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限界超えの天賦《スキル》は、転生者にしか扱えない ー オーバーリミット・スキルホルダー  作者: 三上康明
第5章 竜と鬼、贄と咎

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【強化魔法】を掛け、【身体強化】【跳躍術】を使うのはもはや自然にできるようになっている。舳先を踏んで飛び出すと、僕の身体は何メートルも高く飛び出していく。


「坊ちゃん!」

「レイジ!」


 みんなの声が背後から聞こえるけれど、ごめんなさい、今はラルクのところに行かせてください。


「う、お、お、おおおおおおおおおお!!」


【火魔法】と【風魔法】を同時に発動させ、これまで以上の爆風を生み出す。僕の身体はロケットのように飛んでいき、身体にすさまじい慣性力が掛かる。骨が軋み、視界が歪む。それを無理やり【回復魔法】で押さえ込む——僕の行動はだんだん人間離れしてきたような気がする。


「あれは——!?」


 緑色の飛沫が何本も上がって、触手のように魔導船へ伸びてくるのを相変わらずラルクが斬り落としているのだけれど、その向こう、海面がせり上がってずぞぞぞぞぞとなにかが上がってくる。

 飛沫をまき散らしながら出てきたそれは、深い緑色の小山だ。窪みがいくつかあって、その空洞は黒々として——顔のように見えなくもない。

 これが海坊主の海坊主たるゆえんか。


「——もっとスピード出せ!」

「——やってるって、お頭、邪魔だからあっち行ってろ!」

「——わ、わ、わ、わ」

「——お嬢にだけ戦わせてんじゃねえ! 弓ぐらい撃て!」


 魔導船で騒いでいるラルクの仲間たちが見えてくる。

 そしてラルクはと言えば、魔導船の甲板後方で【影王魔剣術】の黒い刃を撃ちまくっていたけれど——ついに、手をかざしてもそれは出てこなくなった。

 脱力するようにその場に膝をつくと、うなだれる。

 そこへ、何本もの触手が襲い掛かる——。


「ラルクぅぅううううううううう!!!!!!!!」


 威力を極限まで高め、出力を極限まで細くした【風魔法】を左右の指に展開。10本の風の刃を持って僕は彼女の頭上から甲板へと飛び降りる。

 ドンッ、というすさまじい衝撃を足で殺しきるのは不可能で、またも骨にヒビが入り身体が悲鳴を上げるのを【回復魔法】で押さえ込む。今の僕の肉体は借金を借金でカバーしている自転車操業状態。

 でも、それでも、ここで無理をしないでいつ、無理をする。

 遅れてついてきた風の刃は、僕を中心に前方へ10筋になって放たれ、触手を切り裂いていく——ぼとぼとぼとと甲板に触手が落ちてくる。


「……弟、くん?」


 僕は振り返った。


「ラルク……」


 そして、言った。


「——こんの、バカ!!!!!!!!」

「え」

「バカバカバカバカ! 考えなし! 向こう見ず! 計画性皆無のアホ!」

「え、いや、ちょっと、え、なに? いきなりあたしディスられてんの?」

「当たり前だろ!」


 僕はここぞとばかりに言った。


「確かなあて(・・)もなく、なに勝手に出奔してんだよ!? 賢者とかいう人がいる保証だってないんだろ! 大体、【影王魔剣術】が身体を悪くしてんのに、使いまくってどうすんだよ! 賢者に会う前に死ぬわ!」

「そこまで——わかってたのか」

「わかってた。わかってたよ」


 僕は彼女の頭に手を載せて、【回復魔法】とともに【闇魔法】を使う。


「僕が、ラルクと肩を並べて戦えることくらい分かってたろ? だったら……もっと頼ってよ。僕らは姉弟なんだから……」

「……お前、これ……」


 ラルクの瞳がとろんとして、まぶたが閉じられる。

 そう、相手に触れなければ発動できない【闇魔法】、「夢魔の祈りプレイング・ナイトメア」を発動したのだ——ラルクを眠らせるために。

 力が抜けた彼女を抱きかかえながら、


「そこの人、ラルクをお願いします! 寝かせておかないと体力がもちません」

「あ、ああ」


 長身ながらがっしりとした体躯の人が来て、ラルクを任せることにした。その間にも僕は【風魔法】を使って触手を斬り落としていく。


「お前、確かお嬢の……」

「はい、弟です」


 僕は答えた——そう、答えられることのうれしさを噛みしめながら。


「全然似てねえな」

「…………」


 それはまあ、そうだけどさ! 今言うべきことかな、それ!?


