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限界超えの天賦《スキル》は、転生者にしか扱えない ー オーバーリミット・スキルホルダー  作者: 三上康明
第5章 竜と鬼、贄と咎

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     ★  レフ魔導帝国 レッドゲート最前線  ★




 グレンジードに勝算があるわけではなかった。人の身のみならず建物すらも軽々と超えるほどの巨大種。これを見て「勝てそう」と思えるのはよほどの自信家か愚か者のいずれかだろう。

 だがグレンジードは動いた。

 それはひとえに——「コイツを放っておいたら、やがてクルヴァーン聖王国にも被害が出る」という思いからだった。

 帝国の戦線は、「黒の空賊」の活躍と、各国の兵力投下によって維持されている。

 そして仮になにかあったとしても、巨大な関所がモンスターを食い止めてくれるはずだった。その安心感があったからこそ関所を通って攻め込めるし、なにかあれば「安全圏」で休息できた。


(だが、コイツはマズい)


 終焉牙は大きすぎる。関所はひとつの巨大防壁になっているが、終焉牙ならばそこを、あるいは帝国を取り囲む断崖を超えてしまうだろう。

 北へと行けば「未開の地カニオン」だが、南へと来てしまった場合、東にクルヴァーン聖王国、西に光天騎士王国がある。

 こんな虎を都市に放ったらどうなるか——どれほどの被害が出るのか考えたくもない。

 今ならばここ、レフ魔導帝国という天然の要塞が、天然の巨大檻となって巨大モンスターを閉じ込めておける。


(勝負するしかねえ)


 自分の手で殺すことができなくとも、放置して外に逃げられるのが最悪だ。幸い、レフには飛行船がある。最近は砲弾数を渋って空からの攻撃をしていなかったが、今となってはそれすらも幸運だ。すべての爆撃をもってこの巨大モンスターを討伐するしかない。

 そのためにはここで誰かが時間を稼ぐ必要がある——。


「——チィッ」


 終焉牙が前脚を振り下ろすと、地響きが発生し、グレンジードの乗っている馬が走るのを止めて身体をのけぞらした。

 地面に飛び降りたグレンジードだったが、馬は逃げ出してしまった。本能が、逃走を選択したのだろう。


「ここまで来りゃあ、上等よ」


 すでにグレンジードから終焉牙までは100メートルの距離となっている。右手に長槍を持ち、グレンジードは走り出す。

 その槍は穂が長く、ショートソードが先端にくっついているほどだった。さらに柄の手前には十文字槍のように左右に鎌がついており、穂先へ向けて緩やかにカーブしている。

 素材には天銀(ミスリル)をふんだんに使っており、グレンジードからあふれる水色——聖王色の魔力を流すことで硬度を増すことができるという逸品だった。


「おおおおおおおおおッ!!」


 近寄れば、そびえるような生き物だ。

 だがグレンジードは怯まない。

 全長3メートルにも及ぶ長槍の、石突きを地面に突き刺すと、棒高跳びの要領で空へと身を投げ出す。

 それでも、終焉牙の腹にぎりぎり届くというところ。


「こっちを見ろやァァァッ!!」


 グレンジードの魔力が大量に、長槍へと流れ込む。

 銀色だったそれは今や聖水色の輝きを放つ。

 聖王になったからと言って肉体の鍛錬を怠った日は一日としてない。グレンジードが身体をひねって繰り出した突きは、終焉牙の前脚の、付け根へと吸い込まれていく。

【竜槍術★★★★】はグレンジードが取り込んでいるレアリティの高い天賦だ。クルヴァーン聖王国のルシエル公爵家の「剣聖オーギュスタン」が持つ【竜剣術★★★★★】と同系統の天賦で、この世界の調停者である「竜」の名を持つ。

 放たれる武技に魔力を載せることで特殊な衝撃波を上乗せできる——という代物だった。まさに竜を相手にするのであれば十分に戦えるほどの力。

 そのとき、初めて、終焉牙がこちらを見た。

 紫と黒の体毛の中で黄金の瞳はやたらと目立つ。

 確実に気づいたはずだ。攻撃されたことを。

 だがまるで意に介さず、攻撃を受け入れた。


 ギイイイイイイイイ——。


 穂先が毛皮に触れる直前で、聖水色の魔力と、紫色の魔力とがぶつかり合って火花が走る。

 金属に金属を差し込み、無理矢理こじ開けるような音が響き渡る。


「うおおおおおおおおおおおおお!!」


 最後に物を言うのは筋肉だと言わんばかりにグレンジードは力を込める。魔力で覆われていた終焉牙の身体を、開き、穂先が毛皮へと到達する。


「!?」


 グレンジードは目を疑った。

 魔力のぶつかり合いによってまぶしいほどの光があふれる中、長槍の穂先は長い毛によって絡め取られていたのだ。その毛の1本1本が生きているかのように——。


『バアアアウウウウウウウウウッ』


 突如吠えた終焉牙。咆吼は衝撃波となって襲いかかりグレンジードの身体は吹き飛ばされる。


「聖王——!!」

「受け止めろおおお!!」


 追ってきた部下たちがだいぶ遅れていたのがよかった。彼らはグレンジードの落下地点に散らばって受け止めようとする。

 だが宙を舞いながらグレンジードは見ていた。

 終焉牙はもはやこちらを見てもいなかった。


(敵ですらねえと……思われたのか……!?)


 絡み取られた天銀の槍は毛皮にぶら下がっている。

 それだけが、自分の残した攻撃だというのなら、なんと情けないことか——恥辱に身体が熱くなる。怒りが身体を満たす。


「——アンタの相手は、あたしだよ」


 終焉牙が見ていたのは、正面の建物、その屋上に立っていた少女。

 吹く風に金髪が横に流れ、黒の戦闘服が音を立てている。

「黒の空賊」ラルクだ。

 グレンジードが冷静に考えるまでもなく理解できる——終焉牙が「敵」だと認めたのは「黒の空賊」だけなのだと。


(まだだ、終わってねえぞ……クソッタレ!)


 最初に挑んだときの「どうにかしなければならない」という思いとはまったく違う、「どうあってもこちらを振り向かせてやる」という思いがグレンジードの心を満たしていた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] お願い。 内容を短くしないでください。 無理なお願いだとはおもいますが、どうかその辺の小説と同じにしないで下さい。 中身があってしっかり読めるのがこの物語のいいところです。 どうか商業は、…
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