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限界超えの天賦《スキル》は、転生者にしか扱えない ー オーバーリミット・スキルホルダー  作者: 三上康明
第5章 竜と鬼、贄と咎

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     ★  レフ魔導帝国 レッドゲート最前線  ★




 その巨大種が大地に降り立ったとき、日々、戦いに身を投じている人々がなにを思っただろうか。

 咆吼は雷のように轟き、周囲一帯に終焉牙の存在を知らしめる。

 見た目は確実に虎でありながら紫色の毛並みに黒の縞模様。縞にはほんのりと紫色の魔力が展開しており、巨体すべてを魔力の膜が覆っているのがわかる。

 足はなんと6本あり、尻尾は3本だった。レフ魔導帝国の高層建築を軽々と超えるほどの上背があり、この肉体を支えるには6本もの足が必要で、バランスを取るには3本もの尻尾が必要なのだろうか。

 後頭部から背中に掛けて、白い毛のたてがみが流れていた。これは風によって揺れるのではなく巨体の発汗によって立ち上る上昇気流によって逆立っている。

 そして顔だ。

 鋭い牙は長く黒い。

 大きな瞳は4つありひとつひとつが別々の方向を見ていた。




「な、なんだアレは。聞いておらんぞ、あんな化け物が出るとは……」

「落ち着きなされ、閣下」


 キースグラン連邦の陣営では10万という全軍を統括する貴族が、終焉牙を遠目に見て腰を抜かしそうになった。それをそばにいた副官がそつなく支え、イスに座らせる。

 トップは貴族、副官はたたき上げの将軍——これがキースグラン連邦が遠征する際の常だった。

 戦場の経験などはないが功績の欲しい貴族を総大将にし、実務は副官がきっちりこなす。

 今回もまた同様で、副官である将軍は50歳手前という年齢ながらいまだ前線で戦える肉体を持ち、右目は戦争で潰れながらも残った左目で鋭く終焉牙を見つめる。


「だ、大丈夫なのかね……我が軍は」

「ハッ。問題ありません」


 即答し、安心させながらも頭の中で将軍は計算する。

 帝国内へは2万人ずつを投下し、ローテーションさせている。だがこの2万人全員が戦っているわけではない。1度の行軍で3日の滞在をするため、食料や戦略物資の輸送部隊、ケガ人を治療する医務隊も含んでおり、前線に滞在している2万人と入れ替わっていく。

 重傷者はこの陣地へ運ばなければならず、交代のタイミングで戻ってくる。

 今のところ、死者は1千人弱、重傷者は3千人を数えていた。

 正直、戦果はよろしくない。


 ——10万人もの兵を差し向ければ、すぐにも騒動は終わらせられる。


 と連邦のトップであるゲッフェルト王は見込んでおり、この将軍もまた同意見だった。軍部に所属して30年の経験からしても10万人で押さえ込めないモンスターなどいなかったのである。

 しかし——レッドゲートからはいまだ大量のモンスターが湧き出ている。

 そこにきてあの巨大なモンスターだ。


「ほ、ほんとうに大丈夫なのかね? あんな巨大モンスター、見たことも聞いたこともないぞ」

「ハッ。問題ありません」


 考えることもせず機械的に答えつつも、将軍は内心で舌打ちしている。小太りで若い貴族はゲッフェルト王の遠縁にあたり、これから連邦の社交界でも注目を浴びるであろうことは確かだった。ゆえに今回の総大将を、ゲッフェルト王自らが指名した。

 だが、将軍から見ればそれは「知らない世界」であり、「どうでもいい事情」だ。

「あんな巨大モンスター」どころか、ろくすっぽモンスター討伐の現場に行ったこともないのだから、「見たことも聞いたこともない」のは当然だろうとしか思わない。


「……しかしながら、前線の様子が気になるので行って参ります」

「しょ、将軍がわざわざ行くのか?」

「ハッ。閣下はこちらでお待ちください」

「だが……」

「もし気に掛かるようでしたら、ごいっしょに最前線まで行かれますか?」

「ヒッ!?」


 手を差し伸べられ、若い貴族はぶんぶんぶんと首を横に振った。


「では行って参ります」


 当然の反応を当然のように受け止めて、将軍は歩き出した。

 あれほどの巨大モンスターをはたして押さえ込めるのか。

 大体、今までだって強敵が現れたらレフ魔導帝国が抱えている「黒の空賊」とやらに頼ってきたというのに——。

 将軍の歩む速度は自然と速まっていった。




 光天騎士王国の陣営では、レフェリーこと副将軍オットーが終焉牙の出現を目撃した。


「……ほう」


 片眉をくいと上げて、考える。

 あのレッドゲートが出現したとき、亀裂の向こうに巨大なヤギの目が見えた——そんな情報も、光天騎士王国はつかんでいた。

 騎士、と言いながらも、情報収集や分析をしっかり行うのがこの国の特徴であり、キースグラン連邦に比べれば国のサイズは数分の一にはなるものの対等に付き合っているのは、そのあたりにも理由がある。

