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限界超えの天賦《スキル》は、転生者にしか扱えない ー オーバーリミット・スキルホルダー  作者: 三上康明
第5章 竜と鬼、贄と咎

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     ★  光天騎士王国 港町ザッカーハーフェン  ★





「な、なんだ!? 船が動いている!?」

「賊がいるぞ!」


 先ほど疑問を感じていた警備兵が仲間を呼んできたらしい——急にドック内は明るくなる。


「スカウト!!」

「わかってら——よっと」


 むりやり留め具を離したので、バチンと金具が吹っ飛び、船はぐらりと傾いだ。水車が補修のための櫓に当たって、木製の櫓はめきめきと折れていく。


「チッ」


 ラルクは手を伸ばすと【影王魔剣術】を発動。長く伸びた黒い刃が次々に船を支える留め具を切り裂いていく。

 魔導船が落下し、一瞬、甲板にいたラルクたちの身体は宙を浮くが、地響きとともに着地した魔導船へと降り立つ。クックは着地に失敗してごろごろごろと転がった。

 ぎ、ぎぎぎ、と魔導船はずり落ちるように前へと進んでいく。


「——アイツら、魔導船を盗む気だぞ!?」


 魔導船の起こした震動で警備兵たちも動きを止められたが、彼らはすぐに、


「——あそこに仲間がいる!」


 ぐらぐらと揺れる階段の途中にいた鍵屋を発見した。


「鍵屋! 走れ!!」


 魔導船の位置が下がったので階段の出口はラルクのずっと上だ。ラルクは甲板を後方へ走りながら叫ぶ。鍵屋はよたよたと起き上がって階段を上がり始めるが、その下方にはすでに警備兵がわらわらと集まっていた。


「急げ鍵屋!!」

「わ、わかっ、はっ、はぁっ」


 魔導船が加速していく。鍵屋はようやくいちばん上にたどり着く。今すぐ飛び降りてくれれば魔導船に乗れるというのに、鍵屋はその高さに驚き、おののき、足がすくむ。


「——ッ!」


 ラルクは手を伸ばすけれど、もう自分にできることはなにもない。手の先にチリッと黒い刃が見えたが、それは——他人を傷つける武器でしかないことはよくよく理解している。


(でも)


 ラルクはこの天賦を手に入れた日、多くの人たちの命を奪った。

 彼らのうち大半は、自分の職務を全うするためだけにあの場にいただけだ。その命を奪っていい、いかなる理由もなかった。

 ()が自分の手を取らなかったのは当然だ——と思っていた。


(それでも、弟くんはあたしに手を差し伸べてくれた)


 レフ魔導帝国で4年振りに出会った弟は、身長も伸び、大人びていた。

 そして自分を助けるために行動した。


(弟くんなら、こんなところであきらめない!)


 ラルクは手に黒の刃を纏わせる。

 警備兵が階段を上っていくので大きく揺れる。

 鍵屋はその場にへたり込んで動けない。


「そこだああああああああ!!」


 黒の刃がほとばしる。刃は、警備兵の進む少し上をナナメに切り裂いた。

 揺れていた階段から、切られ、分離した上部が滑り落ちるのはすぐだった。


「わ、わああああああああああ!?」


 鍵屋の身体を乗せた階段が宙に浮く。甲板後方、ぎりぎりのところに落ちると、木々は破損し、鍵屋の身体が投げ出される。

 魔導船はどんどん加速していく。


「つかめええええ!」


 走り込んできたスカウトが手を伸ばし、鍵屋の身体をつかむと、一気に引き込んだ。


「ぶつかるぞおおおおお!!」


 操舵室でエンジニアが叫んだ。

 魔導船の舳先がドックの扉に接触すると、すでに鍵の開いていた扉だったが、魔導船の重量に押されて右扉は外側に倒れるように壊れ、海水に落ちて水しぶきを上げる。

 これだけ暴れてもほとんど破損していない魔導船は、着水するとバネで跳ねるように体勢が水平になる。


「火ィ吹けや、エンジン!!」


 エンジニアが出力を全開にすると左右の車輪が回転し、水を掻き出していく。


「——待て!!」

「——逃げられると思うなよ!!」


 警備兵たちがドックから飛び出して堤防を追ってくるが、魔導船の加速はすさまじく、あっという間に彼らを置き去りにした。魔導船の立てた波が停泊している小さな漁船を揺らしていく。

