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限界超えの天賦《スキル》は、転生者にしか扱えない ー オーバーリミット・スキルホルダー  作者: 三上康明
第4章 離界盟約《ワールド・アライアンス》

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     ★  地底都市 入口  ★




 なぜこんなところにサルメが?

 地底都市の頂点に君臨し、先祖代々積み上げてきた財に比例するように巨大化していく総本家の邸宅から一歩も外に出ないはずのサルメが、なぜここにいるのか?

 彼女に付き従ういつものお調子者たちは、いつもとはまったく違う、沈痛な面持ちでそばに侍っていた。


(なにかが違う(・・)。でも、それはなんだ?)


 サルメがこんな場所にいること自体がおかしいのだが、そうではなく、なにか自分がとてつもない勘違い(・・・)をしているのではないかという気持ちになっていた。


「アレは……神聖古代からこの世界に棲み着いた、8頭の巨大種の一角よォ。今まで討伐されたのはたった2頭。1頭はドワーフが自分たちの住処ごと爆破して相討ちになったけどォ、ドワーフは絶滅したわ。もう1頭はダークエルフが滅ぼしたけどォ、その間にエルフたちは他のモンスターに食い散らかされたってェ話」

「そ、そんな話……今まで聞いたことも……」

「そりゃァ、アンタには言わないわよォ。言うわけないでしょォ? アンタの心が折れたら(・・・・)、地底都市の荒くれ者どもは誰が引っ張っていくのよォ」


 どくん、どくん、と元帥の心臓の鼓動が激しくなる。

 この女は、サルメは、いったいなにを言ってる?

 これではまるで——。


(俺を、元帥として認め、のみならず慮っていたかのようではないか……!?)


 サルメはぼんやりとヒトマネを眺めている。巨大な身体は人間のようだが、夜の闇にそのシルエットしか見えない。

 混乱して逃げようとする初夏鳥を捕まえて口に運んでいるその姿は、幼子が菓子をつかんで口に詰め込んでいるかのようだった。


「……アタシたちのさァ、純粋な血ってなんなのかわっかんないのよねェ。前に捧げた(・・・)のが何百年も前だって話でさァ……記録もなーんも残ってないワケ。それを、今になって差し出せって言われても意味不明なのよォ」

「……なにを……おっしゃっているのですか?」

「ウルメに残ってて、なおかつ可能性がある女は、もうアタシしかいなかったのよォ。しかもこの年増が、子どもなんて産めるはずないじゃないのよ……ねェ」

「なにを! おっしゃっているのですか!? サルメ様!?」


 鼻をすする音が聞こえた。それは彼女に付き従っているお調子者たちが鼻をすすったのだ。


「元帥ィ」


 サルメは左手を差し出した。


「天賦珠玉出して」


 ぎくり、とした。ここで彼女が言っているのはそんじょそこらの天賦珠玉であるわけがない。

狂乱王剣舞(インセインブレイド)】のことだ。


「なァにビックリした顔してンのよォ……本気でアタシが知らないとでも思っていたワケ?」

「お、恐れながらサルメ様、元帥は——」

「小娘は黙ってなァ」


 参謀が横から口を挟もうとしたが、サルメのひとにらみで硬直して動けなかった。


(すべて、バレていたのか? なぜだ……どこから情報が漏れたのだ?)


 情報が漏れていたのであれば自分のクーデター計画など成功するはずもない。すべてが徒労だったのだ。

 元帥はのろのろとした手つきで腰のポーチから天賦珠玉を取り出した。

 それを受け取りながらサルメは言う。


「……百人長は、アタシの遠縁なのよォ。ちっちゃい頃はアタシのことをお姉さんお姉さんって慕ってくれたっけねェ」

「なっ!?」

「でも百人長を責めたらダメよォ。あの子は全部わかった上で、最後の最後でアンタを止めるつもりだったんだから」

「そ、それは、どういう」


 ワケがわからなかった。

 百人長が裏切ったのか? サルメに情報が筒抜けだった?

 混乱の火に油を注いだのは、目の前でサルメが【狂乱王剣舞(インセインブレイド)】を取り込んだことだった。こともなげに。ためらいもなく。


「そっ、それは……!?」

「わかってるわよォ、使ったら、記憶がなくなってくンでしょォ? 元帥、後のことは頼んだわよォ。——アンタたちも、評議会の長老どもがやいのやいの言ったら食い止めるンだよ!」


 お調子者たちはすでにさめざめと泣いていた。

 そうして「ひゃい」と情けない声で答えると、サルメは悲しげな笑みを浮かべて歩き出した。


「サ、サルメ様!?」


 サルメは、今までの鈍重さがウソだったかのようにすいすいと焼けた森を歩いていく。その歩む先にいるのはヒトマネの巨体だ。

 すでに初夏鳥は数を減らし、群れはちりぢりになっている。

 腹を空かせているのか、ヒトマネは、


『——ウ、ォ、オオオオオン』


 と遠吠えを上げた。

 闇のシルエットにほんのりと光る目がこちらを向いた気がして、元帥の身体は縮んだ。


(まさか……まさか、サルメ様は、アレと戦いにいくのか!? なぜ!? なんなのだ、いったい、なんなのだ!?)


 自分だけ、筋書きを知らない舞台に上がらされたようなものだ。

 自分だけ、道化なのだ。


「元帥閣下、今のうちに中へ」


 元帥の腕を引いたのは、目と鼻を赤くし、まつげを濡らしたお調子者のひとりだった。


「しかし、サルメ様が行ってしまわれたのだぞ……」

「サルメ様は、すべてお覚悟の上です。ここで万が一にもあなた様を失うことがあればサルメ様に叱られます」

「……すべて、話してくれるのだな?」

「もちろんです。それが……」


 彼はまつげを伏せて、言った。


 ——サルメ様の、遺言でもありますから。


 と。




     ★  ダークエルフ集落  ★




 初夏鳥を追い散らし、一息吐いた——と思ったアナスタシアだったが、


「……今の音は?」


 異常な音を耳にした。

 ずしん、ずしん、と響くような——。


「——ノック! おおい、ノック!」


 ノックが置き去りにしたメンバーがようやく走ってくる。だが彼らの表情は、切羽詰まっている。


「来てる……! ヤツが、来てるんダ!」


 悲痛な叫び声が、ひとまずの安息にひたっていた集落を目覚めさせる。


森喰い山羊(フォレストイーター)がこっちへ向かっている!!」

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― 新着の感想 ―
[良い点] ピンチの連続! 地底人の国もヤバけりゃダークエルフの里もヤバい! ドキドキハラハラな展開で次の話を直ぐ読みたくなる。
[一言] ああ…サルメ… おばちゃん涙が止まりませんわ
[気になる点] 種族や登場人物が増えたからか話がとっ散らかっちゃって状況が把握しづらいのと、展開がアクセル踏んだかのように進んだせいで主人公と読者が置いてけぼりに食らっちゃった感がどうしても… [一言…
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