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限界超えの天賦《スキル》は、転生者にしか扱えない ー オーバーリミット・スキルホルダー  作者: 三上康明
第1章 旅立ちは密やかに、人知れず。出会いは密やかに、導かれる。

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ごめんなさい、ちょっと短いです(なかなか切りのいいところがない……!)

 戻ったってやれることなんてない。

 戻ったって足手まといになるだけ。

 ……それは全部、戦わないための言い訳だ。

 今の僕なら、魔力枯渇という危険はあるけれど、1、2発は魔法を撃てる。陰から狙撃するようなことだってできるだろう。それで、わずかでも竜の注意を逸らすことはできるはずだ。

 でも、足が、どうしてもそちらへ向かないのだ。


(転生者だって、星10のスキルを手に入れたって、他人の天賦を学習できたって……)


 僕はとぼとぼと歩き出した。必死で走って逃げる人々の中で、僕だけ歩いていた。


(……勇気がなければ、なにもできない)


 僕が思い返したのは鉱山でのことだ。

 剣を抜いた公爵と、殺されようとしている僕の間に割って入った——僕の()

 ラルクならどうするだろう。

 ——あーあ、やってらんねーよ、なんて言って逃げるだろうか?

 ——ふざけやがって、少しくらいやり返さなきゃ気が済まねーな、なんて言って悪知恵を働かせるだろうか?


「会いたい……会いたいよ、ラルク……」


 頬がすーすーと冷たかった。僕はいつしか泣いていた。なんて情けない。なんて愚かなんだろう。そう思っても僕の足は戦闘現場から離れていくのだからいよいよもってどうしようもない。

 2つ目の交差点は大きな交差点だった。ここを右に曲がれば冒険者ギルドだ。

 最後の、分岐点だ。

 ここを曲がれば僕はきっともう二度と後ろを振り返らない。


「早く逃げろ、立ち止まったっていいことなんて一個もねーよ——弟くん(・・・)


 声を聞いた。

 ハッ、として立ち止まった僕は周囲を見回した。

 だけれどそこにいたのは逃げ出そうとしてごった返す人々だけだった。荷物を抱えて走る人、ぶつかってケンカになる人、仲裁のために走る領兵——。

 いるわけがない。

 今聞こえたのはただの幻聴だ。


「……だよね。僕が聞きたい言葉を、自分で聞いただけだ」


 冒険者パーティー「銀の天秤」がどうして命を懸けてまで戦うのか、僕にはわからなかった。最初から長く生きるつもりはなかった?「拾われた」恩を返すため? 父を少しでも生きながらえさせるため?

 あるいは——冒険者としての務めだから?

「義務」や「使命」と言えば聞こえはいいし、甘美な余韻に浸ることもできるだろう。

 でもなんだか、ほんとうのところは……理由なんてないのかもしれないと今になれば思えた。

 そこに敵がいるから、脅威があるから、倒せば得られる名誉があるから、冒険者は勝手に身体が動くのではないだろうか。

 明らかに勝ち目がなさそうな戦いであっても、あんな、見映えにばかりこだわってそうな「永久の一番星」ですら逃げ出さずに戦っているのは、難しいことなんて考えていないからじゃないだろうか?


「だらだら歩いたってダメだ。やるなら走らなきゃ」


 僕は服の袖で目元をこすった。

 前が見えなくて邪魔な涙を消すために。

 最高にダサイ僕を拭い去るために。


「考えるのは止めた」


 そして僕は、振り返った(・・・・・)


「今、行きます。僕も『銀の天秤』のメンバーだから」


 息を吸って身体をかがめ、一気に走り出す。【疾走術】のスキルが自然と発動し、僕の身体は前へ前へと押し出される。

 人混みを縫うように避けていくとだんだん人の密度はなくなって、がらんとした通りに出た。

 僕は、今できる全速力で駈けた。




 少しの時間離れただけで、こうも状況が変わっているとは……。

 建物の崩壊エリアは拡大し、ところどころで火事が起きている。

 近場でやっていた屋台が燃え、隣の花屋さんにまで火が移っている。


「重傷者は戦線離脱です! 軽傷だけすぐに治します! こちらへ!」

「回復魔法使いか? 助かる。足をやられた……」

「こっちは右手だ。剣が握れねぇ」

「チクショウ、なんなんだよこいつはよお……」


 物陰で野戦病院のように治療を行っているのがノンさんだった。周囲には数人の冒険者がいて、治療を待っている。


「ライキラ! 近づき過ぎだ!」

「じゃなきゃ当たんねーだろーがよ!」

「お前がケガをしたら一気に崩れるんだ、自重しろ!」

「チッ……!」


 最前線では、ライキラさんが右に左に跳んで竜を翻弄し、隙ができると一気に冒険者たちが突っ込んで攻撃をしている。

 竜の身体のあちこちには傷がついていて、血が流れていた。


(そうか、バカ正直に正面から攻撃を受け止める必要はないのか)


 ライキラさんは回避型のタンクといったところだろうか。


「あいつ、すげえ」

「何者だよ」

「『硬銀の大盾』のパーティーメンバーだとか」

「獣人半端ねえな」


 こうなるとヒト種族も獣人も関係ないらしく、正直な称賛が冒険者の間から送られている。

 だけれど、ライキラさんだって余裕綽々で攻撃をかわしているわけではなかった。

【森羅万象】がなくとも【視覚強化】で十分わかる、ライキラさんが全身に汗をかいて息が上がってきているのが。


「くっ」


 着地で失敗したライキラさんはその場に転げた。そこを見逃す竜ではなく、真上からビタンと尻尾が振り下ろされる——のをぎりぎりで回避する。

 だけれどすでに竜の口は、炎を吐く準備が整っていた。


「やばっ——」


 炎が放たれる——直前。


 ぽんっ。


 と竜の鼻先に花が咲いた。

 僕が花屋さんから拝借してきた枝を投げ、【花魔法】で咲かせたのだった。

 竜はわずかな時間、ぽかんとした。

 それは、純金級冒険者、灰銀級冒険者たちにとっては十分過ぎる隙だった。


「おらああああああッ!」

「おおおおおおおッ!」


 ヨーゼフさんの振り下ろした両手斧が傷ついていた竜の尻尾を途中から断ち切り、ダンテスさんの大剣が傷口から竜の体内にめり込んだ。


《ヴォオオオオオオオオオオオオ!!!!》


 咆吼が、音圧となって近くにいた冒険者を吹き飛ばし、がれきすらも転がっていく。僕はとっさに建物の陰に隠れたけれど、隠れた先にはライキラさんがいた。


「てめっ、レイジ! なんで戻ってきた!」

「あだっ」


 ゲンコツを頭に食らった——次の瞬間、ライキラさんの太い腕が僕の頭を抱え込んだ。


「助かった、サンキューな」

「……はい」


 汗をかいて体毛がびちょびちょの腕だったけれど、ライキラさんは確かに生きている。僕がなにもしなくとも逃げられたかもしれなかったけどね。それでも感謝されるのはうれしい。


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― 新着の感想 ―
[一言] 竜は敵だけど奴隷解放の原因だから恩竜でもある?
[一言] ううぅぅぅ、頑張れ!死ぬな!がんばれー!
[一言] んー? この葛藤シーン要りますか? 頭痛が痛いみたいな蛇足感があります。
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