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限界超えの天賦《スキル》は、転生者にしか扱えない ー オーバーリミット・スキルホルダー  作者: 三上康明
エピローグ オーバーリミット・スキルホルダー

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エピローグ(2) 究極の二択

●前回あらすじ:

女神を斃したが、そのときに無理をしすぎた僕は気を失い、気づけば1年という月日が経っていた。

各地での混乱はあらかた終息していたが、それでも世界的に増えたモンスターへの対応は続いている。

ゼリィから、教皇聖下の話として「神」の存在を臭わされたが、レイジはそれは聞かなかったことにした。

 ゼリィさんは、僕にとってはほんの少し前、彼女にとっては1年前となる大聖堂での出来事を思い出すように言った。


「えーっと……それで、大聖堂に来たわけですよ。誰もいなかった大聖堂で教皇聖下の服を剥いだら——」

「ゼリィさん、言い方」

「——ひんむいたら?」


 もういいや。


「背中がなんか光ってるんですよ。で、それだっていうんで、『ひと思いにやって』と教皇聖下もおっしゃるんで、ダガーでぐさっとやりました」

「だいぶ思い切りましたね」

「ノンさんが言いましたから。なにがあっても【回復魔法】で救うって」

「……それは、心強いですね」

「ええ。あの人、めっちゃいい女っすよねー。あーしが男だったら放っておかないっすよ。坊ちゃんはどう思います?」

「え!?」

「スタイル抜群なんですよ、あの人。ゆったりした服着てますけど」


 知ってます。

 温泉にいっしょに入ったことが……。


「それで中身もカッコイイ。最高の女っすよ。——それとも坊ちゃんは他に気になる人が?」

「いやいや、僕はそんな……」

「アナスタシアさんもどえらい美人っすよねー。坊ちゃんが目を覚まさなくなってから、1か月はベッドのそばから離れませんでしたよ」

「アーシャが……そうでしたか」


 だいぶ心配を掛けてしまったみたいだ。

 彼女の顔が思い出される。

 思えば、ずっと心配を掛け通しだったかもしれない。


「エヴァお嬢様は真っ先に離れてクルヴァーンに帰っちまいやしたけど、坊ちゃんをどの国に預けるかですぐにウインドル共和国にするべきって決めて、受け入れ準備まで全部整えていかれやした。あの年で大人顔負けの仕事っぷりなんだから、すごいっすよねぇ」

