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限界超えの天賦《スキル》は、転生者にしか扱えない ー オーバーリミット・スキルホルダー  作者: 三上康明
第1章 旅立ちは密やかに、人知れず。出会いは密やかに、導かれる。

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行けそうなので更新します。

 僕が屋根から身を乗り出して叫ぶと、ハッとした顔で全員が見上げてきた。


「レイジ!!! 到着予想時間は!!!」

「あと数分もないです!!!!」

「!?」


 速い。速すぎる。あの速度は時速で100キロを優に超えているだろう。見ていたくない。だけれど見るのが僕の仕事だ。


「冒険者どもォォォ!! 住民を避難させろ!!」


 ヨーゼフさんの声で冒険者たちは我に返り、「おうっ」と返事して動き出した。


「領兵! 建物内の職員を避難させろ!」

「し、しかし……建物にいた方が安全なんじゃないか?」

「レイジ! 竜の大きさは!?」

「この建物よりはるかに大きいです!」

「クソッタレ!! ——聞いたか! ここにいても踏み潰されるだけだ!」

「なっ!?」

「武器を持たねぇやつにできることは逃げることだけだ!! 急げ!」

「だ、だが領都は広い……」

「ここがいちばんあぶねえんだよ!! いいからさっさとしろ!!」

「くっ……わかった!!」


 おお、ヨーゼフさんが強引に押し切った!

 こうなると領兵の動きも早かった。建物内に飛び込むと職員の人たちに声をかけ始めている。


「え……? お、俺はどうしたら……」


 3階の外側通路にいる領兵と目が合った。


「えぇっと……とりあえず中の方と合流したほうがいいのでは……?」

「そ、そうしよう。お前も早く降りてくるように」


 僕は屋根の上へと戻った。

 うわ、どんどん近づいてきてる。

 すでに竜は領都の外壁を飛び越えようというところだった。

 だけれどそこで身体を傾け、ぐるりと旋回を始める——外壁で警戒に当たっていた領兵は大騒ぎを始めていた。


(っていうか、これって……)


 僕はある、最悪の予想を思いついてしまう。

 竜が領都の外側から、あの夜に見たような遠距離攻撃を領都に向けて放ったらどうなるだろう? むしろそうなるのが妥当なんじゃ? だって、竜に知性があるのなら、とりあえず遠くから様子見でぶっ放すよね……?


「な、なにか気を惹かなきゃ! なにか、なにか、えーっとえっとえっと……」


 竜は天賦珠玉を感知できるという前提。

 竜はどんな天賦珠玉に興味を示す?


「あ……」


 もしかして、星の数が多い天賦珠玉なら竜にも感じ取れるんじゃ?

 そうこうしているうちに竜の周囲の空気が歪みだしたように見えた。魔法でも使うのか?


「ええい、迷ってるヒマはない!」


 僕は自分の胸に手を当て、【森羅万象】の天賦珠玉を強くイメージした。ずるり、と身体の中心部から力をごっそり抜かれるような感覚——違う、これは、ほんとに、僕の身体から力が抜けてるんだ……!

 真っ黒な天賦珠玉が僕の胸からせり出してくる。僕は【森羅万象】の力を失う——と同時に、今まで学習してきたスキルがすべて消え去っていく。


(ちくしょー……僕はスキルを利用してるつもりが、スキルなしじゃ生きられないようになってたんじゃ……?)


 屋根の上で膝をついた僕の手には、真っ黒な、そしてその中心には虹色の光があって渦を巻くように回転している天賦珠玉があった。


《オオオオオオオオオオオ…………》


 竜の咆吼が聞こえてきた。

 ああ、どうやら僕の推測はドンピシャだったみたいだ。竜はこっちへと顔を向けている。いや、僕を……いや、【森羅万象】の天賦珠玉をじっと見つめている。

 バサッ、という羽ばたきで、竜はまっすぐに飛び始めた。今までためらっていた外壁への侵入を難なくやってのけ、羽ばたくたびにどんどん加速してこちらへ飛来する。


「やっべ、逃げなきゃ!」


 僕は【森羅万象】を身体に取り込んだ。と同時に身体を包んでいた倦怠感が霧が晴れるように消え、全能感が満ちてくる。ああ、クセになるこの感じ! でも絶対クセにしたらダメだこれ。スキルを使っても、スキルに振り回されたら絶対ダメだ。

 ありがたいことに【森羅万象】を自分の身体に戻したら、学習していた天賦はすべて戻った。

 僕は【疾走術】を使って屋根を走り、一気に飛んだ。隣の建物は2階建てなのでそこの屋根に両手両足をついて着地する。すぐそこにダンテスさんたちが見える。


「来ます!!」


 ダンテスさんは「なにが」も「どうやって」も聞かなかった。


「わかった!!」


 ああ、僕は信頼されている。たった数日の付き合いでしかないのに、この人はもう……いい人過ぎるでしょ。

 ただ、僕が感動している時間的余裕なんてなかった。


《オオオオオオオ!!!!!!!》


 間近で聞こえた雷鳴のごとき咆吼が迫り、とてつもない質量の生き物が「天賦珠玉局」の殺風景な建物に激突する。建物は石造りであるというのに、まるでブロックを崩すかのように石壁の破片が吹っ飛んでいく。


