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限界超えの天賦《スキル》は、転生者にしか扱えない ー オーバーリミット・スキルホルダー  作者: 三上康明
第3章 黒き空賊は月下に笑う。赤き魔導は星辰に吠ゆ。

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後日譚(5)

     ★  ラルク  ★




 お頭ともうひとりがハッとして振り返ると、部屋から半身を出した「お嬢」の——ラルクの姿があった。

 戦闘服を脱いで、生成りの麻で作られたシャツとズボンというスタイルは、見た目が貧相でありつつ実際ラルク自身もげっそりとしていた。


「お嬢! なに起きてきてんだ! 眠ってなきゃならねえでしょうが!」

「うっさい。あたしはまだまだ元気だ」


 壁に手をつきながら歩いてくるラルクは額にびっしょりと汗をかいていた。


「……どこが元気なんですかい。俺らは心配しすぎて、そろそろ心臓が爆発しそうなんですよ。頼むから大人しくしててくださいや」

「バカ言うなよ。アンタたちがふがいなくて、結局あたしが出張らなきゃならなかったろーが」

「あんなデカイモンスター、無視すりゃよかったんだ。『ぶっつぶす』とか吠えたのはお嬢だろうが。わざわざ『月下美人』で引き返してまで、やることじゃあなかった」

「見過ごせねーだろ……倒せる力があるのに、放って逃げ出したりしたら……。そんなことしてるあたしを——」


 弟くんに見せられないじゃないか、とごにょごにょ言ったのはお頭にももうひとりにも聞こえなかった。


「お嬢?」

「……なんでもない。そんで、アンタたちはここから逃げ出す気なんだろ?」

「そりゃそうだ。今こそチャンスだ。街に残ってる触媒をかき集めて燃料にすりゃあ、大海を渡って西の賢者とやらに会いに行ける。どんな病だって治すってえ賢者しか、もうお嬢を治す(・・)手段は残ってねえ」

「…………」

「どん底にいる俺たちを、日の当たるところへ引っ張り上げてくれたのはアンタだ。希望を見せてくれたアンタを生かすためなら、俺たちゃこんな国が滅びることくれえ屁でもねえ」

「わかった。あたしのためだと言い張るんだな?」

「おう」


 お頭ともうひとりは、力強くうなずいた。


「アンタたちの気持ちはうれしいよ。その思いもよーくわかった」

「お嬢……」


 お頭がホッとした瞬間だった。


「そんなら、あたしはこの船を下りる」

「は!? おい、なんだって?」

「あたしは、目の前に救える命があるんならそのためにこの力(・・・)を使いたいんだ」


 彼女の身体に、黒い影がするりと現れ、肌に吸い込まれるように消えていく。

 ラルクの肌は白かった。それは病的なまでに。


「強大な力には代償が必要なのは仕方ない。長くはもたないかもしんねー。でもあたしは、ならばこそあたしは、誰かのためにこの力を使いたい——そう決めたんだ」

「お嬢! なんでそんなに頑ななんだ!? お嬢が、自分の幸せを願ったっていいだろ!」

「あたしは十分幸せだった」

「幸せになんて見えねえよ! 自分を犠牲にしてばっかのお嬢は!」

「いや、幸せだったんだ……あたしには、かけがえのない弟がいるからさ」

「弟?」


 それは、初耳だった。


「アイツがいるからあたしはあたしでいられる。なにも持たなかったあたしたちだったけど、アイツはいつだって正しい道を歩もうとしてた。あたしはそれを横で眺めてるだけで——結局、こんな呪われた力を手に入れ、振り回してるだけ」

「呪われた力だなんて言うなよ……俺たちゃそれで、助かったんだ」

「……ああ。でもな、あたしは弟の真似をしてるだけなんだ。アイツならこうするだろう、アイツならこうはしないだろう、ってさ。だから——」


 ラルクの手に黒い影が現れ、ラルクはそれを握りしめた。


「アイツは、あたしの自慢の弟は、きっとこの国を見捨てたりはしない。あたしが生きていく最後の日まで、弟に顔向けできないような、つまんねー生き方はしないって決めたんだ」


 4年前のあの日——「六天鉱山」で契約魔術から解放されたあの瞬間、ラルクは湧き上がる黒い感情に心を支配されかけた。

 だが、彼女をつなぎ止めたのが、すぐ後ろにいた()の存在だった。


 ——守ってあげなきゃ。あたしが。あたしが、こいつを!


 ただその一心で手に入れた力。星6つの天賦【影王魔剣術】。

 だというのにすぐにラルクは失敗をしてしまう——あまりに強大な力を手に入れた全能感で、人を殺しすぎたのだ。

 そのせいで、弟を怯えさせてしまった。

 失望させてしまった。

 殴られるよりも、責められるよりも、その事実がなによりもラルクに衝撃を与えた。

 そして逃げるように彼の前を去り——それでも気に掛かり、竜に襲われた街では彼を助けた。

 だが、そのときには、弟のそばには仲間がいた。

 頼りになりそうな仲間が。

 もう、自分は必要ないのだと思った。


 ——なら、せめて、あたしは……弟くんに恥ずかしくない生き方をしよう。あたしがアイツを「自慢の弟」って思うのと同じく、アイツがあたしを「自慢の姉」って思ってくれるように。そして、いつかどこかで(・・・・・・・)……。


 竜を殺した場所に残したメッセージ。

 弟が見てくれるとは思わなかった。だけれどそれくらいは残して去りたかった。

 そのメッセージがあるから、胸を張って生きていける。

 いつかどこかで、弟に再会したときに、立派な姉でいたいから。


(そのときはきっと、弟くんも立派になってるだろーな)


 再会の日を想像するだけで心に小さな光が点り、温かくなる。


「アンタたちはどうする? このまま逃げてもいいぞ」

「……んなことできるわけねえだろ。俺たちゃ、お嬢と一蓮托生さ」

「そう言うと思ったぜ」


 ラルクは言った。


「『月下美人』を、レフに返還する。そんであたしは最前線に出る」

「お嬢!?」

「心配すんな、アンタたちが罪にならないよううまく立ち回ってやっから。大体あたしの能力を知ったら、なんも言えなくなるだろーから、それこそ大船に乗った気でいな」

「マジ……なんだな? 戻って戦うと言うんだな?」

「マジもマジ、大マジだよ。大体、『空賊』なんて言われてるあたしたちが、国を守る戦いに参加できるなんて——それこそ、カッコイイだろーが?」


 にやりと笑って言い切ったラルクに、お頭は天を仰いで額に手を当て、もうひとりの手下は青い顔であわあわするだけだった。


 翌日——美しい流線型を持った銀色の飛行船「月下美人」は、日の光を反射しつつレフ魔導帝国の上空を通過、関所近辺に姿を現した。

 盗まれたはずの最新鋭飛行船は、あらゆる人々の予想とは違った形で国に戻ったのだった。


第3章はこれにて終わりとなり、次話から第4章「離界盟約ワールド・アライアンス」が始まります。

お楽しみに!

(新章開始準備のため、数日お休みをいただきます)


というわけでいつものお願いです。

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では次章でお会いしましょう。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 「ラルク」の一端が明らかにされましたね。いい感じのチラリです。
[一言] アナスタシア様とのほのぼのらぶらぶ異世界スローライフってわけですね!!!!!!!!!!!??????
[一言] 新章楽しみにしてます! 続きが楽しみで一刻も早く読みたいですが、無理せずゆっくりと準備してください
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