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限界超えの天賦《スキル》は、転生者にしか扱えない ー オーバーリミット・スキルホルダー  作者: 三上康明
第5章 竜と鬼、贄と咎

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潔白晴らしてどーすんだというツッコミありがとうございました。

誤字訂正送ってくださる方、いつも助かっています……勢いだけで書いているせいですね。

(でも勢いがなくなっちゃうと毎日更新が止まっちゃう)

     ★  レフ魔導帝国 レッドゲート最前線  ★



「お父さんが身につけている腕輪型の『英雄武装(ヒロイックギア)』、『キミウツスカガミ(君映す鏡)』は一切の減衰なく衝撃を跳ね返す効果があります」


 ノンの説明に、ラルクが目を見開く。


「なんだって……!? それじゃあ、どんな敵にだって勝てるじゃねーか!」

「ですが燃料となる(ギョク)の原理が不明で、お父さんが今使っただけでも1個以上は消費されているはずです」

「その玉とかいうのはあといくつあるんだ!?」

「……3個か4個です」


 ラルクは天を仰ぐ。とてつもなくデカい化け物を倒せる方法が見つかったかもしれないと思ったのに、これでは。


「元は15個あったのですが、どのように使用される武装なのかを確認するのに使ってしまいました」

「なんだよ、使えねーな!」


 ラルクの悪態にノンは眉をひそめるが、


「……それでも、あの巨大モンスターを警戒させるには十分です」


 終焉牙はなにが起きたのかわからず、血に濡れた前脚をぺろりぺろりと舐めながら注意深くダンテスを観察していた。ダンテスはどっしりと構えて動かない。

 確かにダンテスは「時間を稼ぐ」と言った。その言葉に偽りはない。


「……最後はあたしがケリをつけるしかないってことか」


【回復魔法】を立て続けに使い続けているノンは、ふう、と大きく息を吐いて、笑った。


「いえ、まだまだやれますよ。見つけた英雄武装はひとつだけではありませんから」




 終焉牙の鼻はよく利いていたが、数多のモンスターや人間の死臭が漂うこの街中では敵を探知する能力としてはあまり機能していなかった。

 そのぶん目に頼っていたのだが——それでも終焉牙はその小さな姿を見つけることができなかった。

 単に小さかったからではない。

 その姿は空間にぬるりと溶けるようであり、じっと止まっていれば姿を確認できない状態だったからだ。

 終焉牙ははるか悠久の時を生きてきたが、今までに見たことのなかった技術——レイジが見ればそれを「光学迷彩だ!」と言っただろう。


(もう少し。あと少しは近づけるべな)


 ミミノの小さな身体をぎりぎり覆い隠せるマントがその光学迷彩の効果を持つ魔道具——「英雄武装」だった。これは「タソガレニキユ(黄昏に消ゆ)」という名前のついた武装で、残念なことには大人を隠すには小さく、すばらしいことには燃料消費がなく半永久的に使えそうなところだった——今のところは。

 ダンテスが終焉牙の攻撃を跳ね返したのを見届けたミミノは、「タソガレニキユ」を身に纏い、路地裏を駈け抜けた。そうして終焉牙の後方へと移動する。


(大っきい……)


 見上げるほどの終焉牙に、ぞわりと鳥肌が立つ。だがミミノは恐怖心を振り払う。


(ここでがんばらなきゃ、レイジくんに笑われるべな!)


 アバの天幕に置いておいた、レイジの生存を確認するための魔道具が壊れていた。それがなにを意味するのか、確認するほどの時間がなかった。

 だが、ただごとではないのはわかる。

 今このレッドゲートの状況を考えると、前向きに捉えられるものではなかった——最悪の予想が何度も脳裏をよぎった。つまり、レイジは死んだのではないか……ということだ。

 ミミノはそれを振り払うために危地を選んで飛び込んだ。帝国の追っ手から逃げるときも単に逃亡するのではなく「関所を通って中に入ろ。そして『英雄武装』を取り戻すんだ!」と主張し、さらには発見した場所にいた見張りを「倒す」ことを選択し、取り戻した「英雄武装」を使って突如として現れた終焉牙に対応することも提案した。