「ええ、お嬢様は成長なさいましたね」


 出会ったときは大変だったんだけどなぁ。

 僕が苦笑すると、ゼリィさんは、


「それでもお嬢様は、出発の日の朝まで夜通しで坊ちゃんの枕元にいらしたんですよ。心配そうな顔で……おかげであーしはベッドに潜り込めませんでしたけどねえ」


 なんでゼリィさんがそんなことを知っているのかと思えば、そういうことか。


「入らないでくださいよ、勝手に」

「許可を取ろうとしたんですが、坊ちゃんは眠ってたもんで」

「あなたって人は……」


 僕はベッドサイドにいるお嬢様を想像した。

 クルヴァーン聖王国で無茶をしたときにもお嬢様は枕元にいてくださったっけ。

 お嬢様は確かに成長したけど……変わらないところもあるんだな。


「可愛い女の子と言ったら、坊ちゃんのお姉さんも来てやしたよ」

「ラルクが?」

「一度だけふらっといらして、坊ちゃんの顔を見たら『また来る』って言って行っちまいやしたけど」


 ラルクらしいなぁ。

 今どこにいるんだろうか。

 僕らがいた鉱山での、犠牲者遺族を救う基金については立ち上げたはずだけれど……それからもう1年経っている。

 山賊? 空賊? 仲間のクックさんたちといっしょに行動してるのかな。


「そうだ。ミミノさんにはなるたけ早く知らせてあげなきゃっすね。坊ちゃんを目覚めさせようとして、目玉が飛び出るくらい高価い薬剤に手ぇ出したりしてましたから」

「え!?」

「ダンテスさんがなんとか止めてましたけど、四六時中監視するわけにもいかないので、気づくと借金まで……」

「ちょっ、僕行ってきます!」

「いやいや坊ちゃん、どこにいるかわかってるんですか」

「あ」


 立ち上がって飛び出そうとした僕だったけれど、


「落ち着いてくださいよ〜」


 まさかゼリィさんにそんなことを言われるなんて……。


「すみません……それでミミノさんは今どこに?」

「10日後にこっちに来る予定っすよ。だから、焦る必要はないです。っていうか坊ちゃん、ミミノさんのことになるとなんでそんなにあわてるんですか」

「そりゃあわてますよ。自分のことで他の人が借金なんて……いや、ミミノさんにはほんとうにお世話になっているので」

「ママみたいな」

「……否定はしませんけど」


 ちっちゃいけどね、ミミノさん。


「それで、これからどうしやす? 女神は消えて世の中は元の通りに……あー、まぁ、ふたつの世界がくっついたから完璧にってことはないんですけど、おおむね元通りになりやした。坊ちゃんも天銀級冒険者で『銀の天秤』のメンバーっすよ」

「はい。僕はみんなとまた冒険ができればそれで——」

「さっき、エヴァお嬢様がウインドル共和国に坊ちゃんを運ぶようにしたって言いやしたけど、あーしが知る限り、教皇聖下も、クルヴァーンの聖女王様も、光天騎士王国も、ヴァルハラ市長やゲッフェルト王も坊ちゃんの身柄を引き取りたいと申し出てやしたからね。他にも情報をつかんだ各国のトップや有力貴族に大富豪が申し出たとか聞きやしたけど、忘れやした。ウインドル共和国はその点いろいろ公平な国なのでここになったってことらしいっす」

「……え?」


 なんだその面々は。

 せっかく戻ってきた温かい血がスッと引いたような感じさえする。


「うまく使えば一国を滅ぼすなんてたやすい竜を操り、たったひとりであっても軍隊に匹敵する力を持ってる坊ちゃんですよ? ほっとくわけないじゃないっすか」

「い、いや、僕はそんな……」


 え、僕そんなふうに思われてるの?

「歩く核弾頭」みたいな? あ、今日までは「昏睡してる核弾頭」か。コントロールできないという点じゃもっと危ない気がする。


「坊ちゃん」


 にこり、とゼリィさんが笑った。

 こういうときのゼリィさんは100パーセント、完全に、僕をからかっている。


「今や世界にとってスーパー重要人物(VIP)となったワケですから、身の振り方、ちゃんと考えたほうがいいっすよ? 特に『結婚』なんかはね? めちゃくちゃ政治的な話になっちゃいますからね?」

「…………」


 ほら、からかってる。

 ……からかってるんだよね?

 そのまま立ち上がって食堂を出て行かないでゼリィさぁぁぁぁん!




 ウインドル共和国は女神による混乱のさなかにホリデイ代表が殺された。

 だけれどこの国は立ち直りが早く、女神の影響がなくなった後にはすぐに新たな人民代表を選出し、今ではどの国よりも早く元の状態に戻っているという。


(人ってたくましいよね……)


 歩くリハビリも兼ねて、僕は8日間、首都をうろうろしていた。

 活気あふれる朝の市場、にぎやかな昼の商店街、酔客が大声を出している夜の繁華街。

 パッと見は他の国とあまり変わらない。

 でも、他の国と違ってどこか人々の警戒心が緩そうに感じられるのは治安がいいからなのか。

 それとも、武力を自分の国で持たないとしているからなのか。


(そう言えばホリデイ代表に、この国に招待されていたっけ。あの人がヒト種族代表の盟約者だったのは、わかる気がする)


