で連載開始から1か月なのでそこは最初の目標だったのでがんばります!!!




