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限界超えの天賦《スキル》は、転生者にしか扱えない ー オーバーリミット・スキルホルダー  作者: 三上康明
第6章 再臨する女神と希望の子

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女神戦

前回あらすじ:

 エヴァと彼女の騎士たちに神殿騎士たちの妨害を任せ、ゼリィは後方かく乱のために動いた。

 影竜は同じ調停者幻想鬼人の、黒い魔導生命体との戦いを余儀なくされる。

 レイジ、ダンテス、アナスタシア、ミミノの4人はひとり湖畔にたたずむ教皇と向き合うのだが、その瞬間、彼らの姿は消えた。

 あのとき——教皇聖下に近づいたときに「こうなるかもしれない」という予感はあった。

 だって前回だって、こうだったからだ。

 なんの予兆もなく、ただ一度瞬きしただけで世界は変わっていた。


 一面の白い空間に僕らはいた。


 ぽかんとするダンテスさんとミミノさん、警戒心をあらわにするアーシャ。

 明るいのに影は出ず、どこに立っているのかもわからないような空間。


『————まさかあなたのほうからやってくるとは思いませんでした、転生者よ』


 女神の声が響いた。

 だけれど今までと少し違うのは——その声の発する方向(・・・・・)がなんとなくわかるということだ。

 僕らがそちらを向くと、その方向の「白」が他よりも明るく感じられる。

 人の影のような……シルエットがうっすら見える。

 その存在に対しては【森羅万象】でも認識ができない。


『————ですがあなたを探す手間が省けました。あなたは、これからの世界には不必要の存在です』


「レイジの命が必要かどうかなんて、他の誰かが決めることじゃねえな」


 僕の前に、大盾を構えたダンテスさんがずいっと前に出る。


『————跪け』


「!?」


 女神がそう声を発した瞬間、ダンテスさんは大盾を取り落とし、膝をついた。

 そのまま頭を地面につけそうになるぎりぎりのところで、腕をついて身体を持ち上げる。


「ダンテスさん!」

「だ、大丈夫だ、レイジ……悪趣味なことしやがる」


 ダンテスさんは両腕に力を込めると無理やり起き上がる。


『————…………』


 それが意外だったのか、女神は黙っている。


「……俺が頭を垂れるのは、心底感服し、尊敬できる相手だけだ。少なくとも、顔も見せずに口先だけのヤツじゃあねえな……」


 両足がぷるぷるし、膝に腕を突いてようやくという感じだったけれど、それでもダンテスさんは立っている。


「——出てこい、女神。いや、神を自称する者よ。僕らはここに、決着を付けるために来た」


 僕はミミノさんから受け取った短刀を抜いた。

 後ろに、ミミノさんとアーシャがやってくる。


『————竜がなにかをしたのですか? いえ……調べるのは後で構いませんね』


 そんなことを言った女神は、腕を振るったようだった。

 その直後、僕らと女神との間に——5つの人影が現れる。


「!!」


 青白い、人の姿を取ってはいるが生身ではない。

 魂というか、その人物の存在そのものというか——そんな人影だ。


『なんじゃ、ここは……』

『あらぁ、女神様のいらっしゃるところじゃないのぉ』

『ふん。汚らわしいドワーフまでおるではないか』


 ずんぐりむっくりしたドワーフの王太子。

 ゴリラの獣人女性のミンミンシャン閣下。

 ドワーフと敵対しているノームの老人。

 そして残りのふたりは、


『……アーシャ、ここにいたの』


「ユーリー姉様……!?」


『いつの間にこんなところまで来ていやがったんだ……あの蹴りは効いたぞ、レイジ』


「グレンジード公!」


 ハイエルフのユーリー様。

 グレンジード公爵。

 つまりかつての盟約者のうち、5人だ。

 戦闘に特化していそうな5人。


『————そこにいる4人を、蹴散らしなさい』


 女神の言葉に呼び出された5人の存在は、はっとしたように背筋を伸ばした。

 青白い存在に瞳の色だけが金色になり、その表情がうかがえなくなる。

 グレンジード公爵の手に巨大な槍が現れ、ユーリー様の手には長い杖が現れる。


「——来ます!! ダンテスさん!」

「オオッ!」


 ダンテスさんは女神の圧力が解けたのか、大盾をつかんで構える。


『ぜえええええいッ!!』

「おおおおおおおお!!」


 槍と大盾が激突する。


『——風と水の精霊よ、集まり叢雲となり、いかづちを降らせ』

「させません!!」


 周囲に暗雲が立ちこめると、アーシャが両手をそちらに差し伸べ業火球を飛ばす。

 炎の塊が雲にぶつかると爆発して風が吹き荒れる。


「みんな気をつけるべな!」


 ミミノさんが薬をまくと僕らの周囲の風が弱まる。


『あたしもいるのよぉん!』

『死ね!!』


 ナックルガードを付けたミンミンシャン閣下が右から、巨大なバトルアックスを持ったドワーフの王太子が左から突っ込んで来る。


「ダンテスさん、左は僕が」

「——違う! お前は行け、レイジ!」


 えっ、と聞き返す必要もなかった。

 行けとダンテスさんは言った。

 どこに——女神のところへ、だ。

 この5人は押さえるから、行けと。

 その横顔をちらりと見る。


(もう、僕のことなんて見ていない)