 戦乱やモンスターの脅威がない世界。

 行き着く先はこのウインドル共和国みたいになるのかもしれない。

 とはいえ、軍事力を他国に頼っているだけで他の国がそれを肩代わりしているだけではあるのだけど。

 これからの世界はどうなっていくのかな。


「——ここが冒険者ギルドか」


 ウインドル共和国にも冒険者ギルドはある。

 軍事力を他国に頼っているとはいえ、国内に出現するモンスターすべての掃討を頼っていてはお金がいくらあっても足りないからだ。

 とはいえ、小さい建物を見るにあまり盛んに活動しているような感じではないけれど……。


「……一応入ってみるかな」


 これまでギルドには足が向かなかったのは、女神戦のことは僕としても結構しんどかったことだったからかもしれない。


「こんにちは〜……」


 ドアをそっと開くと、中は殺風景な——まるでお役所のような雰囲気で、カウンターと、待合のイスが並んでいるだけの場所だった。

 だけれど、結構な人が集まっていた。

 なんでだろう、と思っていると、


「——なんで受理されないべな!? 20日掛かるところを15日で終わらせてきたんだ! 早く終わるぶんには問題ないべな!」

「そ、それが、今回の依頼は『きっちり20日』という記載がありまして……」

「それくらいギルドのほうでうまくやっておけばいいべな!」

「不正をすることはできません……」

「あ〜〜〜も〜〜〜〜融通が利かないなぁ! せっかくレイジくんの目が覚めたって聞いたから大急ぎで帰ってきたのにぃ!」

「ミミノ、ミミノ、仕方ないだろ。結果報告だけ後でまたここに来ればいい」


 カウンターにいるのは見覚えのある小さいハーフリングの背中、巨大な盾を背負った頼りがいのある背中だった。

 周囲の冒険者たちは、


「——なにもめてんだ?」

「——天銀級らしいぞ」

「——は? 有名人?」

「——『銀の天秤』なんて聞いたことないが」


 そんなことを言っている。


「アナスタシアは先に向かっているんだし、俺たちも行こう。時間の無駄だ」

「……うぅ。せっかくレイジくんに会うんだから心置きなく会いたかったんだよねぇ。わたし特製のスーパーポーションを飲ませなきゃだし、体調の検査に何日も掛かるはずだし……」

「あ、あの毒……じゃなかった、ポーションを飲ませる気か。あれは本気だったのか」


 ダンテスさんの顔が引きつっている。

 え。今「毒」って言った?


「とにかく行くべな。レイジくんのことだから1年のブランクなんて無視して無理するかもしれない——」

「さすがに僕だってそんな無茶しませんよ」


 近くに寄って言うと、ぽかん、と口を開けてミミノさんとダンテスさんがこちらを見た。


「レ、レ、レ、レ、レ、レ……」

「お久しぶり……になるんですよね。ミミノさん、ダンテスさん。僕からしたらたったの数日ぶりなんですけど」

「レイジ! どうしてここに?」

「散歩してて、たまたまです」

「歩けるのか。見た目は問題なさそうだが」

「はい。一応無理をしていないだけで、身体は絶好調です。魔法も問題なく——」

「レイジぐうううううううううんんんんんん!!!!!」


 ミミノさんの小さい身体がタックルするように僕にしがみついてきた。

 それを、しっかりと受け止めるくらいの力は今の僕にはある。


「心配したんだべなぁああああ!」

「す、すみません……でももう、大丈夫です」


 僕の胸に額をこすりつけて泣きじゃくるミミノさんと、僕を見たダンテスさんは小さく笑った。


「……レイジ、少し、背伸びたか?」

「そうかもしれません」


 僕はちらりとダンテスさんの()を見て、1年経ったんだな、と妙なところで実感した……なにが、とは言わないけど。


「俺はまた髪が薄くなった」

「……そ、そうですか!? 全然気づきませんでした!」


 一応気を遣ってなにも言わなかったのに!




