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限界超えの天賦《スキル》は、転生者にしか扱えない ー オーバーリミット・スキルホルダー  作者: 三上康明
第1章 旅立ちは密やかに、人知れず。出会いは密やかに、導かれる。

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後日談(後)

まとまらなくて長くなりました……。

 そうしてふたりは宿の外へと出た。領都を離れるのに使いそうな馬車の停留所にはレイジらしき姿はなかったが、御者のひとりが「子どもなら見たぞ」と言う。


「『高価そうな鎧を着た冒険者ふうの男に連れられていった』……?」


 話を聞くと、どうやらそういうことのようだった。思い当たるのは「永久の一番星」のオスカーだ。

 ふたりは冒険者ギルドに向かう——と、向こうから「永久の一番星」の「四元」魔法使いがやってくるところだった。神経質そうな彼女は、しかつめらしい顔をしながらも開口一番、


「……昨日はあなたに助けられたわ。感謝します」


 ぺこりと頭を下げた。


「いや、いい。同じモンスターと戦っているときはかばい合うのは当然だ。それよりうちのパーティーにいた子どもを見なかったか?」

「ちょうど私も——私たちも『銀の天秤』を探していました。少年のことについてです」


 ダンテスとミミノは顔を見合わせた。

 冒険者ギルドに到着するまでに、魔法使いはあらましを説明してくれた。ミミノは、レイジが追われている相手が領兵だということを初めて知った——やはり「銀の天秤」に迷惑を掛けたくないから彼は出て行ったのだ。

 魔法使いは言った。


「冒険者ギルドで待っていればリーダーのオスカーも戻ってくると思います。ただ……」

「ただ?」

「……だいぶ、うるさいですよ」


 彼女が言ったことはほんとうだった。冒険者ギルドは、朝だというのに通りにまでその喧噪が聞こえてくる。

 なにが行われているのかミミノにはすぐに思い当たった。

 追悼、である。

 死と隣り合わせの冒険者にとって仲間の死は——言い方は悪いが「よく起きる」こと。

 そのたびに立ち止まってはいられないので、彼らはその日は「追悼」する。酒を飲み、杯を重ねて死んだ冒険者の話をする。そして翌日からまた新たな一歩を踏み出す。

 とはいえふつう、冒険者ギルドは酒を飲む場所ではない。よほどの戦果があったときか、よほどの犠牲が出たときだけ、ギルドが酒を出す。

 昨日の激闘は多くの犠牲者を生んだ。だからさぞかしギルドでの酒盛りは荒れたことだろう——とミミノは想像する。大体、一晩明けた今もってなおギルドからは強烈な酒のニオイと喧噪が漂い出ているのだから。


「『硬銀の大盾』が来ましたよ」


 入りながら魔法使いが言うと、即座にギルド内は静まり返った。その直後、


 ——うおおおおおおおおお!!!!!


 とんでもない声が上がった。


「もう身体は大丈夫なのか!?」

「『大盾』の、アンタがいなきゃ俺は死んでたぜ……」

英雄(・・)の到着だ。もう1杯飲むぞ!」

「バカ、来る前から次の1杯頼んでたじゃねーか」


 むさ苦しく、さらには昨日の戦いそのままで汚れや軽傷もそのままの男たちがわらわらとやってきてダンテスを連れ去っていく。


「あ、火傷は完治してないから無理矢理飲ませるんじゃないべな〜」


 ミミノが声を掛けると「おう」と野太い返事が聞こえた。

 見たところ、オスカーはいない。彼が戻ってくるまでここで待つしかないだろう。

 やれやれ、男ってやつはどうしてこうすぐにお酒に結びつけるのかね——なんて思っていたミミノだったが、その反面、彼らの元気がどこか空元気であるようにも感じられた。

 無理して陽気に振る舞わなければ心がくじけてしまうほどに、竜や、その後のクリスタとの戦闘がもたらした災禍の爪痕は深い。


「来たのか、『銀の天秤』」

「ヨーゼフさん」


 昨日、竜が討伐されたあとにケガ人の治療のために駈け回っていたのがこのヨーゼフで、ミミノはそのときヨーゼフと再会していた。過去にヨーゼフとダンテスが戦ったゴブリン掃討戦ではミミノもダンテスのパーティーメンバーとして参加していたので面識はあった。

