盟約《□□□□□□□□》
僕は星12の天賦珠玉【離界盟約★★★★★★★★★★★★】を見つめた。
なるべく早くアーシャたちのところに戻るべきなのだけれど、戻ってからこれを「使う」ところは見られたくなかった。
ならばここで使ってしまったほうがいいかもしれない。
「…………」
僕は注意深く周囲を見渡す。
月が出ているきりで、ヒトマネがいたときには息を潜めていた虫たちが今は鳴いている。
危険がないことを確認して僕は【森羅万象】を身体から抜き出した。
「……っく、はぁ、はぁっ」
身体に訪れる気怠さと、モヤがかかったような頭。
ああ……まったく、これがなきゃ生きていけない身体になったらダメだというのに。
【森羅万象】がなくとも僕はもう天賦珠玉の抜き出しができる。これは魔法の練習と同じで、何度も挑戦することでマスターしたのだ。
念のため、【森羅万象】とともに取り込んでおいた【オーブ擬態】を取り出してみると、問題なくできた。この【オーブ擬態】はもともとアーシャの身体にあったもので、外側から天賦を確認できる【オーブ視】をごまかすための天賦……のようだ。【森羅万象】によれば。【森羅万象】を見抜かれたら面倒ごとが増えるので、僕はこれをつけていた。
道具袋に2つの天賦珠玉を入れ、【離界盟約】と向き合う。
いいんだろうか。
星6つを超えるような天賦珠玉は、持ち主に深刻なダメージを与えるようだ。
9を超えるものについては誰もが使えないような——特別な力を持つ。
「……そんなものが2つも」
【森羅万象】が使えるようになっただけでもすごいことなのに、【離界盟約】……盟約に関わる内容、この世界の成り立ちに関する天賦を僕は手に入れてしまう。
使うがいい、とヒトマネは言った。
元々使うつもりではあったけれど……背中を押されたような気がした。
ここに僕の知りたいことがあるというのなら、やっぱり使わなければいけないし、使わないとわからないことも多いはずだ。
「よしっ」
空いた左手で顔をごしごしとこすってから、僕は声を出す。
「——行きます」
呑み込め、と心に念じると、手のひらに載っていた天賦珠玉はしゅるりとめり込むように消えた。
一瞬、なにも起きなかった。
だけれど次の瞬間——耳を圧するような轟音が響いた。
「!?」
聞こえる。
巨人の怒鳴り声が。
天使の歌声が。
死者のすすり泣きが。
歴史を歌う詩人の声が。
——世界の鼓動が。
「あ……」
理解った。
「そういう……ことか。そういうことか……!」
それが、調停者——幻想鬼人の狙いだったのか。
ならば説明がつく。
ヒトマネたちを暴れさせたことも。
クルヴァーン聖王国でヤツらがやろうとしたことも。
最近、急に、地底人やダークエルフが天賦珠玉を発見し出したことも——。
★
★盟約構造(ライブラリアン/竜人)
・盟約は本条を含み8種から成る。
・盟約を成立せしむる要素は「天賦珠玉」と、「盟約者」と、「調停者」である。
★★盟約者の盟約(獣王種族/ダークエルフ)
・盟約を結ぶ者は種族の頂点に立つ者である。
・頂点が盟約を保存する。
★★★世界の盟約(ノーム/ノーム)
・2つの世界は同一であり独立する。
・盟約は2つの世界を分けるために行われる。
★★★★天賦珠玉の盟約(ハイエルフ/エルダーホビット)
・天賦珠玉を取りすぎてはならない。
・天賦珠玉は世界を構成する。
★★★★★調停者の盟約(ドワーフ/血色人)
・調停者のみが行き来し、門を開く権利を持つ。
・盟約に違反があった場合、調停者を呼ぶことができる。
★★★★★★盟約のための盟約(聖水人/地底人)
・貴顕の血を捧げることで盟約を維持することができる。
・調停者がこれを監視するが、調停者を害することはできない。
★★★★★★★盟約の破棄(大陸人/ドワーフ)
・盟約の破棄は調停者に対して宣言することで行われる。
・破棄が行われた場合、2つの世界は1つになる。
☆☆☆☆☆☆☆☆盟約の意義( / )
・□□□□□□□□は盟約の□□を調停者に□□、□□する。
・□□□□□□□□は盟約が破棄された場合、□□に□□する。
★
頭に流れ込んできたのは盟約の内容と、盟約を与えられた——維持している者が誰かという情報だった。「盟約構造」は竜人都市の長老だったし、「盟約者の盟約」はダークエルフの族長の顔が頭に浮かんだ。長老は風呂に入って、族長は炊事の指示を出してはニッキさんになんか怒られていたので、おそらくだけれど、リアルタイムの情報だ。
それ以外にも、地底人は、確か元帥と呼ばれた男と行動していた女性だったし、聖水人はクルヴァーン聖王国の聖王陛下だ。
だけど、知らない種族も多かった。
それに驚いたことには8盟約のうち7つに、それぞれ「表の世界」「裏の世界」の代表たちが見えたのだ。
「……いたんだ……!」
竜人、ダークエルフ、地底人以外にも——この世界にはまだ、生きている人たちがいる。
「ひっそりと身を隠しながら生きているんだ……!」
ただ、問題は2つ。
1つは最後の盟約が虫食いだらけでわからないこと。これは天賦珠玉が不完全なのか、そもそもそういうものなのかもわからない。誰がこの盟約を負っているのかもわからなかった。
もう1つは、「盟約の破棄」だ。
——破棄が行われた場合、2つの世界は1つになる。
幻想鬼人の狙いはおそらく、これだ。
天賦珠玉をばらまいて地底人とダークエルフの争いが激化すればどちらかが滅びる。
種族の滅亡は盟約を保持できなくなることでもある。
——我らはこの世界の均衡を保つために生まれた……言わば柱よ。
ヒトマネはそう言った。
巨大種が柱だとすると、すでにこちらの世界は柱を3本失っていることになる。
こちらの世界の均衡は崩れているのだ。
「だから、2つの世界を1つにしようとしている……? そうなるとなにが起きるんだ?」
そこまではわからない。
でも、ヒトマネによれば、幻想鬼人によって生み出された巨大種が、幻想鬼人によって操られて種族を滅亡に追い込もうとしているのだ。
奴らの望みはろくなものじゃないだろう。
この天賦珠玉の能力は盟約を知ることだけではなさそうだった。実は僕の脳裏に流れ込んできた情報には、2つの世界をつなげるルート——神聖古代にふさがれたルートの内容もあった。
そのうちいくつかは、まだふさがれていないのだ。
そこにいけば「表の世界」へ戻ることができる。
帰れる。
「早く、アーシャに伝えよう」
ここからいちばん近いそのルートは——「表の世界」ではクルヴァーン聖王国の聖王都にあった、あのシンボル。
「一天祭壇」だった。
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