 お屋敷に戻ると、僕がいなかったせいで魔力のコントロールが利かずに暴走しそうだったアーシャをなだめているゼリィさんがいた。


「坊ちゃん! 待ってましたァ!」


 このときほどゼリィさんが本気で、心の底から、僕が帰って来るのを待っていたことはなかったんじゃないかっていうくらい、感情がこもっていたっけ。


「レイジさん……!」


 アーシャの周囲に漂っていた火の粉——魔力の濃度が濃すぎて発火していた——は少しずつ収まり、彼女は目に涙を浮かべるとこちらへ向かって駈け出した。

 ダンテスさんを見たときよりもはるかに実感する——1年経ったのだなと。

 アーシャの表情は僕の記憶にあったそれよりもずっと大人びて感じられたのだ。


「レイジ!」


 そのとき、別の声が背後から聞こえ、アーシャの足がハッとして止まった。


「……え?」


 声を聞いて僕はそれが誰だかわかった。

 だけれど、「あり得ない」ことだった。

 その人がここにいるなんて——。


「お、お嬢様……?」


 振り返ると、確かにそこにエヴァお嬢様がいた。

 そしてお嬢様もぐんと身長が伸びていた。

 着ているドレスだけでなく、漂う雰囲気は「大人の世界に一歩足を踏み入れた少女」から「大人の世界にすっかり慣れた少女」という感じがする。


「それに……ラルク!?」


 お嬢様の横にいたのは、ばつが悪そうにぽりぽりとほおを人差し指でかいているラルクだった。


「……よっ、レイジ」


 軽く言ってくれる。

 彼女は旅装束だったけれど、胸が大きくなっているのがわかった。

 栄養の概念なんてまったくなかった鉱山奴隷の食事を思えば、今はちゃんとご飯を食べているのだろう。


「あなたが目を覚ましたと聞いて、父から魔導飛行船を借りて大急ぎで来たのですわ。ラルクさんはたまたまクルヴァーン聖王国にいらしていて、当家に逗留されていたために同行していただきました」

「や、ちょっとこのお嬢様の行動力にびっくりした、っつうか、お前が目を覚ましたって聞いたら聖王宮の重要な会議をすっぽかして帰ってきて。飛行船の中でもずっとそわそわして……」

「ラルクさんもどうしても来たいと言うので! 連れてきたのですわ!」


 すっかり貴族になってしまったのかと思っていたエヴァお嬢様だけれど、ラルクの言葉を遮ったあたりはなんだか前と変わらない気がして——僕はどこかホッとしている自分に気づいていた。

 そんなふたりの後ろにはマクシム隊長や騎士たち、ラルクの空賊仲間であるクックさんたちがいた。

 にこやかに、手を振ってくれている。


(ありがたいなぁ……)


 僕のためにわざわざ来てくれたんだ——と思うと、胸がじんとして熱くなった。

 あれ……。

 おかしいな、視界がにじんで、涙が出そうになる。

 そうか。

 僕はようやく、あれこれいろんなことが終わったのだと実感できたのかもしれない。


「——レイジ」


 するとダンテスさんが言った。


「麗しいお嬢様たちとの感動の再会途中ですまないが、重要な話を先に済ませたい。お前の将来に関わることだ」


 めっちゃ深刻そうな顔だった。

 え、えぇ……?

 全部終わったんじゃないんですか……?




