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限界超えの天賦《スキル》は、転生者にしか扱えない ー オーバーリミット・スキルホルダー  作者: 三上康明
第3章 黒き空賊は月下に笑う。赤き魔導は星辰に吠ゆ。

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後日譚(3)

     ★  「銀の天秤」  ★



 飛行船が空から砲弾を降らせ、地上のモンスターを爆撃する。

 砲弾の1発1発は威力が高く、ときに二桁というモンスターを一掃していくが、中には腕が吹っ飛ばされた程度で生き延びる個体もあった。

 4本の腕を持つ竜人モンスター、一本角に電撃を溜め込んだカモシカ、異常な跳躍力を持つ毒蜘蛛……見たことのないモンスターが多かった。

 最初こそ地上戦で応戦していたものの、今は巨大な関所があるのをいいことに、都市を封鎖する方向で方針がまとまりつつあった。

 そうなると、どれだけの財産を運び出せるのかで帝国内は大混乱に陥った。国家が機能しているためにぎりぎりのところで火事場泥棒や暴動は発生しなかったものの、それでも国民はほとんどの財産を捨てざるを得ず——家具なんてもちろん運べないし銀行は停止しているので——不満と不安が充満していた。


「——ゼリィ、外はどうだ?」


 テントに戻ってきたゼリィにダンテスがたずねると、ゼリィは首を横に振った。


「相変わらずっすね〜。みんなどんよりした顔でうつむいてますよ」

「そうか……」

「仕方ないっすけどねえ」


 そこは関所の外、本来ならば入国の手続きを行うための広場で、先日「銀の天秤」メンバーも一晩を過ごした場所だった。

 ここにテントを張っていいのは兵士や冒険者で、いわば「武力」を持つ者だ。

 大多数の一般市民はさらに外側で、国が急ごしらえで張った巨大テントに収容されている。国民全員が入るにはテントが足りず、野宿をしている者も相当にいた。

 帝国から逃げ出すレフ人もいるにはいたが、元々鎖国を貫いてきた帝国で、外国にツテがある者も知識がある者も少なかった。


「今は夏だからまだいいが、冬になるとマズいな」

「この辺りは寒いんで?」

「結構冷えるぞ。このままテント生活を強いられたら凍死者が大量に出るだろう」

「うげっ」


 冬までに事態は好転するのかどうか、ふたりにはまったく判断がつかなかった。

 上空の「赤い亀裂」を——現在ではその亀裂を「レッドゲート(赤い門)」と呼んでいるが、レッドゲートをどうにかしないことには国家再建は成らない。

 帝国は爆撃でモンスターを間引きながら、今なお光を放っている「九情の迷宮」に研究者を送り込んでいる。


「冒険者ギルドで聞いてきたが、朗報もあるぞ」


 ダンテスは言った。

 キースグラン連邦が10万人の騎兵を出すと申し出、隣国のクルヴァーン聖王国が物資提供を申し出、必要とあらば帝国民を受け入れると。光天騎士王国は「対応協議中」ということだ。


「へぇ〜。聖王国っすか」

「なんでも辺境伯領が大規模な受け入れ準備をすでに始めているそうな。冬に間に合えば多くの命が助かるだろうな」

「あそこにいたのが、懐かしく感じやすねえ」

「俺たちはそう長く滞在していなかったが、ゼリィたち(・・)は4年くらいいたんだよな……」


 その「ゼリィたち」という言い方で、ふたりはレイジのことを思い浮かべる。

 彼が「空へと吸い込まれた」と聞いたのはすべてが終わってからのことだ。

 レッドゲートがほぼ完全に固定化され、小型から中型までのモンスターが安定的(・・・)に空から降ってくるようになった。多くのモンスターは落下の衝撃で死ぬのだが、逆に言えば生き延びるようなモンスターは危険極まりなかった。

 当時、ダンテスは酒を飲んでいて、異変に気づいてから急いでムゲ商会へと戻った。そこにレイジはおらず、ミミノが「探しに行く」と言い張ったが「アイツならひとりでも確実に生き延びる」と無理矢理説得し、逃げ遅れた市民の救助に当たった。