 もちろん、光天騎士王国の強みはやはり「騎士」ではあるのだが。


「あのレッドゲート、モンスターを新たに生み出すなんらかの魔術なのか……それとも、神話や伝説でしか聞いたことがない『空間をつなげる』魔術なのか。ふうむ。やはりレイジ殿にはもう少し話を聞いておくべきであったか……」


 オットーが向かった先は、軍が駐屯している小高い丘のてっぺんだ。

 そこには2メートルはあろうかという大男が腕組みして立っていた。

 フルプレートの金属鎧は白色に塗られ、光天騎士王国のシンボルカラーである赤色と金色で縁取られてあった。

 傍らに2人の騎士を控えさせ、それぞれが、人間が振りえるとは思えないサイズの大剣と長槍を持っていた。


「将軍。どうやら新手でございます」


 オットーが声を掛けた大男——光天騎士王国全軍を率いる将軍はじっと終焉牙を見据えていた。

 金色の長髪は波打って背後に流れており、石くらい優に噛み砕きそうながっしりしたアゴの先端はふたつに割れている。

 彫りの深い目元は青色で、そこにはなんの感情も見えなかった。


「オットー。陣営を任せる」


 ガラスが震えそうな重低音が聞こえたのは、将軍が言葉を発したからだ。


「……かしこまりました、フリードリヒ様」


 オットーは恭しく頭を垂れた。

 総大将であるフリードリヒ=ベルガーの年齢は、30代前半だろう。オットーよりもはるかに若く、ひょっとしたら半分くらいの年齢かもしれなかった。

 だというのに彼が将軍であり、総大将であるのは——なによりも彼が、この軍勢の中で「最強」であるというシンプルな事実による。

 フルプレートの金属鎧は、重量で50キログラムは超える。だがまるでその重さを感じさせないほどの軽い足取りでフリードリヒは歩き出す。金属がこすれて鳴る音に、身体を覆う強力なバネのような筋肉の軋む音が混じった。

 彼に付き従って2人の騎士が武器を持って進む。

 フリードリヒが歩いたあとには、草原にめり込んだ巨大な足跡だけが残った。




 クルヴァーン聖王国の()トップであるグレンジードはすでに前線にいた。

 最前線の陣営は、帝国の街並にある、大通りを封鎖する形で築かれてあった。半ば崩れた建築物はそれでも堅牢であり、利用すれば柵で封鎖する範囲を少なくすることができたからだ。

 午前の戦闘を終え、昼食を取るために最前線の陣営に戻ってきたところで——終焉牙の咆吼を聞いた。

 音波によって突風が吹いてがれきが飛び、幕舎のいくつかが倒れた。

 あらゆる兵士たちがその動きを止めて咆吼の来た方角を見やった。

 誰かが、小さく声を上げた。

 見上げたそこに巨大な虎がいたのだから、当然だ。


「さっきからメリメリ音がすると思ったら、あの亀裂が小せえからと無理矢理こじ開けやがったか」


 手ぬぐいで身体と、得物である長槍を拭ったグレンジードは野生動物のような獰猛な目を終焉牙へと向ける。


「まだまだ奥の手を隠し持ってそうだな、レッドゲートはよ」


 置かれてあった水差しに直接口を付けて、ごくごくと水分を補給したグレンジードは、呆然としている兵士たちを見やる。


「おい、てめえら! ぼさっとしてるんじゃねえぞ! 新手が出てきたんだ、一番槍は俺がもらうぞ!!」


 大声で怒鳴りつけると、兵士たちは我に返った。

 そしてグレンジードが馬に飛び乗って駈け出すと、


「ちょ、ちょっと陛下!? みんな、聖王陛下を守れ!!」


 元、聖王なのだが、かつての口調でそう呼んでしまいながら多くの兵士がグレンジードに続いた。

 人々の騒ぎなどまるで気づかぬように、終焉牙は、今まで見たことのなかった新たな世界を睥睨していた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 終焉牙倒せるほどの決め手を持ったやつがここにいないような…カタ((((꒪꒫꒪ ))))カタ
[良い点] 全てがかませ、レイジ君の引き立て役にしかみえない
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