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星6つの天賦珠玉を投げて返したとき——元帥と呼ばれていた男はきょとんとした顔をしていた。
(もともと返すつもりだったってのに)
僕は、スーメリアという人の命を救った……のだと思う。このまま【狂乱王剣舞】を使い続けたら、この人は死んでいた。知ってて使い続けていたのか、知らずに使い続けていたのかはわからないけれど、死ぬとわかっている人を放っておくことはさすがにできなかったのだ。
僕の目的はレフ人の解放。それだけだ。
竜人都市に比べれば地底都市には天賦があるようだったけれど、それでも他の人を見ている感じでは潤沢にあるとは思えない。
であれば【オーブ着脱★★★★】のようなレア天賦を持っている人はいないのではないかと僕は踏んだ。
いるならいるでいい。後々取り出すつもりだったのなら。
でも——いなかったのなら、スーメリアの死は近かった。
(せっかく命を助けたのに、死なれても困るしな……)
天賦珠玉を返さなかったらスーメリアはどうなっているかと言えば、だらだら生き延びるか、あるいは廃人の数歩手前の彼女は——もう「要らない」からと捨てられたかもしれない。この世界では食糧が逼迫しているのだ。
だけれど天賦珠玉が戻れば、彼女は役に立つ。
僕が与えた情報を確認するために彼女は生かされるだろう。そして今後、星6つという天賦珠玉をどう扱っていくかを考えるときに、生き証人であるスーメリアは必要不可欠な存在になる。
僕には、あんな凶悪な天賦は必要ない。
(ていうか、星6つ以上の天賦って危険なヤツばっかりじゃないか。もしかして、クルヴァーン聖王国の第1騎士団長が【聖剣術★★★★★★】とかいうとんでもない天賦を代々引き継ぎながらも前線に出ないのは、副作用というか、使用の代償がハンパないからなのかな)
そんなことまで思いが至ったけれど、いずれにせよ僕の目的は果たされた。
まあ、周囲がぶっ壊れてがれきになっているけれど、それは僕のせいじゃない。
あとはレフ人を追って脱出するだけ——と思っていたら、悪の親玉みたいな女の地底人が出てきて、いきなりわめきだした。
「アンタに期待なんて最初からしてなかったけどよォ! できねェことがあンならさっさと報告しろやァァッ!」
「申し訳ありませ——」
「どけェッ!!」
危ない。元帥、転びそうになったけどこらえたな。手に天賦珠玉持ってるってのに……ていうか気づいてなさそうだけど。
「この野郎が……アタシの街で好き勝手しくさった礼だ。ブッ殺してやらァッ!」
スーメリアが最強カードじゃなかったのか?
そう思いつつも、僕は警戒する。
「出てきなさいよォッ! 調停者!! アンタの敵がここにいるわよォッ!」
その瞬間、周囲が闇に包まれ——僕の思考回路も一瞬、止まった。
調停者——。
聖王都の「一天祭壇」の前にいた存在。
ルイ少年を殺し、その身体を操った。
盟約がどうのとわめいて、最後はウロボロスを召喚して消えていった——。
「表の世界」の、竜と同じ存在。
黒の世界だが数人が持っていた魔導ランプの明かりは光を放つ。
動揺する人々が黒い影のように見える。
『……何用だ、盟約の一族よ』
上だ。
上空に、まるで足場があるかのように空中で腕組みして突っ立っている。
その身体は暗紫色の金属鎧に包まれ、隙間からは黒炎が噴き出している。
フルフェイスの兜は目の部分だけ穴が穿たれ、そこには赤い瞳がのぞいていた。
「言ったとおりよォ! アンタの敵がそこにいる!!」
調停者を呼び出した女だけはこの状況を当然のものとして考えているようだった。彼女に付き従っている人たちは突然の出来事に驚いてあたふたしている。
僕も——ようやく、思考が戻ってきた。
そうだ。
ここは「裏の世界」。調停者の本拠地じゃないか。
『お前は、「災厄の子」……!?』
僕を見た調停者が、初めて動揺を声に表す。
「……その呼ばれ方、本気で頭にくるんで止めてくれるかな」
生まれてこの方、黒髪黒目でめちゃくちゃ苦労させられた。命の危険に遭った。親には育児放棄で殺されかけ、「六天鉱山」では公爵に斬られかけ、聖王国の6大公爵家のエベーニュ家からも追われた。
僕が一体なにをしたんだよ。
「こっちの世界じゃ、アンタは呼ばれてほいほい出てくるのか? 向こうと違って口もよく回るようじゃないか」
明らかに、「一天祭壇」のときよりもふつうに話している。
『……盟約者よ、お前が我を呼び出していいのは、盟約に違反があったときだけだ』
僕をにらみつけながら、調停者は悪の親玉女に言う。
「そ、そいつは、このアタシの街をぶっ壊したンだよ! 星6つの天賦持ちだって相手にならなかった——ズルをしたに決まってる!」
『盟約の違反はなかったということか?』
調停者が手を挙げると、闇のドームが解除されていく。
「だったらなんなのよォ! アンタは盟約だのなんだのを勝手に押しつけるだけ押しつけて、こんなときに動かねェのかよ!? アタシらが死んだら困るのはアンタだろォが!」
『困りはしない』
「なァッ!?」
『お前たちが死のうと、この世界から生物が絶滅しようと……それは世界の命運』
調停者は、悪の親玉女と話しながらも、僕から視線を外さなかった。
『だが、こやつは「災厄の子」。盟約とは関係がないが……』
調停者の身体から黒炎が噴き出した。
身体を翻した、と思った瞬間、とてつもない加速で僕の目の前へとやってきた。
振り下ろされた拳の一撃は天から下る稲妻のような速度。
バックステップでかわしながらも僕は【土魔法】で土壁を前へと展開する。
調停者の拳が地面に触れる——1メートルほど地面は凹み、衝撃波が周囲に走る。親玉女は仲間もろとも吹っ飛び、僕の土壁はもろくも崩れ去り、僕は両足で踏ん張ってこらえた。
爆音を聞いたのか、聞かなかったのか、キィーという高音が耳で鳴っていて、周囲の音を聞きづらい。
『関係はないのだが、排除に値する』
聞きづらくとも、聞こえたのは——やはり不愉快な言葉だった。
散々「災厄」だの呼ばれ、そして今は直接排除ときたものだ。
こいつはルイ少年を殺し、騎士団長を殺し、お嬢様の天賦珠玉授与式をメチャクチャにしただけでなく、イタチの最後っ屁のように召喚したウロボロスがいくつもの家を薙ぎ倒してくれたっけ。
あの後を知らないけれど、ケガをした人だっていたはずだ。家を建て直すのだって大金がかかったはずだ。
そんな迷惑を掛けたこと、まったく気にもしてないよな、アンタ?
ああ、さすがにね、いくら温厚な僕でもね。
「……性格的にこういう言葉は使わないんだけど、他に思いつかない」
人差し指を突きつけた。
「お前はぶちのめす」
さすがに本気でキレそうだ。