 ミミノは、ヨーゼフの目元が赤いことに気づいた。この街に根を張っていたヨーゼフは多くの知り合いを亡くしたのだろうとミミノは察した。


「……この街を、守れてよかったですね」

「まあ、な……湿っぽいことは飲んで終わりにしようと思ってたんだがな、『大盾』を見たらまた飲みたくなっちまった」

「すみません、まだ火傷が残っているので……」

「ああ、ああ、わかってる。仲間を守った英雄に無理矢理飲ませたりはしねえよ」


 ヨーゼフはミミノに、喧噪から外れたテーブルのイスを勧めた。


「ヨーゼフさん。実はウチのパーティーにいた——」

「ああ、ちょっと待ってくれ。先に伝えることを伝えておきたい」


 伝えること? とミミノは首をかしげた。ヨーゼフが自分たちになにを伝えるというのか。


「実はな、『銀の天秤』には報奨金が支払われることになった」

「竜の討伐ですか」

「ああ。鱗はかなりの部分がダメになっちまったが、そもそも図体がデカイからな、それなりの鱗が素材として売れるだろう。他に、牙や目玉はほとんどそのまま残っているし、それに大量の食肉、高級な薬剤に使われる内臓がごっそりとれた。今回参加した冒険者や、死んだ冒険者の遺族にも報奨金が支払われるが、アンタたちは討伐戦で大戦果を上げた。おそらく連邦金貨で数百枚は行く」


 レイジが聞いたら「数千万円!?」とひっくり返ったであろう数字だ。


「そんなに……」

「アンタたちだけ特別扱いってわけじゃないから、遠慮せずに受け取ってくれ。サブマスターはな、見た目の通りせこせこしたクソ野郎なんだが、こういう駆け引きとなると生き生きする。公爵家にかなりの金額をふっかけたんだ。まあ、領兵は役に立たず、天銀級冒険者のクリスタ=ラ=クリスタが相討ち同然で殺したようなもんだからなあ。ギルドの損害のほうがよほどデカイから当然っちゃ当然だ」

「…………」

「なんだなんだ? せっかく大金が手に入るっていうのにシケたツラしてんなあ」

「いえ……わたしは、なにもできなかったから」

「……アンタは、最後の最後で来たんだったか。仲間も死んだんだろ? 大変だったな」

「あの、竜の討伐についてはどうなっているんだべな? わたしは黒い剣みたいなのが竜を斬ったように見えましたけど」

「それなんだよ」


 ぐっと身を乗り出してヨーゼフは声を潜める。


「……朝から領兵が、アンタんとこの坊主を探して回ってる」


 うなずいて、ミミノは、レイジがいなくなったことを話した。そして今彼を探していることも。


「あの坊主はなにをやらかしたんだ? 大体、身のこなしからしてちょっとふつうじゃねえとは思っていたが……すまねえな、そんなこと聞いたって答えるわけがねえな」

「はい。でもレイジくんはわたしの仲間です」


 ミミノははっきりと言った。「仲間」という言葉はすんなりと響いた。ヨーゼフとしても、見た目が小さな子どもでも、訓練場で見せた剣の振り下ろし、竜に立ち向かっていった動き、そのどちらも第一線の冒険者と比べて遜色がないものだと思っていた。


