★エイプリルフール 学園オバスキ
エイプリルフール企画です。
はっ、とするとクラスに設置されたスピーカーから、授業開始を告げる鐘の音が聞こえてきたところだった。
「え?」
あれ、どういうことだ? 僕は確か、ブランストーク湖上国の……ええっと、なんだっけ。
「——勉強してきた?」
「——え、今日なんかあったっけ」
「——小テストだろ」
「——げっ」
そんな声が聞こえてきてドキリとする。
懐かしい——並んだ机に、制服に、黒板に。
ここは僕が通っていた教室だった。
「起立——」
クラス委員の声に従って立ち上がった僕は、機械的に頭を下げ、そして気がつく。
「今日は先週告知したとおり小テストですよー」
「ぶほっ!?」
教壇にいるの、
「ノンさん!? なにやってんですか!?」
いつもの修道服ではない、ダークカラーのスーツに身を包んだノンさんは、その、つまり、出るところと引っ込むところがはっきりしていて、はっきり言えば目に毒だった。
「? どうしました、レイジさん」
「あ、え、あ——」
いや、僕はなにを言ってるんだ。
ノン先生は社会科の教師じゃないか。
「すみません……なんでもないです」
恥ずかしさに顔から汗が噴き出る。おいおいレイジ、ノンちゃん先生が好きすぎだろ〜、みたいな声が掛かって周囲に笑いが起きる。
僕はいそいそとイスに座り、前から送られてきたプリントを受け取った。
小テスト。
そうだ、小テスト。
なんだかわからないけど僕は小テストを受けるのだ。
そうしなきゃいけない気がする。
謎のパワーが働いている気がする。
「ぃよしっ」
ふふふ。これでも勉強は得意だからね。
掛かってこい!
『時事問題』
……ん?
『安倍晋三首相は歴代最長となる通算3188日の在任期間をもって辞任しましたが、その次を担った首相の名前をフルネームで答えよ』
んんんん!?
いやちょっと待って!? なにこれ、僕知らないんだけど!
ていうか安倍首相が辞任したの!? 次、誰!? ふつうに知りたい!
『猛威を振るっている新型コロナウイルスの——』
んんんん!? なにその新しい病気!
(あ、ダメだこれ……)
僕が異世界に行っている間に、日本はずいぶん先へと行ってしまったらしい。
(——だけどね)
僕は異世界で手に入れたのだ。
力を。
(僕には【森羅万象】がある!)
天賦が身体に息づいているのを感じている。
僕はその力を解放する。
(教えて、【森羅万象】!!)
紙。植物紙。インク。化学合成による。インクの焼きつけ。油性。植物紙。パルプ原料……。
「…………」
そうでした。
【森羅万象】さんは、そういう力でした……。
僕は小テストの時間を、凍りついた彫像のようにして過ごしたのだった。
★ 保健室 ★
がららっ、と乱暴に戸を開くのはいつも同じ生徒だった。
「うっす。いるかよ、ミミノォ」
「まーたアンタだべな?」
白衣の袖を折って、裾は内側に折って縫い付けている保健室の主、ミミノは、小さい身体をイスから器用に下ろして腕組みした。
「ライキラ! またケンカしたべな!?」
やってきたのはほぼ毎日ここに来ている獣人だった。
その恵まれた体躯を学校の制服に窮屈そうに押し込んでいる彼は、左腕を見せた。
「おら。ケガしてんだよ」
「なにしてケガしたんだべ」
「こけた」
「はぁ〜〜? 獣人が転んでケガするなんてあり得ないベな」
「そういう人種差別はしちゃいけねーってお勉強しなかったのか? 保健室のセンセ」
「まったく生意気ばっかり言って」
ぶつぶつ言いながら、治療の準備を始めるミミノを見て、ライキラは小さく笑ってイスに座る。
「そんで、相手はケガさせてないべな?」
「ぶん投げて転がして終わりだ。実力の違いを教えてやった——あっ」
「ほら、やっぱりケンカしたべな!」
「ず、ずりーぞミミノ! 誘導尋問だ!」
「まったく……どうしてケンカばっかりするのかねえ。ほら、傷口出して」
「……おう」
一本取られて悔しそうながら、ライキラは不承不承左手を出した。
肘の辺りに擦り傷がある。
ミミノは薬瓶からガーゼに液体を染みこませる。
「……ちょっと待てミミノ。なんだよその怪しげな緑色の液体は」
「キズグスリダベナ」
「てめっ、また怪しげな薬作ったな!?」
あわてて腕を引っ込めるライキラ。
「俺で実験すんじゃねーよ!」
「ダイジョブ、ダイジョブ、コワクナイ」
「消毒だけしてくれりゃいいんだっつうの!」
「鮮度が命なんだべな! 今日もライキラが来ると思って作っておいたんだ! これがうまくいけば、民間治療として画期的な……」
「やっぱり実験じゃねーか!?」
「貴重な経験と言って!」
「おまっ……そういうところだぞ。そういうところ直さねーから、いまだに結婚できねーんだよ」
「はぁ!? 結婚してないんであってできないんじゃないですけどぉ!?」
ぎゃーぎゃーとふたりで言い合う保健室。
「…………」
外の廊下を通りがかった校長は注意するべきかどうか悩んでから、止めた。
「……元気なのは、いいことだ」
薄くなってきた前頭部をさすりながら歩いていく。
「たぶん……」
ダンテス校長の苦労は尽きない。
本日4/1に新作を投稿しました!
「裏庭ダンジョンで年収120億円」
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