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限界超えの天賦《スキル》は、転生者にしか扱えない ー オーバーリミット・スキルホルダー  作者: 三上康明
第5章 竜と鬼、贄と咎

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2

 長い長い世界を超える通路を抜けると、まばゆい光とともにむせかえるような緑と土のニオイが立ちこめた。

 風が吹いて木々の葉がさざめくと、僕の顔にまだらに掛かっていた木漏れ日が揺れる。

 そこは森だった。


「え……? 森?」


 てっきり聖王都の「一天祭壇」に出るのだとばかり思っていたので僕は呆けてしまう。


「————」

「————」


 同じタイミングで外へと出てきたノックさんと百人長が呆けた顔をしているので、


「あ、いや、もうちょっと違う場所に出るかと思っていたんです。参ったな、どこなんだろここ……」

「すばらしい」

「え?」

「なんとすばらしいのダ……」


 ぽつりとノックさんがつぶやくと、その横ではへなりと百人長が座り込んだ。


「……マジで、俺たちは世界を越えたんだな……なんだよ、この森はよ……命があふれてやがる……」


 僕はそのときになってようやく、「裏の世界」からやってきたふたりが、「表の世界」の生命力に驚いていたのだということを知った。



 それから僕らは場所を移動して、小川のそばで休憩を取った。周囲を注意深く確認したけれど調停者がやってくるような気配はない。調停者はこちらの世界へとやってくるのは、よほどのことがない限りできないのだろう。

 休憩しつつふたりの話を聞いてみると、あの長い通路はふたりにとっても長い通路だったようで、ずっと忘れていたような幼いころの記憶がよみがえってきたのだそうだ。


「そんで、これからどうする? あの通路が使えることはわかったが、戻ったところであの化け物がいたら意味がねェ」


 百人長の問いはもっともだ。


「……それについては僕に考えがあるのですが、聞いていただけますか?」


 僕はまず、あの通路を戻っても向こうに調停者は「いない」だろうと考えている。

 理由は2つあり、1つ目は調停者の数は限られているのでいつまでも僕のためだけに割くことはできないだろうと思われるからだ。

 2つ目の理由は、ふつうに考えて世界を渡ってしまった僕らがすぐまた戻ってくると考えないだろうということだ。向こうの世界に「逃げた」のならまた「裏の世界」に戻るわけがない。


「ただ、調停者はどうやら僕に強い執着を持っているようです」


 僕が黒髪黒目の「災厄の子」であるからなのだけれど、このあたりについてはまだふたりには話していない。


「調停者は、僕があちらの世界に戻ったら……なんらかの方法で探知してくる可能性があります」

「ふむ……あり得るな。でなければあんなふうにピンポイントで待ち伏せなどできない」


 ノックさんはうなずくが、


「そんじゃよォ、俺らの仲間はどうすンだ? 戻らなかったら、俺らが死んだとだけ思われるぞ」

「非常に心苦しいのですが……おふたりで行っていただけないでしょうか?」


 アーシャのことを思うとつらいのだけれど、僕が戻ることで危険が増すのなら、いっそ僕はこちらの世界に残ったほうがいい。もし仮に、なにか調停者の気を惹くことができるのなら、行動を起こしていれば調停者はダークエルフや地底人たちに注目もしないだろう。

 まあ、天賦珠玉をばらまいて、巨大種に都市を攻撃させている幻想鬼人がいったいなにを考えているのかまではわからないので断言はできないんだけど。


「……なるほどな、アンタも苦しい選択なんだな」


 百人長はうなずき、ノックさんの腕をぱしんと叩く。


「そういうことなら俺らに任せなァ」

「ああ。レイジ殿、皆をここに連れてこよう」

「ありがとうございます」


 僕は深々と頭を下げる。


「皆さんがここに来たとき、確実に迎え入れられるようにしておきますので」



 翌日までゆっくり休んでから、ノックさんたちは通路から元の世界へと戻っていった。来るときには持っていなかった多くの果実をお土産にして。

 これだけ見たこともない果実があれば、さすがにみんな信じるダろう——とノックさんは用意周到だった。

 僕らがやってきた通路は、山の中にぽっかりと開いた裂け目のようなもので、なにか遺跡めいたものや神殿ふうのものはまったくなかった。


(……ここは聖王都じゃない。聖王都付近の山なのか? とりあえず、今ここがどこなのかを確認しなきゃ)


 ノックさんと百人長を見送った僕は、ダメージ覚悟で【火魔法】を使って空へと舞い上がる。すると遠目に、山の麓の町が見えた。小さいながらも人の暮らしが確認できる。


「おっ、あそこに行けば大丈夫そう——って、アレはなんだ?」


 炊事の煙とは別に、立ち上っている煙。

 それは戦いによるものだというのは【視覚強化】と【森羅万象】ではっきりわかった。

 煙の中にいたのは巨大なサソリだ。

 なんでこんなところにサソリが? いや、そんなことよりも——あのサソリは町の外壁を破って暴れていた。

 犠牲者が多く出てしまう。


「次から次へと、忙しい……な、っと!」


 僕は森をダッシュして町へと向かった。

 戦いの末、サソリを倒し、その町がクルヴァーン聖王国領でも最も外れにある辺境伯領なのだと知るのはそれから少し後のことだった。

 さらに言うと、僕らが通路を使ったせいで山に異変が起き、はるか昔から眠っていたサソリが目覚めてしまったのだということに気づいたのはさらに後のことだった……。あの通路は、元々あった道というより無理矢理山に穴を開けてしまったものらしいのだ。


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― 新着の感想 ―
[一言] サソリくん…寝てたら急に起こされて挙句起こした本人に倒される……南無…
[良い点] 眠ってたサソリって [気になる点] サソリってそういう生態??
[一言] よかった、アーシャは置いてけぼりのままにならないんですね笑
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