 疑っていないからだ。

 僕が、ダンテスさんを信じ、女神へと向かうことを。

 そして女神を斃すことを。


「行ってきます!!」


 何百何千、いや、何万回とやってきた、【補助魔法】からの【疾走術】、【身体強化】、【脚力強化】、【瞬発力】の組み合わせ。

 僕の身体は弾丸のように飛び出しながらもその足音はなく、すり抜けざまにグレンジード公爵の脇腹に一発、ドワーフ王太子の脇腹に一発、パンチをくれていく。


『ぐっ』

『ごはぁっ』


 グレンジード公爵は態勢を崩し、王太子は横に転げていった。

 目の前にいたのは魔法を詠唱しているノームの長老だった。


『ぎょむっ!?』


 その顔を踏んで僕は奥へと跳んだ。

 背後では、さらに魔法と、武器とがぶつかる音が聞こえてくるが僕はただ前を見据えていた。

 すぐそこに、女神の姿がある。


『————人の身では我に、届かない』


 逃げるでもない、動揺するでもない、なにか行動を起こすでもない。

 女神はただそこにいた。


「やってみなければ——わからない!!」


 僕は【風魔法】を追い風にして速度を極限まで上げ、上昇気流とともに跳躍。

 女神の身体に向かって短刀を振り抜いた。


 ッキィィィイイィイ——————。


 鉄の塊に鉄の棒を叩きつけたような、絶対に壊れない(・・・・・・・)という感触。

 ミスリルが反応したらしい魔力の反発により耳を刺す超高音が響き渡る。


「クソッ」


 僕は振り向きざま、右手の指1つ1つに【火魔法】を、左手の指には【風魔法】を展開。

 魔力が急速に失われていく。


「『火炎嵐(フレイムトルネード)』」


 放たれた劫火の嵐は女神の身体を包み込んだけれど、炎は、女神から数センチ離れたところまでしか届かず、嵐が通り過ぎてもそこに女神は浮いていた。


『————無駄だということがわかったでしょう』


 ここまで鉄壁の防御力があるとは……。


「…………」


『————この空間へやってきた時点で、あなたの負けは決まったのです』


「……教皇聖下が、お前にとっては重要だった」


『————なんですって?』


「だから、教皇聖下に手を出せば、お前は聖下を失いたくないがために姿を現すのだと僕は考えた——この空間に呼び出されるかもしれないという可能性だって考慮していた」


『————それで? 結果として負けるのでしょう?』


「それはどうかな。そこまで考えていた僕が、無策でここに来るわけはないだろ」


 僕は短刀に意識を集中する。短刀に含まれているミスリルが魔力を吸って青白く輝く。

 もっと、もっとだ。

 もっと輝け。

 女神になんて負けないくらい、明るくなれ——。


『————あなたの相手をするのは、我ではありません』


 すると女神は言った。


「やれやれ……」


 僕と女神の間に現れたのは、小柄な老人だ。


「まさか、ワシが直接戦うことになるとは」


 幻想鬼人(ヴィジョンオーガ)はつぶやくと、腕のストレッチを始めた。



     ★  ダンテス  ★



「ミミノッ、すまねえ、伏せろ!!」


 ダンテスの大盾でかばいきれなかったドワーフの斬撃が、後方にいるミミノを襲う。


「うおっとぉ!?」


 がばりと伏せたミミノの後ろ髪が少々切れて飛んだ。