「——ガキなら無事だ」


 座るふたりの頭の上から、声が降ってきた。

 驚いて顔を上げると、そこにあったのはうさんくさい笑顔だった。


「オスカー? お前、どこほっつき歩いてたんだ」

「そ、それよりオスカーさん! レイジくんのこと知ってるべな!?」

「ああ。アイツはもう領都を出た。うまいことやっといた」

「お前が手引きしたのか」


 オスカーの背後にいたのはダンテスだ。ギルドに入ってきたオスカーに気がついてやってきたのかもしれない。


「……まあな。借りは返すのが俺の流儀だ」

「手間を掛けたな、ありがとう」


 ダンテスが頭を下げると、ミミノがイスから立ち上がる。


「ちょっとダンテス!? なんで『ありがとう』だべな!? レイジくんを探してたのに、わたしたち——」

「ミミノ、声が大きい」


 ダンテスが目配せしたその先、大通りに領兵がいてギルド内の様子をうかがっている。

 レイジを追っているのは領兵——その事実がのしかかってきて、ミミノは血の気が引く。


「……で、でも、ダンテスが変なことを言うから……」

「レイジは自分が追われていることを知っていた。そして一刻も早く領都を出ようとしていたんだ。そうだろう、オスカー?」

「ああ。あのガキ、小さいくせに頭が回るのな。恐ろしいヤツだぜ」

「レイジは俺たちが考えているよりもずっと賢いのかもしれない。そんなレイジがすぐにも領都を出て行ったのなら、それなりの理由があるのだろう」

「でも……」

「ミミノ。これは俺の責任だ」


 ミミノは一瞬、言葉を失った。

 今までに見たどんなダンテスの顔より、苦しそうだったのだ。


「レイジは話したかったのかもしれない。レイジがすべてを話してくれたら俺たちはアイツを全力でサポートすると言っただろう」

「当然だべな」

「だが、俺が火傷を負っていたからレイジはなにも話せなかったんだ。逆の立場だったら俺だってそうする。今の俺は長距離移動もできないし、足手まといだからな……」

「そんな——」

「これは事実だ、ミミノ。俺のせいでアイツをひとりで旅立たせてしまったんだ」


 すでに立っているだけでも相当つらそうなダンテスは、イスに手をついていて、身体を支えていた。


「だがな、ミミノ。俺はすべてに絶望したわけじゃない」


 思えば、ここまでダンテスが饒舌になるのは初めてのことかもしれないとミミノは思った。

 それだけにレイジのことが気がかりなのだ。

 熱に浮かされたようにダンテスはオスカーを見やる。


「オスカーが手引きしてくれたおかげで領都を出たのなら、レイジの行き先を推測することもできる」

「あのガキには、光天騎士王国は止めとけって言っといたぞ。連邦内なら通行しやすいからそっちにしろって」

「いいぞ。広い領都を探すより、俺が早く傷を治して街道を追いかけたほうが追いつける可能性がある」

「ちょ、ちょっと待ってダンテス。あなたが治った以上、ノンを教会に戻さなきゃいけないし、それに……」


 ミミノが言い淀むと、ダンテスは小さく笑った。


「ノンはしばらくついてこさせるさ。石化がそう簡単に治るわけないことくらい教会だって百も承知だ」

「えっ!? 教会をだますってこと!?」

「ちょ、ちょっと待て『大盾』の。まさか石化が治ったのか……!?」

「見ろ」


 ダンテスはヨーゼフの目の前で左手をグーパーして見せた。


「そんな……どうやって」

「レイジが治してくれた。あの子は俺たちの知らない薬の存在を知っていたんだ。最初俺は、レイジが追われているのは禁制の品にでも手を出したせいじゃないかと思ったんだが違うようだ。となると、逃亡奴隷であることが追われている理由かもしれん」


 ダンテスの推測に、ヨーゼフもオスカーもなにも言わなかった。否定をしないということは肯定だということだ。

 ダンテスはミミノに視線を向ける。


「ミミノ。俺はレイジに救われた。同じように、お前にも救われた」

「……わたしにも?」

「ああ。石化になり、そのまま死ぬのだと思っていた俺をお前は見捨てなかった。ノンといっしょにここまで来てくれた」

「でも、助けてくれたのはレイジくんで——」

「そのレイジを助けたのはお前じゃないか。だから、お前がいてくれたからこそ、俺は生きている。生きていける。これからの未来に希望を持っていられる」

「……うん」

「だから今度は、お前がワガママを言え。教会にちょっと待ってもらうことくらいたいした問題じゃないさ。俺は全力でお前をサポートしよう」


 その言葉に、ミミノの胸が熱くなる。

 ダンテスとパーティーメンバーでいられることが、たまらなく誇らしく感じられた。


「ダンテス。わたしレイジくんを追いたい。あんなお別れじゃイヤだべな。レイジくんが奴隷だっていうなら、あの子の身柄を買い戻してあげたい!」


 ミミノが言うとダンテスはしっかりとうなずいた。


「ああ。お前の思いはしっかり受け取った。レイジを追おう」

「うん!」


 すでにふたりの中で、レイジはパーティーの一員なのだ。たった数日いっしょにいただけだけれど、ともに竜との戦いに身を投じ、ミミノの危機を助け、ダンテスの石化を解いた。


(わたしたちは、返せないくらいの恩をレイジくんに感じてるんだ)


 それは奇しくも——レイジが考えていたことと同じだった。

 ふたりはギルドに安置されていたライキラの亡骸に接し、最後のお別れをした。ライキラは、冒険者の共同墓地に葬られるということだった。

 その別れは、新たな出発の始まりでもあった。




 この日、竜の出現と討伐に関する情報は長距離魔導通信を通じて各国に届けられた。天銀級冒険者クリスタ=ラ=クリスタの死についても。

 表向きは「相討ち」でクリスタが討伐したことになっているが、次期公爵であるダニエル=アッヘンバッハや、連邦のトップであるゲッフェルト王たちは真相を知っていた。


「星6つの【影王魔剣術(シャドウキング)★★★★★★】は竜すら一撃で殺す」天賦である——。


 彼らは血眼になって逃亡奴隷ラルクを探した。だが、その行方は杳として知れなかった。もうひとりの奴隷「名無し」もまた領都から煙のように消えてしまった。

 冒険者パーティー「銀の天秤」はダンテスの傷が癒えるまで3日を要したが、「仲間を探す」という目的のもと、新たな旅に出ることになる。




 そして——4年の月日が流れた。

行くぜ、新章!


でも明日は登場人物紹介を挟ませてください。

明後日から新章予定です。


前々回の後書きでブックマーク&★の評価での応援をお願いしましたが、おかげさまで日間1位になれました。ほんとうにありがとうございます。

今作では初めての1位で(最高2位だったので)、めっちゃうれしいです。

引き続きがんばります。

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― 新着の感想 ―
こう言う時間経過は燃える
[良い点] 冒険者たち素晴らしいね キャラがとても良くて読むのが楽しい
[気になる点] 誰も使ったことのない星6つの【影王魔剣術】の効果をなぜ知ってるんですかね? 黒い剣のような魔法が使われたことと星6つのスキルオーブの行方がわからないことと子供の奴隷が発見したことは別の…
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