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限界超えの天賦《スキル》は、転生者にしか扱えない ー オーバーリミット・スキルホルダー  作者: 三上康明
第4章 離界盟約《ワールド・アライアンス》

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     ★  火事現場・マイカ茸倉庫  ★




 深夜に突如として燃え上がった炎はしつこく燃えていたが鎮火されつつあった。

 集まったのは軍属の者たちで、指揮に当たっているのは元帥その人だ。

 消火活動を遠巻きに見ていた町の人たちは「なんだ、ただの火事か」と高みの見物の体である。


「ふむ……火勢の割にはあっけなく消火できたな。被害はどうだ?」

「聞いたところ、外壁が燃えたくらいで、中の備蓄にはさほど影響はなかったっつー話っすわ。ただ屋根は替えなきゃダメでしょうね」

「ただの失火で済んでよかったな」

「……失火、なんすかね……」

「どうした、参謀?」


 元帥が話しかけていたのは、参謀の肩書きを持つ女軍人だった。

 彼女はアゴに手を当ててうなっている。その姿は酒場で、酔っぱらいたちになにか面白い謎かけをしてやろうと知恵を絞っていたときとなんら変わらない。


「アタシは詳しくないんですがね、あの炎……失火と言うには燃え上がるのが早かったでしょう?」

「まあ、そうだな。燃料になりそうな木材も積んであったようだし、そのせいじゃないのか」

「燃料が? なんでこんなところに」

「わからん。気になるなら調べさせよう。なにせ燃料の不法投棄は犯罪——」

「いや、いや、そうじゃねーっすよ。こんなところに燃料置いといたらやべーってことくらい、子どもでもわかりますわ。日中は人通りがありますよね、ここ」


 元帥はうなずいた。街の中でも外れにはあるが、まったく誰も通らない、というような道ではない。


「じゃあ、この燃料が置かれたのは今日か昨日とか、短い時間ってことっすよ」

「見つければ誰かが通報しているから、か?」


 参謀はうなずいた。


「で、そいつが1日のうちに燃えた。こりゃァなんだかニオイますぜ」

「なにが言いたいのだ」

「……この燃料を使って、何者かが、なにかを成し遂げようとしたんじゃァないですか」

「なにかを?」

「街の中でおかしなことがなかったか聞きてェところっすね。百人長は?」

「アイツは例の竜人に酒を飲ませて、情報を聞き出してたはずだ。今ごろいびきかいて寝てる」

「ふーむ。それじゃ設計士……アイツが出てくるワケないか」

「ないな。消火活動なんてのはアイツの出る幕じゃない」

「もどかしいっすね〜……情報さえありゃ、なにかつかめそうなんですが……」


 そのとき彼らは遠くで、ドンッ、となにかの爆ぜる音を聞いた。

 元帥と参謀が顔を見合わせる。


「今のは——」

「爆発。遠いっすね」


 元帥は声を張り上げる。


「おい! 今の音を聞いた者はあるか!? 手の空いた者はそちらへ向かって異常を確認せよ!!」


 声に反応した10人ほどが走り出す。見物の人垣をかき分けて進んでいく。


「なにがあるかわからんぞ! 皆、家にこもっておれ!」


 元帥が叫ぶと、市民はぎょっとした顔で、いそいそと自分の家へと戻っていく。


「これでよし。参謀、行くぞ」

「はい。急ぎやしょう……どこの誰かは知らねーけど、こんな騒ぎ起こしたら警戒が高まっちまう」


 ふたりは魔導ランプを片手に走り出した。

 この期に及んでなお、ふたりとも——この騒ぎは都市内で誰かが起こしたものなのだと信じていた。それほどまでにこの都市の秘匿性へ、高い信頼を持っていたからだ。



     ★



「な、なん、なんですかね、あの人は……追っ手?」

「いやでもタバコなんか吸ってる——」


 逃げ遅れた最後のレフ人たちが、呆然と、現れたフードの少女を見つめていたが、


「伏せて!」


 僕は叫んで、握っていた短刀を振った。

 彼女が無造作に剣を振り上げ、振り下ろした。それだけなのに僕らへ強力な斬撃が飛んできたのだ。

 僕の刃が斬撃にぶち当たると、火花とともに斬撃を跳ね上げる。それはドームの壁面上部へと飛んで行って、爆音とともに壁をえぐった。


「…………」


 剣で弾いたことに彼女は少し、驚いたような顔をしたけれどそれだけだった。


「走ってください! 走って! 早く上へ!」

「で、でも君は——」

「いいから!! あなたたちを守って戦うのはキツイんです!!」

「ッ」


 正直なところだった。短刀で弾くのにも限度がある——さっきの1回で、刀身へ深刻なダメージが入った。これ、天銀を混ぜ込んだ刃だっていうのに!

