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限界超えの天賦《スキル》は、転生者にしか扱えない ー オーバーリミット・スキルホルダー  作者: 三上康明
第4章 離界盟約《ワールド・アライアンス》

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大事なお知らせがあります。

     ★  卵置き場  ★



 レイジが集落を出て行った翌日、プンタはひとり、初夏鳥の卵置き場へとやってきた。

 自分のせいで迷惑を掛けたことはわかっている。

 みんなが崇拝しているハイエルフ様をガッカリさせたという自覚もある。

 だから——なにかできることはないか、と。もしかしたら、もう一度見に行けばどこに天賦珠玉を隠したのか思い出すのではないか、と。

 そう思ったのだ。


「…………」


 だけどこの日は、朝から妙な視線を感じて気味が悪かった。

 きょろきょろと周囲を見るけれどそこには誰もいない。


「気のせいダな」


 とつぶやいてみたけれど、視線を感じるままだった。

 きっと自分の失敗への後ろめたさと、卵置き場にいってもなにもないかもしれないという不安のせいだろうと自分自身に信じ込ませた。


「さて、探さないと……」


 プンタはずらりと並ぶ卵を見やった。




 一方——そんなプンタを見つめていたのは10人の地底人だった。

 それを率いる百人長は、


「——お前ら、ここで止まれ。あのダークエルフがなにをするのか確認してェ」


 と指示を出した。

 ダークエルフの集落があるであろう方角は、これまでの散発的な戦闘経験から予測がついていた。それもこれも優秀な設計士と参謀のおかげだった。

 百人長の今回の任務(ミッション)は「天賦珠玉の捜索」と「ダークエルフ集落の確認」だった。

 天賦珠玉については結果がはかばかしくはなかったが、集落の発見には成功した。

 そんなとき、ひとりの——これまで見てきたダークエルフの中でも群を抜いてだらしない(・・・・・)肉体を持ったプンタが出てきたのだから、いったいなんなのかと考えるのは当然だ。

 尾行した結果、この異常な量の卵がある場所へとやってきた。


「……百人長、ありゃあ、卵っすかね?」

「それ以外になにに見えるンだよ」

「じゃあ、食料の備蓄っすか?」

「どうかな……あのダークエルフがなにするか、見落とすんじゃねェぞ」

「へい」


 地底人たちは初夏鳥について無知だった。初夏鳥の生息域が違ったからだ。

 プンタは卵には触れず、そのそばをうろうろしているだけだった。たまに手を伸ばしては、ハッとして引っ込める。そうして「うーん」と唸り、すでに割れている卵の殻を拾ってはためつすがめつしている。


「あいつ、なにしてやがんだ?」

「百人長、さっさと捕らえて吐かせましょうや」

「焦るんじゃねェ。こういう任務に焦りは禁物だろうが」


 すると、


「どこに隠したっけなぁ……。あの天賦珠玉なら光が見えてもおかしくなさそうなのに……暗くなるまで待ってみようかなぁ……」


 ぽつりとプンタがつぶやいた。


「——あいつ、天賦珠玉って言いやしたぜ」

「ああ。聞いた。ここに隠したが、隠し場所がわからなくなったってェことか?」

「どうしやす、百人長。あいつに任せておいたら日が暮れても見つかりませんぜ」

「だがお前だって隠し場所なんざわからねェだろうが」

「なに言ってんすか」


 地底人の部下は、百人長にこう言った。


「卵なんですから、全部ぶっ壊しましょうや。連中の食料がどうなろうと知ったこっちゃねえですし」


 それは、その場にいる地底人たちをして「確かに」と思わしめる、まさしく単純明快な論理だった。

 そうと決まれば話は早い。

 百人長率いるチームは、プンタを取り囲むように展開すると、合図にあわせて一斉に姿を現した。


「おい、ダークエルフ」

「!?」


 百人長が声を掛け、ぎょっとして振り向いたプンタは——さらに顔を驚きに染めた。


「お前が隠したっつう、天賦珠玉について教えろや。それ以外にもな、聞きてェことはいっぱいあるのよ。いいか? 痛い思いをしたくなけりゃァ、おとなしく——」

「あああああああッ!?」


 ぶるぶると震えながらプンタは叫んだ。彼が指差していたのは百人長の部下のひとり。彼が、移動するのに邪魔になって蹴り飛ばして割った卵だった。

 どろりと、透明な液体と黄色の塊が流れ出していた。


「あん? なんだなんだ。お前らにとっちゃそんなに大事な卵だったのかよ」

「うわああああッ」

「!? お、おい、止めろ!」


 いきなり走って逃げ出したプンタだったが、運動神経の差は歴然としていた。百人長が率いているチームは地底人種族の中でも選りすぐりの武闘派だ。すぐにプンタに追いつくと、引き倒し、地面にうつ伏せにして動けなくした。


