表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
限界超えの天賦《スキル》は、転生者にしか扱えない ー オーバーリミット・スキルホルダー  作者: 三上康明
第1章 旅立ちは密やかに、人知れず。出会いは密やかに、導かれる。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

37/361

28

 ふー……魔力をゴッソリ持っていかれたけど、なんとかなったな。


「今のはレイジか!?」

「は、はいっ」

「よくやった!」


 離れた場所でヨーゼフさんとともに竜に相対しているダンテスさんは短く褒めてくれた。

 落ち着いて見ると、ヨーゼフさんもダンテスさんもぼろぼろだ。身体中に傷がついていて、装備もあちこちが焦げたり破壊されたりしている。


「問題はこっからだぜ……」

「はい」


 冒険者たちも最初にいた半分未満になり、残っているメンバーも傷つき、疲労困憊だ。

 だからこそ初めて与えた大打撃で一気に倒したい——と思うところだけれど、


「手負いの獣こそ恐ろしいんだ」


「銀の天秤」で狩りをしていたときに、ライキラさんは何度も言っていたしダンテスさんもそれにはうなずいていた。

 竜だって今まで冒険者を舐めた戦い方をしていたわけじゃない。ただケガすることを恐れず、なりふり構わず攻撃されていたらとっくに冒険者は全滅していただろう。

 その危険が、あるのだ。


「どうする……ん?」


 ライキラさんがふと、通りの向こうへと視線をやった。同時に、わっ、と冒険者たちが歓声を上げる。

 30を超える騎馬を先頭に、100人以上の領兵が小走りにやってきたのだ。援軍だ。


「ったく、ようやくかよ……連中、偉そうにしているわりに仕事がおせーんだよ」


 毒舌ながらもライキラさんは喜びを隠しきれないようだった。

 領兵と共同戦線を張ってもいいし、冒険者は後方へ下がってもいい。

 いずれにせよ僕らの全滅の危機は回避されたのだ。


「よかった……」


 僕もまた、心の底からホッとしてそうつぶやいた——安心していられたのは騎馬の先頭にいる人物を目にするまでだ。


「……竜相手にこれほど苦戦するのか。ここには雑魚しかおらんな」


 さらりとした金髪をなびかせた男は、ヒト種族にしては肌がだいぶ白く、そして耳がややとんがっていた。

 他の領兵とは明らかに違う装備品で、極上の布を使ったマントを羽織り、まるで貴族のようなきらびやかな服を着ていた。必要ないと言わんばかりに鎧なんて身につけていなかった。


「よろしくお願いいたします」

「ふん」


 あごひげを蓄えた渋い顔をした男の人が頭を下げると、金髪の彼は馬から下りててくてくと歩いてくる。

 その存在感に、誰しもが目を奪われていた——竜でさえも。


「——あれギルドマスターじゃねえか」

「——ってことはあの金髪イケメンは冒険者か?」


 そんな冒険者たちの声が聞こえてきた。


「竜だな。間違いない。だが……なんだ、お前は? しゃべらんのか」


《……お前は、エルフ……? なぜエルフがここにいる》


 突如頭の中に響いてきた言葉に、全員がぎょっとした。

 竜が、しゃべる……?

 意思の疎通ができる相手なのか?


《……エルフが手出しをするな。古き盟約に従い、我は人間に罰を与えるだけ……》


 盟約? 盟約ってなんだ?


《……む?》


 その瞬間、竜の動きが止まった。


《……なるほど、高レベルの【火魔法】に【魔力量増大】。だがお前のスキルは2つ、閉じられている……お前は混血児(まざりもの)だな?》


 その瞬間、エルフ——ハーフエルフの鼻の頭にシワが寄った。


「今なんと言った?」


《……図星か。交わってはならぬ人と交わった結果生まれた、悲しき混血児(あいのこ)よ。咎人(とがびと)としてスキルホルダーを2つつぶされ、エルフの里を追放されたか。だがエルフにも情けがあったと見える。それほど希少な天賦珠玉をお前に与えるとはな……》