 夜が明けて、街の惨状がわかるようになったころ、レイジがアナスタシア殿下とともにレッドゲートへ吸い込まれたことを聞いた。


「……ダンテスさん、ミミノさんたちは?」

「あ、ああ……。ミミノとノンは、ムゲさんといっしょにルルシャさんとこさ」

「あーしらも行きましょうか」

「そうだな。しばらく駆り出されることもなさそうだし」


 冒険者ギルドは関所の外に建物があったので問題なく機能しており、最初の数日は帝国内のモンスター討伐の依頼を次々に発行し、「銀の天秤」はレイジがひょっとしたらいるかもしれないというかすかな望みを胸に討伐を引き受けた。

 だが見つからぬまま、もう15日が過ぎた。

 討伐は飛行船による爆撃で効率的に済ませるようになり、帝国内は無人と化した。

 皇帝は今、大穴の空いた「豊穣ノ空」をなんとかかんとか飛べるように直し、関所を越えたところまで飛ばして移し、ここを臨時拠点として国家運営を行っている。

「豊穣ノ空」近辺には国の機関が集中しており、天幕がいくつも立っていた。そのうちのひとつが「迷宮管理局」のもので、ルルシャの勤務先だ。


「どういうことだべな!? レッドゲートを閉じたら、吸い込まれた人たちは戻れない!」

「しかし今のままでも、数か月もすれば劣悪な生活環境で死ぬレフ人が多く発生します」

「それはそうだけど、でも……!」

「ミミノさん、私だって悔しいです。なにもできない自分が」

「…………」


 ダンテスたちが天幕に入っていくと、ちょうどルルシャとミミノのふたりが声を荒げていたところだった。

 ノンとムゲ、それになぜかいるアバの3人は離れたイスに座って、はらはらとふたりを見守っていた。


「——どうした?」

「ダンテス……」


 目を赤くしたミミノが——あれからほとんど眠れていないらしい——言う。

 帝国は「九情の迷宮」の研究成果をもって、一刻も早くレッドゲートを「閉じる」ことを決定したのだと。


「そうか……」


 正直に言えば、ダンテスはそうなるのではないかと思っていた。レッドゲートが諸悪の根源ならば、あれを破壊する、あるいはなかったことにするのが手っ取り早い対処法だ。

 だが帝国は、ハイエルフの王族であるアナスタシアと、軍用飛行船が2艇、吸い込まれている。無事に取り戻せるかはともかく、生死の確認くらいはするのではないかとダンテスは思っていた。このままレッドゲートを閉じれば、彼らを「見殺し」にしたと国民から見られる。


(それほど切羽詰まっているのか)


 飛行船の燃料、砲弾、さらには食料。それらは数に限りがある。今の状況を維持できるのはあと何ヶ月か——いや、ひょっとしたらあと数日という状況なのか? 冒険者ギルドからの討伐依頼も、達成したぶんの報酬はまだもらっていない。「帝国から後日支払われる」ということで棚上げになっているのだ。おそらく現金もほとんどないのだろう。


「わたしは、わたしは……! また、レイジくんを助けられなかった……!!」


 ミミノの目に涙がにじむが、彼女は歯を食いしばって涙が流れ出ないようにこらえている。

 ダンテスにはミミノの気持ちが痛いほどにわかる。

 アッヘンバッハ公爵領の領都で、ミミノは竜との戦いで命を救われ、ダンテスは石化の危険から救われた。だがレイジは国に追われているからと、ダンテスたちに迷惑を掛けられないからと姿を消した。

 あのとき、追いかけられなかったことを——いくら大ケガを負っていたからとはいえ、ダンテスは狂おしいほどに後悔した。

 だからクルヴァーン聖王国で再会したときに、次に守るのはこちらの番だと思った。恩を返せるという喜びが心を満たしたのを感じた。

 結局は、なかなか恩を返すチャンスもなく、むしろ「畏怖の迷宮」で古い仲間のレオンの裏切り、ジャガーノートとの戦いから救われるばかりだ。

 そして今——レッドゲートに吸い込まれたレイジを助け出さずに、いつ恩を返すのか。


(!)


 そのときダンテスはハッとした。

 帝国はレッドゲートを閉じようとしている。それならば、いっそのこと先に——。


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― 新着の感想 ―
[一言] 仲間の為に死地に飛び込んじゃうのか
[良い点] 胸熱な展開!
[良い点] おぉ!行っちゃえ行っちゃえ! お嬢も飛んでけ!
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