 振り返れば、あわてる警備兵たちが見えた。


「ふぅー……」


 ラルクは甲板の手すりに手をついていたが、その場に崩れるように倒れた。


「お、お嬢! お嬢!」


 クックが駈け寄ってくる足音が聞こえた——。



     ★



 潮の香りがすることは、町に到着するずっと前からわかっていた。港町ザッカーハーフェンはこれまで見てきたどの光天騎士王国の町よりも雑然としていて、そして市民に活気があった。


「……この町にいるかな」


 結局ここにたどり着くまで、ラルクには追いつけなかった。僕らの乗った馬車が遅かったわけではないと思う。ただ、ラルクたちが速すぎた(・・・・)だけで。

 空賊なんてやってるくらいだから、もしかしたら……とは思ったんだけどな〜……。まさかこれほど「逃げ足」が速いとは思わなかった。

 夜間の旅は危険だけれど、やる人がいないわけじゃない。彼らは旅に慣れ、野外の危険を誰よりも熟知している。

 僕らは夜間、休息を取っていたぶんだけ遅れたのだ。


「きっといるべな。船は出せないって話だし」


 心配そうにミミノさんが言ってくれる。

 僕らは借りていた馬車を光天騎士王国の騎士に返す。

 町の入口で、ラルクたちらしき一行が入ったことは確認している。気になるのはそれが3日前ということだけれど——追跡が1日遅れだったことを考えると途中でさらに2日ぶんも距離を空けられていたことに驚いた。

 へろへろの騎士が手を挙げて去っていくので彼らも彼らで追跡に全力を尽くしてくれたことは間違いない。ラルクたちの速度がやはり異常なのだ——夜間の移動だけでなく、なにかしらの近道を使ったのかもしれない。

 僕らは町に着いて早々ではあったけれど港に向かった。


「港で足止めを食らっていることを願おうぜ? 海坊主だかなんだかで出船してないって話じゃねえか」

「今までのラルクを見ている限り、僕の予想なんて軽々と飛び越えて行くんですよねえ……」

「そ、そんなにすごいのか、お前の姉は」


 ダンテスさんがちょっと引いていた。


「だからあーしの提案した近道を使えばよかったんっすよ〜」

「いや……ゼリィさんの知ってる近道って、途中にいる山賊を全滅させるか無視して通るかとか、法外な通行料を取られるか強行突破するかとか、危険がいっぱいだったじゃないですか。騎士さんがついてきてくれてるのにそんなとこ行けるわけないでしょ」

「馬車だけかっぱらえばよかったっすね」

「そういうことじゃないです」


 拳を頭にコツンと当てて「てへっ」とかベロ出しているゼリィさんは確実に僕をからかっているのだと思います。早く借金返して欲しい。


「……なんだか騒がしいですね」


 港が近づいてきたところでノンさんが言った。

 僕の耳も喧噪は捉えていたけれど、港町なんてこんなものかなと思っていた——でもなんだか少し違うようだ。

 家々が切れた向こうにちらりと海が見え、そう言えばこの世界で初めて海を見るかもしれないと思うと僕のテンションが上がった。

 というところで、こんな声が聞こえてきた。


「——魔導船が盗まれたってよ。なんでも盗賊は黒い刃をぶん回してたそうだぞ」


 ああ……ラルクはやっぱり僕の予想を超えてくる。


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― 新着の感想 ―
[一言] >自分の職務を全うするためだけにあの場にいただけだ。その命を奪っていい、いかなる理由もなかった 職務を全うするのに奴隷の命をすり潰してるなら余裕で奪って良いでしょ、命を奪って生活してるなら…
[良い点] 毎日、読ませてもらっています。 次の展開が気になって楽しみです^^ [気になる点] 伏線にしてはデカくてすごく気になり、小説の内容がたまに入ってきません笑 エルフの王女様はどうなった?
[良い点] (ノ∀`)アチャー あとちょっと居てくれたらなぁ…
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