 お屋敷の持ち主は心の広い方のようで、急な、しかも大量の来訪者でも快く受け入れてくれた。

 なんか「今やレイジ殿は世界が注目する方ですからな」とか言われて……調子に乗る前に恐ろしくてどうしていいかわからなくなる。

 冗談だったらよかったのに、目がマジなんだよね……。


「さて、なにはともあれ目が覚めてよかった」


 テーブルを囲んでいるのは僕、ダンテスさん、ミミノさん、ラルク、エヴァお嬢様、アーシャの6人だった。

 ゼリィさん?「今日は賭場が立つんで!」と言ってうれしそうに出て行ったよ。

 エヴァお嬢様には専属の執事がいて、その人は壁際に控えている。護衛のマクシム隊長も同様だ。


「ありがとうございます。ご心配をおかけしました」


 僕が言うと、ダンテスさんは微笑んだ。

 だけれどすぐに顔を引き締める。


「で、だな。冒険者ギルド全体のマスターであるグルジオ様が、今回の一連の出来事の顛末を聞きたいと。女神との戦いについてはレイジしか知らないだろう? それに竜は姿を消してしまってな」

「竜が……? 幻想鬼人は」

「たぶん、死んだ。あの白い空間でお前を女神のところに送り出したあと、動かなくなった。俺たちは大聖堂前に戻されたが、そのとき幻想鬼人はいなかったんだ」

「そう……ですか」


 竜とは違って、なにを考えているのかわかりにくい人だった。

 だけど、それでも、最後の最後では——女神を斃すというところで意見が一致した。

 あのとき、あの人も死を覚悟していたんだろうか。

 僕が「準備はできた」と告げたとき、僕の提案に乗ってくれた。

 僕に賭けてくれたんだ。


「……それでな、レイジ。あらゆる事情を把握しているのはお前しかいない。だがお前は1年間昏睡状態だった。だからいろいろなことが宙に浮いている」

「宙に浮いている……とは?」

「今回の混乱の原因はなんなのか。誰が責任を負わなければいけないのか。盟約者たちは精神にきちまってな、話があまり噛み合わねえんだ。それで、お前にはグルジオ様に話をして欲しい」

「わかりました」

「すまねえな、目が覚めたばかりだってのに」

「いえ……説明の必要があるのも当然だなと思いましたし」

「そうか、相変わらずお前は賢いな」


 ダンテスさんがフッと笑った。


「……ダンテスさん、もう少し立ち入った内容を話しておいたほうがいいのではありませんか?」


 そう言ったのはエヴァお嬢様だった。


「いや、スィリーズ伯爵令嬢、俺も——私もそう思いましたが、レイジが話をするのに必要ない情報は伝えても負担になるだけでしょう」

「そうかもしれません。しかし、レイジは聞く権利がありますし、なんなら、聞いておきたかったと後で思うことになると思います」


 ん? なんだなんだ。

 他に裏事情みたいなのがあるのかな。


「あー……うむ、どうする、レイジ」


 ダンテスさんにしては歯切れ悪く聞いてきた。


「どんな内容かはわかりませんが、今さらなにを聞いても負担にならないので、とりあえず聞いておいたほうがいいのかなって思ってます」

「そ、そうか……そのな」


 ちら、とダンテスさんが見たのはなぜかアーシャだった。


「……今回のことはすべて、黒髪黒目のお前が仕組んだことで、お前を処刑しろという声が数カ国から上がった」

「げっ」


 あ〜……なるほど。

 そのことは考えなかったなぁ。

 だけど、黒髪黒目への偏見を考えたら、そうなっちゃうのかぁ。


「その国の名前を早く教えてください、ダンテスさん」


 すると——うっそりと笑みを浮かべたアーシャが言った。

 なんだろう、今までに見たことのない笑顔だ。

「妖艶」なんて言葉が似合いそうな……。


「えっと、アーシャ? その国がどこなのか聞いてどうするんです?」

「決まっています。焼きます(・・・・)


 焼きますか。

 そう来ますか。

 だからダンテスさんが額に手を当てて天を仰ぐんですね。


「アーシャ、ダメです」

「でも! レイジさんはこの世界を救ったいわば英雄ではありませんか!? そんな人をつかまえて処刑だなどと……頭の沸いている浅慮なる王侯貴族を一掃するチャンスだと思いませんか?」


 アーシャってこんな子だったっけ!?


