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限界超えの天賦《スキル》は、転生者にしか扱えない ー オーバーリミット・スキルホルダー  作者: 三上康明
第5章 竜と鬼、贄と咎

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 兵士に囲まれながら連れて行かれたのはひときわ大きな樹木の前だった。樹齢何万年……という感じではなく、何十本もの木々が集まって、融け合って、大木に進化している。

 見上げると100を超える住居がそこにはあって、大木の周りはドーナツ型の広場になっており、少ないながらも子どもたちが駈け回ったり、楽器片手に歌を歌うエルフがいたり、地べたに座り込んでおしゃべりしたり、カードゲームをしたりと様々だ。

 だが兵士たちが僕を取り囲んでやってくると騒がしさはぴたりと止んだ。


「これからハイエルフ様のお屋敷へと向かう。くれぐれも粗相のないように」

「僕を縛らなくていいんですか?」

「フンッ、武器も持たぬ小僧を縛ったとあれば、我らエルフ精鋭団(エルヴンガード)の名折れよ」

「へー……」


 どうやら彼らは武技に自信があるようだ。

 確かに、人間よりはるかに寿命があるというエルフだから、戦闘能力は実は高いのかもしれない。手でも握って覚えたての【オーブ視】を発動したい気持ちもあったけれど、盗み見みたいなことをしたらそれこそ後ろめたくなるので止めておく。

 大木の周囲には幾筋もの階段が設置されており、それを伝って上ることができる。手すりはないがみんながみんなスッスッと上っていくので慣れれば怖くはないのだろう。あと上りの階段と下りの階段がはっきり分かれているのですれ違う必要がないようになっている。

 20メートルほど上ったところに広い踊り場があって、そこからまた別々の階段がある。

 僕が連れて行かれたのは、幹をくりぬいて作られた螺旋階段だった。

 そこを通ると——不意に視界が開ける。

 この樹木は、森林地帯の中でも頭ひとつ抜きんでた存在らしい。


「おお……」


 木々のてっぺんを見下ろす形になり、緑の葉の絨毯が見渡す限り広がっている。僕がやってきた方角は、やはり線が引かれたように草原と森林とで分かれているけれど。

 森林のさらに奥、ここから10キロ以上は優にある向こうに——ひときわ巨大な木が見えた。

 もちろん、他にも僕がいる場所と同じように頭ひとつ抜きんでている樹木はあるのだけれど、それは、完全に、別格だった。

 木々の絨毯をぶち抜いて幹が伸び、その上に巨大な枝と葉を広げ、広大な範囲にその勢力を伸ばしている。

 すごい。

 なんて大きな樹だろう……。


「見るな」


 感動していた僕の前に、にゅっ、と青い宝石のエルフが顔を出した。


「え、ええ〜? 見えちゃうものはしょうがないじゃないですか」

「ヒト種族が見ると、世界樹(・・・)が穢れるという話がある」

「!」


 世界樹! やっぱりあれ、世界樹って言うんだ!


「世界樹って言うんですねえ」

「!?」


 僕が言うと、青い宝石のエルフは顔を真っ赤にして、


「そ、そうやって情報収集する気だな! そうはさせんぞ! 早く行け!」


 と僕の背中を押した。

 わずかに坂となっているそこを上りきると、


「わあ」


 一軒家がたっていた。

 横幅が8メートルほどで、さほど大きくはないけれど、一軒の家であることは間違いない。

 縁側のようになっているそこは、こちらに向かって大きく開かれており、室内は木板の張られた床にテーブルが置かれてある。

 それだけしかない、部屋と言っていい。

 青い宝石のエルフだけでなく兵士たちが一斉に跪いた。弓のエルフはいないので、ここには槍のエルフだけだった。

 テーブルにはひとりのエルフが——ハイエルフが座っていて、肘を突いて両手にほおを載せて面白そうな顔でこちらを見ていた。


「——お前? アーシャを攫ったヒト種族って」


 男は言った。

 プラチナブロンドの髪は肩までの長さで、複雑に結われ、いくつもの宝石がぶら下がっている。びっくりするくらい整った容姿で、ぴょこんと伸びた長い耳が、彼がエルフであることを明確に示している。

 滑らかな肌も、サファイアブルーの瞳も、僕にある人物を想起させた。


(アーシャと同じだ……!)


 この人がハイエルフであり、アーシャの親族であることを疑う要素はなにひとつなかった。


「ふーん……ヒト種族の子どものくせに、ずいぶんと落ち着き払ってるんだな。アーシャの知り合いだから自分は安全だとか思ってる?」

「いや、そういうわけではないです」

「それじゃ、あの気持ち悪いトカゲどもが守ってくれるって?」

「……もしかしてそれ、レフ魔導帝国のことを言っていますか?」

「そうだよ。お前がこれ見よがしに身分証を出してくれたおかげで、アーシャを攫った犯人レイジが来たってすぐにわかったんだ」


 この世界にはインターネットもなければ電話もない。だけど超長距離通信用の魔道具はあるので、それを使って僕の情報を得ているのだろう。

 つまり僕が帝国で発行された身分証を出したのは、正解でもあり、不正解でもあったというわけだ。


「…………」

「お、どうした? 怒ったのか? トカゲの友だちのお前が、怒ったのか?」

「……怒りましたよ。でもそれは、懸命に生きているレフの皆さんをバカにされたことというより、あなたのようなエルフがアーシャの親族であるということに対する憤りです」


 僕がにらみつけると、ハイエルフは目を細めた。


「へぇ……それでどうするんだ? まさかこの場で俺を殴る?」


 僕の背後にいたエルフたちの身体に緊張が走るのを感じた。跪いたままだけど。


「いいえ、そんなことより(・・・・・・・)アーシャに会わせてください。僕がここに来たのはアーシャに会って、話をするためですから」


 と言うと——ハイエルフの彼は、口元に手をやった。

 その仕草がなにを意味するのか——僕が内心警戒したそのとき、


「——ぷっ」


 彼は、


「くくっ、あはははははは!」


 膝を叩いて笑い出したのだった。

 ……え?

 なに? なにか笑うところある? やけに無邪気に笑ってるんだけど。


「で、殿下……?」


 背後のエルフが恐る恐るたずねると、彼——やはり王族のハイエルフは、


「あー、笑った笑った。おっかしーわ、お前。サイコーだぜ。おい、エルヴンガードたち、下がっていいぞ」

「え!? し、しかしですね、我らはハイエルフ様たちの……」

「そのハイエルフ様の命令だ。それともなにか? 王族の『落ちこぼれ』の命令は聞けないって?」

「と、とんでもありません!」


 武装兵たちは全員、あわてて立ち上がると回れ右して螺旋階段を去って行った。


「あのー……?」


 僕が戸惑いがちにたずねると、彼は手招きしながら言った。


「こっち来て座れよ。俺はアーシャの兄、マトヴェイだ。10人ちょいいる次期ハイエルフの王位継承者の中ではぶっちぎりのビリ、『落ちこぼれのマトヴェイ』って言われてる」

「落ちこぼれ……?」

「そう怪訝な顔をするな。俺とお前は共通点がひとつある——」


 にっ、と笑ったマトヴェイは、やはり信じられないほど整った笑顔だった。


「——アーシャを、この国から解き放ちたいってとこさ」


ごめんなさい、風邪ひいたっぽいので明日は更新できないかもしれません。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ヒト種族が見るだけで穢れるとか、どれだけ嫌いやねん。 いいキャラしてるハイエルフ出てきた!
[一言] お大事になさって下さい!
[一言] 別に何日止めても良いのでご自愛ください
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