 レフの軍人は歯を食いしばると僕の背後、階段を上って外への連絡通路を駈けていく。

 敵はそちらへ向けて斬撃を再度放ったけれど、僕は即座に【火魔法】を複数展開して斬撃にぶち当てた。爆音とともに周囲が明るくなる。


「くそっ……」


 魔法で、止められなかった。

 突き抜けた斬撃は、威力と方向を変えながら通路の上部へと直撃し、通路ががれきによってふさがれる。

 いや……最初からこれが狙いだったのか?

 僕を逃がさないための?


「……お前、誰」


 彼女は、ようやく口を開いた。

 その目にはなんの感情も浮かんでおらず、目元にはべったりとしたくまがあり、唇は乾燥しひび割れていた。

 しゃがれた声は、老女のようですらあった。


「冒険者、レイジ」


 はっきりと、彼女に聞こえるように言ってやった。

 まさか答えが聞けるとは思っていなかったのか——先ほどよりも大きな驚きが彼女の瞳に浮かび、そして消えた。

 底の見えない沼があらゆるものを呑み込むように。


「じゃあ、冒険はこれで終わり」


 彼女は両手を振り上げ、またも無造作に振り下ろした。

 強烈な二筋の斬撃が僕へと飛来する。

 だけど、


「——かわしていいなら、これほど楽なものもない」


【疾走術】を使って左に走ると、僕が立っていた場所を通り抜けた斬撃は壁面をえぐって爆発した。


「…………」


 走る僕へと彼女はぶんぶんと剣を振るう。

 僕がかわすと今度は倉庫らしき建物にあたり壁が内側に吹っ飛ぶ、地面がえぐれる、遠くへ飛んで行く——。

 その間にも僕は【森羅万象】で彼女の攻撃を分析した。


(一筋の斬撃のように見えて、あの剣には無数の細かな斬撃が隠れている。それをまとめた一撃を振り下ろしているんだ。撃ち出す剣に負担はなく、その周囲に真空の膜があって、滑らかに斬撃が繰り出されている)


 魔力的なものではなかった。

 つまり、


(超希少な天賦珠玉による攻撃……!)


 ラルクと同じ攻撃だ。

 そうなると彼女の表情に人間性が失われていることも、声のしゃがれも、肌の荒れも、すべて——天賦のせいではないかと思われる。

 僕はぐるりと彼女から等距離に走って一周し、元の位置へと戻った。

 僕らの周囲には広大ながれきと広場ができていた。


「——うわ、スーメリアが戦ってるぞ!」

「——近づくな! 近づくな! 死ぬ!」


 騒ぎを聞きつけた軍人が来たけれど、彼女——スーメリアと言うらしい——の能力を当然知っていて、こちらへは近づいてこない。

 確かに……こんな能力があれば圧倒的な強さで誰も近づけないよな。

 だけどそれがすべて、「いいこと」だとは僕は思わない。


「…………」


 近づくな、と言われたときに彼女の瞳には、確かに——僕が【夜目】と【視覚強化】を持っていなかったら絶対見逃していたけれど、悲しみが浮かんだのだ。

 底なし沼の底からほんのわずかに浮かんでみせた、白い魚の背ビレのように。


「えーっと、君の名前を聞いていなかった」

「…………」

「僕は名乗ったんだけど?」

「……聞いたところで、お前は死ぬ」


 僕はもう、彼女を恐れない。

 彼女は確かに強者だ。でもそれは天賦珠玉に裏打ちされた強さでしかないのだ。

 彼女は年相応の心を持った女の子じゃないか。


「もう一度聞くよ、名前は?」

「……スーメリア」


 根負けしたように彼女は言った。


「スーメリア、いい名前だね」


 そして僕は彼女に告げる。


「君にとって不幸だったことは、2つある。その能力を誰も理解してくれなかったこと。そして

君以上の能力を持った人に出会わなかったこと」


 僕はもう、決めていた。彼女を救おうと。ラルクと同じように星6つの天賦珠玉を使っていたのなら、生命を削っている可能性が高い。

 なんの代償もなく使える力なんてものは、この、天賦珠玉なんていうデタラメみたいな力がある世界においては、あり得ないのだ。

 僕みたいにスキルホルダーが2倍あるようなイレギュラーでもない限り。


「君にとって幸運だったこともある」


 楽しそうに力を振るっているのなら別だ。

 でも彼女はひとつも楽しそうじゃないじゃないか。


「さっきの不幸だった2つを、僕なら両方ともクリアできる」


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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白い [気になる点] ここまで感情の機微に聡いのにも関わらず、鈍感系なのは違和感がある点
[良い点] 早く続き見たいです!
[良い点] 今回の引き、恰好良いです。 [気になる点] 痺れるほど好きな引きですが、レイジの熱の上がり方の程度が分からず、困惑しました。 ラルクと重なる相手を放置できないのは、分かります。 だから、…
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