「アーシャ」


 僕はじっと彼女を見つめた。


「ダメです」

「……はい」


 唇をとがらせ、小さな声で反応したアーシャは今度は幼子みたいだ。


「焼くのなら、見た目で差別してしまう、つまらない偏見のほうですよ」


 うまいことを言ってしまった。


「弟くん、あんまりうまくねーぞ」


 姉に突っ込まれた。恥ずかしい……!


「さすがレイジさん。すばらしいお言葉ですね!」


 だからアーシャってこんな子だったっけ!? ねえ!?


「……ともかく」


 一貫して落ち着いているエヴァお嬢様が言った。


「そういう見当違いなことを言い出した国は、ゲッフェルト王が押さえ込んでくれましたわ。世界会議を召集して、その場で証言してもらうという意見が圧倒的でしたが、グルジオ様がそれを押しのけ、政治的に中立な冒険者ギルドが……なにせレイジも冒険者ですからね、ギルドが話を聞くということで今は収まっています」

「なるほど……」


 グルジオ様にはお世話になってばっかりだなぁ。

 女神と戦うときの武器、短刀を直してくださったのもあの人のツテだったし。


「一応言っておきますが、レイジ、くれぐれもグルジオ様に負い目があるなどと考える必要はありません」

「えっ!?」


 お嬢様に見透かされている。


「冒険者ギルドは治安が不安定になった各国で活躍しており、ギルドとしての地位が向上しています。それもすべてレイジ、あなたが、女神を斃してくれたおかげ。あれがなければ世の中がどうなっていたかもわからないのですから」

「僕だけじゃないでしょう。ここにいるみんなも、もちろんお嬢様もいっしょに戦ってくれたじゃないですか」

「…………」


 僕が言うと、お嬢様は目をぱちくりさせ、


「……そ。恩に着てくれてもいいのだわ」


 昔みたいな口調で言った。


「それはともかく、グルジオ様はレイジに感謝こそすれ、あなたがグルジオ様に負い目があるということはありません」

「わ、わかりました」


 成長した貴族のお嬢様としての発言はぐいぐいくるなぁ。


「証言はそれでいいと思うんだけどさ、問題はその後だと思うぜ」


 するとラルクが言う。


「なに、その後って?」

「弟くんはどーすんだよ。その後。聞いたかもしんねーけど、各国首脳が弟くんを狙ってるぜ、なんならグルジオってヤツだって冒険者ギルドに弟くんを縛り付けておきたいんだ。処刑処刑言ってるヤツらだって処刑をなくしてやるからうちのために働けって言いたいんだよ」

「うへぇ」


 ゼリィさんにちらっと聞いてたけど、来るところまで来ちゃってるなぁ。


「『うへぇ』じゃねーよ。他人事みたいに……ちゃんと考えておけよ、これからどーすんのかをさ。冒険者として活動します! って言って収まるほど簡単な話じゃねーんだ」


 えっ、そうなの!?


「ちゃんと存在感を出して、この世界がおかしな方向にいかないようにがんばるか……それか、あらゆる面倒ごとを全部放り出して、なんなら富と名声も全部すてて、冒険者になるか。それならいけるかもしんねーけど。こんだけ苦労してなんもないなんて……つまんねーしな」


 つまらない。

 その言い方がラルクらしくて、


「ふふ」


 僕は思わず笑ってしまった。


「なに笑ってんだ」

「いや、うん。ありがとう……究極の二択を教えてくれて。考えてみるよ」


 僕は考えなければならないらしい。

 後悔しない、僕らしい、未来の選択だ。

某ハイエルフ「やっぱり焼きます?」

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― 新着の感想 ―
うっそりと笑みを浮かべたってなんだよw うっそりはぼんやりって意味なのにどっから妖艶でてくんだよw
[一言] アーシャ「処す?処す?」
[一言] 魔王を倒した勇者が脅威とみなされる例
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