「うわああああ!?」


 2階の屋根にいた僕は、その衝撃波と暴風によって吹き飛ばされ屋根から落ちた。やばっ——痛みを確信したのだけれど、僕の身体は地面に激突はせずに誰かに受け止められた。


「よくやった、クソガキ」


 すさまじいスピードで走っていたライキラさんは、僕を抱き止めたあとに急ブレーキ。

 そして僕を下ろしながら——その目は一直線に、がれきと化した建物の上に君臨するバケモノに向けられていて——こう言った。


「あとは俺たちの出番だ。あの竜をブチ殺す」




 竜の存在は圧倒的だった。建物を踏み潰し、ひとつだけでは飽き足らないとばかりに隣2つの建物も破壊し、そこに君臨していた。

 魔力がたゆたう黄色い鱗の表面にはこのハードランディングによる傷はなにひとつついていない。

 周囲は叫び声に包まれていた。大声を上げて逃げ出す人がほとんどで、腰が抜けた人やその場で泣き出す人もいる。

 冒険者のうち、半数は完全に戦意喪失していた。ぽかんと、青ざめた顔で竜を眺めているだけだ。

 だけれどそんな彼らの先頭にいる2人は違った。


「戦えねえヤツは領民の避難を助けろ!」

「領兵は今すぐ応援を呼べ!」


 両手で持つにしても大きすぎる両手斧(バトルアックス)を構えたヨーゼフさんと、その横に立つ鉄板のごとき大剣を持つダンテスさんだ。


「……っとによ、本気でお前は大盾でなく大剣なんだな?」

「石化で動きが鈍いと言っただろう。武器と盾と両方は持てないからな」

「しょうがねえか」

「ああ、まったく、しようがない」


 ふたりは竜から一瞬たりとも視線を外していない。地上に降り立った竜は、目の前のふたりが敵だと認識したのかじっと見据えている。


「行くぞ、大盾の!」

「オオッ!」


 ヨーゼフさんが右に走り、ダンテスさんは左だ。身体の動きが鈍いとはいっても、ダンテスさんは僕がスキルありで本気で走るよりもずっと速く動けるから恐ろしい。


《——ッ——》


「!!」

「!!」


 竜の口にカッと光が点る。その瞬間、ヨーゼフさんは前へと跳んだ。直後に黄色の炎が竜の口から吐き出され、ヨーゼフさんがつい今いた場所を焼いていく。その炎は薙ぎ払うように、反対側にいたダンテスさんへと向けられる。


「お父さん!」


 ノンさんの悲痛な叫び声が聞こえるが、ダンテスさんは地面に大剣を突き立てるとそれをつっかえ棒にしてひらりと炎の薙ぎ払いをかわす。

 すごい……。あれでダンテスさん、軽業系の天賦を持っていないっていうんだからね。持ち前の運動神経だけで乗り切るんだもんな。


「チッ、そう簡単には近寄らせてくんねえな!」


 ヨーゼフさんが悪態を吐きながら竜から距離を取る。その竜は、ヨーゼフさんにもダンテスさんにも興味がないように、足元を見た。

 そこにあるのは崩壊した天賦管理局の建物だ。ん……? がれきの中になんだか光るものがあるけど、あれは……天賦珠玉?


「……まさか」


 竜は口を開くと、フゥッと息を吐き出した。それは火炎の息吹ではなくてキラキラとした金色の吐息だった。それは天賦珠玉に染みこんでいくと、パンッ、と破裂するように珠玉が割れていく。


「げっ! ありゃ星4つの赤じゃねえか!? もったいねえ!」

「あっちは青がいくつか割れたぞ!」


 冒険者たちが悲鳴にも似た叫び声を上げる。「赤」だの「青」だのいうのは天賦珠玉の特性に応じた色だ。「身体特性」は「赤」だし「魔法特性」は「青」、「ユニーク特性」は虹色である。

 僕は天賦珠玉が割れるとき、ほわんとした魔力に似たエネルギーが宙に消えるのを見た——それは僕が【視覚強化】を持っているせいでよく見えたのかもしれない。

 天賦珠玉を割った竜は、それからぐるりと周囲を見回す。なにかを探すように。なにを探している? ……って、はい、竜がこちらを見て顔を止めました。

 そうだよね。僕ですよね!? さっき屋根の上で煽ったの僕ですもんね!? レアな天賦珠玉を破壊するつもりなら、僕を狙いますよね!? 持ってないけど! もう身体に入ってますけどぉお!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 僕がスキル無しで本気で走るより早く走れる 当たり前じゃね? 主人公スキル無かったら雑魚だし [一言] スキルを使って本気で走るより早いなら分かるけどさ
[良い点] すごく面白くて一気に全話読んじゃいました! [気になる点] 特にはないです [一言] こんな面白い話作ってくれてありがとうございます! これからも楽しく読ませてもらいます!
[一言] 親父、更新ありがと
2020/04/05 00:10 退会済み
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