 今はこうして、自らが先頭に立って終焉牙に立ち向かおうとしている。

 自分が手を動かしていなければ、歩を進めていなければ、レイジとつながっていたはずの細い線が切れてしまうような気がして。

 最悪の予想を直視するのがイヤで。

「冒険者」であることを言い訳にして、危険を冒しているのだ。


(この距離なら、行ける)


 ミミノが取り出したのは円盤に目盛りが刻まれており、しっかり握れる取っ手のある金属製の魔道具だった。レイジが見たら「体育のときに使う握力計?」と思わず言ってしまいそうな見た目だったが、その色は鈍い金色だった。


(「英雄武装」の力、借りるべな!)


 そのとき、ミミノが力んだせいだろうか、あるいは単なる予感だろうか——ちらりと終焉牙が後ろを振り向いたのだ。

 ひとつ潰れたものの3つ残った目が、「タソガレニキユ」からはみ出たミミノの顔や身体を捕らえる。


『————』


 大きな口を開いて吠える、という直前、


「こっちのが速い!!」


 ミミノは懐から放り出した数本のツタ、すべてに【花魔法】を掛ける。それはしゅるるるとすさまじい速度で長くなり、終焉牙の左後ろ足に絡みつく——が、巨体から見ればあまりにも細いツタだ。人間に、髪の毛が数本絡みついたようなものだ。

 一瞬、終焉牙すらきょとんとする。

 だがミミノにとってはそれでよかったのだ——「英雄武装」の把手をつかみ、レバーをぐいと握り込む。

 3つ目の英雄武装——彼らが持っていた最後の「英雄武装」、「デイネイハウタフ(泥濘は唄ふ)」が発動する。

 目盛りが青白く光りぐるぐると回転する。

 円盤の向けられた方角、キーンと耳に突き刺さるような高音が響くと終焉牙はのけぞったが、もちろん効果は「音を出すこと」ではない。


『!?』


 巻き付いていたツタが、黒く変色する——と思うと、終焉牙の身体がバランスを崩して倒れ込む。


『グルルルアアアアアアアアアア!!』


 巨体が倒れた衝撃と、咆吼によってミミノの小さな身体は吹っ飛んだ——が、それをがっしりと抱き止めた男がいた。


「……面妖な技を使う。ハーフリングの秘技か?」


 そこにいたのは、2メートルはあろうかという大男——光天騎士王国の将軍、フリードリヒ=ベルガーがそこにはいた。

 ミミノは直感する——これは好機だと。


「攻撃をお願いしますべな! 拘束効果は512秒しかありません!!」


 ふむ、とうなずきながらミミノを下ろし、フリードリヒはそばにいた騎士から大剣を受け取る——その大剣を見てミミノですら目を剥いた。ダンテスがかつて使っていたそれよりも1.5倍ほどは大きいのだ。


「任された」


 重低音で答えたフリードリヒは、走り出した。巨大な虎へ向かって。

 同時に反対側にやってきていた軍勢からも喚声が上がったのが聞こえた。

 そちらに展開していたのはキースグラン連邦の手勢だ。

 もちろん、最初に蹴散らされた元聖王グレンジードたちもまた武器を手に終焉牙に特攻をかける。

 そして、ノンがかけ続ける【回復魔法】を押しのけ、ラルクもまた走り出した——「今やらなきゃいつやんだよ」と言いつつ、口元の血を拭って。それにダンテスが並んだ。

 なすすべもないかと思われた終焉牙との戦闘だったが、今、一斉攻撃が始まろうとしていた——それはひとえに「銀の天秤」が手に入れた「英雄武装」によって、だったのだ。


キミウツスカガミ……全反射

タソガレニキユ……光学迷彩

デイネイニウタフ……???


その効果は次話で。

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― 新着の感想 ―
[一言] 有効時間…512秒…気になる 2進法?8進法?16進法? bit?byte?セクタ?
[一言] ちょっと引っ張りすぎ(笑 いい加減、出会わせて上げようよ、 ミノンとラルクとレイジ。
[良い点] 黄昏に……誰そ彼に消ゆか。 詩的でいいなあ。
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