「いきなり逃げるたァ、愛想がねえじゃねえか。なァ、おい。お前の知ってることを全部しゃべれば、痛い思いしなくて済むっつってンだろうが?」


 プンタの目の前にしゃがんだ百人長は、ナイフを取り出して、彼の頬にぺたぺたとくっつける。だがプンタが恐れていたのはそんなものではなかった。


「ま、まま、マズイ、マズイマズイマズイ」

「あァ?」

「早く逃げなきゃ! 逃げなきゃ! さもないと——」


 そのとき——はるか上空でヒィヨロロロロロロと、喉を鳴らすような音が聞こえた。

 地底人たちが空を見上げると、そこには1羽の赤い鳥が旋回していた。


「あぁあぁぁ……もう、終わりダ……」


 プンタがぽろぽろと泣き出し、百人長はつんとするようなアンモニア臭を嗅ぎ取って——このダークエルフが漏らした(・・・・)のだとわかって、ようやく、事態がなにかとてつもなく悪い方向に転がったことに気がついた。


「……おい、ダークエルフ。あの鳥はなんだ」

「終わりダ。終わりダ。終わりダ……あぁぁぁ」

「おい! 俺の質問に答えろ!」

「——百人長! 空を!」


 百人長が空を見上げると、先ほどまで1羽しかいなかった赤い鳥は、5羽に増えていた。


「ありゃ……なんですかね」


 部下のひとりが北を指差していた。

 木々の枝が張りだしていてよく見えなかったが、先ほどまではなかった黒い点のようなものが北の空にある。

 その点の数は、数えるのもバカバカしいほど。100や200ではきかない。


「初夏鳥が仲間を呼んダら……逃げられない。どこまでも追ってくるんダ……」

「——アレは初夏鳥とかいう名前の鳥なのか?」

「終わりダ……」

「おい!」


 胸ぐらをつかんで百人長はプンタを引きずり上げる。


「言えッ! あの鳥はなんなんだ!?」


 パァンと頬を張ると、プンタの目にわずかばかりの正気が戻った。


「あ、あれは初夏鳥……生きた卵を壊した敵を絶対に許さない。大量に集まって襲いかかってくる」

「なんだと……」

「逃げても、どこまでも追ってくる」


 すると部下が、


「百人長! もう50羽くらいに増えてんぞ!」


 叫んだ。空には、いつの間にか鳥が増えている。旋回する赤い渦に見下ろされ百人長だけでなく部下たちは戦慄した。


「〜〜〜〜!!」


 決断しなければならない。この、少ない情報で。


(元帥ならどうする? 参謀なら? ああ、クソッ! 俺は腕っ節だけの男なのによお!)


 考えることは今まで他人に任せてきた。

 だが、今は自分が決めなければならない。


「聞け! チームを3つに分ける。リーダーは——」


 9人の地底人を3つのチームに分けた。


「——そんで、いつもの帰還ルートAとDとFの3パターンに分かれて戻るんだ」

「ちょ、ちょっと待ってくだせえ。百人長はどうするんで?」

「俺は」


 ぐい、と襟首をつかんだプンタを引き上げた。


「こいつが言ってることが正しいかどうか見極める必要もある。このままダークエルフの集落に突っ込んでやるさ」

「ええッ!?」

「なるたけ隠れて逃げるんだぞ! あと……元帥によろしく伝えてくれ。さァ、急げ!」


 百人長の読みでは、いくら鳥の目がよくとも、その特性上は地底までは追ってこられないだろうということだった。そしてルートを分けて逃げ込めれば、その出口を上空から見張られても他の出口を使って出入りができる。

 部下たちが走り出すと、上空を旋回している鳥はいくらかを残し3つの集団に分かれて飛んでいく。


「……さて、と。じゃあ、後は俺とお前が生きるか死ぬかだな」

「ヒィッ」


 プンタの顔は涙と鼻水でべしゃべしゃになっていた。


「お前、名前は」

「プ、プンタ……」

「よし、プンタ。お前、あの鳥に詳しそうじゃねァか。あの鳥に隠れられそうなルートを考えながら俺をお前の集落につれてけ」

「で、でも、集落に連れ帰ったりしたら自分は殺される!」

「そうか? じゃあ、今この場で死ぬか? 俺はな、拷問も得意でよォ、数分ありゃァ気が狂うような痛みをやることもできるんだぞ」

「ヒィッ」


 脅しながら、百人長は考える。なんとしてでも生き延びる道を。


「俺はここで死ぬわけにゃいかねェんだよ。あの方(・・・)のためにも生き延びなきゃァな」


書籍化決まりました!

富士見ファンタジア文庫から、11月20日に発売予定です。なんと私の誕生日です。

イラストレーターは大槍葦人先生です。

すばらしい表紙イラストは活動報告で公開しますので是非見てみてください。

すでにAmazonで予約も始まっているので是非ともお願いいたします!

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― 新着の感想 ―
地底人ろくなのいないな
[気になる点] 大きい卵、持てば割れてカラか?どうかわかるだろ? あと、地下なんだから、自分とこに逃げろよ。
[一言] 同じ誕生日でわろたw
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