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限界超えの天賦《スキル》は、転生者にしか扱えない ー オーバーリミット・スキルホルダー  作者: 三上康明
第5章 竜と鬼、贄と咎

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     ★  レフ魔導帝国 天幕街  ★




 迷宮攻略第4課は冒険者パーティー「銀の天秤」の協力もあって「九情の迷宮」再攻略を着々と進めていた。

 攻略結果を突き合わせる初めての会議がこの日、開かれた。

 攻略4課のトップであるルルシャももちろん参加し、「銀の天秤」からも参考人としてダンテスが参加することとなった。

 迷宮攻略課の各チームに、魔導研究に詳しい大商会の面々、それに迷宮管理局の局長と、帝国内では主要なメンバーが集まり、大天幕といえども50人も入れば密集具合はなかなかのものだった。

 そのほとんどがレフ人であり、ヒト種族やその他の種族は数人しかいない。


「局長、攻略1課が一度すべての攻略結果を確認したいと思います。研究員の層の厚さもありますからな」

「待たれい。研究員の数で言えば我ら2課のほうが多かろう」

「ははは、これだから管理局の皆様は。実際に魔導機械を分析してきたのは我らが商会ですぞ」


 それぞれが権利を主張し、議論は進まなかった。

 空の赤い亀裂(レッドゲート)を閉じるために「九情の迷宮」は再度攻略され、さらには未発見だった迷宮も見つかった。それらはなんとあらゆるトラップが停止しており、魔道具を拾い放題という状況だったのである。

 ただし「未開の地カニオン」から流れ込んでいるモンスターがおり、それらと戦ったために犠牲になった者もあった。それでも、莫大な量の魔道具を無傷で手に入れられるというのはレフ人たちの欲望を大いに刺激した。

 国家が危機なのはわかっている。

 しかし今のうちに魔道具を確保するだけしたい——なんならよその攻略チームが見つけ出したものも確保したい。そう考えているのである。


「あ、ああ。ええと。皇帝陛下からは本件について迅速に研究を進めるよう言われており……」


 場を仕切らなければならない迷宮管理局長はおろおろとするばかりだった。局長は都市から追い出されているというのにその太った身体はいまだ太ったままで、むしろストレスから食べ過ぎてさらに太っているという有様だった。


(水飴を禁じられたアバが痩せていったのとは正反対だな)


 横目で局長を見ながらルルシャはそんなことを思った。ちなみにアバは今日も、各国の代表者と様々な懸案事項を話し合っているはずである。


「研究員を持っていない攻略4課の戦果については1課が引き取ってもよろしいのではありませんかな?」


 見た目が爬虫類であるレフ人の年齢はわかりにくいが、1課の課長は50歳を超えているはずだ。老獪な彼は、すべての権利を主張するのは難しくとも、切り崩しやすいところから権利を得ていこうとする。


「失礼ですが、1課長。4課にも研究員はございます。いまだにレッドゲートから出てくるモンスターに衰えがなく、なかなか多くの設備や資材を運び込めないため研究の進みは悪いのですが、それでも現在『畏怖の迷宮』と『憤怒の迷宮』の最奥にある迷宮コントロール機関について急ピッチで分析を進めております」

「おお、いいぞ、ルルシャ殿。結果はいつごろに——」


 局長が、ようやく聞こえてきた前向きな情報にうれしそうな声を上げたが、それを遮るように1課長が、


「4課の研究員は、ここにおられる大商会でもない、場末の商会の者どもでしょう。そんな者に触れさせて壊れたらどうする? あるいはその後ろにいるヒト種族にでも頼んだのか? だとしたら機密漏洩であり大変な背信行為となろう」


 指摘すると、レフ人たちがざわついた。「他種族に任せるだと?」「なんのためにここに他国を呼んでいないと思っている」という声が聞こえてくる。

 帝国の街区でレッドゲートから落ちてくるモンスターと戦っている各国兵団の代表は呼ばれていない。それは、ここにいるレフ人の代表者たちが猛烈に反対したからだ。

 他国を呼べば、分け前を渡さなければならないではないか——と。


「くっだらねえなあ」


 その巨体をイスの背にもたせると、ギッ、と音が鳴った。ダンテスの低い声は多くのレフ人が耳にした。


「……くだらないと言ったのか? たかだか冒険者の分際で!」


 1課長が拳でテーブルを叩くパフォーマンスを見せると、ワッと人々が反応した。そのすべてがダンテスに対する嫌悪感だった。


「ダンテス殿」

「ああ、ルルシャさん。悪い悪い。だってな、ここにいる連中があまりにわかってねえなと思ってよ……大体自分らの命も守ってもらってるって奴らが、なんの権利を主張するんだって話だよな?」

「失礼な!」


 ガタガタッとイスから立ち上がるレフ人たちだったが、ダンテスはぎろりと彼らをにらみつける。


「……お前らの町を守ってんのは、お前らが言うヒト種族ってヤツらだよ。その先頭に立ってんのは年端も行かねえ女の子だ。まさか知らねえとは言わせねえぞ」

「ぐっ」


 1課長はぎりぎりと歯ぎしりをするが、そこへダンテスが、


「ルルシャさんよ、ここは言っといたほうがいいと思うぜ? 崩壊の危険があって誰も調べたがらなかった『憤怒の迷宮』を、アンタが命を張って調査したんだ。大ケガを負った課員もいた。モンスターがあふれ出てきて俺だって死ぬかもしれねえと思った。それだけ苦労して手に入れた……『英雄武装(ヒロイックギア)』の数々、使っていいのは第4課だけだろうと」