「しゃべらんのかと思えば、ずいぶんとしゃべる竜のようだ。だがお前は2つ勘違いをしている」


《……勘違いだと?》


「1つ、私は追放などされていない。自らの意志で、あの、停滞したゴミ溜めのようなエルフの里を抜け出したのだ。もう1つ」


 ハーフエルフは右手を開いて竜へと突きつけた。


「私はお前のような、世界に縛られた下等生物が対等に話せる相手ではない。死ね」


 その右手に集まったのは強い光。ぐるぐると高速で渦巻く炎は、次の瞬間すさまじい速度で竜へ向かって飛んで行く。

 竜は顔をひねってかわしたが、胴体の一部に着弾したそれは大爆発を起こした。


「う、わああああああ!?」


 起きた爆風で冒険者たちがはね飛ばされる。建物の陰にいた僕は幸い無事で、その後の動きをすぐに見ることができた。

 カッ、と竜が炎を吐いたけれど、ハーフエルフはすさまじい速度でナナメに飛んだ。


(なにあのスピード!?)


 竜が言うには——というか竜って天賦の「鑑定」みたいなことができるのか? ——ハーフエルフには2つの天賦しかないという。だというのにあの速度で飛べるのは……。

 空へ跳んだハーフエルフに竜の前足の一撃。それを、慣性の法則を無視した軌道でハーフエルフがかわす。


「ハアアアッ!」


 ハーフエルフの手からほとばしった炎は5発の連弾だった。それらは竜の身体に着弾して爆風が彼を襲うが、マントをはためかせ、まるで風を操るように流れていく。

 グルル、と唸った竜が半分になった尻尾を振るうが、ハーフエルフはまたも軌道を無視した移動でそれをかわす。


(なんで? どうやってあれをかわしてる? 彼が使えるのは【火魔法】だけ……そうか、魔法でいいのか!)


 僕はようやく察した。【火魔法】の爆発を使って身体を動かしているのだ、それも自分はケガをしないように。

 なんという魔力操作だろう。竜の言うことが正しいのだとしたら、彼は【魔力操作】の天賦を持っていないことになる。


(僕にもできるか……? できる、かもしれない。ちょっとは火傷くらいするかもしれないけど)


 ハーフエルフは特別頑丈なブーツを履いているようだ。そこに【火魔法】を仕掛けて爆発によって移動している。

 竜の言うことは正しそうだと僕は思い始めていた。【魔力量増大】の天賦——ミミノさんが以前言っていたけれど、めちゃくちゃレアな天賦らしい。

【森羅万象】はそのレアな天賦すら学習しているようだった。僕は自分の身体にじわりじわりと魔力が満ちていくのを感じていた。


「すっげぇ、あれが天銀級冒険者かよ!」

「次元が違いすぎる」

「『紅蓮の竜殺し』様、さすが!」


 近くで戦いを見守っていた冒険者の声が聞こえてきた。

 天銀級! あれが!

 納得だよ……たったひとりであの竜を手玉にとってるんだもんな。竜の鱗を魔力がまた覆い始めていたのだけれど、それを吹っ飛ばして直接ダメージを与えられるほどの魔法の威力があるんだから。


「それだけか? 相変わらず竜は鈍重だ。つまらん」


 酷薄な笑みを浮かべるハーフエルフは、そう言って両手を天に掲げる——そこに巨大な炎が出現する。


「やっちまえ! クリスタさん!」


 ハーフエルフを知っていたらしい冒険者のひとりが叫んだ。

 そうか、あの人はクリスタというのか。天銀級冒険者で、ハーフエルフで、クリスタ……。

 ……え?


 ——レイジよ……俺に、リグラ王国を滅ぼすことは無理だとしても、なにか一矢報いなきゃならねーんだ。だったら俺は……あの冷血野郎を許してはおけねえ。


 そう言ったのは、誰だったか。


 ——ハーフエルフの天銀級冒険者、クリスタ=ラ=クリスタ。あいつだけは必ず俺が殺す。


 僕は背後を振り返った。

 そこにいたはずのライキラさんは、いつの間にかいなくなっていた——。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新連載『メイドなら当然です。 〜 地味仕事をすべて引き受けていた万能メイドさん、濡れ衣を着せられたので旅に出ることにしました。』
→https://book1.adouzi.eu.org/n6251hf/

→【コミカライズ版紹介ページへ】


→【youtubeで公開中の漫画】

→コミカライズ掲載【コミックウォーカー】

→コミカライズ掲載【ニコニコ静画】

→書籍紹介ページ

― 新着の感想 ―
[気になる点] クリスタさんが格好良く活躍しても胸糞悪くなるだけだという哀しみ
[良い点] レアっぽいスキルゲットだゼ! やっちまえ!ライキラさん!(やれない
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