「ミミノさん! 魔法の余波はケアしなくて問題ありません! ダンテスさんのカバーを!」


 ユーリーだけでなく、ノームの魔法も【火魔法】で相殺しているアナスタシアは、額にびっしりと汗をかいていた。

 魔法の適性が高いというエルフの中でも、ハイエルフは桁違いの達人であることが多い。

 さらにユーリーは数いる兄妹の中でも最強の魔法使い。

 いくらアナスタシアが、レイジから見ても規格外の魔力の持ち主であったとしても、ユーリーの相手をするのはかなり大変のはずで、さらにはノームの長老の魔法が不規則に飛んでくるのだから相当キツイのだろう。


「……アナスタシア! キツくなったらすぐ言うべな!」

「はい!」


 現在進行形で「キツイ」のは間違いないと思われるが、それでもアナスタシアは弱音を吐かなかった。

 それ以上にキツそうなダンテスが目の前にいるからだ。


「う、おおおおおおおおッ!!」


 大盾でグレンジードの槍を押し返し、隙を突いて打ち込んできたミンミンシャンの拳にメイスを打ちつける。

 火花こそ出ないが、硬質な音が鳴る。


「ぜえ、ぜぇっ、はあ、はぁっ」

「ダンテス、ポーション!」

「飲むヒマが、ねぇっ!!」


 ドワーフが死角から斬り込んでくる。

 振り向きざま大盾で正面から受け止めると、グレンジードとミンミンシャンが迫ってくる。


「そぉいっ!」


 ミミノがグレンジードとミンミンシャンの鼻先に、2つの小さなボトルを放り投げた。

 ふたりは無視して突っ込んで来るが、ボトルが身体に触れるや小さな爆発を起こして勢いを止める。


「ナイスッ……!」


 その間にダンテスはドワーフの横面にメイスを叩き込み、


「おおおおおおッ!」


 力任せに振り抜いた。

 金色に光っていた目が弾け、顔の上半分がこそげ飛んだ。

 身体は地面を転がって行ったが、しばらくすると起き上がり、ふつふつと湧き上がるように青白い顔、金色の目が復活する。


「……クソが。キリがねえ」


 実のところ、すでに何度か青い敵の破壊は成功していた。

 最初にアナスタシアの魔法がノームの長老を焼き尽くしたのだ。

 だが、残ったチリのような青色の存在から、少し時間が掛かったものの、元通りの存在へと復活を遂げたのである。


「ダンテス、しゃっきりするべな!」


 ミミノが投げたポーションは、ダンテスの後頭部にぶつかって割れた。

 中身が飛び出すと、半分はダメになってしまったが残りはダンテスの身体に掛かり、染みこんでいく。


「あ〜……助かるぜ、ミミノ。飲むヒマねぇから、後のもこうしてくれ」

「これ1本作るのに、金貨2枚掛かるんだけどなぁ」

「…………」


 少し沈黙して、


「……命あっての物種だ」

「ま、そうだね」


 ふたりはうなずいた。


「おらぁ、掛かってこい!」


 ダンテスはメイスで大盾をガンガンと鳴らして敵を挑発する。

 ほんとうなら支援役のミミノを攻撃するのが筋だろうが、敵はダンテスの単純な挑発に乗ってしまっている。

 本能的に動いているだけのようだ。

 だからこそ、ダンテスも、アナスタシアも、なんとか敵の攻撃をしのげている。

 でなければ一流の戦闘能力を持った敵を複数相手になんてできはしない。


(どうしたらいいべな……倒しても倒しても、敵は復活する。それに魔力も無尽蔵なのか?)