「『英雄武装』だと!?」

「しかも複数!?」


 レフ魔導帝国の技術根幹にあるのは「九情の迷宮」で発見された数々の魔道具だ。その中でも「英雄武装」と呼ばれるものは技術革新をもたらした。

 ある「英雄武装」は重力に逆らって空を飛ぶ力をもたらし、ある「英雄武装」は空間を伝う情報伝達の力をもたらし、ある「英雄武装」は空間をねじ曲げる力をもたらした。「武器っぽい」ものも多いが、用途不明のため見かけ倒しのものも多かった。だが見た目はすごい。

 これまでに「九情の迷宮」で発見された「英雄武装」と呼ばれる魔道具はたったの20。それらは帝国が厳密に管理している。というのもいまだそれら「英雄武装」の分析が完全には終わっておらず、理解できない技術がいくつも使われているからだった。

 つまるところ「英雄武装」は帝国の強みであり、核なのだ。


「……つ、強がりを。誰にも確認させていないのをいいことに、『英雄武装』とは大きく出たな」


 と2課長が強がりを言うと、


「局長、私からひとつ提案がございます」


 ルルシャはそれを無視して局長に向かって挙手した。


「う、うむ。言ってみなさい」

「この『英雄武装』を各国に対して公開しましょう」

「なっ!?」


 衝撃が天幕内を走る。


「帝国内の研究者はレベルこそトップクラスですが人数が限られ、さらに一時避難しているこの場では設備も限られています。4課が発見した『英雄武装』を、各国、キースグラン連邦、光天騎士王国、クルヴァーン聖王国に1点ずつ貸与し、研究を進めてもらうのです」

「バカな!? 帝国の至宝を貸与するなど!?」

「気が狂ったか! いや、ヒト種族は最初から裏切る気だったのだ!」


 レフ人たちが口々に叫んで立ち上がるが、ルルシャの背後にのそりと立ち上がったダンテスが腕組みして彼らを睥睨すると、声は小さくなる。だがそれでもざわつきは止まらない。


「あ、ええと、その、ルルシャくん。そういった刺激的な冗談は止めてもらってだね……」

「局長。私は冗談でも裏切りで言っているのでもありません。打算があるにせよ兵力を貸し出してくれている各国に対して、それくらいしなければいけないのではありませんか? 我らが長い年月を掛けても分析し切れていない『英雄武装』ですから、すぐにすべてを解析できるとも思われません。数か月、あるいは数年して国庫に戻ってから我らが研究し、そのすべてをあますところなく分析し尽くせばよいのです。我らの技術的優位性は揺るぎません」

「し、しかしだね、返ってくるかどうかもわからない……」

「そのために3カ国に同時に貸与するのです。1カ国でも戻ってこなければ、その国に圧力を掛けることができるでしょう」

「しかし3つとも返って来なかったら……」

「局長」


 ルルシャが立ち上がり、ぐいと身を乗り出した。


「その3カ国がなければ、我らのこの一時避難所もすでになかった可能性が高いのです! 今は、一刻も早く新たな技術を手に入れて、情勢を立て直すべきでしょう! そうでなければ長時間の迷宮滞在もできず、レッドゲート封印に関する調査はさらに進まなくなります!」


 局長はのけぞり、言葉を失うが、他の課長や大商会のレフ人たちは憎々しげにルルシャをにらんでいた。


「おやおや……」


 とそこへ、


「この会議はレッドゲート封印を最終目的としているはずですが、どうも武装(ギア)の確保に精を出す方が多いようですな」


 深いシワの刻まれた年かさのレフ人が天幕へと入ってきた。

 その人物が何者なのかは、ここにいる全員が知っている。

 諸外国とのやりとりを一手に担当する渉外局の局長だ。

 飄々とした好々爺のように見える渉外局長だが、処世術に関しては誰よりも抜きんでた実力を持っていることを迷宮管理局長も知っている。

 この会議に彼が姿を現したことは、自分にとって幸運なのか不運なのかがわからずごくりとツバを呑む。


「アバくん。客人を」

「はい。——どうぞこちらへ」


 渉外局長の後ろに、付き人のように従っていたアバが連れてきたのは——ここにいる全員が目を瞬いた——ウサギ、だった。

 巨大なウサギだ。

 ウサギが帽子をかぶり、祭祀服を身につけている。


「え、皆様、わたくしめはクルヴァーン聖王国『祭壇管理庁』特級祭司であります、エル=グ=ラルンでございます。全員お初かと存じますがお久しぶりの方がいらっしゃったら失礼します。え、初めましての方は初めまして」


 ウサギはぺこりと頭を下げた。


「わたくしめがここに参りましたのは、皆様に、え、『裏の世界』とのつながりについてお教えし、是非とも世界をつなぐ亀裂を破壊する手助けになればという思いからでございます」

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― 新着の感想 ―
まだこんなに宝物抱えて死にたい奴がいたんだね 前線の肉壁にもならんくせに権利権利…国王が他国に月下美人を譲るほどの危機的状況なのにがめついて協力できない奴らのほうが国家に反逆してると思うんだがね 外部…
[一言] 「え、(枕詞)え〜〜!?(うさぎに対する驚き)」
[一言] アーシャ…アーシャ成分が足りないっ?!絶対連れていけよ?な? アーシャいなくなったらたぶん読者減るぞ?!www
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