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限界超えの天賦《スキル》は、転生者にしか扱えない ー オーバーリミット・スキルホルダー  作者: 三上康明
第3章 黒き空賊は月下に笑う。赤き魔導は星辰に吠ゆ。

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赤き魔導は星辰に吠ゆ。

     ★  アナスタシア  ★



 寝顔を見つめるアナスタシアの瞳は熱を帯び、だけれど穏やかな笑顔を浮かべていた。


(でも……私は、あなたに想いを打ち明けることはできません)


 自分が勝手な想いに身を委ねたらどうなるのか——ハイエルフの王族として、「贈り物」として、今このレフ魔導帝国にいるアナスタシア。

 立場くらいわかっている。

 今から「冒険者になってレイジさんについていきたい」などと言っても、許されるはずもないことくらいは。

 この想いは隠さなければならない。

 だというのに身体は幸福感に包まれていた。


(一度も味わわずに、数百年という長い時を経て、ひっそりと死んでいくのが私の運命だと想っていましたから……私はとても、幸せです)


 アナスタシアは顔を空へと向けた。


「!」


 ヘビギンチャクは流す血もなくなり、だいぶしおれていたが、いまだに空は血のような赤に染まっている。

 そして、ぱらぱらとホコリのようなものが落ちてくる——いや、生き物だ。モンスターが落ちてくる。その数は数十や数百ではない、数千、あるいは一万を超える数だ。

 羽を持つモンスター、動物型モンスター、粘液状のモンスター……様々いるが、どんどん空から降り注いでくる。

 あの赤い空がなんなのか、アナスタシアはわからない。手がかりすらも彼女にはない。

 ただ、あれらはこの世界に害をなす敵であり、放っておけばここまできて——最愛の人を傷つけられるということはわかる。


(レイジさん、少し休んでいてくださいね)


 アナスタシアが見るに、あれだけの魔法を使ったレイジは魔力枯渇でしばらく動けない。であれば眠っていてもらうのがいちばんだろう。少しでも魔力が戻れば目を覚ますはずだ。

 レイジの頭をもう一度地面に寝かせると、「ん……」と小さくうめくような声が聞こえ、アナスタシアは思わず笑みを漏らしてしまう。

 寝顔も、声も、なんて可愛いのだろうと思えてしまうのだ。身体、心、仕草、すべてが愛おしい——それが「恋」なのだと知った。知識で知っているのと、自分が体験するのとは大違いだとアナスタシアは感じた。


(今なら私、なんでもできる気がします)


 レイジを守るように立ったアナスタシアは、空の赤い大穴を見やる。

 わずらわしい邪魔な包帯を外すと、風に吹かれて包帯はひらりと舞った。

 空の赤に照らされたモンスターが巨大な飛行船に気づく。目を炯々と光らせた彼らは急降下しつつその先に立つアナスタシアとレイジを見て、獲物が愚かにもうろついている——そう考えたところで不思議はないだろう。


「この方には指一本、触れさせません」


 手をかざしたアナスタシア。

 そこからほとばしったのは炎の奔流だ。

 猛禽類によく似た、しかしヘビの尻尾が生え、体長は3メートルはあろうかという鳥型のモンスターは炎を正面から浴びて即座に炭化し、落下した。

 この突然の出来事にモンスターたちは急制動で翼を広げスピードを落とすが、第2射、3射、4射と炎が撃ち出されると過たず直撃して灼いていく。


「な、な、なんだあれは……!? あれはアナスタシアか!?」


 不時着で命が助かり、様子を見ようと広々とした「豊穣ノ空」の甲板に出てきたのは多くの閣僚と、飛行船兵士に守られた帝国皇帝だ。

 彼女が魔法を使えることも、それが【火魔法】であったことも、誰も知らないことだった。

 そのとき彼らは、この惨状が広がる街区にはふさわしくない——歌声を聞いた。


 ——古き森 浮かぶ油 燃え盛る命 焔のごとく

   神が降り 森に住まい 8色の葉 人に与う

 ——初めに木の神が 次に草の神が 最後に花の神が

   森を言祝ぎ 風を休め 雨を垂れ 陽を誘う


 古代エルフ語で語られるこの物語は、そのものが魔力を帯びるという魔唱歌(チャント)だ。ハイエルフ王族が管理し、適切な場所で、適切なときに、適切な目的で歌われる。むしろそれ以外は歌うことを許されない秘中の秘だ。

 本来ならばこの歌を通じて、森に恵みをもたらし、不浄を消す。ハイエルフの王族たちは生まれながらにして【花魔法】や【風魔法】、【水魔法】に【土魔法】といった森を育む魔法に適性が高かった。

 ぽつ、ぽつ、とアナスタシアの周囲に現れた蛍の光のような炎は、すぐさま大きくなり、無数の光となってアナスタシアを包む。

 彼女の服さえも燃え、逆立つ髪の毛も一部燃えるが、魔力の流れによって火は鎮火し、焦げ跡だけを残していく。

 この歌を歌いたかった。

 ハイエルフの王族として——家族のひとりとして。

 だけれどアナスタシアにそれは許されなかった。彼女が歌えば森の嫌う火が荒ぶることが明々白々だったからだ。


(でも、今なら歌える。歌ってもいい。火傷だって怖くない。髪も、顔も、身体も、傷ついたって構わない。それで大切な人を、守れるのなら)


 空を見上げる。

 すでに月は傾き、血のような赤と、ちらりと星辰が見えるだけの不気味な空だ。

 アナスタシアそのものが巨大な炎に包まれたそのとき、彼女は吠える。


「消えなさい!! 彼に害なすすべての邪悪な生き物よ!!」


 それは膨大な魔力量を誇り、ハイエルフの王族に生まれながら忌み嫌われる「炎」に愛された少女が、ついに自らの力に向き合い、それを正しく使えるようになった瞬間でもあった。

 魔力を操り、魔法を構築し、魔道を歩む「魔導(メイガス)」がここに誕生した。

 放たれた炎は幾筋にも分かれ、龍のように飛来する。

 モンスターに当たるを幸いと燃やし尽くし、空へと飛んで行く。

 ヘビギンチャクのしおれた身体にもめり込んで業火を噴き上げる。

 空に広がる「赤」に突入するとその部分から波紋が広がるように炎が広がっていく。


「あ、あれが……アナスタシア、ハイエルフ王家の血だというのか……!?」


 吹き荒れる焔による轟音の中、皇帝は初めて彼女の声を聞いた。

 それはこの帝国の大敵を穿つ、尖鋭となる声だった。


「あれぞ、魔法の頂点に立つという『大魔導師(ウォーロック)』ではないのか……」


 レフ人は天賦珠玉を使えない。「天賦で魔法を使う」という安易な道がなかったこともあり魔術による技術革新を国是とした。

 だからこそ彼らは知らない。

 魔法の持つほんとうの力を。

 人が持つほんとうの可能性を。

「豊穣ノ空」の甲板で皇帝たちが次に見たのは、ガラスが割れるように赤い空にヒビが入り、砕け散っていくという幻想的な光景だった。


「……うっ」


 そしてまさにそのとき、地面に寝かされていた少年が小さなうめき声とともに目を覚ました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 確かにこれは"吠え"てるな。
[気になる点] アナスタシアさんマッパじゃない?大丈夫?
[気になる点] 今話で章タイトルが回収されたが。う~ん、違和感あるなぁ……、これ赤き魔導は星辰に(吠ゆ)。吠えているんじゃなくて歌っているから(詠う)とかの方が適切だったんじゃないですかね?
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