 敵は一向に疲れた気配もない。

 逆にアナスタシアの魔力も、ミミノの薬剤も、いずれは底をつく。

 このまま戦い続けても、もって30分かそこいらだろう。

 それほどの消耗戦になっていた。


(レイジくん、勝算はあるべな?)


 ミミノは離れた場所で戦っているレイジを見た。

 そして——目を見開いた。



     ★



 幻想鬼人の老人は、自身が戦えないから黒い魔導生命体を創り出していたのだと思っていた。

 でもそれは——大きな間違いだった。


「……こうなったら、手加減を期待するんじゃねえぞ。何百年ぶりかに解放(・・)するからよ、そもそも手加減なんてできっこねえけどな——『災厄の子』よ」


 巨大な赤鬼がそこにいた。

 老人であった面影はもうどこにもない。

 纏っていた着物はすべてちぎれ飛び、身長は3メートルを超える。

 露出している肌は赤銅色で、体毛で覆われている部分は灰銀色だ。

 額に1本、こめかみから2本の角が生え、天を突くようにそそり立っている。

 気難しい老人だった顔はなく、深い琥珀色をした目は吊り上がり、口からは牙がのぞいていた。


「…………!!」


 幻想鬼人の言葉に、僕は身構える。

 次の瞬間、幻想鬼人は僕に向かって駈け出した——その速度は瞬間移動したのではないかと思えるほどで、


「——ぐっ!?」


 ショルダータックルがぶち当たり、僕の身体は背後に吹き飛んだ。

 ぎりぎり。

 なんとかぎりぎり、両腕で防御できたけれど、骨にヒビが入っているのを感じた。

 地面に叩きつけられる前に【風魔法】で速度を殺し、身体を反転させる——。


「遅いぞ」

「!?」


 上から幻想鬼人が降ってきた!?

 組んだ両手を僕目がけて振り下ろしてくる。

【火魔法】で小さな爆発を起こし、僕は緊急回避。


「面白れぇ魔法の使い方をするじゃねえか。長生きしてみるもんだ」

「……僕はあなたと戦いたくありません」


 着地して距離を置いた僕は、【回復魔法】で身体を癒しながら言う。


「今さらバカなこと言いおって。女神様にたてついたお前を排除するのは当然だろう」

「でも! 僕のような転生者は、都合のいいように扱われて、用が済んだら殺されるのですか!? そんなの、あまりに身勝手です」

「いいか? 女神様はこの世界を統治なさる貴き存在だ。ワシらがそれに従うのは当然のことだろう。ワシはあまりにも長い年月を生きてきたが、それもすべて女神様が望む世界を作り上げるため」

「違う……そんなの間違っています。生き物はもっと自由でいいはずです!」

「その結果、世界が滅んでもいいとお前は言うのだな?」

「世界が滅ばぬよう、知恵を絞って行動する自由すらないのですか。生きるすべてを女神の言いなりだなんて、そんな世界ならないほうがいい」

「ほう、世界の崩壊を望むとは……やはり『災厄の子』だったな」

「違う!」


 僕は声を張り上げる。


「みんな懸命に生きているんです! 貧乏に苦しむ人も、重い責任に苦しむ人も、思い描くように生きられないことに苦しむ人も、病に苦しむ人も、懸命に生きています。その彼らの苦しみや努力が、すべて『女神の意思』だなんて……あっていいはずがありません!」


 すると——幻想鬼人は、ふっ、と小さく笑った。


(ああ……この人は、やっぱり(・・・・)わかっているんだ。僕の考えも、僕たちの思いもすべてちゃんとわかっているんだ)