「で、どうすんだ、この化け物」

「まあ、なんとかやってみるので、皆さんはケガをしないようにがんばってください」

「なんとかやってみるって——いや、いい。すまねえが、頼む」

「はい」


 ラルクが去っていったのを確認して、僕は改めて海坊主に向き合う。


「さて——それじゃ、始めようか。できれば穏便に帰ってくれればいいんだけどね……」


 こちらは海坊主の縄張りに勝手に入ってきた船。海坊主はそれに攻撃を加えているだけ。なるべくなら戦わずに済ませたいけれど、向こうは魔導船を破壊する気満々だった。

 気の進まない戦いが始まろうとしていた——。




 まずは海坊主がどんな生き物なのか確認しなければならない。

 周囲を確認する。

 甲板に落ちた緑色の触手の残骸を見ると、ぴちぴちとうねるように動いていた。太さは様々で、毛のように細いものから丸太のように太いものまである。

 正面にいる海坊主の「顔」を見ると、窪みにはボゥとした光が点っており、こちらを見ているような——そんな感じがする。

 こういうときに【森羅万象】が役に立つ。

【森羅万象】が伝えてくる情報は、海坊主がやはり単体の生物であること。触手には麻痺毒を含んだ針が隠されていること。ボゥとした光は感覚器であり、視覚情報ではなく温度や魔力の流れを探知していることなどだった。

 触手の切れっ端が海に落ちていくと、それは海坊主の本体に吸収されていく。つまり、【風魔法】で切り裂くのは有効だが海坊主に打撃を与えることはできないということだ。


「それなら、触手を切りまくってこのまま港まで逃げる……?」


 海坊主が岸までやってきたという記録はないし、これほどの巨体ならば水深の浅い海で引き返す可能性は高い。

 名案では? ——なんてのは浅はかでした。


「うわあああっ!?」


 魔導船がいきなり大きく傾いたのだ。


「——ぎゃーっ!」

「——お、お、お頭、痛い……」


 操舵室内でも人々が倒れて折り重なっている。僕もあわてて甲板の手すりをつかんだけれど、身体が浮かんでそのまま海に放り出されそうなほどだった。

 海坊主が、船底から攻撃を仕掛けてきたのだ。

 それだけじゃない。


「ちょ、ちょ、ちょっとちょっと……!」


 正面にある「顔」の「口」が開いたと思うと、青白い光がそこに集まってくる。「高エネルギー反応」だと【森羅万象】が伝えてくる。

 こういうときは決まってる。

 カッ——とレーザーのように光が放たれるのだ。


「ちっきしょおおおおおお!!」


 夢中で【闇魔法】を繰り出し、魔導船後方に闇の雲を出現させる。放たれたレーザー光を吸収し、闇の雲がみるみる縮んでいく——レーザーは止まらないので僕はさらに闇の雲を追加する。

 エネルギーを、魔法で相殺していくのだ。


「あんなデカいのと我慢比べできるかぁっ!」


 やけになって叫んだときだ——矢が飛んできて、僕の足元に突き刺さった。矢には小さなビンがついていて着地と同時に砕け散る。

 淡い燐光が立ち上ったその直後、映像を早回しするようにもうひとつの闇の雲が現れてどんどんどんどんレーザー光を吸収していく。


「——坊ちゃん!」

「——レイジくん!」


 弓を放ったであろうゼリィさんと、ミミノさんの声が聞こえた。

 帰るようにお願いしたはずの軍船が、すぐそこにまでやってきていたのだ。軍船はUターンを始めており、この魔導船と並走しようというのだろう。

 僕を助けるために残ってくれたのだ。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 本当森羅万象は凄いな。 特に得たいのしれないものへの 恐怖がなくなるところが。 [気になる点] 帰るようにお願いしたくらいで帰らないでしょうに。 [一言] 回復魔法で治せるとはいえ、よく怪…
[一言] 今章は展開が早くていいね! あとは激おこでぷんぷんな修羅してるアーシャをどうにかしないとね!
[一言] 闇魔法がちゃんと闇魔法してる
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