 そこへ、


『————幻想鬼人、おしゃべりはそのあたりまでにしてください』


「おっと……これは失礼しました、女神様。そういうわけで、『災厄の子』よ、勝負に移るぞ」

「…………」

準備はいいか(・・・・・・)?」


 僕は短刀を構える。


「……打ち破らなければいけない相手ならば、打ち破るのみ」

「その決意やよし」


 幻想鬼人の巨体があっという間に僕の前へと迫る。

 天賦と魔法を上乗せし、さらに魔力まで突っ込んだ短刀の刃を振り抜くと、幻想鬼人の拳にぶつかる。

 雷鳴のような火花が走る。


「オオオオオオオオオオオ!!」

「ぜああああああああああ!!」


 雨のように振り下ろされる拳に僕は短刀をぶつけ、弾いていく。

 魔力が弾け、衝撃波が周囲に飛び散る。

 僕の皮膚はあちこちが裂けていたがすぐさま【回復魔法】で治癒していく。

 真っ向からの殴り合い。

 最高の武器がなければすぐにも僕は打ち負けていただろう。

 こんなにも——強かったのだ。

 幻想鬼人は。

 それは、そうなのだろう。

 竜だって隔絶した存在だし、その対となる調停者が幻想鬼人なのだから。


「そんなものか『災厄の子』よ!!」

「うおおおおおおおおおお!!」

「!?」


 幻想鬼人はその瞬間、攻撃を止めて上体を反らした。

 僕の短刀から、黒い剣がうっすら伸びており、それは幻想鬼人の胸を切り裂いていた。

 距離を置いた幻想鬼人の胸からどくどくと血があふれている。


(初見であれをかわすのか……)


 こっそりと練習していた【影王魔剣術(シャドウキング)】。

 姉のラルクの力。

 女神戦の隠し球として使おうと思っていたのだけれど、幻想鬼人相手に出さざるを得なかった。


「……おお、怖い怖い。あんな攻撃方法を持っているとはな」

「ずいぶんと余裕そうですが、結構な重傷ですよ? あなたにそれを治す手段はないのでは?」


 幻想鬼人の身体には無数の傷がついている。

 そして彼は今までその傷をすべて放置している——【回復魔法】の類は使えないのだろうと僕は踏んでいた。

 ダンテスさんたちが戦っている青い存在とは根本的に違い、幻想鬼人は本人がこの場に呼ばれているのだ。


「そうだな。ワシに、これを治す手段はない」

「それなら、ここで止めませんか——」

「——ワシにはない、と言ったのだぞ?」

「!?」


 その瞬間、幻想鬼人の身体が金色に輝くと胸の傷はすっかり塞がっていた。


『————この程度の傷は傷のうちに入りません』


 女神の力だ。


(ズルすぎるだろ、その力……)


 だけど、女神自身は直接攻撃をしてこない。

 前回の白い空間では、エルさんを破壊し、僕を弾き飛ばしたあの光線を撃ってこないのだ。

 それこそが、勝機だ。


「……さて、それでは続きと行くぞ」


 首をごきりごきりと回しながら幻想鬼人は言った。


「!」


 そしてそのとき——僕は、気がついた。

 この白い空間の「白」に、わずかに陰りが出ていることに。

 待っていた。

 これを、待っていた。


「もう、聞かないのですか」


 僕は幻想鬼人に言った。


「なにがだ?」

準備はいいか(・・・・・・)と」


 そのとき——幻想鬼人は虚を突かれたように目を見開いた。


「できましたよ、準備(・・)


 にやり、と口元をゆがめた幻想鬼人は——くるりと身を翻した。

 そしてすぐそこにいた存在。

 輝く光の女神に向かって、拳を繰り出したのだった。


「準備」がなんなのかについては次話で。



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― 新着の感想 ―
[良い点] いや、相変わらずバトルを書かせたら天下一品ですね。 なんたろこの、かゆいところに手が届く感。 やっぱり伏線は、早めに回収が吉ですね。
[一言] 周一じゃ物足りない 楽しみすぎてやばい! いつも面白い話をありがとうございます 頑張ってください
[良い点] やっちまえ
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